Fate/staynight



 Fate/Unlimited Create Works



 11:二月六日・深夜


 side アーチャー


 公園に駆け込む。
 もれている魔力は強大、さらにこの上なく不吉。
 そして、目に入ってきた――ソレ。

「な―――」

 衛宮士郎が固まる。私だってそうだ。
 胸に上がってくるのは嫌悪感と不快感。常人なら直視できない光景だろう。
 行われているのは、吸血。サーヴァントによる魔力の補充という行為。
 キャスターは精神エネルギーを吸い取っていたかもしれないが、このサーヴァント、ライダーはどうやら直接摂取がお好みらしい。
 だが、私がそれ見ている横で、衛宮士郎はその奥に立っている人影を見ていた。

「―――へえ。誰かと思えば衛宮じゃないか。凄いな、お前の間の悪さもここまで来ると長所だね」
「慎二、おまえ―――」
「どうした、何固まってるんだ衛宮。サーヴァントの気配をかぎつけてやって来たんだろ?ならもっとシャンとしろよ。一応さ、馬鹿なお前にもわかりやすいよ うに演出してやったんだぜ?」

 目の前で行われている事などどこ吹く風と、間桐慎二はこちらを見据えている。

「―――殺したのか、お前」
「はあ?殺したのかって馬鹿だねおまえ!サーヴァントの餌は人間だろ。なら結果はひとつじゃないか」

 学校での襲撃を事故と言い切ったこいつは、この場で本性を見せていた。
 確かに奴は、事故だといった。うまく抑えて置けないとも言った。襲撃を続けていたら、我がマスターに気づかれるとも言った。

 ―――だが、魔力摂取のために人を襲わないとは言っていない。

「とんだ、狸ね」
「―――どけ」

 ライダーに向かって彼は言っていた。確かに、気絶しただけの女性だ。多少なれば吸血されても教会に連れ込めば救済の道は残っているだろう。

「どけってなにさ。それ、もしかして僕に言ってるのかい衛宮?
 は、お断りだね。食い残しが欲しいんなら手を出せよ。それはお前の使い魔だろ?」
「―――慎二」
ほら、なら戦わせてみようぜ衛宮。僕はサーヴァント同士の戦いが見たくて人を呼んだんだ。おまえだってマスターだろ?なのにぶるぶる震えてさ、そんなん じゃそこの女と変わらない」
「退く気は無いんだな、慎二」
「しつこいよ。退かせたければ力ずくでやってみな。もっとも震えてる分には構わないぜ?どの道、おまえにはここで痛い目にあってもらうんだからね」

 マスターに灯る敵意の光。それに反応したかライダーが動き出した。

「―――出ます!シロウは後ろに!」

 カードを掴む。選んだ武器は地割大刀。
 ライダーの視線は隠れて見えないが、困惑しているのがわかる。何せ衛宮士郎のサーヴァントはセイバーではなく、私だと思っているからだ。
 それが、何故セイバーを連れているのか。
 だが、それも数瞬のみ。“倒すべき敵”という認識以外を排除し、その短剣を突き出してくる。

「発動。―――地割大刀」

 突如、出現した長大な大剣がその杭を弾き飛ばした。

「―――!!」

 切り返しての第二撃は避けられた。ヒットアンドアウェイの典型と評したが事実その通りだった様である。類稀な敏捷を生かし、外に内に短剣を突き出し、打 ち出してくる。
 だが、そんな物はすべて地割大刀が弾き飛ばした。さすがに一枚10円のなまくらよりは使える。
 にしても面倒だ。武器はこいつで弾き飛ばせるが、斬るとなるとライダーの敏捷に着いていけるか判らない。
 それに何時までもこいつを振り回すのも疲れる。

「は、なんだ、ただの木偶の坊じゃないか!マスターが三流ならサーヴァントも三流だったな!」

 ……ンだとゴルァ!!

 振り回していた大剣をピタリととめる。

「破ッ!!」

 力の限り石畳に叩きつける。
 途端、


 ゴッ!!


 地割大刀は、その名のとおり石畳ごと大地をぶち割っていた。



 /// ///

 side 衛宮士郎


 最初にアーチャーが巨大な大剣を出してから数撃。
 驚きなのは、最初の一撃からまったく刃が止まっていないということだった。
 文字通り止まっていない。振りぬいてから第二撃が同じ方向からの斬撃。
 ようするに、あのデカい大剣を振り回し続けているのだ。
 バトントワリングじゃあるまいし、1メートルをゆうに超える代物を扇風機のようにぶん回している。しかも片手で。
 それで、ライダーの短剣を弾き飛ばし続けている。
 ……確かにセイバーが言った事も頷ける。アーチャーは決して強いわけじゃない。巧いのだ。
 ライダーの敏捷から繰り出される短剣は背後から飛んできたりもする。それを、踊るような動きで弾きまた元に戻る。それの繰り返し。
 あの大剣じゃライダーを両断なんかできない。あの剣を振ろうと思えば、それこそ大きく隙ができる。
 アーチャーが狙ってるのは、そんな直接的なことじゃない。動きを止められる隙を伺ってる。

「は、なんだ、ただの木偶の坊じゃないか!マスターが三流ならサーヴァントも三流だったな!」

 慎二がそう声を上げた。
 その瞬間、振り回していた大剣の動きがピタリと止まる。
 ……たぶん、怒ったんだろう。

「破ッ!!」

 大剣をを勢いよく地面に叩き付けた。
 途端、


 ゴッ!!


 石畳ごと、地面が陥没、隆起した。

「なっ!」

 しかも、ライダーや俺達も巻き込んだ範囲を巻き込んでだ。
 さすがのライダーも足をとられ、

「取った―――!」

 拳を引いたアーチャーの後ろから迫る鎖が見えた。

「後ろだ!」
「―――!?」

 叫んだときにはもう遅い。おそらく陥没する直前に放ったであろう短剣はアーチャーの視界を大きく迂回し、背後から絡みついた。

「な、しまった!」

 バランスを崩したと思っていたライダーも、即座に足場を確保し、鎖を巻き上げる。

「ちょ……うわっ!?」

 その先は、一体どんな冗談なのだろうか。絡め取ったアーチャーを今度はライダーがぶん回し始めた。
 隆起した土塊に一撃、引き上げ遠心力をつけてさらに一撃、

「いいよ、かまわないから決めちゃえライダー!
 爺さんの言いつけは守ったんだ、衛宮のサーヴァントを始末するくらい不可抗力さ」

 慎二の声を受けて、ライダーはさらに力を込める。鎖一杯の遠心力を使って、ぶん回したアーチャーを川に叩き込んだ。
 そうして、あっさりとアーチャーはライダーに敗北を喫した。
 鎖を回収し、崩れた足場をものともせずこっちに向かってくるライダー。

「いいぞライダー、かまうことぁない。みっちり痛い目にあわせてやれ」

 高笑いを上げながらそう命じる慎二。
 だが、

「彼女はどうしたのですか?」

 戦いの最中だというのに、彼女はそう言った。

「貴方の事だ、サーヴァントを乗り換えたという事も無いでしょう」
「――――」
「そうでしょうね。そんな理由など私にはどうでもいいことだ」

 そう言って、ライダーは短剣を振りかぶった。



 /// ///

 side セイバー


 アーチャー達が敵に遭遇していた時、私たちは柳洞寺にいた。

「確かに、これはすさまじいわね」

 柳洞寺の気配は一変していた。キャスターが居た時からの5割り増しといって良いだろうか。
 門に踏み込んでいないというのに、漂ってくる魔力の陰湿さは魔界のそれか。

「これじゃ、キャスターの方がなんぼかましだったじゃない。……と、アーチャー?」

 アーチャーから連絡が来たようだ。

「……OK、すぐ向かう」
「敵ですか?」
「こっち側の大橋の下の公園。構わず先に行って」
「判りました。では……」

 凛を後に残し、私は足を踏み出す。
 彼女ならば問題は無いだろう。
 全力で路地を駆ける。
 交差点を抜け、住宅街を抜け、目的の場所に数分と掛からず到達する。
 
 戦闘の行われていた場所はすぐに判った。明らかに公園の一部の様子がおかしい。
 そして、

 バシャァァァン!!

 川の水面に叩き込まれる何者かの姿。

「アーチャー……!?くっ」

 疾る。サーヴァントは鎖を回収し、士郎に向かって振り上げ、

「シロウ、伏せて!!」

「―――!!」
「―――っ!?」

 駆ける勢いをそのままに横一線に斬りつけ、伏せたシロウの頭上を見えない斬撃が行き過ぎる。
 だが、敵もさるもの声をかける前からこちらに気づいたのか、飛びのく速度は風のそれだった。
 いびつに歪んだ地面を踏みしめ、大地に突き立つ剣を境にマスターの前に立つ。

「シロウ、無事でしたか」
「セ、イバーか。……すまない、アーチャーが」

 敵サーヴァントを見据える。
 マスターの運の悪さも人並み外れていると言わねばなるまいが、それに間に合う私の運は竜の加護か神のいたずらか……。

「ライダー、ですか」
「あぁ。アーチャーが善戦してたんだけど、川に叩き込まれた」
「そちらは後回しに、今はサーヴァントを」

 ライダーを見据える。

「チッ、意外にしぶといな。ライダーとっとと片付けちゃいなよ」

 敵マスターがそう言っている。だが、ライダーの方は、怪訝な表情だ。
 まるで信じられない物を見ているといった感じ。
 ならば、その隙を――戴く!

 踏み込み、剣を振るう。

「―――くっ!」

 下がり、動き回る。敏捷さはかなりの物だ。この足場の悪い状況で疾風のように動き回る。
 だがそんな物は、

 ドッ!!

 彼我のリーチの差を見極めず、私の間合いに入ってくる敵を迎撃する。
 そんな事は、私にはつまらない児戯でしかない。

「…………え?」

 斬りかかって来た所を一撃で両断されたライダーを前に、敵マスターが呆然としている。
 実につまらない。いや、実際ライダーは強かったのだろうが、どこか力を出し切れていないようでもある。
 ……アーチャーが手玉に取られたのだから、どれほどの者と思っていたのだが。

「な―――なんだよ、何やってんだよおまえ……!」

 腹を裂き、出血するライダーに近づく事も無く敵マスターは叫ぶ。

「この、さっさとたって戦え死人……!どうせ生きてないんだ、傷なんてどうでもいいんだろう!?
 恥かかせやがって、これじゃ僕のほうが弱いみたいじゃないか!」

 ……どうも、このマスターは自身の弱さを他人に押し付ける類か。

「ライダーを責める前に自身を責めるがいい。いかに優れた英霊であろうと、主に恵まれなければ真価を発揮できないのだからな」
「っ……!早く立てって言ってるだろう!マスターを守るのがお前たちの役割なんだ、勝てないんなら体を張って食い止めろよな!」
「無駄だ。令呪を使ったところで貴様にライダーは治せない。死に掛けのライダーを令呪で酷使したところで、私を防ぐ盾にもなるまい。
 ここまでだ。ライダーのマスター。
 我が主の言葉に従い、訊きたくは無いが降伏の意思を訊ねる。令呪を放棄し、敗北を認めるか」

 だが、一向に聞き入れる気配は無く、依然としてライダーを戦わせようとする。
 私に受けた傷と令呪の縛りが体を苛み、急速に衰弱して行っているのを判っていない筈は無いのだが。
 我慢できずに、手を伸ばす。どうやら彼の令呪はあの本のようだ。それさえ奪えば、

「ひ―――!立て、動けライダー……!どうせ死ぬんならこいつを道連れにして消えやがれ……!」

 ヒステリックな命令にライダーが反応する。死を前提とした命令にライダーが動きだし……、

「そこまでだ。どうやらおまえでは宝の持ち腐れだったようじゃな、慎二」

 しわがれた、老人の声が割って入ってきた。
 同時に彼の持つ本が炎を上げた。やがて、本が燃え尽きるとライダーも消える。……霊体に戻り自己修復に入ったのか、間に合わなかったのか。
 だが、それよりも。この老人に、私は嫌な物を感じていた。


 /// ///

 side 遠坂凛


 私が追いついたのはちょうどどっかの老人が姿を現したときだった。
 さすがに、軽量の魔術を使ってもセイバーの足に並べるわけもないか。
 で、これは一体どういう状況か。
 どうして、慎二がここに居る?サーヴァントはどうやら倒されたようだが、どうして。
 間桐の家が魔術の家系だったと言う事は知っている。だが彼の家系は先代で枯渇し、すでに魔術師の系譜から消えたはずなのだが。
 それにあの老人は一体。

「衛宮君……!」
「遠坂……、すまない。アーチャーなら川の中に」
「それより、何だって慎二が……」

 こっちに気づいた老人が声を上げた。

「これはこれは、遠坂の娘か。お初にお目にかかる。わしは間桐臓硯。不詳の肉親が世話になったところよ」
「……遠坂」

 慎二も信じられない物を見たような目をして私を見据える。

「で、衛宮君、これってどういう状況?」
「ライダーは倒した。で、慎二がそのマスターだった」
「そういうことじゃないわよ。どうして、慎二がマスターだって事をあの時に言わなかったのよ!」
「いや……その」
「まぁ、いいわ。そっちの老人に聞いたほうが早いだろうし」

 この老人を見る。……どこからとも無く肉の腐ったにおいがするのは気のせいだろうか。

「カカ、まっこと今宵は因果な夜よ」

 と、老人が慎二をのけて私達の前に立つ。

「そら、早々に立ち去れい。契約の書も燃え、マスターでなくなったのだ。ここを生き延びればこやつらもお主を襲うまい。父親同様、無意味な余生を送るが良 い」
「っ―――――」

 それがどんなきっかけになったのか、彼はこっちを睨み付けると、狂ったように走り去っていった。

「ほ、みすみす見逃したか。……なるほどなるほど。あのような小物、手にかけたところで剣が汚れるだけの話であったな」
「それより、教えて欲しいんだけど。……なんで、慎二がマスターなんかになってるのか」
「ほ、何を訊ねるかと思えば。そのような事、答えるまでも無い。慎二をマスターに選んだのはワシだ。見てのとおり現役から退いて久しいのでな。
 戦えぬワシは、孫に檜舞台を譲ったというわけだ」

 そこで思い至った。サーヴァンとト契約するのに魔術刻印は必要ない。最たる例が隣に居るじゃないか。

「……そうか、魔術刻印は消えても魔道書は残る。それを使って……いや、でも」
「察しがよいのぉ、さすがは遠坂の小娘。して、この場をどう収めるか……」
「衛宮君、逃がさないで。コイツにはまだまだ訊きたい事があるわ」
「あぁ……俺もそう思ってた。セイバー、頼む」
「駄目ですシロウ。こやつは人間ではない。取り押さえるなど持っての他だ」

 どうやら、セイバーはこの老人に別の何かを感じている。……事実それは当たりだと思うのだが。

「ふむ。隠しておきたかったが仕方あるまい。ワシとてセイバーを敵に回しては生き残れんからのう」

 カツンと手に持った杖で無事だった石畳を叩く。
 その瞬間、信じられない奴が老人を守るように出現する。

 それは、柳洞寺でアーチャーに痛い目を見せられたはずのキャスターと、士郎の家以降姿を見せていなかったランサーだった。



 −To Be Continued−

*************************

アーチャーステータス
 
クラス:アーチャー
真名:(現在記憶喪失)
性別:女性
身長・体重:165cm・56キロ
属性:混沌・善
 
筋力:B  魔力C
耐久:C  幸運:B
敏捷:B  宝具:??
 
クラス別能力:
対魔力D:一工程による魔術行使を無効化。魔除けのアミュレット程度。
単独行動B:マスター無しでも存在できる能力。2日程度。
 
詳細:
 現在のところ不明。記憶喪失によるところが大きい。銃に関した技を使用する。
 
保有スキル:
 戦闘続行B:瀕死状態でも戦闘ができる能力。
 直感B:未来予知はできないが、行動予測という点での“読み”。
 心眼(偽)C:記憶の中で眠っている感覚の読み出し、行動予測。
 狂化D:理性を断ち、筋力、敏捷、耐久をワンランクアップする。気絶する事により、解除される。
 ラーニングC:戦った相手の技術を記憶する。Cランクなら物理的な剣術、体術等。
 ものまねC:ラーニングで習得した技術を再現する。Cならば体術までを再現可能。
 ガンブレッドCQB(Close Quarters Battle)
        宝具ではないが、彼女が使用する銃に似た近接戦闘。
        腕の筋肉に瞬時に力を送り込み、火薬のように爆発させ、拳圧で最大5メートルの距離にいる敵を殴りつける。
        無音、無動作による攻撃を可能とする。ただし、一発の攻撃力は9mm銃弾程度。
2006/01/17