Fate/Stay night

 

 

  Fate/ Unlimited Create Works

 

  ▽Intrude

 

 

 暗い……

 

 一寸先も見えない暗闇。

 しかし、そこは無限にも広がる場所。

 

 私は……、何だってここに?

 四肢の感覚はある。意識もしっかりしている。

 あぁ、そっか。目を閉じてるから暗いのか。

 目を開く。やはり暗い、しかし遠くにかすかな光が無数に瞬いている。……宇宙??

 

『……友よ』

 

 声がどこからとも無く響いてくる。

 

 ―――誰?

 

『……友よ……我等を呼べ』

 

 ―――知らない、誰?

 

 声はひたすらそれを繰り返す。

 言われたって分かるわけが無い。記憶は混濁したまま、呼ばれる前の記憶はあいまい。

 故に、誰か知り合いだったとしても今は分からない。

 

 ―――だから!誰よあんた!!

 

 意識の中で怒鳴る。

 

『・・・・・・・・・・』

 

 声が沈黙する。

 気配が去っていく。諦めたのかそれとも呆れたのか……どちらにしてもその何かは私に興味を失ったようだ。

 同時に私の意識も朦朧としていく。

 

 

  ▽Intrude Out

 

 

   3: 二月三日・朝

 

           side凛

 

 一夜明けた。

 まったく、アーチャーにも困ったものだ。

 あれだけ派手に魔力使いまくってしまいには許容量(キャパシティ)オーバーでぶっ倒れるって、サーヴァントにとって笑い話にもなりゃしない。

 とはいうものの……、彼女のあの暴走じみた力のおかげで私達は生きている。

 バーサーカーに吹き飛ばされて、彼女はほぼ瀕死の状態だった。

 彼女の意識はあったけど、どこかハッキリしない感じ。もしかしたらあのショックで記憶が少し戻ったのだろうか。

 もし、あの暴走じみた力が彼女本来の力だとすれば……彼女はやはり私にとっては当たりだったのだろうか。

 今現在、私達は士郎の家に上がらせてもらっている。近かったこともあるし、セイバーもかなりやばい状態だったのだ。

 まぁ、彼女の場合はきっちり怪我を隠している。見た目だけは元に戻っているが、中はまだボロボロだろう。

 アーチャーはといえば、今奥の部屋で眠っている。霊体にもならずに昏々と眠り続けているのである。

 まずは、現状の把握。

 さしあたって、あのイリヤスフィール自身が公言したバーサーカー。真名を“ヘラクレス”。

 ギリシャ最大の英雄にして、神ゼウスと人の半神半人。

 とてもじゃないが、勝てるとは思えない。セイバーでさえ、あんな結果になったのだ。アーチャーがかかったとしてもやられるのがオチだろう。

 暴走状態に持っていければあの並外れた力が出るかも知れないが、そんなものに期待していたのではアーチャーが死んでしまう。

 ここはやはり共同戦線だと思い、士郎とは協定を結んでおくことにする。

 今後の方針もひっくるめて士郎とセイバーに協力を求める。

 

「それじゃ、協力って事でいいわね」

「あ、ああ……よろしく頼むよ」

 

 すんなりと士郎はOKした。

 

「……OK。それじゃ私は帰るわ」

 

 席を立ち、戸口へと向かう。

 

「おいおい、アーチャーはどうする気だよ!」

「実体化してる状態で眠ってるのに、担いで帰れっていうつもり?それならおとなしくここで寝かせておいたほうがいいわ」

「そりゃぁ……そうかもしれないが」

「それに、こっちもいろいろと準備があるのよ。様子見、よろしく」

 

 そう言い置いて、私は衛宮家を出た。

 

 

 

 ///  ///

 side 士郎

 

 ――喜べ、衛宮士郎

 

 脳裏にあの言峰の声が蘇って来る。

 

 ――お前の望みは叶えられる。

 

 何が、望みだ……。そんなもの!

 

 教会で言峰に言われた事。正義の味方であるために敵がいる?そんなこと、望んでなんかいない。

「―――っ」

 

 眩暈がした。

 なにせ、昨日だけで起こったことが多すぎる。

 頭が思うように動いてくれない。

 バーサーカーとの対峙、セイバー、アーチャーの常軌を逸した戦闘。

 アーチャーの暴走、……そしてセイバーの、

 

「―――!」

 

 ガバッと横になっていた体を起こす。

 

「そうだ、アイツ……!」

 

 何をしているのか、俺は。

 遠坂が今に居座っていたことで失念していた。

 いや、無意識に考えるのを避けていた。

 

「セイバーだよ、セイバー!アイツあんな怪我してどこいちまったんだ?」

 

 身を起こし、居間を飛び出す。

 そして、家中をしらみつぶしに探し始めた。

 

「あんな格好してるんだ!目立つはずなのに」

 

 寝室、風呂場、土蔵に庭。探せる場所はすべて探した。しかし、いない。

 

「……おかしいな。いや、待てよ。もう一箇所あったな」

 

 衛宮家は武家屋敷である。故に普通の家には無いものがそろっていたりする。

 第一にセイバーを召喚した土蔵。第二に、鍛錬場である。

 

「後はそこしかないか」

 

 士郎は稽古場へと足を運ぶ。

 

 ガラッと稽古場の扉を開く。

 差し込む光と木造の稽古場の匂い。その神聖な場の中に、何の遜色も無く同化している者がいた。

 

「セイ……」

「おはよ〜〜」

「……おぅ!?」

 

 いきなりかけられた声に驚いて、稽古場の戸に足をぶつけた。

 

「……いってぇぇ」

 

 激痛の走る足を押さえながら視線を上げる。そこにはTシャツ姿のアーチャーが立っていた。

 

「何してんの、アンタ」

「お、脅かすなよ。あたた……」

「あら、ゴメンなさい」

 

 まだ寝ぼけてでもいるのか、頭をポリポリ掻きながら稽古場に入っていく。

 セイバーもいきなりの事にこっちを見て目が点になってるし。

 

「セイバー、おはよ」

「お、おはようございます。アーチャー」

 

 目が点のまま答えるセイバー。

 アーチャーは道場の中に立つと周囲を見渡す。「ふぅん。一般の家に道場があるなんて珍しい」などといいながら、壁にかけてある木刀などを見ている。

 セイバーがこっちによって来た。よくよく見れば、セイバーの服装が変わっている。白のシャツに青のスカート。昨日の鎧姿からはすっかり雰囲気が違ってしまっていた。

 

「シロウ、お話があります」

 

 ズカズカと近づいてきて、真剣な表情でセイバーが言う。

 

「な、何かな?」

「昨日のことです。あんな真似をされては、私が戦っている意味がありません!」

 

 

 昨日、アーチャーが吹き飛ばされた後、バーサーカーはセイバーに止めを刺すためにきびすを返した。だが、失血死ぎりぎりになってまでもセイバーは剣を降ろそうとせずにバーサーカーに対した。

 その目の前に士郎は飛び出したのである。セイバーを庇おうとしたのは明白だが、サーヴァント同士の戦いに飛び出すなど、愚の骨頂である。

 セイバーをその場からさらおうとした士郎だが、セイバーに飛びついた瞬間バーサーカーは剣を振りかぶっていた。まさに振り下ろされる瞬間、アーチャーが雄たけびを上げたのである。

 アーチャーが叫ばなかったら、間違いなくセイバーごと士郎は殺されていただろう。

 

 

「戦いはサーヴァントがやるべきこと。あんな無駄死にするようなことをされては迷惑です」

「な、なに言ってんだ!あのままじゃセイバーがしんじまうだろ!」

「その時は私が弱かっただけのこと。あなたに死なれては私がこの世にいられない。それでは本末転倒です!」

「まぁまぁ、その辺にしときなさいよ」

 

 長くなりそうな喧嘩に割り込んでアーチャーが言った。

 

「今更何があったかなんてどうでもいいでしょう?終わっちゃった事にいちいち説教たれてたらめんどくさいだけでしょうが」

「アーチャーは黙っていてください。これは我々の問題です」

「いいじゃん別に。何がどうなったかは記憶がまた飛んじゃったから分からないけどさ」

『え?』

 

 セイバーと二人、同時にアーチャーを見た。

 

「バーサーカーをあれだけ痛めつけておいてその記憶が無い?」

「無い。バーサーカーに吹っ飛ばされた後に必死で立ち上がろうとして、その後はふっつり」

『…………』

「まぁ、その辺もひっくるめてこの後のことは考えないとだめね」

 

 いきなり、道場の外から聞きなれた声。遠坂がなにやら大きめのボストンバッグを抱えて帰ってきた。

 

「遠坂……、お前帰ったんじゃないのか!?」

「何言ってんのよ。バーサーカーを倒すまで協力するって言ったでしょ?だったら、いっその事一緒に住んじゃったほうがいいじゃない」

「い、一緒に住むだぁ?」

 

 頭の中が大混乱を起す。学園のアイドルたる遠坂と一つ屋根の下で過ごす事がどれほどに非常識な事か。

 

「お、お、お、お、おい遠坂!」

「さーてと、私の部屋はどこにしようかな?」

 

 俺の意見などまったく無視して遠坂は一人勝手に部屋の選定を始めだした。

 

「勘弁してくれよ……、って遠坂!おい待て!!」

 

 

 

 /// ///

 side アーチャー 2月4日・朝

 

 物事にすったもんだが多いのは今に始まった事じゃない。ありとあらゆる事に原因があり、ありとあらゆる事に結果が生じる。

 ならば、この記憶喪失も何らかの原因があって成り立っている事だろう。

 ……まぁ、そんな事考えたところで解決方法なんてありませんが、何か?

 凛と衛宮士郎、そしてセイバーは家の方で何かをやっている。

 マスターに休めといわれた以上、自分は休まなければいけない。そして、次に勝てるように自分の内面を確認しないといけない。

 あの夜、私がやったことを凛から聞いた時、頭が痛くなった。

 

 ――その記憶はいらない。削除せよ、……抹消せよ。条件は満たされていない。

 

 頭の中でそんなやり取りが行われているように、記憶は混濁し、整合されても行く。

 整合されていくのだとしたら、今の私には自分の内面に目を向け、把握しなければならない。

 幸いここには鍛錬場などという精神統一に最適な場所がある。快く貸してくれた衛宮士郎には感謝しなければダメだろうか?

 

「ふう……」

 

 鍛錬場の中心、そこに胡坐をかき目を閉じる。

 向けるべきは己の内面、ソレ唯一つ。

 記憶をたどる。……読み取れるのは、私が使った徒手空拳での格闘技の項目。そして、ブラックボックス化した妙なj項目。

 まるでパソコンだ。ユーザーがキーボードを前に見た事も無いパソコンを操っているに等しい。中に何が入っているか判らない。どんな項目があるか判らない。

 ならば、パソコンで結構。パソコンのように、記憶をたどろうじゃないの。

 

「状況確認。我が知る事のできる全てを……」

 

 

 意識が……、跳ねた。

 

 

 数分間、私は怒涛の波の中にいた。あらゆる情報が頭に入ってくる。主に入ってくるのは、格闘技の情報。格闘技の正確な使用法。鍛錬を積み重ねた経験から来る、アップデートと修正パッチ。

 そして、その他武器使用における基本的な動きと経験によるアップデートと修正パッチ。複数武器使用による基本的な動き、経験によるアップデートと修正パッチ。

 そこから別の記憶へのリンクが張られている。しかし、アクセスはできても解析できない。この項目はまだ封印されたままだ。

 読み取れたのは、武器情報。

 銃。ガバメントやトカレフなんて眼中に置かない。浮かぶのは世界最大の銃。

 デザートイーグル50AE。重量1990グラムという拳銃にあるまじき重量。拳銃の癖にライフル機構を搭載し、世界最大の銃弾を発射し、アクシュンエキスプレスの名の通り相手を一撃でミンチに変える凶悪な銃。

 さらに、歌。……歌?これはテクノミュージックだろうか。自身の興奮剤にはちょうどいいが。

 さらに、カード。……タロットカード?何だこのキャスターじみた能力は。

 そして、剣だ。……生半可な剣じゃない。この世に唯一つ。執着は深く、信頼は近く。

 

「ッ…………!!」

 

 ――その情報は削除対象。条件は満たされていない。

 

「クソッ!」

 

 一瞬の頭痛。とたん、霞が掛かったように剣の記憶が消えていく。

 

「条件条件て……、何の話よ」

 

 読み出した記憶は削除された。再アクセスは不可能。

 

「今は知るべきじゃないって?……アタシの体だってのに」

 

 もうソレがどんなものだったか、判らない。だが、いまはいい。戦うのに必要な情報は得た。

 それと、知識だけじゃダメだ。情報があっても体が知識を凌駕しないと意味が無い。

 

「鍛錬しかないかな?」

 

 立ち上がり、壁に立てかけてある竹刀や木刀を見やる。

 

 

-To be continued-

 

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アーチャーステータス

 

クラス:アーチャー

真名:(現在記憶喪失)

性別:女性

身長・体重:165cm・56キロ

属性:混沌・善

 

筋力:B  魔力C

耐久:C  幸運:B

敏捷:B  宝具:??

 

クラス別能力:

対魔力D:一工程による魔術行使を無効化。魔除けのアミュレット程度。

単独行動B:マスター無しでも存在できる能力。2日程度。

 

詳細:

 現在のところ不明。記憶喪失によるところが大きい。銃に関した技を使用する。

 

保有スキル:

 戦闘続行B:瀕死状態でも戦闘ができる能力。

 直感B:未来予知はできないが、行動予測という点での“読み”。

 心眼(偽)D:記憶の中で眠っている感覚の発現。危険回避。

 wiseup 狂化D:理性を断ち、筋力、敏捷、耐久をワンランクアップする。気絶する事により、解除される。

 ガンブレッドCQB(Close Quarters Battle

           宝具ではないが、彼女が使用する銃に似た近接戦闘。

           腕の筋肉に瞬時に力を送り込み、火薬のように爆発させ、最大5メートルの距離にいる敵を殴りつける。

           記憶喪失で力を出し切れていないため、威力はランクダウンしている。

 

 

宝具: 不明

 

2005/09/23