(エクシールに意味はなし)
1・それは劇的な出会い
あの人と出会ったのは、薄暗い森の中。暗闇があたりを支配し、何人をも寄せ付けぬ恐怖というスパイスが効いたこの感じ。
そうこの感じの中、あたしはそれを聞いた。
「……ほーっほっほっほ!!」
天から降るような、地から沸いて来るような何ともいえない高笑いが森に響いた。
―― 誰かいる?こんなところに?
あたしは下生えをかき鳴らしながら、声のしたほうへと向かった。
おっと、今のうちに自己紹介しておくわ。
あたしはサリナ。サリナ=ハイランド。“金色の戦乙女”の異名を持つ者。……なんちゃってね。
「ほーっほっほっほ!!」
ナーガは今日何度目かの高笑いを上げる。
「ナーガ……。お宝あさってる時くらい静かにできないの?」
「フッ、愚問ねリナ。嬉しいから笑って何が悪いって言うの?」
「まあ、……今に始まったことじゃないけどねぇ」
宝をあさる、この二人。
片方の、背は小さくついでに胸も小さい少女はリナ=インバース。様々な二つ名を持つ自称「天才美少女魔道士」。美少女かはさておいて、確かに天賦の才を持っているかもしれない。
かたや、白蛇のナーガ。出身不明。冬でもそのとち狂った悪の魔道士ファッションを崩すことはなく、生命力は桁外れ。リナのライバルを自称し、金魚のフン扱いされている人だ。
彼女達の周りには累々と男達が倒れ伏している。リナ達が路銀の補充の為に襲った盗賊達だ。
「さてと、こんなもんでいいかしらね」
リナは宝を詰めたザックを持ち、うなずく。
「そうね、引き上げましょうか」
ナーガも立ち上がると、きびすを返した。
「これは……!」
あたしは声の響いてきた方に来てみると、そこにはかなりの数の盗賊たちが物言わずに倒れていた。明らかに誰かが襲撃した後がある。しかもかなり派手にやったらしい。
ふとその向こう、ちょっとした洞窟のような場所から声がする。襲撃者達が中のお宝を漁っているんだろう。
あたしはちょっとした好奇心でその襲撃者を知りたくなった。ここまで問答無用にふっ飛ばしまくった奴というのは、一体誰だ?例を挙げるなら“ロバースキラー”と言われたリナ=インバースかそれとも。
あたしは銃を抜き、洞窟の入り口に張り付く。中は少し暗い。
ゆっくりとあたしは中へと入っていく。100Mも進んだところで、
『フリーズ・アロー!!』
「!!?」
奥の暗闇から氷の矢が十数本あたしに向かって襲い掛かってくる。反射的にあたしは右へ飛び、そこにあった小部屋の中に入った。
予想していたとはいえ、いきなりぶっ放してくるとは思っていなかった。しかも、声からして女。しかも二人だろう。
術の選択からしてかなり使えるほうだと思う。もし“フレア・アロー”を使えば、その炎で見えてしまうからだ。
遠くで術が何かを凍らせる音を聞きながら、あたしはその場から銃だけを覗かせて、
バババババババババンッ!!
UZIに使っている魔力弾が姿見せぬ相手に向かって襲い掛かる。
『うわだぁぁぁぁぁぁ!?』
壁に着弾している音らしいが、手ごたえという声じゃないな。
「ライティング!」
あたしは明かりの呪文を相手に向かって投げる。魔力の光は闇を払い、通路をあらわにする。
「フリーズ・ブリッド!」
その通路から、……あまり見たくない服装の女性が顔を出すと氷の呪文を一発!しかし、それと同時にあたしの銃弾が発射され、数十センチも進んだところで直撃。
ガキィン!!
あたしの銃弾ごと氷に閉ざした。
「なっ……!?」
「ボム・スプリッド!」
ドォン!!
「ぬきゃぁぁぁ!!」
「さらにフリーズ・ブリッド!」
こかきぃぃぃん!!
その女をふっ飛ばし、お宝の山ごとあたしは氷に閉ざす!
かきぃぃぃぃん!
「えぴ!」
「ナーガっ!?」
ナーガが風の呪文で吹っ飛ばされ、さらに連続で氷に閉ざされた。詠唱が異様に早い!
「やるじゃない!あんた。夜盗に雇われた魔道士にしては」
あたしは向かってきた奴に声をかけた。
「誰が夜盗よ、誰が!あたしは様子見に来ただけの一般人よ。
それをいきなり攻撃しといてよくそんな台詞言えるわね」
…………へっ?
「一般人!?」
「そうよ!なんか声が聞こえたから来てみたら、こんなことになったなのよ!
さあ、問答無用でファイヤーボール叩きこまれたくなかったら、手上げて出て来なさい!」
ここは突き当たりの小部屋。向こうから丸見えになっているし、ファイヤーボールは密室に近いこんなところだと、威力は倍増する。
ちっ。
「わかったわよ。出て行くから」
出てきたのは少女だった。栗色の髪、身長は160行くかいかないか。何かの甲羅を削ったような肩当にマント。腰にショートソードを佩き、ところどころにマジックアミュレットを装備している。
絶対的な不利にも拘らずその目はまだ自信が見える。
―― 使えるくちね。
あたしは彼女をポイントしながら少しずつ近づく。
「魔道士ね。」
「えぇ。で?そういうあんたはどちら様?そんなみょうちくりんな物持って」
パウッ!
パララッ、っと少女の近くの壁が削られ落ちる。
「当たったら、ちょっと痛いわよ」
「…………」
「で、一応名前だけ聞かせてもらえるかしら。盗賊を問答無用でプチ倒す勇敢な魔道士さん?」
その少女は一息ついて名乗った。
「あたしはリナ。リナ=インバースよ」
・・・・・・・・・・・・・・
数秒間洞窟の中に静寂が満ちた。
……カシャン
洞窟の床にUZIが落ちた。
「……うぞっ!?」
思わず声が変になる。
「いや、うそ言って何か始まるわけじゃないし」
頭が真っ白になった。リナ=インバースといえば、あのドラゴンもまたいで通るとか、破壊神だとか呼ばれているあの!?
名乗ったとたんに女がそれを落とした。チャンス!
「ライティング!!」
カッ!!
「うわっ…・・・!?」
目をつぶってもかなり眩しい、光量最大、持続時間ゼロの光球は廊下で弾けた。いきなりかまされたライティングに女は目を焼かれる。回復には数十秒を要するから今がチャンス。
「フリーズ……!」
あたしは呪文を唱え、
『……ブリッド!!』
彼女との詠唱は同時だった。
「え……!」
あたしの放つ青白い光球に対し、彼女は赤い光球を放った。ファイヤーボールである。
ぱきぃぃぃん!!
乾いた音を立てて両方の魔力は消え去った。
「相互干渉!」
「そこまで……!」
彼女は拾い上げた妙な物を、またあたしに向かって向けている。ライティングが効かなかった!?
いや、その両目は閉ざされている。まさか、見えないまま術を当てたのか!?
「長い間やってると、暗い中でもある程度は周りが見えるようになるって、本当ね。」
「…………」
あたしの顔に一筋の汗が流れ、あたしは横の部屋に飛び込んだ。
「あっ……!」
「ボム・ディ・ウィン!!」
その瞬間、洞窟の中に暴風が吹き荒れた。
「ほーっほっほっほっほ!!この白蛇のナーガを怒らせるとこういうことになるのよ!!」
「あたしまでふっ飛ばしてどうすんじゃい!!」
スッパァーン!!
「ぶっ!」
あたしのスリッパアタックにナーガは再び沈黙した。そして、あたしは洞窟から吹き飛ばされたこの女を見る。
茶の髪を簡単な紐で結んだポニーテールの少女だ。黒コートを着て、武器はさっきの金色の妙な飛び道具。……ふーむ。
と。
かっ、といきなり目を開き、一挙動で起き上がると、あたし達から距離をとった。
「つー。……今のは効いたわ」
首もと押さえながらそう言った。
「それで、まだやる気?」
あたしは彼女の持っていた妙なものを振り振り言った。呪文はそこそこのようだけど、用心に越したことはない。
「まさか!リナさん相手に馬鹿な真似はしませんよ!」
「どういう意味よ!!」
「ふっ、そのままの意味だと思うけど?」
リナさんの横の悪の魔道士ルックの人が言った。誰?
とにかく、まさかこの人があのリナ=インバースだったなんて……。
「イメージとかなり違うわねぇ」
「なんか言った?」
ジト目でこっちを睨むリナさんにあたしはあいまいな笑みで流す。
「あはは……、で、そちらさんは?」
あたしはその悪の魔道士ルックを指して言う。
「あぁ、こいつは……」
「ほーっほっほっほっほ!あえて言うのもおこがましいけど、この私こそリナの最大にして最強のライバル、白蛇のナーガよ!!」
高笑いが耳に響く名乗りに、銃ぶっ放す怒りを抑えるあたし。
「あたしはサリナ。サリナ=ハイランド。いきなり攻撃したことは水に流すからよろしく!」
――続く!!――
2002/04/04