ドリーム・トラベラー
盗賊の憂鬱
グゴン!
爆風が舞い、野盗が吹っ飛ぶ。
そんなことをたまにやるのは、ご存知リナ=インバース!……
じゃなくて、
「ファイヤーボール!」
キュドーーーン!
『ぬわぁぁぁぁぁ!!』
「ちょ、ちょっと待てぇぇぇ!」
野盗の1人が声を出す。
「お前、一体俺達に何の恨みがあるんだ!?」
「恨み?そんなのないわよ」
「な……お前一体何もんだ!ロバースキラーの、リナ=インバースか!?」
問われて少女は手を腰に当て、
「違うわ。私はサリナ。サリナ=ハイランド」
言われて野盗は、
「てめぇ、……なんだって、俺らを襲撃しやがった!?」
「うーん。ストレス解消と金品補充かな」
「な……!?この、鬼、悪魔!盗人!」
「あんたが言うな!!」
ゴガァァァァァン!
とまぁ、こんな感じで、気ままなたびを送るサリナですが、面白くないのは野党側。何とかして、サリナを倒そうと野盗達は連合し、打倒サリナ
に向けて行動を開始したのだった。
サリナ=ハイランド。
いい所の譲さんだったがそれを嫌って魔道士になる。
そして、そこで人生を90度曲げる連中と出会うんですが……、
まぁ、ここで、話してもしょうがないことですね。
では、話しを戻しましょう。
数日後、サリナはとある街道を歩いていた。
天気はすこぶるいい。
「んーー。いい天気」
青い空、白い雲。緑の木々。それにアクセントを加える野盗達……、
「……は?」
ザァ!
野盗達は10人強。サリナの前に踊り出る。
「あらあら、なんか用?」
「サリナ=ハイランド……」
1人が抑揚の無い声で言った。
「死んでもらう!!」
「―――!!」
いきなり野盗がナイフや剣で向かってくる!
そして、野盗の剣がサリナに振り下ろされる、が!
ヒュ!と、剣は空を切る。
サリナが後ろに飛んだのだ。5メートルほど。
「つ、いきなりなんなのよ!まったく。
そっちがそうならとっとと片付けるわよ。ファイヤー……」
その時!背後から風鳴りの音が聞こえた。
ヒュヒュン、タタン!と、矢は木に突き立つ。
「何!?」
影に隠れていた野盗が思わず声を上げる。
サリナが、矢を避けただけ。もっとも……、普通の人間が避けられるような間合いからではない。
「つ、そこ!」
サリナがそっちに向き直ったとたん!
ヒュッ!
今度は反対から矢が!
ぎりぎりで矢はサリナをそれ、茂みに入っていく。
「ぎゃ!」
どうやら茂みの伏兵に刺さったらしい。兵の配置はド素人か……。
しかし、それを気に矢が間断無く飛んでくる。
「ち……!」
サリナは、しかたなく風の結界を張った。たちまち、矢が巻き取られ落ちる。
だが、前からは野盗が剣を持って来ているのだ。結界は剣での直接攻撃には耐えられない。そんなもん言ったら終わりだけど。
――しかたない、逃げるしかないか。
「レイ・ウィング!」
結界を強化し、高速移動の術に切りかえる。
宙に浮いてもなお攻撃は続くが、そんなものは通じない。
サリナはそこを後にした。
「あぁ!むかつく!」
私は思いっきりステーキに八つ当たりしていた。
いきなり襲ってきて、矢の雨霰ときたもんだ。腹も立つ。
でも、気になるのは連中が私を狙ってた事。普通の野盗は問答無用で襲ったりはしない。これは断言する。
しかも、死ねときた。
私への恨み……、妥当な線ね。
でも、野盗が報復なんて考えるかしら……、うーん。
私が悩んでいると、1人の男が入ってきた。
彼は私の事を確認するとこっちへ来た。
「よう姉ちゃん。元気かい?」
許可も無く向かいの席に腰掛ける男。
「どちらさま?」
「へへ、ちょっとした話しを持ってきた」
「とっととケリつけようって?」
その一言に男が絶句した。
「な、なんで……」
「さあ……」
まぁ、理由はちゃんとある。
私に接触しようなんて連中はゴロツキか依頼人。ちなみにここいらは治安がいいのでゴロツキは少ないし、何かデカいヤマが起きてる訳でも無
い。
残るは一つ、野盗の連中。
さっきのやりあいである程度こっちの実力を悟ったのか知らないけど、今は人目も有る。だから、ケリをつけようと話しを持ってきたわけだ。
「ちっ。なら短く行くぜ。
ここから十キロ近く北に廃村がある。そこに来い」
「ヤダ」
お得意の即答。
しかし、男は動ぜず、
「やっぱ、そうきたか。
だが、今回はちょっと色をつけておいたぜ」
「色?」
「ああ。お宝さ」
「ふぅん……」
「あんたが俺らをブチ倒しゃあ、あんたの勝ち。宝はあんたの物。
こっちがあんたを倒しゃあ、はいさよなら。ってな」
ほう、私に挑戦しようって訳ね……。
「いいわ。受けましょう、その話」
「そうかい。そいつぁうれしい。じゃあな」
男は立ちあがり、出口へ。
「そうそう……」
出際に振りかえり、
「たっぷり罠張って待ってれば?
「……。ち」
言いたい事を言われ、男は舌打ちして出て行く。
――さあて、行きますか。
私は代金を置いて店を出た。
翌日の今日。私は連中の指定した廃村への道を進んでいた。
どんな罠を張ってるか知らないけど、そんなものは粉砕するのみ!
それに、お宝があるかもしれないから一石二鳥ね。
ま、ほんとに宝があればの話しだけど……。
二時間後、私はそこに到着した。
街道からかなり離れた林の中に廃村はあった。
家は朽ち果てボロボロになっている。
――さて、どんな罠があるのかしら。
私は前を見て、
「……?」
一本の立て札が目についた。
文字も何も無く、一枚のメダルらしきものが張りついている。
「これって……」
『ようこそ。サリナ=ハイランド』
いきなり、メダルから人の声がする。
二枚一組で売られている魔法具だ。
呪文により発動させれば一方がもう一方へ声を伝える無線の役割をする。金貨百枚はする高いもんだけど、
つまり、どっからか私を見張ってるって訳か。
『まぁ、堅苦しい事は抜きにしてさっそく始めようか』
「そうね。私もとっととお宝もらって帰りたいし」
『OK!ではスタートだ。村の一番奥のデカい建物。
そこが終点だ。せいぜい楽しませてくれ』
と、それきり声はしなくなった。
「はいはい。そんじゃ、手っ取り早くいくわよ」
私は呪文を唱え、
「レイ・ウィング!」
風の結界をまとい、
ギュン!
一気に村の奥へ!
『…………』
襲おうと出てきた野盗連中はぼうぜん。
彼らの一致した意見。
――あんなのありか!?
飛行術で一気につっきれば苦労なんか無い。
計算に入れとけよ。それくらい。
村をつっきりながら私は思った。
楽勝!とおもったその時、
グオン!
「くっ!?」
何かの衝撃で結界の機動がそれ、派手に地面に激突!
結界なければ複雑骨折もんである。
「てて、……」
それでもなんとか身を起こし体制を整える。
「魔道士か。……やな相手」
魔道士には魔道士。確かにやっかいである。
予想どおり、魔道士姿が数人、茂みから姿をあらわす。
『フレア・アロー!』
いきなり呪文をしかけてくる魔道士連中。
だが、甘い!
キュドドドドドドド!!
無数の炎の矢がサリナを直撃!
しかし、
ゴロン。
『な……!?』
「ま、丸太!?」
「ボム・ディ……」
その時空から声が、
「そんな……」
「ウィン!!」
ビュ
ゴォォォォォ!!
『のえぐわぁぁぁぁぁ!!』
魔道士達はなすすべなく吹っ飛びまくった。
シュタッと、サリナが着地する。
「はい、おしまい」
その後ニ、三度出てきた魔道士連中をなぎ倒し、サリナはある建物の前へ、
「へぇ、何しに来たの?二人とも」
村の中で一番大きい倉庫の前、二人の見知った人物がいた。
「お久しぶり。サリナ」
レオナ=ティーゲル。魔道士協会で共に学んだ友人である。
なんくせつけえて私に挑んできたが、ある事件で私の実力を知り、それからは何もしてこなくなった。
一方、
「ふっ、久しぶりね」
ごぞんじ金魚のフンことサーペント白蛇のナーガである。何しに来たのやら。
「久しぶりはいけど何しに来たの?」
「きまってるじゃない。そんなこと」
……………
両者の間に沈黙があり、
「おこぼれをもらいにきたのよ!」
チュドォォーーン!!
思わず私は自爆した。
「な、なにを……?」
「いえね、魔道士を探してるってスカウトされたら、相手があなたじゃないの。
これは儲け話とふんでうけたわけよ」
「フッ、私も同じね」
こ、こやつら……
「さ、こいうことで、とっととお宝もらって帰りましょ」
と、レオナとナーガは中へ入っていく。
「ちょっとぉ!」
私も慌てて中へ、明り取りの窓もあるし、普通の倉庫だ。
中には木箱や樽の類が所狭しと並んでいた。
天井のランタンが妙と言えば妙である。
私はちょっとした不安にかられた。
「ねぇ、これじゃない?」
倉庫の中央に布袋が二つ。
「罠かもしれないわ。中を見るわよ」
袋の中身は、
「やりぃ、両方ともお宝だわ!」
レオナは喜ぶが私は、
「待って、こうも簡単にお宝を渡すかしら」
「ふっ、この私の実力を信じて本物を置いたに決まってるでしょう。
罠なら開けたとたんにドカンよのはずよ」
――いや、罠だ。出たほうがいい!
「そんじゃ、出ましょうか」
と、レオナが袋に手をかける。
その時、サリナは結論を出した。
倉庫を選んだ理由。木箱、樽の中身。袋の中がお宝だったわけ。
そして、天井のランタン。
「ダメ!」
「えっ?」
サリナの声より一瞬早くレオナは袋を持ち上げてしまった。
ヒュッ、と言う音。
そして、予想どおり落ちるランタン!
(間に合わない!)
サリナは二人の所に走った。
ランタンは、真下の布をかぶせただけの木箱につっこみ、
グガァァァァァァァァン!!
爆発!そして、炎上!
倉庫は瞬く間に炎のうずに巻かれる!
「ふははははは!」
倉庫の外では1人の男が笑っていた。後ろに何十人も部下がいる。
「まったく、うまく掛かってくれたものだ」
木箱や樽の中身、それはやはり火薬や油ばかりだったのだ。
「これならいかに奴らとて生きてはいまい」
部下達も歓喜の声を上げる。
「これで邪魔者は1人になった。
まあ、最後の二人は予定外だったが、終わりよければそれでよし、だな」
野盗のリーダーは1人悦に入る。
「ようし、行くぞ野郎ども!」
『おお!』
その時!
「お、お頭!」
「なんだ?」
「炎が!」
「な……!?」
炎が、渦を巻いていた。
「そんな……なぜ!?」
言われて答えられる者などいるはずがない。
そして、渦巻く炎はどんどん小さくなっていく。
さらに、
―――!!?
皆が絶句した。
中の三人は全員が無事だったのだ。
そして、そのうちの一人、
サリナはその上げた右手に炎を吸収していっていた。
「な……なな」
そして、すべての炎はサリナに吸収された。
レオナも、ナーガでさえ、今の光景は信じられなかった。
炎、しかも魔力でない普通の炎を吸収するなど……、
「やってくれたじゃない、さすがに焦ったわ」
ゆっくりとサリナは前に出る。
野盗達は完全にあっけにとられている。
「それなりに、お返しはしないとね」
同時にサリナの体が宙に浮かび始める!そして、
ブワァァァァ!
十枚の巨大な黄金の羽が出現した。
『なにぃぃぃぃぃぃ!?』
「出た……」
驚く野盗とナーガ、見入るレオナ。
これがレオナに見せた私の実力の一つ。もっとも、その時は四枚でブルードラゴンを吹っ飛ばしたわけだが、今回は一味違う!
始める前に光球を二人に放つ。
『え……?』
それは、二人に当たるとシャボン玉のように二人を包み込む。
私は右手を上に上げる。
キィィィィーーーー!
空気を鳴らし、光が右手に収束していく。
足がすくみ全く動かない野盗達。
「セイント……」
「き、貴様は……一体!?」
「ビック・バン!!」
カッ!!
次の瞬間、あたりは白一色に包まれた。
風が、木々をなびかせる。鳥達が歌を歌う。
のどかな自然の中、サリナとレオナは街道を進んでいた。
「しっかし、今回は派手にやったわねぇ」
「私に爆薬食らわせたんだから、当然よ」
「そう……なの」
(それで何人葬った)
と、考えるレオナであった。
あの後、ナーガは一人旅に戻ると別れた。袋一つ持って。
「さーて、街まで競争しようか!」
「負けるって!」
「手加減するわよ」
と、走り出すサリナ、追うレオナ。
旅はまだまだ終わらない。
−END−
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2006/2/21 改定