Fate/staynight



 Fate/Unlimited Create Works



 10:二月六日・夜〜


 side 士郎


 夕食が終わって、居間を出る。
 とかく今日はいろいろなことがありすぎた。

 まず慎二だ。夕食前、いきなり家にやって来て桜を連れ戻そうとしに来たのだ。
 遠坂とアーチャーは連れ立って出かけていたので、桜が応対に出たところが、アイツいきなり桜を殴りつけやがった。
 何の虫の居所が悪かったのか、桜を殴りつけた事に殺意さえ浮かんだのだが、

『やめて兄さん……!お願いだから、ここでだけはやめてください!!』

 桜の声で我に返っていた。
 桜の説得で慎二は引いたが、あのまま殴っていれば間違いなくライダーを出してきただろう。
 ……そんな真似をさせる訳に行かないし、桜は何も知らないほうがいい。
 それから、彼女も家に泊めることにした。間桐の家に返すのはためらわれるし、桜を危険から遠ざけておく事もできるはずだ。
 帰ってきた遠坂にそれを言ったら、

「ふぅん、そう。でも、それがどういう事か衛宮君は判ってるんでしょうね」

 分かっているつもりだ。聖杯戦争が始まる前からの桜もそうだが、今の桜はどうも不安定な感じがする。

「……アンタ、そのうち怪我じゃ済まない事になるわよ」

 アーチャーにさえそう言われた。分かってるさ、俺はただ桜を守りたいだけなんだって……、

「シロウ」
「えっ?」

 ふと目を上げると、セイバーが目の前に立っていた。

「ここにいたのですか。いいのですか?夜は凛に魔術を教わると言う約束だったはずですが」
「あ。すっかり忘れてた。さんきゅ、今すぐ行って来る!」

 別棟の2階に遠坂の部屋はある。桜の部屋は一階にした。同じ階にしなければ多少騒いでも声が漏れることは無いだろうと言う配慮だ。
 まぁ、遠坂の場合割り当てたと言うより占拠したに近いのだが。

「士郎?いいわよ、ちょっと今手が離せないから、勝手に入って」

 んで、部屋に入るなり、目に入ってきたのはおかしな事をやっている遠坂だった。
 血を注射器で吸い出すと、宝石へと垂らす。それを握ると魔力の光が起こったのであるが、

「……はあ。これだけやってもまだ3割か。やっぱり手持ちの九つだけでやって行かなくちゃダメみたいね」

 ブツブツいいながら、宝石箱らしき物に石を戻すのだが、こっちの頭にはハテナマークである。

「何やってたんだ?遠坂」
「え、これ?これは魔弾を作ってただけよ。余裕があるときに自分の魔力を他所に移しておくのよ」」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。その魔弾とか、魔力を移しておくってなんだよ」

 要するに、宝石に魔力を込めて、宝石そのものを“魔術”に仕立て上げるためのものらしい。

「……ようするに自分の魔力を宝石に込めてバックアップを取ってるって事か?」
「後方支援……?んー、近いけど違うって言うか、使い捨てのリュックサックの中身を詰めてるだけよ」
「じゃあ一時的にハードディスクを増設してるって事か。それなら魔術なんて使いたいほうだじゃないか」
「はーどですく……?アンタの言ってることはよく判らないけど、そこまで便利なものじゃないわよ。……」
「ちょっと失礼……」
「うおっ!?」

 いきなり遠坂の背後にアーチャーが姿を現した。
 いや、遠坂がいるんだからアーチャーもいるんだろうと思ってはいたのだが、いきなり出てこられるとさすがに驚く。

「マスター、今なんて言った?」
「は?便利なものじゃないって」
「はい、その二言前」
「……はーどですく?」
「そこ!“はーどですく”ってどこの前時代人間の発音よ」
「……何よ、なんと言おうが私の勝手でしょ?」
「ダメダメ!せめてカタカナ読みでいいから、ハードディスク。もっと言えば“Hard Disk Drive Unit”。
 磁気情報記憶装置、パソコンがOSを動かすために必要な容量を確保するためのいわゆる大脳新皮質!
 ありとあらゆる情報が記録と読み出しを繰り返され、馬車馬のごとく酷使された後、調子が悪くなってくればリカバリーで新品同様に!
 だが勘違いする無かれハードディスクは起動しっぱなし、回転させっぱなしの方が内部のディスクを傷つけないで済む事を。
 しかし、処分する際は強力な電磁処理をするか、さもなくば分解して内部ディスクを直接やすりで削らないと復旧ソフトで簡単にデータが戻るなんとも不便な 代物である。
 それならば、いっその事メモリそのものを擬似的にハードディスクにする基盤を買った方が経済的。ただ、最高で4ギガしか付かないくせに、通電してないと 一発でデータが消えると言うキワモノ。……まぁ、メモリなんだからしょうがない事だけど。
 買う面で重視すべきは回転数。5600rpmにするか7200rpmにするかで、処理速度に違いが……」

 いきなり壊れたラジカセ並みにくっちゃべりだしたんですが、どうすればいいんですか?

「遠坂」
「……なに?」
「アーチャーって、機械に詳しいのか?」
「さぁ、何言ってるか私にはさっぱり」

 どうやら、今まで片鱗すら見せていなかった様子。なんだろう、俺がハードディスクなんていう単語を出したからだろうか。

「そう、そうよ。マスターの家に何かが足りないと思ってたら、パソコンよ。光回線よ、フ○oツよ!
 あぁ、そうか。魔術師って総じて機械関係に疎いんだっけ。何でだろうなこのパターン」
「……そういや、土蔵にあったな古いの」

 うちもパソコンは置いてないし、使う事も無いので放り投げてあるが、確かに古いのが土蔵に転がっている。
 だが、遠坂がハッとなるのと、アーチャーがギラ付く視線をこっちに向けたのは同時だった。

「……パ・ソ・コ・ン・が・あ・る?」
「……あ、あはははははは」

 結局土蔵漁りをやらされ、質疑応答以外鍛錬どころではなくなってしまった。


 10時を過ぎたころである。

「いやー、ごめんね衛宮士郎。凛と鍛錬するばかりか、パソコン探しまでしてもらって」
「あぁ、まぁいいんだけどね」

 まぁ、確かにあると言ったのも俺だし、探すと言ったのも俺である。
 遠坂のガンドよりもアーチャーのよだれを垂らさんばかりの顔が怖かったのも事実。
 その結果がこの夜の探索における、サーヴァントの取替えっこになってしまった訳なのだが、

「しかし、シロウ。私は貴方の剣となると誓った身、そんな事の為に凛の護衛に付けというのは……」

 もちろん、セイバーには反対を食らった。だが、俺にとってセイバーの叱責より遠坂の無言の笑みが何よりも怖かったわけで、

「すまん、セイバー。今は遠坂に逆らう権利が無い。令呪を使ってでも言うことを聞いてもらわないと後で何をされるか……」
「…………何があったのですか。そこまで追い込まれるなんて」
「些細な事なんだ。ホント、ハイテクって俺には向いてないよ」
「―――??」

 そういう事で、今回の夜の見回りはアーチャーと、という事になってしまった。

「早々に暗いわね、アンタ」
「そりゃそうだろ。本来ならセイバーと歩いてるはずなのに、同年代の女の子と歩くってのはどうもな」
「何よ、気にいらないっての?」

 気に入らないわけじゃない。確かにアーチャーは相当な実力者だ。その辺の心配はしていない。
 ただ心配なのは、もし戦闘になった場合また暴走すんじゃないかと言う懸念だけだ。暴走し、人格が入れ替わり、今の彼女自身が消えてしまうんじゃないかと 言う懸念が。
 それに、最初バーサーカーと戦った時と柳洞寺、人格の交代していた時間が明らかに長い。人格が入れ替わる癖が付いてしまうと、本人はその制御ができなく なり、徐々に人格崩壊を起こしてしまう。
 そうなってしまうと、遠坂に顔向けができない。暴走しなくてすむような策が必要だろうか。

「それで、どこに向かうのですか?シロウ」
「あぁ……、そうだな。こっちはあらかた回ったから新都……え?」

 振り向いた。

「どうしました?私の顔に何か?」

 目の前にセイバーがいた。

「え!?な、何でセイバー?」

 俺は今までアーチャーと歩いていて、そもそも一瞬前まで確かにアーチャーは俺の横に……、

「プッ。騙されてやんの」

 頭が大混乱している俺に、目の前のセイバーはアーチャーの声でそう言った。

「はっ?」
「声色だけは、自分で変えないとダメね。まぁ、急場しのぎだからいいけど」

 ……もしもーし。どういう事?

「だって、アンタが気に入らないとか抜かすから姿だけでもセイバーに似せようかと……」

 言って一枚のカードを取り出すアーチャー。

「マジックカード、擬態“トランスフォーム”―― 対象一体の外見を他の対象に似せる。なお、真似られるのは姿のみ」

 それは、柳洞寺で“彼ら”が見せた、カードの中の一枚だった。

「要するに変装よ。でも、実際アンタについてるのはセイバーなんだからこの姿でいたほうが相手も騙しやすいでしょ」
「いや、でも……それって魔術なのか?」

 確かに姿を変える魔術はあるらしい。だが、アーチャーの外見どころか背格好までセイバーそのものになるのは相当に高度な魔術のはずだが、

「知らない。できたんだからそれでいいじゃない」

 遠坂が聞いたら怒鳴りだす理論展開であっさりと終わらせた。

「行くわよ。キャスターにしろ誰にしろ、私をセイバーと思ってる連中には初手からデザートイーグルを見舞ってやるんだから」

 セイバーなら絶対にしない満面の笑みを浮かべて、アーチャーは笑う。
 ……そういえば、セイバーがこんな風に笑うところって見たこと無かったような。

 バンッ!と背中をたたかれる。

「ほら、行くわよ。マスター?」
「あ、あぁ……」




 /// ///


 side 遠坂凛


 士郎がアーチャーと一緒に家を出た。

「凛、一体シロウに何を言ったのですか?」

 縁側でぼーっとしていたところにセイバーがやって来てそう言った。

「別に何も言ってないわよ。どっちかと言えばアーチャーが言ったんだけどね」
「アーチャーが?」
「アーチャーが喋って、士郎が合いの手を入れて墓穴を掘った。ま、私としては一時的でもセイバーが傍に居てくれるから僥倖だったけどね」
「やれやれ、シロウにも困ったものです」
「まぁ、アーチャーには言ってあるけどね。『戦闘になったら全力で守れ』って」
「――――」
「何よ、当然じゃない。それが、協力関係って物でしょ?」
「いえ、私からは何も。そうですね、任された以上は私も凛を全力で守りましょう」
「OK。それじゃ、出ましょうか」

 立ち上がり、装備の類を確認する。

「え、待機ではないのですか?」
「冗談。せっかくセイバーが守ってくれるって言ったのに、おとなしく待ってるような私じゃないわよ。
 できれば今夜中にキャスターを倒したい所だけど、柳洞寺は当てが外れたし。
 残りのライダーとランサー、アサシンがまだ残ってる。どう、戦える?」
「ランサーは正体を知っていますし、アサシンは一度剣を合わせました。
 この二人ならば、倒して見せましょう。ですが、ライダーは判りません」
「そうねぇ、士郎があったとか言うマスターの事を聞いておくべきだったわね。
 とにかく、出ましょう。そろそろ士郎達も離れた頃だろうし」

 衛宮家を後にする。階下では桜が寝ていたはずだが、起きてくる気配は無い。

「それに、便利な事もあるわよ。アーチャーと私達、両方でうろついてれば敵に遭遇した時に即座に連絡とって合流することも可能よ。
 アーチャーには報告も密にするように言ってあるし結構妙手かな、と」
「凛、それは後付の理由ではないのですか?」

 ギクッ。

「あははーー、まあいいじゃない。とにかく出発しましょ」

 そして、私は念願のセイバーと一緒に聖杯戦争を始めるべく街に出る。
 もっとも、セイバーはあくまで士郎のサーヴァント。私から何ができるわけじゃないし、もちろん宝具も使ってはくれないと思う。
 ……いい加減正体見せないかな、セイバー。



 /// ///


 side アーチャー


 セイバーに外見だけ似せて、私は衛宮士郎と街を歩く。人が居ないというだけで町はこれほどまでに静まり返るものなのだろうか。
 もっとも、昨今の昏睡事件からこっちこのあたりに人気などありはしない。
 月がかげり、風にあおられた雲が、白い月を朧にかくしている。
 で、新都を一時間ほど巡回した。新都のほうも人影がまばらで人気を感じない。見るからに呑み屋が少なく感じたのは私の気のせいなのだろうか。
 目に見える異常皆無、サーヴァントの気配も皆無だった。

「―――新都に異常は無し、か。これだけ無防備に歩き回ってれば何か反応があると思ったんだが」

 衛宮士郎はなにやら橋を渡りながらブツブツ言っている。
 確かに、我がマスターならもう少しうまく立ち回っただろう。そういう意味で、今夜のセイバーは運がいい。

「確かに、うちのマスターならある程度はうまくやったでしょ。けどま、やってることに無駄は無いわよ。こういうのは繰り返して何ぼだから」
「……まぁ、そうだといいんだけど。
 ていうか、セイバーの声色でそんな言い方されると混乱するんだが」
「それはあんたの都合。真似るなら真に迫る。武器もいいのがあれば良かったんだけどなぁ」

 カードの束を取り出して、見立てておいた数枚を見る。
 セイバーは西洋の剣士。だから、この鎧姿に日本刀なんぞ装備した日には偽者だとばれるに決まっている。
 だったら、手持ちの中から西洋剣を選ぶしかないのではあるが、残念なことに西洋剣は割高だった。
 ……なにせ、ホビーショップにあった5枚一組の正規品ではなく、開封済みでレアだけを除かれた1枚10円単位のくずカードから拾ったのがあの日本刀なの である。
 安く済むと思ったのだが、使った奴からすればなまくらだったらしい。……うーん、さすが10円。
 スペルカードその他も見繕ってきたのだが、さすがにパッとしないので100円やそこらのも何枚か買ってきた。
 無論、凛のポケットマネーから出たのは言うまでも無い。
 午後にホビーショップに繰り出し、凛にカードの事を聞かれ、色々と説明した。

 1:流通している市販品であること。
 2:宝具として使うなら、レア度が高いほど効果が高い。
 3:使えるのは武器、スペル・トラップカードのみ。モンスター系は不可能。

 他にも細々あるのだが、それはおいおい言うとしよう。
 それを聞いた凛が、しぶしぶ出資してくれたのだ。
 日本刀の他に、武器系統十数種、スペル・トラップ系十数種。
 その中で西洋剣に属するのは数種しかない。

 A:絶世剣デュランダル――言わずと知れたローランの剣である。魔力が尽きても切れ味を落とさないというなんとも便利な剣だが、このゲームは果たしてそ の効果すら継承してくれているのだろうか。
 B:地割大刀――鉄をこの形に削り出したのか、この形に押し固めたのか知らないが、とにかく無骨で巨大な大刀である。身幅30センチ強、刀身150セン チ強という重量級の剣。面白いことに効果が付属している。
 C:分子振動双剣――上記二つとは違うゲームのカードで魔力というより科学力の産物のようだ。切れぬ物無しなんていうコメントがあるが、デュランダルあ たりと打ち合ったらどうなるかは不明である。
 D:無光剣――見えない剣。……コメントだけ見ても何のことやらさっぱりである。長さも発動原理もさっぱりの代物だが、セイバーが使っている物に一番酷 似しているんではなかろうかと言う事で選んだものだ。

 後はもう名前で選んだ感が強い。村正、正宗、オーガの斧等レア系アンコモン系が1枚ずつ。……なんとも我がマスターのけち臭いことだろうか。


「深山町に戻ろう。新都がだめなら、次は地元を見て回ろう」
「そうですね。シロウの意気込みは買いますが、やはりはじめは足場の確認をしなければ」
「……やっぱり、違和感あるな」
「そこはもうアンタの勝手」

 そして、橋も中腹に差し掛かったとき、それは唐突に来た。

「――――!?」

 誰かの悲鳴が、悪寒と共に聞こえてきた。場所はすぐ下の公園。

「近い……!アーチャー、これ……!?」
「サーヴァントね、場所はすぐ下の公園よ」

 私が足を踏み出す横で、衛宮士郎は固まったように動かない。

「マスター、指示を。何がおきたか判りませんが、敵はすぐ近くに居る。貴方の指示しだいでは、悲鳴を上げた人間を助けることもできるはずです」

 あえて、セイバーの口調で言った。

「―――――」

 それが効いたのか、硬直していた体がぎこちなく動き始めていた。
 どうせこいつの事だ。何のかんの言ってこっちから攻めるという事を考慮に入れなかったんだろう。
 守りの戦いをする者ほど攻めの策を立てなければいけないというのに。

「すまん、セ、アーチャー……!」
「今はセイバーと呼びなさい。敵サーヴァントに気取られると面倒よ」

 衛宮士郎が全力で走り出す。
 さて、相手が誰か判らないが、とりあえず連絡はしておかなければなるまい。



 −To Be Continued−

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アーチャーステータス
 
クラス:アーチャー
真名:(現在記憶喪失)
性別:女性
身長・体重:165cm・56キロ
属性:混沌・善
 
筋力:B  魔力C
耐久:C  幸運:B
敏捷:B  宝具:??
 
クラス別能力:
対魔力D:一工程による魔術行使を無効化。魔除けのアミュレット程度。
単独行動B:マスター無しでも存在できる能力。2日程度。
 
詳細:
 現在のところ不明。記憶喪失によるところが大きい。銃に関した技を使用する。
 
保有スキル:
 戦闘続行B:瀕死状態でも戦闘ができる能力。
 直感B:未来予知はできないが、行動予測という点での“読み”。
 心眼(偽)C:記憶の中で眠っている感覚の読み出し、行動予測。
 狂化D:理性を断ち、筋力、敏捷、耐久をワンランクアップする。気絶する事により、解除される。
 ラーニングC:戦った相手の技術を記憶する。Cランクなら物理的な剣術、体術等。
 ものまねC:ラーニングで習得した技術を再現する。Cならば体術までを再現可能。
 ガンブレッドCQB(Close Quarters Battle)
        宝具ではないが、彼女が使用する銃に似た近接戦闘。
        腕の筋肉に瞬時に力を送り込み、火薬のように爆発させ、拳圧で最大5メートルの距離にいる敵を殴りつける。
        無音、無動作による攻撃を可能とする。ただし、一発の攻撃力は9mm銃弾程度。
2006/01/09