スレイヤーズえくしーる

 

 

  3・戦士として今を生きる

 

 指定された場所は、そこから北に10キロほど行った所にある廃屋だった。なぜにこんな遠くの廃屋を指定してきたりするのか、改めて奴のいい加減さを再認識する3人である。とにかく、呼ばれた先の廃屋に到着したあたし達。そこは元々それなりの富豪が住んでいたであろう館だった。外壁は塗装がはがれ、ツタが一面を覆っている。かつてはそれなりに整備されていた庭も荒れ放題になっていた。

「まったく、何を考えてこんな場所を指定してきたりしたのかしらね?」

 リナさんも少々ご立腹の様子。

「まぁ、ここなら少々手荒な事をしても一般市民が巻き込まれないのは確かですね」

「ふっ、確かにストライドは他人が巻き込まれるのを嫌っていたわ。」

「……そんなもんかなぁ」

 あたし達は館の中へと足を踏み入れた。廃屋特有の匂いが鼻をつく。ロビーにたどり着いたとき、あたし達はそれを目にした。

 柱に誰かが縛り付けられていた。年のころなら17,8の少女。間違いない、領主の娘である。そして、

「待っていたぞ。リナ=インバース」

 疾風と呼ばれた男がその傍らに立っていた。

「あら、ご丁寧な歓迎ね。」

「私は回りくどく、と言う言葉が嫌いでね。決めるなら早い方がいい」

「あたしのことわざわざ呼び出しておいて、早いところ勝負をしようなんて、なかなか見上げた根性してるじゃない。しかも、ロードの娘まで浚ってからに」

「まぁ、誰でも良かったのだがな。人を探し出すことに長ける領主のほうが早いと思って連れてきた。何もしてはいないから連れ帰るなら連れ帰れ」

 そして、ゆっくりとこちらに歩み寄る。その動きには隙がない。

「……ただ、私をどうにかできたらの話だがな」

「一ついいかしら?」

 リナさんがゆっくりと前に出ながら言った。

「どうしてあたしなわけ?」

「聞いているぞ。魔族を向こうに回して幾度となく大立ち回りを演じてきたと言う話を。そんなお前がどれほどの物か、興味が沸いたんだ」

「……あぁ、そう」

 また眉唾物の話か、という感じでリナさんはため息をついた。

「ふっ、目を付けられたものね、リナ=インバース。今回ばかりは、あなたもやばいかもよ」

「冗談。疾風だか、なんだか知らないけど、ケダモノごときにやられるってのは、あたしのプライドって物が許さないわ。

 ようし、どっからでもかかって来なさいよ!」 

 言い放つと同時に呪文を唱えだす。

「では……」

 一歩前に出るストライド。そして、

 ヒュッ!

 その右手が突如ぶれると同時に、何かが飛来してくる!

「くっ!」

 何とか身を翻して避けるリナ。投げたものを追うようにして迫ってくるストライド。

 壁に投げられたものが当たる。投げナイフだった。……って根元まで刺さってない!?

 体制が不利なままストライドの突進を受ける羽目になったリナさん。そして、ストライドは右の剣を抜刀し、袈裟懸けに切りつける。速い!

「……!」 

 ヒュギィン!!

 廃屋の中に甲高い音が響いた。

 

 あたしにとってこれほど速い相手とやりあったことはない。ナイフのスピードからして尋常じゃないし。

 ナイフだけなんとかかわせた!しかし、後から突進してくるストライドのあまりのスピードに一瞬動きが止まってしまう。

 奴の右腕がぶれ……、甲高い音が鳴った。

 ふと、顔を上げると、ギリギリと刀身をかみ合わせながら拮抗するストライドとサリナの姿があった。あのスピードを受け止めた!?

「ほう、よく止めたな。」

 口の端に笑みを浮かべてストライドが言った。

「まだまだ。お互い序の口でしょうに」

「確かに……!」

 皮肉に答えるストライドの今度は左手がぶれる。サリナはそれを見て剣を弾き、そのいつの間にか取り出したスティックを振り下ろす!

 ギギギギギギン!!

 数秒で十数合を打ち合って、お互いはまったく同じタイミングで離れた。

「うそ……」

 ナーガが呆然と声を上げた。当然である。あたしにも二人がどう打ち合ったかなんて見えなかった。非常識なまでに速いのである。

「ふふふ……ふははははは!!」

 いきなりストライドが声を上げて笑い出した。

「何が可笑しい訳?」

「ククク……そうではないか。私と対等に打ち合ったものなどいままでに数えるほどしかいなかったからな。しかも、このような小娘がな……」

「なめてると、痛い目見るわよ」

 腰を落として、スティックを構えるサリナ。そして、掻き消えた!

『!!?』

 ドンッ!!

 音がはじけた。サリナは人外の速度で肉薄し、ストライドに向かってスティックを振った。しかし、ストライドもきっちり反応して飛んで避けたのだ。そして、放たれた一撃は真空になり、後ろの壁をぶち砕いた。

「ちぇ、避けたか!」

 サリナは上空を飛ぶストライドを振り返り、返す刀でスティックを振る。もちろん届きはしない。が、

 シュパウ!

 その先端から光の衝撃波が放たれるのが見えた。

「!?」

 ストライドはさすがにそう来るとは思っていなかったのか一瞬動きが止まり、タンと柱を蹴って軌道を変えた。衝撃波はむなしく行き過ぎ、ストライドは着地する。着地と同時に剣を構えて突っ込んでくるストライド。サリナは懐から取り出したナイフを投げ放つ。しかし、これはあっさりとかわされ、二人は剣を交錯させる。そこに、

「ボムスプリッド!」

 あたしは横槍を入れた。発声と同時に二人が気づいて離れる。魔法が着弾したときには、あたしの前にサリナが、少し離れてストライドがいた。ストライドも腰からナイフを抜くと同時に2本投げ放つ。その刀身は薄く輝いている。

 “アストラルヴァイン”を使ってる!?

「気を……!」

 いくら頑丈な武器でも、この術を掛けた武器にはナマクラも同然である。なにせこの術、対魔族用に開発された物で、魔力を武器に這わせることで攻撃力を上げるのだが、そのときだけはナマクラでも伝説の武器級にレベルが上がる。

 声を上げたときには既に遅し、

 ギンキィン!

 最小限のふた振りでナイフを弾き飛ばしてしまった。弾かれた二本はあたしの後ろの柱に深々と突き刺さっていた。弾かれたと知るや、すぐに剣を構えて突っ込んで来るストライド。サリナもすかさずそれに応じる。剣が交錯し、凄まじいまでの速度で打ち合われる。剣からは火花――いや魔力の余波かもしれない、が飛び散りまくっている。

 腕はほぼ互角、そう思った次の瞬間、サリナが吹き飛ばされた!何が起こったのかはわからない。一瞬見えたストライドの構えから肘打ちでも食らったのだろう。吹き飛ばすと同時にナイフを上へと放るストライド。そこにあるのは、崩壊する前には煌々と火を点けていたであろうシャンデリア。その落下地点にサリナが落下した。

「かはっ……」

 さすがに威力が威力だ。腹を押さえて何とか立ち上がろうとする。ここでナイフがシャンデリアを吊っていたワイヤーを切断した。その巨大なシャンデリアが重力にしたがって落下してくる。

「上!!」

 そう叫ぶのがやっと。弾かれたように上を見るサリナ。そして、

 ドガシャァァァァァ!!

 サリナが身を伏せたのを最後に、シャンデリアが直撃した。ガラスが盛大な音を立てて砕け散る。

「人間にしてはよくやった、というところか……」

 シミターを持って、ストライドが近付く。その顔には汗が浮かんでいる。相当気を張った戦いだったのだろう。

「いないのか、俺を倒せるものは……」

 なにを?

 そのつぶやきにあたしは妙な感覚を覚えた。こいつ、自分を倒してもらたいのか?

「さて……」

 ストライドがこちらを向く。

『くっ……』

 敵わないというより、相手にされないにも拘らずあたし達は身構えた。サリナが超絶的、いや人外に強いというのは分かったが、互角以上を張り合ったコイツに勝てるとは思えない。というか無理。

 どうする、どうすればいい。そんな自問自答が繰り返されたが、答えは出ない。

 そして、奴がこっちに足を向けたとき。

『……どこいくのよ』

 サリナの声が聞こえた。

『!!?』

 あたし達もストライドも驚いた。声のしたさきが間違いなくシャンデリアの下だったからだ。

『あんたの相手は私でしょうが!!』

 ドバァァァァン!!

 叫びと共に残骸が弾けとんだ。そして、そこから現れたものにあたしは言葉を失った。大きく広げられた漆黒の翼。禍々しくも神々しいその翼を背に、飛び散るガラスの残骸を装飾に、サリナがゆっくりと立ち上がる。

 バサァっと翼を振り、たたむ。次の瞬間には翼の形は崩れ、彼女の着ていたあの黒いコートに変じた。

「……魔族」

「おあいにくさま。人間です」

 ナーガのつぶやきを否定して、サリナは言う。

「魔法感応繊維で作った特別製のコートなの。操る意思あらばどんな形にも変化する。いいでしょ」

 言って、裾をヒラヒラと振る。

「それに私はただの1魔道士のつもりです」

 指立てて笑いかけるサリナにあたしは呆然とするしかなかった。全身を珍妙な道具で固め、人外の戦力を見せるこの女。魔族と見てもおかしくはない。しかし、……

「言いたいことはそれだけか?」

 あたしの思考を遮ってストライドが声を上げた。

「ふ、ふははは……」

 不気味な笑い声を上げストライドがサリナに近付く。

「魔道士、魔族……、そんなことはどうでもいい。嬉しいぞ、強き者。

 さあ、戦おう!どちらかの命が尽きるまで!」

 とたんに、ストライドの闘気が爆発した。

「かぁぁぁぁぁぁ……!」

 ストライドの体が変化を始める。獣化するのか!人間の姿でアレだけの戦闘を演じたコイツが!?

 体中から体毛が伸び、筋肉が倍にまで膨れ上がり、骨格が変化する。

 あたしの体は完全に硬直して逃げようとしても動かない。これが、……本能の恐怖、なの?

 横を何とか見れば、ナーガも似たようなものだ。額から汗が流れ、ただじっと事の成り行きを見守っている。そういう感じ。

 サリナはただ静かにその変身を見ていた。

 そして十数秒後、獣化を終えたストライドの姿にあたしはさらに驚愕する。黒豹の名の通りその全身は漆黒に彩られた。

「もはや、出し惜しみはせん。全力を持ってお相手する」

「結構ね。あたしもそろそろ全力で行かせて貰おうかしら」

 サリナも足を肩幅まで広げて構える。

 って、もしかしてこの二人いままでのは前哨戦!?

「はぁぁぁぁぁ……!」

 静かに、しかし強大に、サリナは内から力を放出させているようだ。ストライドのを体内から来るとするなら、サリナの方は地の底から沸いてでも来るかのよう。いや!!

 ゴゴゴ…………!

 ゆ、ゆれてる!?床が!?

 魔力のようなものか、それとも風か。そうとしか形容しがたいものがサリナへと収束している。

「破っ!!」

 ドンッ!!

 空気がそれ自体、丸太か何かのようにあたし達に叩きつけられた! 為す術なく吹き飛ばされるあたしとナーガ。同時に屋敷の残った窓ガラス、塵芥が轟音を上げて吹き飛ばされる。

 これって、……格が違いすぎる!!

 壁へ叩きつけられるのは避けられたが、投げ出されたあたしは何とか身を起こす。

 声が、出なかった。

 サリナの髪が、金色に輝いていた。髪留めは外したのか千切飛んだのか知らないが、完全に常軌を逸した感覚を受ける。そしてその手に握られたスティックも変わっていた。その先端が開き、光が剣の形をかたどっている。しかもかなり長大な。

 その身にバチバチと稲妻を這わせ、その相貌はじっとストライドを見据えている。

「さぁ、来なさいよ」

 静かに、そう言い放つ。その台詞だけで、殺されそうだ。

 あの衝撃を耐えたストライドは、恐怖のあまり動けないように見えたが違う。ゆっくりと剣を腰だめに構えた。

「我が名はストライド。我、今この時に、我が人生の終着点を見つけたり。」

「……我が名はサリナ=ハイランド。我が剣を持って、その終着点を飾ろう」

 何を考えているのか、お互いに名乗りと口上を上げる。そして、サリナがその剣を上段に構える。

 そして、数時間にも感じる数秒間が流れ、ストライドの姿が掻き消えた!!

 閃光が、走った。

 

 

 気がついたら、あたしは屋敷の外にいた。サリナが連れ出したらしい。

 彼女は何も言わなかった。あたしも何も聞かなかった。ただ、例の領主の娘さんは助け出し、送り届けることは済ませた。

 その後、彼女はさようならの一言であたし達と別れた。ナーガもこのときは何も言わずに見送った。

 彼女はいったい何者なのだろうか。問いただすのは簡単だけど、そんな気分にはなれない。

 もう一つ。もし林の中に巨大な神像を目にしたら花の一つの添えて欲しい。

 それは名高き戦士の墓標。戦士として生き、戦士として死した一人のライカンスロープを称える物だから。

 

 

 ―To be continued―

 

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   後書きっぽいもの(笑)

 

 つーことで、スレイヤーズパロディシリーズ第一弾としてこれを出すわけですが、まぁ、テンションが高い高い。

 執筆も後半に入って私は、「SEB」のCDを購入しました。129弾まで出る驚異的なシリーズの120弾目です。まぁ、切が良いからと言う感じで買ったものですが、予想を裏切ってハイテンションにさせてくれます。

 おかげで後半部分は何を書いているのか分からないかもしれません。ハイテンションの音楽でも聴きながら読んでくれると嬉しいかも(謎)。

 では、次回作をお楽しみに。

 

 

2002/06/17