8:イレイザー
同じ物が同時に存在していたらどうなるのか。それは誰にも分からない。判るものではない。
そして、今ここでその結果が出ようとしていた。
闘技場内は完全な沈黙状態にあった。
観客が、貴族連中が、そして参加者達が自分の目を信じられなかったことだろう。
最初、二人がぶつかり合った時には、観客は多いに沸いた。
地面が陥没したときには、その闘気に飲み込まれて、沈黙した。
そして、二人の魔力が爆発を起こしたときには、それを黙って見ているより他に、出来る事は無かった。
今ここで、全員の前に、何かが現れようとしていた。
二人がぶつかり合った場所に初めは黒い穴のような物があった。
そこから、煙のような物が流れ出し、わだかまっていった。
二人もそれを黙って見ているほか無かったが、何かイヤなものを感じていた。
黒いものが自動車一台分も溜まったとき、穴は自然に消滅して行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それは、何をするでもなく、消えるでもなくそこにいた。
「・・・・な、なによ。これ」
レンブラントがそう、つぶやいたとき、
ぞわり、とそれが波打った。
サリナはそれに過敏に反応して、『それ』に向かって火炎球を投げ放った!核心など無い。だが、「これはヤバイ」という直感だ。
だが、
『!!?』
なんと、『それ』が、自分の一部を弾丸と化し、火炎球向けて発射したのだ。
おかげで、火炎球はその場で爆発してしまった。
――無駄だ。
『え・・?』
全員の頭の中にそれが響いた。
観客がざわめき出す。
すると、
グオオォォォ・・・!
『それ』がいきなり数倍の大きさに燃え上がったのだ。
そして、出来あがったのが、燃え上がる黒き炎のドラゴン。
「うっそぉぉ!!」
ドラゴンはひと鳴きすると、いきなりレンブラントに向けて黒いブレスを吹きつける!
なんとかかわしたレンブラントだが、そのあとには黒い焦土と化した地面があった。
ドラゴンがブレスを放ったとき、観客は我先にと闘技場の外へと逃げ出し始めていた。
しかし、怖いものみたさか好奇心からか、残るものが半数。なお、貴族連中はとっくの昔に逃げている。
ドラゴンは今度はこっちにブレスを吹きつける!
「ちぃっ!」
あたしはこれを交わし闘技場を走りながら魔力弾を連射する!
ゴルフボールくらいの魔力弾は一直線にドラゴンへと向かい、
キシャアアーーーー!!
ドラゴンが吠える。同時に魔力弾はドラゴンの直前で爆発した。
――えぇ!?
――無駄だと言った!
そして、吹きつけてくる暗黒のブレス!
交わしてからさらに距離を開けるサリナ。
――うざったいわね!
サリナは魔力を全開にまで引き上げる。
フードとマントがはためき、地面に波紋が広がる。
「!?」
レンブラントがその魔力の増大を感知する。
「何をする気!?」
レンブラントが静止をかけてくる。
それを無視してあたしはそれを発動した。
「エレメンタル・レイン!!」
ザァァァァァ・・・・!!
声と共に魔力の矢が具現する。
赤、青、緑、白、クリスタル。5色の輝く矢が二十本ずつ、合計百!
『!!??』
残っていた観客、そしてレンブラントが目を点にする。
エレメント―精霊―に属性があるのは周知の事実だが、それを全部まとめて召喚する事は、ほとんど不可能とされている。火と水が干渉して消し合うように各々に相性が存在するからだ。
しかし、「力」を持ったサリナならこんなこと造作も無くできる。しかも、今はレンブラントとの共鳴もあるのだ。
「行けぇぇ!!」
全ての矢を全く違う軌道でドラゴンへと放つ!
――無駄だと言うのが分からんか!
ドラゴンが、また一鳴きすると、今度は薄いドーム状の結界がドラゴンを包んだ。
――ガードした・・・。効くって事か。
文字通り雨のごとく矢はドラゴンへと降り注いで行くが、そのほとんどがドーム状の結界によって弾かれて行く。
だが!
ギゥン!
うち数発が結界を破ってドラゴンにヒット!
光の矢が結界を中和したのだ。
グォオォォォォォォ・・・!
――おのれぇぇ!!
ブレスが来る!
そう思って身構えたとき、
ザン!!
ドラゴンの炎を魔力の爪が切り裂いた。
レンブラントがカイザー・ファングを放ったのだ。
そのせいで、ブレスはあさっての方向へ、
「どうやら、のんびりしてる暇もなさそうだから、加勢するわ。魔道士Aさん」
こっちに走り寄ってきて言うレンブラント。無言でうなずく私。
「そんで、いきなり出てきていきなり劣勢のあんたは、何をしに出てきたの?」
全くその通り。
――滅ぼす。
『!!?』
同時にブレスが地面を叩く。
「レイ・バスター……!」
「カイザー・ファング!」
同時に攻撃を放ち、すぐに距離を開ける。
ガドォォン!!
また薄い結界で防がれる。
やっぱりまったく効かないし!!
――滅びろ!!
ドラゴンがレンブラントにブレスを吐く!
レンブラントはまた余裕でかわし、
「きゃっ!」
足を取られて転んだ!
――――――!!―――――
まずい!
ドラゴンはそれを見逃さず、レンブラントに黒炎球を放った!
――しかたがない!!
私はその場から転移しレンブラントの前へ、そして、
ゴガァァン!
大爆発。
闘技場はほとんど壊滅状態だった。
いきなり出てきて、サリナとレンブラントにドラゴンが攻撃を加えた分も相当なものだが、サリナとレンブラントがドラゴンに放った魔法が反れて爆砕したのがほとんどだ。
まぁ、それはよしとしよう。問題はレンブランとの前に身を投げたサリナだ。
ゆっくりと、レンブラントの横を倒れて行くサリナ。
黒焦げになり、それでも原型を保ったフードだが、そこはサリナ製。中のサリナ自身にはなんの負傷もないだろう。
多分ショックで気絶しているだろうが……。
「……………………」
レンブラントはただうつむいているだけだった。
――残るは1人……。
ドラゴンが悠然とたたずんでいる。
――では、さらばだ!
ドラゴンが今度はレンブラントに標準を合わせた。
放たれるブレス。レンブラントは動かない。
そして、
カッ!!
直前、レンブラントがまばゆい光に包まれる。
その光は、ブレスを消し去る。
――何!?
ドラゴンが驚愕の声を上げる。
「おおおお・・・・!!」
レンブラントが気合の声を上げ、レンブラントが纏った光はドンドン大きくなっていく。
その余波は地面を波打たせ、コートや髪をはためかせる。
――させぬわ!
ドラゴンが黒炎球を放つ。だが、
ジュッ!
光に触れたとたん蒸発した。
――何っ!?
「縛れ!六つの星、精霊の御名!全ての事象に静寂を!!」
レンブラントが声を発する。
覆っていた光が地面を走り、ドラゴンの周りに六芒星を描いた。
バリバリバリ・・・!!
六芒星の封印の力がドラゴンを抑えつけ、身動きを奪った。
――貴様、……どこでこんな……!
「黙りなさい!イレギュラーが!!」
レンブラントはその場から上に飛びあがる。その高さ5M!
「食らえぇぇ!!」
振り上げる木刀モドキに光が収束し、通常の十数倍の大きさの剣が出来あがる。
それをレンブラントは落下の勢いと共にドラゴンに突き立てた!
グオ・・・ッ!!
その瞬間、膨大なエネルギーが発散しあたりを光が包み込む。
レンブラントはそのなかでドラゴンが崩壊して行くのを見た。
―続く―