ーANOTHER ONEーもう一人の自分 

 

 

 

 

 

 

 

 

4:偵察

 

 翌日。今日は闘技大会選手登録日になっている。

 んな登録なんぞしなくてもという意見もあるのだが、そこは色々とうるさい町だからして。

 さて、我らがサリナ=ハイランドはやることがいろいろあった。

 もう一人の自分である、サリナ=レンブラントの動向の調査だ。

 こっから先はかなり混乱を記するので、サリナ=ハイランドはサリナ。

 サリナ=レンブラントは、レンブラントと書かせていただく。(混乱した人がいるもので)

 

 さて、闘技場に向かう道すがら、レンブラントは今日も白コートを着て歩いていた。

 その後ろからサリナとレオナが隠れるようについていった。

 サリナは正直このときまだ頭の中が混乱していた。まぁ、初めにレンブラントに出くわしたときはさらに驚きだったが。

 

 

 

「こんちわ〜!」

 いきなり声をかけられ、宿の食堂で朝食を食べていた二人はそっちを向いた。

「こんにちはレオナさん。どうしたんです?あの後、北のほうに行ったんじゃ?」

「え、ええ。……まぁ、途中でちょっとした依頼を請け負うことになっちゃってね……」

 現れたのはレンブラントだった。コートは脱いでいたがさすがに驚いた。

 そして、サリナの方はと言うと、

「…………!?!?」

 いきなり同じ顔が現れて、フードの中で頭が大混乱を起こしていた。

「で、今日はどうするんです?選手登録日なんで私は闘技場に行きますけど、一緒に来ます?」

「いえ、……やめとくわ。仕事もあるし、見張りもいるし」

 と、サリナを見る。

「ふ〜ん」

 レンブラントもサリナを見ようとしたので、慌ててサリナは顔を下げる。

「…………」

 しばし、沈黙。

「ふ〜、それじゃあたしはこれで。それじゃ!」

 そう言ってレンブラントは自分の部屋へ戻って行く。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「で、感想は?」

 いじわるくレオナがサリナに聞く。

「……嘘でしょ?」

「嘘だと思うのなら、鏡見てみれば?」

「なんでやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 思わず絶叫して店中の視線を浴びたのだった。 

 

 と、いうわけである程度耐性のついていたレオナでさえ驚かせたレンブラントは、ゆっくりとした足どりで闘技場へと向かっていた。

 途中、何人かの若い連中や女性に声をかけられていたが、これがまた驚きだった。

 なんと、彼女はこの国でほとんど敵無しの実力だと言うのだ。

 盗賊退治を自主的にやり(まぁ、これは趣味もかねているだろう)、さらに「謎の遺跡発掘」の護衛を引き受け、見事に現れたモンスターを返り討ちにしたとか、現代では流通していないような魔術を使ったりとか、その実力を試すためにやってきた諸国中の猛者をまとめてしばいたとか、その他様々あった。

そんでついた二つ名が白のコートにちなんで「白の戦乙女」というわけだそうだ。 

 さぁ、ここで出てくるのがサリナだ。

 ひょんな事から常識を逸した力を持ち、各国を渡り歩いて非常識を行いまくっていたサリナ。

 噂をいくつか上げるなら、天使のような羽を持つ天使だとか、ドラゴンを一瞬で葬ったとか、海を二つに割ったとか、……やっぱりレンブラントとは次元が違う!!

 そんなわけで、金の武器にちなんで「金の戦乙女」という二つ名がついたわけだ。

 そんで同じサリナということで噂は交じり合い、膨張し、お互いが知らない事まで持ち上がったというこどなんだな、これが。

 そして、特筆すべきは彼女は、ここいらへんの闘技大会の常連なんだそうだ。出るたびに賞金をかっさらっていく闘技荒らしなのである。

 さて、道を外れたようなので元に戻そう。

 レンブラントは、町外れの闘技場への道をとぼとぼと歩いていき、ちょうど闘技場の前まで来たとき、

わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 もしかしたら闘技に参加する連中だろう。十人十色な格好をした連中が、闘技場の前で、レンブラントに喝采をあびせた。

「へぇ、人気あるんだ」

 あたしは素直に驚いた。

「この辺じゃ敵無しなんでしょ?どう?敵状視察ってことで見て行かない?」

「……そうね」 

 闘技場は、4階建ての建てのデカイ作りをしている。

 コロシアムとしてではなく、コンサートホールとしても運営されていると言う話だ。

 さて、闘技場の中である。

 入ったところにあるホールでは机が並べられ、受付が開始されていた。

 レオナは参加者に混じってレンブラントの様子を見ていたが、突如、役員がレンブラントに何かを話し、奥の部屋へと連れていった。

「ちょっと、サリナ、サリナ」

「……何?」

「何やってんのよ。彼女役員に連れて行かれたけど」

「たぶん、親善試合のトリを勤めてほしかったんでないの?」

「そう?」

「間違いなく、ね」

 と、

『ご来場の皆様にお知らせがございます。

 ただいまより、明日の闘技大会に先駆けまして、親善試合を行いたいと思います。

 どうぞ、観覧席のほうへおこしください』

「ね」

「ほぉぉ……」

 レオナはただただ感嘆していた。

 

 

5:レイズ・ブレード

 

ワァァァァァァァァァァ・・・・・!!

 

観覧席は津波のような歓声に包まれていた。

 親善試合、つまりは数人が剣を交えるだけだが、今日は違った。

『サリナ!サリナ!サリナ!!・・・・・・』

 勘違いしないように、コレはレンブラントへの歓声である。

 そう、国中で最強を誇っている彼女が試合を行う、それを聞いただけで、冒頭の歓声なのである。

「すんごいファンの数ね〜!」

 もはや怒鳴らなければ聞こえない。

「そうね。これは楽しみだわ」

 歓声がまた大きくなる。レンブラントが一方の通用門から姿を現したのだった。

 彼女は集まった人達に手を振って答える。

『レディース、アーンド、ジェントルマン!

 これより、明日の闘技大会に先駆けまして親善試合を行いまぁぁぁぁす!!』

 要するに、そんな意味のアナウンス、が流れる。

ワァァァァァァァァ・・・・!!

『ご紹介しましょう!天知る地知る人が知る、この国では全くの敵無しを誇り、またこの闘技大会の優勝の常連である。

 『ホワイト・ワルキュリア』こと、サリナーーー、レンブラントーーー!!』

 ウォォォォォォォォ・・・・・・!!

 どうでもいいがこの歓声は、すごいの一言である。

『さぁ、ではさっそくいってみましょう!』

 と、言うと同時にレンブラントの入ってきたのと正面の門が開き、そこから何体ものゾンビが現れた。

「もしかして、あんな雑魚倒すのが親善試合?」

レオナが言った。

「ま、余興じゃないの?」

 手に手に剣を持って、ある程度の装備をしたゾンビたちはサリナへと向かって行った。

 レンブラントはコートの中から白いトンファーを引き出すと、両手に持ちゾンビへと肉薄して行く。

 ズバン!

 戦闘の一体をすれ違いざまにトンファーが捕らえ、首を切断した。 

1メートル近くのトンファーを軽々と振りまわし、レンブラントは次々ゾンビたちを葬って行く。

 それを、注意深く観察していたサリナは、

「あのトンファー、よく折れないわね……」

「! そう、ね。あんだけ無茶な使い方してよくバキッといかないわね」

「なんでぇ、姉ちゃん達知らないのかい」

 いきなりどっかのおっさんが話しかけてきた。

 今あたしたちがいるのは闘技場の観覧席入り口。

 こっからなら、双眼鏡使ってよく見える。大体、下に行って狭い席の中応援する気はない。

「何を?」

「あのトンファーよ、なんでもブラックドラゴンの牙で作ってあるらしいんだな」

『ブラックドラゴンの牙!?』

 ブラックドラゴンといえば、限られた地域にしか生息していないドラゴンで、獰猛な性格、黒くテカテカしたうろこからそう呼ばれるドラゴンである。

 そして、これの実力は他の竜族のなかでもトップクラス。

 そんな奴の牙を取ってきてトンファーにしてしまうなど誰が考えるだろうか。

「……非常識なことやるわね。彼女」                                                              

「う〜む・・・」

 ワァァァァァァァァァァ・・・・・!! 

 どうやら、レンブラントがゾンビたちを全部葬ったようだ。あまりに手ごたえがないのか、ため息をつき、腕をぐるぐる回していたりする。

『さぁ、ゾンビごときで安心は出来ないぞ!つぎいてみよう!』

 今度はトロルだ。

 こいつのとくちょうはその再生能力。切り傷ぐらいなら瞬く間に治してしまう。つまり、確実に殺すには首を切断するか滅多切りにして、再生不可能なぐらいにしてやるしかないのだ。

 レンブラントはニヤリとして、トンファーをかまえなおす。そして、何やら唱え始めた。

 トロルが接近する中、短い詠唱後トンファーを薄い光が包んだ。

『おっとーー!!サリナ選手ここでお得意の技を披露するのかーー!!』

 ――得意技??

 レンブラントはトンファーをトロルに向かって振る!

 シュバゥ!!

 なんと、トンファーから光刃が放たれた!光刃はまっすぐにトロルの体を両断し消滅する。

「やるぅー……」

 レオナがつぶやいた。

「カイザーファングって技だそうだ。どうだい真似できやしないだろ」

「カイザーファング……」 

 要するに、魔力をトンファーに充填させ、ドラゴンの牙と言う媒体を通して魔力を解き放った訳だ。説明は簡単にできるが、これを実際にやるとなるとそれなりに修練がいる。

 これならサリナも楽にこなす。

 しばらくして、レンブラントはトロルを全部葬った。

『さぁ、やってきました!ラストはこいつだぁぁーー!!』

 ズン・・・ズン・・・

 なにやら地響きが、

「ちょっとあれって、ゴーレムじゃ……」

 そう、地響きを上げて現れたのは5メートルはあるストーンゴーレム。 

 そして、いきなりレンブラントに襲いかかる。

――速い!

ドォォォン!

 ゴーレムの腕が、地面を粉砕する。

 歓声が大きくなる。

 レンブラントはさすがにいきなりだったのか、今は間合いを広げようと後ろに下がろうとする。

 そうはさせじとゴーレムが肉薄して行く。

 と、ここでレンブラントが、ある行動に出た。

 トンファーの片方の握りと本体を外して、今度は根元につける。つまり、木刀モドキができあがる。

 それを手に、レンブラントはゴーレムの攻撃を待った。

 腕を振り上げるゴーレム。

そして、

ガァァァン!

 地面に腕が食い込む。

 その上を……、レンブラントはゴーレムに向かって走っていく!

 そうはさせじとゴーレムが腕を振り上げ、レンブラントも空中へと放り上げられる。

「あっ!」

「ちょっと……!?」

 二人が見たものは、彼女の持っている木刀モドキに光が収束して行くのだ。

 そして、光の剣と化した木刀モドキを手にレンブラントは降下していく。

「落ちながら切るっていうの!?

 あのたかさじゃ足が持たないんじゃ……!」

 レンブラントは、剣を上段に構え、ごーレムへと落下し、

 ズバァァァァァァ!!

 ものの見事に、ゴーレムを一刀両断する。

 そして、その体は地面ぎりぎりで止まっているのを見た。

――浮遊の術……。なるほど……

 そして、崩れて行くゴーレム。光の剣を収め、レンブラントは手を上げる。

 オオオオオオオオオオオオオオ・・・・!!

 われんばかりの歓声が闘技場を震撼させる。

『やりましたーーー!サリナ選手、見事ゴーレムを得意の『レイズブレード』で叩き割りましたぁぁぁぁ!!』

 

「あれって、光の剣?」

「……いえ、ただの魔力のブレードね。でも、ゴーレムを真っ二つにできるほどとなると、結構威力はあるみたいね……」

 サリナは改めてもうひとりの自分の強さを知った。

 遠距離、近距離、それぞれに特徴のある戦いをしていて、確かにこれなら軍隊でも相手にできるだろう。

 これはかなり面白い戦いになりそうだ。

 

 

―続く―

 

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