ーANOTHER ONEー 

 

 

もう一人の自分 

 

 

 

 

 


7:共鳴(シンパシィ)

 

ワアアアァァァァァァ!!

 闘技大会決勝、はっきしいって何の盛り上がりも無く来てしまった。(笑)

 しかし、来てしまったものはしょうがないわけで、あたしは場内に通じる門の前で緊張していた。

 これから自分の分身とも言える奴と戦うのだ。向こうは知らないけど。

 ――どういう戦い方をしようか……。下手に戦ってもしょうがないし、あたしがフードを取ったとしてどうなるわけでもなし・・・。

 はっきりいって失敗だったかもしれない。サリナは、ただレンブラントの実力を知ろうと参加したのだ。

 どちらかが倒れるまで戦いつづける闘技大会においては、しまいには、フードを取って見ろとか観客が騒ぐ可能性がある。

 そんなサリナの心中など露知らず、場内へ通じる門は開かれたのだった。

 

 決勝戦、行う前にはやたらと儀礼じみたことをしなくちゃならない。

 貴族の祝辞だの、勝利祈願だのが代表的である。

「ふわあ〜〜、……」

 隣でレンブラントがあくびをしていた。

「まったく暇でしょうが無いわね。そう思わない?」

「……………………」

 あたしは無言でうなずく。

「でも、いきなりあなたが出てきたときには驚いたわ。

 そこそこ強かったのね。魔法しか使ってなかったらしいけど」

「……………………」

「つれないわねぇ。なんとか言いなさいよ」

「……………………」

 レンブラントはため息をついて黙ってしまった。

ジャーン、ジャーンジャーン! 

 ドラが激しく鳴らされ、試合開始がせまる。

 お互いは、場内の端へと移動し、合図を待つ。

 場内が静まりかえる。

 トクン……トクン……トクン……トクン。

 今の今まで、自分の心音が聞こえるほど静かだったことがあったかな、と考える。

 ジャーン!

 開始の合図!

 同時にレンブラントは何かを唱えながら、トンファーを構える。

 サリナはその場から動かない。

 レンブラントのトンファーを光が包みこみ、それをレンブラントが放とうとトンファーを振った瞬間!

 ドクン!

『!!?』

 お互いが、同時に妙な感覚に捕らわれる。

 しかし、レンブラントのトンファーは止まらず……、

 ギュオ……

 いつもどおりに放ったつもりだった。

  グオ……!!

「え!?」

 レンブラント自身力んだつもりは無かった。

 だが、放った光波はいつもの数倍の大きさと速さがあった。

 一瞬理解できぬまま、光波は対戦者へと飛んでいき……。

「避けてぇぇ!」

「――!!?」

 ドガァァァァァ!!

 叫んだときにはすでに遅し、叫びは爆音にかき消された。

『おっとぉぉ、サリナ選手!いきなり本気で行ったぁぁぁぁ!』

 実況が何か言っている。

 レンブラントはわけが分からなかった。最初は何発かけん制しておいて、接近戦を挑もうと考えていたのに、いきなりのこれだ。

 放った光波は地面をなぎ裂き、一直線に相手に向かった。普通ならドラゴン相手に使うはずのエネルギーが出てしまった。

 呪文を間違ったわけではない、まして、モーションを間違ったわけでもない。

 なら、どうして!?

 呆然と立ちすくみ、レンブラントは動く事が出来なかった。

 そんな中、爆発のさいにおきた煙が晴れようとしていた。

 

 正直言って、サリナにも何が起こったのか分からなかった。

 いきなり、心音が強くなったかと思ったら、レンブラントから強烈な光波が飛んで来た。

 ぎりぎりで避けたものの、後ろにあった扉を光波はものの見事に粉砕したのだ。

 それで、フードに傷もついていないのはすごいのだが、

 ――普通、決勝戦だからって、ここまで力む事はないでしょうに!

 土煙が晴れ、レンブラントが視界に入ってくる。

 サリナは最初からやってきた戦法、つまり、魔法だけを使って相手を倒すということをここでもやろうと考えていた。

 レンブラントにそんなもの通用しないとは思うのだが、いつもどうりの戦い方をすれば、間違いなく一帯は焦土と化す。

 ――てなわけで1発目は基本中の基本!

「フレイム・アロー!」

  ドクン!

 またいきなり心音が大きな音を立てたような気がした。

 ――いけない!

 と、思ったときにはすでに遅く、

 ブワアアアァァァ……!

 いつもなら数発のフレイム・アローが今回は百発近く出現した。

 それらは一直線にレンブラントに向かって行く!が・・・、

 キュドドドドドドド・・・!!

 着弾したのは、レンブラントのはるか後ろの地面だった。

 サリナが一瞬のタイムラグのうちに、軌道の指令を変更したのだ。

 ここらへんは、さすが一般の常識を覆しまくってきたサリナのほうが慣れている。

 レンブラントは、はじめこそ呆然としていたものの、あわてて構えなおした。

 ――なんなのよ。これ……。

 サリナは心臓をおさえる。

 ――魔力の暴走!?違う……、そんな感覚は……、まさか

 一方、レンブラントも同じことを考えていた。

 ――なんなのよ一体!どうしちゃったのかしら。別にいつものどおりなのに……、まさか

 

 

―――― 共鳴!?

 

 

 同じ顔を持つもの。

 しかし、顔だけでなく、精神波長まで一緒だったなら……、

 こいつとは気が合うとか言う次元ではなく、あらゆる点で同じ存在がいたとしたら……、

 それは……、あってはならないことなのだ。

 同じ存在が同時に存在する事は出来ない。同じような顔でも、全く同じではないように、

 兄弟であっても、精神まで同じではないように……、

 いや、たとえ存在したとしても、出会う事など考えられないのだ。

 それが、神のいたずらか、悪魔の策略か知らないが……。

 しかし、ここで誤算が生じた。サリナが得た『力』である。

 神をも屈服させられるぐらい強靭な力と心。それを里中との旅をする上で、必要と判断し与えた「自称天使」。

 それが、その力が……、サリナの精神波長を微妙に狂わせた。

 そして、二人は出会ってしまった。

 同じ存在の二人が……、

 

 場内は膠着状態におちいってしまった。

 お互いの動きを完全に読めてしまうがゆえである。

 ま、同じ思考を持ってるんだから、当然だが……。

 魔法を放てば撃つ軌道を把握し、撃ちこんでくる方向を感じすべて避けられてしまう。

 お互いがお互いに決定打を放てずに、場内の中央に10メートルほどの間をあけてじっと立っていた。

 頭の中ではお互いの攻撃の読み合い。それも無駄と判断し、二人は身構える。

 …………一瞬か。

 レンブラントはそう結論付け、

 サリナは、

 ――このままぶつかったらどうなるか分からない。避けるか……否か。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 数分が流れる。

 初めに動いたのはレンブラントだ。

 トンファーを木刀モドキに組替えて、呪文を唱え始める。

『おっと〜、サリナ選手!いきなりレイズ・ブレードを出す気だ〜〜!』

 レンブラント自身、なんでレイズ・ブレードを使う気になったか定かでない、

 だが、こっちのほうがいい。ほとんど直感である。

 思考が読まれるなら本能の赴くまま、任せてみようなどと思ったのだ。

 レンブラントもサリナに負けず劣らず非常識である。

 レンブラントの持つ木刀モドキに光が収束する。

 しかも、両方!?

「えぇ!?」

「行くわよ!!」

 光る木刀モドキを構えて、一気にサリナの懐に飛びにいくレンブラント。

 間合いの直前、レンブラントはブレードを振り上げ、Xの字に切り下ろす!

 ドグン!!

 心音が高鳴る音、

 グオアァ・・・!

 いつもの数倍のエネルギーの放出を感じながら、光は像でも一辺に両断できそうなぐらいの剣となる。

 サリナも、仕方なく、右手に魔力を一気に集める。

 同じように心音が高鳴り、確実に魔力は想像の上を行っているが・・・・・・・、とめる事はできない。

『あああああぁぁ・・!!』

 お互いの叫びとともに両者の攻撃がぶつかり合い、

 ゴォォォォン・・・!

 ぶつかり合った衝撃だけで、地面が陥没した。

 ギキィィィィィ・・!!

 レイズ・ブレードと、サリナのマジックブロー。

 甲高い音を上げ、魔力同士が押し合う。

 発する光は闘技場を照らし、影が消える。

 ――やっぱりこうなった。

 驚きも無く二人はそう思った。

 押し合いになる。押し合い……拮抗し、

 ……融合した。

『!!!??』

 ……ィィィィィ、ドガァァァ!!

『きゃあああぁぁぁ!』

 光の爆発。二人は同時に吹き飛ばされた。

 レンブラントは何度か地面に叩き付けながら、サリナは途中で地面を滑りながら、

 観客は、……その爆発の後に何を見ただろう。

 後の科学者がそれを聞いたなら笑い飛ばすかもしれない。

 宗教家が聞いたら、悪魔の再臨と恐れたかもしれない。

 とにかく、

 爆発の中心、そこにはゲートのような穴が出現していた。

 

―続く―

 

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