-ANOTHER ONE-
ーもう一人の自分ー
 

 

 

 

 

 

 

 


 9・出会いそして衝撃

 

 がばぁ!と、彼女はベットから飛び起きた。

「はぁ、はあ、……。あれ……ここは?」

 飛び起きた場所は闘技場ではなかった。ベットがいくつも並んだ医務室。

「おや、お目覚めかい。サリナさんや」

 初老の白衣のおっさんが彼女に声をかけた。よく知った顔だ。

「タレスさん。……あれ、あたしのあとどうなったの?」

 頭を抑えるレンブラント。

 頭に浮かぶのは足を取られた後、竜が火球を放とうとしていた場面。突然、視界が暗転して……、

「おや、覚えてないんかい?あれは見ものだったぞ。あんたがあの竜を叩き斬ったんだからな」

「あたしが、あの竜を斬った……?あたしは……」

「いいんじゃ、いいんじゃ。とっさの行動ってものは、覚えておらんもんじゃよ」

 彼はそう言って、カルテの書き込みを再開する。

「そうそう、あの魔道士Aさんな。治療すると言ったんじゃが、彼女がかばったから無事ですといってな、そのまま帰ってしまったぞい。

 なんか、あんたと似たような声しとったなー」

「……!?ちょっとタレスさん!それっていつの話?」

「ああ、ほんの1時間ほど前じゃ、あんたを預けてから帰っていったが……ちょっと!サリナさんや」

 レンブラントはタレスの話を最後まで聞かぬまま、掛けてあったコートを引ったくり医務室を飛び出した。

 

 闘技場の入り口付近にはまだ数十人の観客が興奮冷め遣らぬ表情で話し合っていた。

「あっ!サリナさんだ!サリナさんが出てきたぞー!!」

 一人が駆けて来るレンブラントを見つけた。とたんに全員がそこに注目し、サリナコールが始まる。

 しかし、当の本人は、そんな観客はお構いなしに走りすぎる。

 一瞬全員が当惑した。そのうち何人かが、追っかけをはじめた。

 闘技場を過ぎてから町に入る間に、追っかけは数十人に膨れ上がる。そして、彼女はそれに気づかぬまま町のある宿へと向かった。

 

 そのころ我らがサリナ=ハイランドはレオナと共に宿を後にするところだった。なぜかフードはかぶったままだ。しかも新しくなっている。

「しっかし、あんときは焦ったわね。あのドラゴンの炎打ち消すの結構響いたわ」

「でも、思った以上に非常識な真似したのね。今でもあの光の剣が脳裏に浮かぶわ」

「へへーん。真似できないでしょ」

「できるか、あんなもん!!」

 などと話して宿から出たとき、

「ちょっとそこのあなた!」

 サリナが声を発した。と、言ってもレオナはその声がどっから発せられたのか察するのに、一瞬硬直し、

 サリナにはそれが誰の声かすぐに見当がついた。

 サリナとレオナから距離をおくこと15メートル強。白コートをまとい、サリナと同じ顔、同じ精神波長をした者。サリナ=レンブラント。

 彼女が立っていた。うしろに取り巻きを数十人連れて。

 周りの人もなんだろうと思い、こちらを注目している。

 レンブラントはいきなりトンファーを抜くと、サリナに突きつけた。

「あんたに聞きたいことがあるの。答えてくれる?」

 サリナはフードから顔を出さずに、

「あたしが答えられることなら、その範疇で」

 声をやや低くして、答えた。

「この町であたしが有名人なのは知ってるわね。」

「……ええ」

「あたしがなんて呼ばれてるか知ってる?」

「さぁ、なんだったかしら?」

「皆、あたしの二つ名知ってる人いる?」

 彼女はサリナではなく、聴衆に聞いた。

 すぐに、「白の戦乙女」と言う名前が出てくる。その後に、「金の戦乙女」数人の口から出てくる。

 さらに、「金色の堕天使」「クラッシャー」「漆黒の女傭兵」等と悪名と聞こえるものまで、出てきた。

「あたしの身に覚えのあるものは『白の戦乙女』だけよ。気に入ってるし、あたしの格好にぴったりくるしね」

 と、コートをはためかせた。

「でも!『金の戦乙女』とか『堕天使』だとか言われる覚えはぜんぜんないのよ。

 それってつまり、ひとの噂があたしにかかったってことよね」

「……そうともいうわね」

 静かにサリナは彼女の言葉を聞く。

「他人の噂を人に掛けるんなら、偽名を名乗ればいい。それだけのこと。

 でもね、何回か、微妙な名前を聞いたことがあるわ。

 『サリナ=ハイランド』

 そっくりよね。苗字が違うだけで、名前が同じなんて。でもそれだけじゃないのよ。

 あんたの依頼人とかいう隣の人、彼女もあたしをそのハイランドと間違ったわ。それもつい最近」

 じとっと、サリナがレオナをにらんだ。

 ――しかたないじゃない。

 という表情でレオナは訴える。

「彼女だけじゃない、何人も。そうね半年ぐらい前からかしら。あたしをハイランドと間違える人が出たのは。

 野盗でさえ間違ったのよ!レンブラントであるあたしと!ハイランドっていう彼女を!

 分かる?何がいいたいか?」

 徴収がざわめきだした。

「何で間違ったか。顔で判断されるから。名前で判断されるから。そうよね。

 つまり、あたしと同じ顔をして、同じ名前のサリナがいるってことよ!

 そんで、今日、闘技場で起こった事件。

 みんな見た?」 

 レンブラントがみんなに言った。

 みんなが歓声を上げた。

「一つだけ訂正。

 あれはあたしがやったんじゃないわ!」

 波が引くように、聴衆が静かになった。

「どれほどの威力だったか知らないけど、あれを倒したんだから相当の威力よね……」

 彼女の持つトンファーが、光り始めた。

「あの場にいて、あたしをかばえて、レイズブレード以上の剣であいつを倒せたのは、一人しかいない……」

 光は異常なほど高まり、彼女の右腕から光る炎となって噴きあがる。

「あんたしかいないのよ!サリナ=ハイランド!!」

 レンブラントがトンファーを振った。

 クォガ……!!

 さきほどのカイザーファングとは比較にならないほどの、エネルギーが発せられる!

「その面おがませてもらうわ!!」

 レンブラントが怒鳴った。

 レオナが慌てて、宿の中へ非難した。

 サリナは、その場から……動かない! 

 キュゴォォォォン!!

 地面を薙ぎ裂き、サリナへと直撃する!

 もうもうと上がる土煙、聴衆は、あまりのことに声が出ない。

 しばらく、爆音の余韻が響き、

『……あんた相当の非常識ね。その辺は認めるわ』

 煙の中から声がした。今のを食らって無事で済むはずなどないのに。

 ……そう、普通なら。

 風が、煙を吹き飛ばす。

「……非常識なのは、あんたも同じでしょ?」

 レオナが宿から恐る恐る顔を出し、言った。

 そして、さすがに今のには耐えられなかったのか、フードは完全に吹き飛んだのにコートから下は無傷のサリナが立っていた。

 

 

10・エンドクレジット

 

 始め、聴衆はその光景に思考が完全に止まっただろう。 

 しばらくして、その事実が分かると、あるものは気絶し、あるものは笑い出し、あるものは絶叫する。

 同じ。何もかもが、コートの色と、髪形を覗いては。

 同時にレンブラントも驚いていた。さすがに笑い出すようなことは無かったが、鏡を見ているようで、妙な感覚だった。

 そしてその相手が、声を発した。

「どうすんのよ。こんな往来のど真ん中に穴なんかあけて。後で直しときなさいよ」

「……出会って第一声がそれ?ずいぶん度胸の据わった言い方ね」

「あんたも同じことを言うでしょ?きっと」

 図星だった。

 自然と、精神が落ち着いてくる。とたんに、怒りが吹き出てきた。

「何者?あなた。なんで同じ顔なの?何で同じサリナなの?」

 もう一度トンファーを突きつけて言った。

 サリナは、指を口元に当てて、静かに言った。

「それは秘密です」

 ムカッ!

「このぉぉ!」

 彼女は怒りに任せて突進していった。トンファーにはまた光が集まりつつある。

「食らえぇぇぇ!!」

 ギュオ・・・!

 先ほどと同程度の光刃が、サリナへと肉薄する!

 今度はサリナも動いた。呪文を唱えて、手を光刃にかざす。

 バン!!

 景気のいい音を立て、光刃とサリナの作り出した障壁は相殺された。

 観衆が「おお」と声をあげる。

「なってないわねぇ」

 サリナは言った。

「言っとくけど、あんたのカイザーファングと、レイズブレード。あたしには通用しないからその辺よろしく」

「なら試してみる?」

 レンブラントはトンファーを剣もどきに組替える。

 サリナも、腰の後ろからバトルスティックを取り出した。

 トンファーに光が収束する。

 同時にレンブラントが地を蹴った。

 サリナへと光剣を振りかぶり……、

 カッ!

 いきなりひかりが爆発し、レンブラントの光剣がガキンと、止められた。

『なっ……!?』

 観衆もレンブラントも驚いただろう。

 サリナの持つ、バトルスティック。それに刃が具現していた。

 しかも150cmはある巨大な斬馬刀だ。

 斬馬刀を地に突き刺し、サリナはレンブラントの光剣を受けていた。

 サリナは剣を引き抜き、重さを無視して右回転し空をなぎ払った!

 それだけで突風が吹き、レンブラントも数メートル飛ばされる。

「……う……く」

 レンブラントは何とか立ち上がった。

 サリナは斬馬刀を肩に担いで、言った。

「言ったでしょ?あんたの攻撃は効かないって。……あんたのやってるのは私にとっては子供のお遊びなのよ」

「何おう!!」

 もう一度レンブラントは、剣を構え、向かっていく。

 サリナは斬馬刀を普通のクレイモア(長剣)に変更し、剣を受けた。

「遅い!」

「くっ!!」

 剣を払い、次の横なぎの剣をサリナは剣の腹に腕を当てて、受け止める。

 剣を押し返し、切り上げる、飛び退ったレンブラントは、汗をかいていた。

 またもレンブラントはサリナへと突進していく。

 叩きつける斬撃を横に動いて交わし、剣を払う。光刃を光刃ではじき返す!レンブラントを伸ばしたスティックで、叩きつけ吹っ飛ばす。

「くっ、この!!」

 ガガガガガ……!!

 いきなり、レンブラントの前の地面が破裂音を上げる。

「――!!?」

 レンブラントはいきなりで、しりもちをつく。そして、サリナを見上げた。

 サリナの手にはUZIが握られていた。

「トンファーを使った戦い方ってのはバリエーションが少ない物よ。それに……アンタと私じゃ持ってる技量が違いすぎるわ。逆立ちしたって勝てないわよ」

「まだ……やられた訳じゃないわ!!」

 目の前の飛び道具に臆する事無くレンブラントは立ち上がって向かっていく。

「あああぁぁぁぁぁぁ!!」

 ありったけの力を剣に送り込む。

 心音の共鳴。力のオーバードライブ――暴走――周囲の風を裂いて光剣が唸りを上げる。

「…………」

 サリナは静かな目でレンブラントを見据え、剣を持ち上げた。

 ドゴォォォン!!

 強烈な破壊音とともに道が爆砕された。土煙が舞い、ギャラリー達がたたらを踏む。

 やがて、土煙が消えたそのとき、全員は見た。

 サリナの青白い光剣が レンブラントの胸を貫いている光景を。

「全力を出した攻撃が空振る気分はどう?」

「ぐ……く」

 剣を引き抜く。レンブラントがその場にひざを着いた。だが、死んだわけではない。四つんばいになって荒く息をしている。

「殺すのは趣味じゃないからあなたの精神を斬らせて貰ったわ。しばらくうごけないでしょ」

 言ってサリナは刃を消し、スティックをしまいこむ。

「言っとくけど、私は貴方に何の感慨も抱いちゃいない。絡んでこなければ戦う必要も無かったわ。

 ま、今後あなたがまだ絡んでくるなら受けて立つけどね。それじゃ」

 レンブラントに背を向け、さっさと立ち去るサリナ。

「ま、……待ちなさいよ!!」

 荒い息だけで手足が言うことを効かない。

 立ち去るサリナをレンブラントは呆然と見送っていた。

 ――何で勝てない。

 そう自問した。こたえは単純だった。自分が弱いのだ。

 そう考えると、自然と涙が出てきた。

 地面を引っかき、こぶしを叩きつけ、泣いた。

 観衆も、ばつが悪そうに一人、また一人と去って行く。

 後には、レンブラントの嗚咽だけが残っていた。

 

「かわいそうだとは思わないの?」

 レオナがサリナに問い詰めていた。

「いいのよ。あんだけ、懲らしめておけば、人生変わるから。」

「悪い方向に?」

「いいえ。あたしと同じなら、相当強い方向へ向かっていくんじゃないかしら。

 その場で終わるなら、小物。化けるなら、大物。

 あたしは、化けるほうを選んできた。いままでね。」

 あたしは空を見上げていった。

 

 その後、彼女の噂を2・3度耳にした。

 彼女はあれから、町を出たと言いう。なんでも武者修行に行ったそうだ。あたしに勝つために。

 

――Another One  完――

 

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