Fate/staynight
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12:二月六日・深夜
side 衛宮士郎
「キャスターにランサー……!?」
目の前にいるものが信じられない。だってそうだろう、キャスターはアーチャーに痛い目を見せられ、ランサーは俺を襲いセイバーに撃退された後は全く姿を
見せていなかったというのに。
「くそ……まさかキャスターのマスターって……」
「シロウ、下がって。あれはキャスターでもランサーでもない。外装や能力はそのままですが、意思である魂を感じない。
アレは、死骸を別の物で補っただけの模造品です」
セイバーが前に出て、不可視の剣を握った。
「ほう、さすがセイバー。一目でわしのカラクリを見抜くとは。いやはや、これでは慎二ごときのライダーが敵わぬのも道理よ。先ほどの成り損ないすらお主の
相手ではないのだろうな」
「成り損ない?」
「口上はそれだけか。敵同士とはいえキャスターもランサーも英霊に選ばれるだけの英雄。その亡骸を持て遊ぶからには相応の覚悟があるのだろうな」
「さて、ワシは弱った物を利用させてもらっただけよ。それを外道というのならば構わぬがセイバー、それではお主の行く末は畜生にも劣ってしまうぞ?何しろ
その身は最高のサーヴァント。ならば―――このような死骸より、おぬしを奴隷にするが最良じゃ。その体、生きたまま我が蟲どもに食わせ、そこな死骸と同じ
命運を辿らせよう」
「貴様」
「カカカ何を憤る!所詮サーヴァントなど主の道具、どのように使役するかなど問題ではあるまい!令呪で縛られるも死骸となって使われるも同じ、ならば心無
い人形と化すのがうぬらの為であろう!」
セイバーが地を蹴った。それをランサーが迎え撃つ。
お互いの武器が打ち合い、あの夜の再現が始まる。だが、現状はセイバーに不利だ。死骸となってもランサーはランサー。それに、
「くっ……!」
ランサーの攻撃の速度はあの夜の比じゃなくなっている。おそらく、それは後ろのキャスターのせいだろう。
ランサーに強化の魔術でも使っているのか、そのローブの下から何かを取り出し、
「―――! セイバー、避けろ!」
「!?」
二人の乱撃に真っ向から飛び込んだキャスターは、手に持った短剣をセイバーに振っていた。
しかし、すんでで避ける。そして、キャスターから距離をとろうと動く。
「衛宮君、あの短剣……」
「セイバー、その短剣には触れるな!それは魔術破りだ、マスターとサーヴァントの契約すら絶つかも知れない!」
「……くっ!」
それを聞いて、セイバーがキャスターの振るう短剣を意識して避け始める。
だが、それは不利になっただけだ。死骸になったことで恐怖心すら消えているのか、キャスターは乱撃を無視して短剣を振るう。切り伏せようにもランサーを
無視すれば、その槍がセイバーの心臓に突き刺さる。
遠坂も魔術で援護しようとしているようだが、狙いが付けられない。それにセイバーはともかく、キャスターもランサーも対魔力はそれなりのものだ。
不利過ぎる。あのまま、続けばセイバーが油断した瞬間勝負が決まる。
バシャバシャと、水しぶきを上げながら三人はまるで踊るように戦っている。
――――バシャバシャ?
「ちょ、ちょっと、何コレ!」
遠坂が足元を見て驚いている。水だ、川の水がこの公園、くるぶし辺りまで上がってきている。
だが、おかしい。いくら石畳ごとぶち割ったからといって、川の堤防までひびがいったとは思えな……、
「あ……」
思わずアホみたいな声を上げてしまった。
「どうしたの……?」
俺の視線の先、3人の乱戦の向こうに眼をやった遠坂も、
「え……?」
俺達が目をやった先、一体いつの間に水位が上がったのか、こっちに漏れ出すまでに水位の上がった川の上に、もう一人……セイバーが立っていた。
「そんな……セイバーが二人!?」
「違う、アーチャーが魔術で見た目を変えてるだけだ」
それに……こりゃあ、
アーチャーが水面を蹴る。小さな波紋だけを上げ、滑る様に水面を駆けるアーチャー。
そのまま戦い続ける3人へと乱入し、
ザン!!
いつの間にか手にした水の刃でキャスターを両断した。
「なっ……!」
「なんじゃと!?」
セイバーと臓硯すら声をあげ、この闖入者を見る。
だが、その一瞬の隙を逃さずランサーの槍が疾り、漏れ出した水から突き出した数多の水の槍に自分が貫かれていた。
「―――くっ!」
今度こそ、セイバーはランサーに止めを刺す。そして……、
「………………」
呆然と出現したもう一人の自分を見た。
「あなたは……」
「セイバー、魔術師が逃げます。追わないのですか?」
艶っぽい女性の声でアーチャーが言った。
ふと目をやれば臓硯はすでに逃走を始めていた。
「くっ……!」
セイバーが足を踏み出す。
と、セイバーが肉薄する前に、
「そこまでだ」
「ぬっ―――!」
予想していなかった乱入者に両断されていた。
「ぬ、う……貴様」
現れたのは柳洞寺にいたはずのアサシンだった。キャスターに使役され、門の警備をしていたはずのアサシンが何故?
「終わりだ、魔術師。過去からの経験でな、お前のような妖物は早めに処理することにしている」
腰から下を失い、血と内臓とそれ以外の何かを撒き散らしながらもまだ生きているソレに向かい、アサシンは短剣を振り上げ、
―――停止した。
アサシンだけじゃない。その場にいた全員が、新たなソレの存在を感じて停止した。
さっきまでも、一所に一時的にでもサーヴァント6人と言う異常事態だったというのに、そんな空気まで侵食してそれは形を成していた。
湿っていた空気が凍りつく。
何かよくないものが近くに居る。
逃げなくてはいけない。だが、逃げられない。逃げることなど無駄だと本能が告げている。
震える体を公園の入り口に向ける。
―――そこに。
“影”は立っていた。
それは見たことも無い何か、影そのものでありながら、この場を絶対的に支配するもの。
知性も理性も無く、恐らく生物でさえありえないソレはじっとそこに立ち続ける。
…………そして何故か、それを懐かしいとさえ思った自分がいた。
「ありえぬ、あり得ぬ、あり得ぬわ……!」
悲鳴を上げながら、死に体の老人はアサシンの剣から逃れて公園から離脱する。
死に行く体に鞭をうち、あいつは逃走した。
「―――――」
誰も動けない。俺も遠坂も、セイバー、アーチャー、何故ここに来たのか判らないアサシンまで。
俺達は戦慄から、セイバー達は魅入られたように、
何もかも静止した世界でただ時間だけが時を刻み、
初めて、ソレが意思らしきものを見せた。
目も手も足すらないのに、ソレの足元からは影が伸びている。
「あ――――」
ゴォゥ!!
その途端、豪速でそれに吹っ飛んでいくものがある。アーチャーが使っていた大剣だ。
だが、そんな物はソレの表面に触れただけで砕け散る。
「ウオォォゥ!!」
獣のごとき咆哮。途端、上がってきた水がまるで意思を持ったかのように幾条もの槍をなし、襲い掛かる。
だが効いてない。キャスターが障壁を張っているかのように、表面を貫くことも出来ずに霧散する。
そして、そんな狂ったような波状攻撃など感じていないかのように、影の切っ先は遠坂に向く。
遠坂は気付いてない。影の異変に気付いていない。
「と……」
影が伸びる。水の槍その全てを弾き飛ばして、影は一瞬で数十メートルを覆い尽くす。
「―――おさか、危ない…………!!!!」
夢中で遠坂を突き飛ばしていた。
/// ///
side 凛
なんでそれがここにいるか解らない。
何でソレがここに存在できるか解らない。
不吉そのものが顕現したかのような圧倒的な存在感と希薄さが混ざり合ったモノ。
私にはソレしか解らない。大体急すぎる。こんなものがいたのなら柳洞寺からこっち500メートル離れていたって感知できる。
大剣の投擲を砕き去り、水の槍をその身に受けてまったくの無傷どころか、意に返してさえいない。
「……こんなのって」
「――遠坂、危ない!!!!!」
いきなり、士郎の声が響く。そこで気づく。こっちに向かってくる影に。
その直後に突き飛ばされていた。
「――衛宮君!?」
次の瞬間、まるで水が掛かるかのように影が士郎の全身を覆いつくす。
……だが、覆い尽くしたと思ったらその直後に影が霧散した。
無効化した!?いや、違う。自分から切り離したんだ。
士郎はその場に虚ろな目で倒れた。
視線を戻すと、アイツは……闇の中へ消えていった。
「衛宮君!?大丈夫?しっかりして!私が判る!?」
「……あぁ。……大丈夫、こんな時に平手打ちするのは遠坂ぐらいだ」
「……。よかった、意識ははっきりしてるようね」
「……すまん、心配掛けた」
意識と声ははっきりしている。だが、目はまだ虚ろなままだ。こりゃ、意地だな。
「だったら、こんなことは二度としないで。借りを返す相手が死んだら元も子もないんだから」
「あの、変なのは?」
「消えたわ。……何かに覆われたと思ったら、衛宮君が倒れて。あいつ自身は向こうから来たみたいだけど」
「……それで、俺ってどのくらい倒れてた?」
「えっ?貴方があれに覆われてから10秒も経ってないわよ。その証拠にほら」
「―――シロウ!!!」
大声でセイバーが駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!?シロウ!!」
「とりあえず、大丈夫。長い間気絶してたような感じはするけど」
「何を考えているんですか!あんな物に自分から飛び込むなんて……!」
「いや、だって遠坂が……」
「セイバーさん、あまり自分の主をいじめるものではありませんよ」
歩み寄ってきたのはアーチャーだ。魔術で外見を変えたって言ってたけど、今はいつものアーチャーの姿に戻っている。
「アーチャー……?では、さっきのは」
「えぇ、私です。それより、ちょっとよろしいですか?」
そう言って、士郎の傍らにしゃがみ彼の額に手を当てる。
……なんか、口調がやたら丁寧になってない??
と、
「ふん、助かったか」
響いた声に、セイバーが反応する。
白髪に赤い外套の男。アサシンがこっちに近づいていた。
「アサシン、貴様何用だ」
「剣を収めろセイバー。やる気などすでになくなった」
どこにしまったのか、彼が振っていた双剣はどこかに消えている。
「お前のマスターなら大丈夫だ。本体に触れたわけでなし、影なら“瘧”を移された程度だろう」
「……何?」
「そのようです」
今度はアーチャーが言った。額に当てていた手を離し、立ち上がる。
「魔力の残滓はありません。発熱と、微弱な脳波の乱れ。質の悪い風邪を引かされた程度です。心配はありません。
それに、その男性に敵意はなさそうです。剣を収めなさいセイバー」
数秒の沈黙。
「セイバー」
「……判りました」
士郎の一言でセイバーが剣をしまった。
「しかし、面倒な事に巻き込まれたな」
「アサシン、あなたあの影を知ってるの?」
どうも、さっきからの口ぶりからこのアサシンはあの影を知っている。
マスターであるキャスターが消滅した今、この男は消えるだけの運命なのだが。
「そうだな。嫌と言うほど知っている。全く、どこに呼ばれようとやる事に変わりが無いとは……」
「だが、あれはマスターでもサーヴァントですらない。あれは一体なんだというのですか?」
「そうか、お前はまだ守護者ではなかったな。……はっきり言えば、関わりたくない物だ」
セイバーの問いにやる気なしという感じで、アサシンが答える。
「これではっきりしたな。マスター亡き後に魔力を摂取していていたのはあの影だ。
……だがまぁ、そう悲観したものでもないか。まだできる事は多い。事が起こる前に芽を摘み取れるか、後始末に留まるかは判らんがな」
どうにもこいつの言っていることは要領を得ない。ただ、自分の経験してきた事への愚痴ばかりだ。
……よし。
「セイバー、士郎を連れて先に帰って」
「はぁ。しかし、凛は?」
「ちょっとね。この男と話があるわ」
―――そして、セイバーと士郎が公園から出て行った。
「……………………」
「――――――――」
馬鹿正直にアサシンはこの場に残っていた。
「いい加減口を開いて貰わんと困るぞ。こっちもいつまでもここにいられる身ではないんでな」
そうアサシンは言い放った。
「アサシン、貴方、聖杯に何を望んでるの?」
とりあえず、軽いジャブから入る。
「……さてな、取り立てて何も無い。それに、私の願いは聖杯などで叶える物ではないのでね」
「――! そんなはずは無いでしょう?サーヴァントは何か望みがあって召喚に答えるのよ。目的も無く応じたわけでもないでしょう?」
「……勘違いをするな。サーヴァントは呼ばれる者だ。望みがあろうと無かろうと、呼ばれる場所には呼ばれる。
そういう意味で、ランサーなど戦いが望みのように見えたがね」
「話をすり替えないでくれる。聞いてるのは貴方の望みよ?」
「……そうだな。では、“恒久的な世界平和”というのはどうだ?」
「……はぁ?」
……アサシンの望みが、“恒久的な世界平和”??
「ぷっ、……あははははは!何よソレ」
やばい、さすがに予想外だった。だが、アサシンは予想通りといわんばかりの表情で言った。
「やはり笑われたか。言っただろう、こんな願いだから聖杯などでは叶えられないと」
「ふぅん、面白いわね。貴方」
「聞きたい事はそれだけか?だったら、今度はこっちの番だな」
離れていた間合いを、無造作に近づけてくる。
だが、その前にスッとアーチャーが踏み出す。
―――やる気?
と、思ったらアサシンは足を止めて言った。
「物は相談だ、アーチャーのマスター。どうだ、優秀な斥候を雇う気は無いか?」
私にとっては、ソレこそ想定外だった。
−To Be
Continued−
*************************
アーチャーステータス
クラス:アーチャー
真名:(現在記憶喪失)
性別:女性
身長・体重:165cm・56キロ
属性:混沌・善
筋力:B 魔力C
耐久:C 幸運:B
敏捷:B 宝具:??
クラス別能力:
対魔力D:一工程による魔術行使を無効化。魔除けのアミュレット程度。
単独行動B:マスター無しでも存在できる能力。2日程度。
詳細:
現在のところ不明。記憶喪失によるところが大きい。銃に関した技を使用する。
保有スキル:
戦闘続行B:瀕死状態でも戦闘ができる能力。
直感B:未来予知はできないが、行動予測という点での“読み”。
心眼(偽)C:記憶の中で眠っている感覚の読み出し、行動予測。
狂化D:理性を断ち、筋力、敏捷、耐久をワンランクアップする。気絶する事により、解除される。
ラーニングC:戦った相手の技術を記憶する。Cランクなら物理的な剣術、体術等。
ものまねC:ラーニングで習得した技術を再現する。Cならば体術までを再現可能。
ガンブレッドCQB(Close Quarters Battle)
宝具ではないが、彼女が使用する銃に似た近接戦闘。
腕の筋肉に瞬時に力を送り込み、火薬のように爆発させ、拳圧で最大5メートルの距離にいる敵を殴りつける。
無音、無動作による攻撃を可能とする。ただし、一発の攻撃力は9mm銃弾程度。
2006/2/1