D i a r y

 ―里中の日記―

 

 

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 これは、一体なんだ。

 

 俺は一介の高校生で、何の変哲もない劣等性で、小説好きで、ゲーム好きで、どうしようもないくらいで。

 

 

『力を与えましょう』

 

 

 目の前にいるこの男はそう言っている。フードとマントを深くかぶり、手と口元しか見えていない。

 

 

『胸躍る旅へ、行ってみたいとは思いませんか?』

 

 

 旅。勉強と言う縛られた生活から開放され、無限の可能性を秘めた物。甘美な誘惑。何度となく親元を離れ海外へと旅立ったか。むろん、正当なツアーでだ。

 

 

『ここは全ての人が見る夢の世界。あらゆる夢がひしめいている。中には楽しいもの、悲しいもの、苦しいもの、そして命を掛けるものが揃っている。そんなすばらしき世界へ行きたいと思いませんか?』

 

「俺は……」

 

 声が出た。周りがすべてやみに閉ざされ、天と地もはっきりしない場所で、俺と奴は話している。

 

「……行ってみたい」

 

 そう言った。

 

 彼はその口元に笑みを浮かべた。

 

『里中さんでしたね。お受けくださってありがとう。では、行って頂く前にあなたのお仲間を紹介しましょう。』

 

「仲間?」

『えぇ、そうです。あなたより先に呼んでおいた方々です』

 彼が言うと共に光が生まれた。その先にいたのはなんと、

「里中!?」

「お、里中じゃん」

 見知った二人、高校での友達でもある、倉田に、浜崎の二人。

「お前ら、どうしてここに?!」

「こっちの台詞だよ。寝てたと思ったら、こんなところに引きずり込まれてさ」

「俺も同じだ。引き込まれたと思ったら、浜崎が先にいてよ」

 二人も引き込まれた理由は分からないという。俺たちは彼を見た。

『よろしいですか?』

「ちょっと聞かせてくれ。」

 俺は言った。

「あんたの名前、まだ聞いてないが?」

『あぁ、すいません。まぁ「天使」とでも呼んでください』

『天使!?』

 3人そろって声を上げ、笑った。

「て、天使って面かよ……!」

「おいおい勘弁してくれ……!」

『まぁ、なんと思ってくれても結構ですが……』

 少し怒気が強まったのを少なからず感じる俺。

『では、仕切り直して行きましょう。』

 天使の台詞と共にまた光が生まれた。そして、ふょふよとこっちに漂ってくる。

『手に取りなさい』

「??」

 言われるままに手に取った。とたんに、光ははじけて俺たちを包み込む。

「な!?」

「……うおっ?!」

 数秒もしないうちに光は俺たちの中へと入り込んだ。同時に内から湧き上がってくる高揚感というか、そういうものを感じる。そして、

「うわっ、剣だよ!」

 俺たちの手の中には剣が納まっていた。あの光が変じたものらしい。

 倉田のは一般的な長剣だ。その峰には流麗な模様が刻まれている。

 浜崎の手には大剣が握られている。厚く無骨ながら鏡のように磨き上げられていた。

 そして、俺の手にはどういうわけか銃のような剣のような物が持たされていた。俗に「ガンブレード」などと言われる物だった。

「あっ、ずれー。里中」

「うわ、扱いにくそ」

 確かに普通の剣よりは扱いにくい。この剣、斬ると同時にトリガーを引き、炸裂する空砲の衝撃でダメージを倍増させるものだ。

 銀のように光り輝く鋼で、羽のように軽く、その峰にはドラゴンが彫られている。しかし、弾創には何も入っていない。

『よろしいですね。その剣はあなた達一人一人が持つ専用の武器です。

 もし気に入らなければ、自分で形を変えてください。』

「形を?どうやって?」

『初期の段階ではあなたがたの印象に残っている剣が再現されています。変えたいと思ったらその姿を思い浮かべるんです。

 慣れれば、瞬時に形を変えることができます』

「ふ〜ん」

 俺はその剣を振ってみた。左右に、上下に、袈裟懸けに。突き出すと同時にトリガーを引く。剣を引き、トリガーガードに指を入れてそこを支点にして刃を回す。

 やがて、俺は長年使っていたかのようにそのガンブレードを扱っていた。ものの数分で刃先に神経が宿り、リーチを体で感じ、体重移動での威力の変化、トリガーを引くタイミング、その全てが体に頭の中に入ってきた。

 気がついたら5分は振っていたらしい。まったく疲れを感じなかった。これは……、

「スゲ……」

「はや……」

 倉田と浜崎も俺の剣の上達の驚異的なスピードに驚いていた。いや、驚いているのは俺自身。これの扱い方が自然と頭の中から浮かんできたからだ。

 剣舞をやめ、俺は剣を下ろす。剣に違和感を覚えなくなっていた。剣が体と一体化し、どんな相手もこの一本で倒せる。そんな根拠もない自信がわいていた。

『上々のようですね。』

 天使が言った。

「これって……」

『あなた方が得た力、それはイメージすることでそれを具現する力です。剣の扱い方然り、魔法の発動然り、あらゆる機械、言語の扱い然り』

「魔法……」

「魔法って……」

 俺たちは内から来る感覚を思い出した。噴出すように浮かんでくる風のように温かく、水のように落ち着いた、そんなキザな言葉でしかいえない感覚。

『漫画のように、アニメのように、思ったとおりにやってみればいいんです。それを“力”が具現、発動させてくれますから』

「……こうか?」

 浜崎が手を突き出して言った。

「ファイヤー!!」

 とたん、手に光が灯り、ゴウッと激しい炎が飛び出した。

「おぉ!?」

「うわ、スッゲー!!」

 子供のようにはしゃぐ俺たち。

『しばらく、慣れる様に訓練してみてください』

 天使がそう言ってくれたので、俺たちは色々と試してみた。

 

 30分後、

「うおらぁぁぁ!!」

「はぁぁっ!」

 二つの剣が交錯する。そのたびに甲高い音と火花が飛んだ。しかも、かなり高速で。切り結んでいるのは俺と浜崎だ。

 浜崎大剣の扱いに早くも慣れ、フェンシングのように剣先で数十合を打ち合い、離れると同時に魔法での応酬。相手の先を読み合い、魔法を相殺しあう。それは達人の戦いだ。むろん休んでいる倉田もすでに俺や浜崎とやりあった後だ。

『・・・・・・・・』

 眺めている天使も少し唖然としている様子。

「そこまで!」

 倉田が合図をした。即座に剣を下ろす俺たち。

 気を静めようとするとすぐに落ち着いてくる。そして、貰っておいた鞘に剣をしまう。

「こんなもんか?」

「十分だろ」

 お互いにそれぞれの確認をして天子に向き直る。

「おーい、そろそろいい感じだが」

『・・・・・あ、あぁ。はい』

 声をかけられ、ちょっと上擦る天使。

「なした?」

『いえ、ここまで短い間に物にする人は始めて見たもので』

 まぁ、確かにそうだ。

『オホン!では、最後に一言言っておきましょうか。』

 俺たちは次の言葉を待つ。

『この旅では、あなた達には目的を一切教えません。』

『はぁ?!』

「どうして?」

『旅というものは、行動することにあります。様々な世界が広がる中で、どう対処し、どう行動するかは全てあなたたちの自由なのです。むろん、自由だからといって何をしても許されるわけはありません。もし、あなた達が“死んだ”場合、強制的にこの世界から出てもらいます。』

 …………

『そして、この世界で得た経験は全て忘れてもらいます』

「……道理、かな」

『もうひとつ、行く世界にはすでに数人の“トラベラー”がいます。あなた方と同じね。もし、彼らと戦闘になることもありますのでそれもよろしく。』

「マジ!?」

「先輩ってことか」

『むろん、彼らの腕はあなた達とは雲泥の差でしょうね』

 ゴク。

『最後に、あなたたちのお知り合いが二人ほど先に行ってます』

『何!?』

「まだいたのか?!」

『えぇ、いました』

 ……それは早く言え。

『さて、行って頂きましょうか。あと、コツとしてこれだけは』

 と、指を立て、

『全ては想像のままに、というこれを忘れずに』

「まぁ、……一応覚えておく。」

『よろしい。では!いってらっしゃい!!』

 天使が杖を構えた。その杖から光が飛び出し、俺たちを飲み込んでいったのである。

 

 

 そして、俺たちは今に至っている。

 思い起こせばなぞのままの始まりだったが、今がよければそれでいいとか思ったり。

 ま、思い出としてはいいほうかも。

 

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 ここで一日分が埋まっている。

「ふーん。大介達こんな始まりかたしたんだ」

 雑談のために来たあたしは机上の日記を見つけて広げたのだ。この間の仕返しである。どんなもんかと思ったら至極まともで期待はずれだが、ま、大介だし。

 と、トイレにたった大介が戻ってきた。あたしの持っている日記を目にして、驚きながらも、やられたか、という表情。

「勘弁してくれよ……」

「大丈夫。1ページだけよ」

 言いつつ、あたしは日記を返した。またいつかよんでやれ。

 

 

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    あとがき

 まぁ、始まりなんてこんなもんだと思っている作者でした。(爆死)

 ノート小説もこんな感じなので期待はずれと思ってもらっても嫌な気にはならないので。

 

 真電氏リクエスト作品ということで、日記の第3弾でした!!

 

2002/06/01