Fate/Stay night
Fate/
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4:二月四日・朝〜昼
side セイバー
マスターにも困ったものだ。サーヴァントは戦う者。彼はソレを良しとしない。一体何を考えているのかわからない。
私は武人だ。剣と誇りに命を捧げた騎士。マスターはソレを判っているのだろうか?
しかし、シロウに呼ばれたときから、私はシロウの剣であり、盾であると誓いを立てた。ソレを破るつもりも無い。
それにランサーの槍での傷はまだ癒えていない。バーサーカーとの戦闘で傷を追った私は魔力を少しでも抑えなければいけない。
判っているが、いつも通りの生活をしなければいけないために学校へ行くというのはあまり容認できたものではない。……加えて、わざわざ私やアーチャーを身内に紹介するというのはどういうつもりなのだろう。
サーヴァントは元来食事など取らなくてもいい。だが、シロウは私達が奥に引っ込んでいる事をヨシとしなかった。
タイガは怒り狂って私達に決闘を申し込んできたが、そもそも適うはず等無い。
結局、私とアーチャーは逗留を許され、今はこの家を守るだけの存在でしかない。アーチャーは鍛錬場で何かをしているようだ。
本来私は眠っていなければいけないのだが、アーチャーはあくまで凛のサーヴァントだ。マスターの本拠に何をするか判らない。
様子見に鍛錬場へ近づくと、パシンパシンと竹刀の打ち合う音が聞こえてくる。……打ち合う音?家には私達しかいないはずだが。
鍛錬場のふすまを開く。
「なっ!?」
アーチャーが剣を振り回していた。最も竹製の模擬刀だが、両手に持ったそれで周囲を舞う同じ模擬刀を打ち上げ続けている。
一体どんな理屈で続いているのか判らない。アーチャーが剣を振り回し、落ちてくる模擬刀を叩き弾き上げ続けているのだ。舞っている模擬刀は5本だろうか。
一瞬、見とれてしまう。その動きには一瞬の迷いもない。落ちてくる模擬刀を視線を向けないまま打ち上げている。おそらくコンマ1ミリの誤差もなくバランスをとった状態で打ち上げているのだろう。両手に持った剣が華麗かつ流麗に舞い続ける。
それは剣舞だ。式典や礼典で大衆を前にして行われる見世物だ。それにこんな事をしても実戦には使えない。しかしながら、彼女はアーチャーのはず。セイバーでもない彼女が何故こんな事を?
「んっ?」
アーチャーがこっちに気づく。
「あら……どうし」
バン!
「でっ!!」
気を抜いたせいで落ちてきた竹刀に強かに打ち据えられるアーチャー。
ババババン!!
「いででででっ!!」
打ち上げた模擬刀全部に叩かれてその場にぶっ倒れた。
思わず声を失ってしまう。
「いった〜〜〜〜。クソー、5本じゃ意識そらしただけで打たれるなぁ」
頭を抑えながら立ち上がる。
「おいーす。何?なんか用?」
痛みを意にも返さず、こっちに声をかけてくる。
「アーチャー、あなた……何をしているんですか?」
「何って……、鍛錬だけど」
「ですから、いったい何の鍛錬をしているのですか?剣舞ですか?」
「あぁこれ?頭の中でいろいろ整理付いてきたら格闘技だけじゃなくて、剣の扱いも浮かんできたのよ。だから双剣の練習」
「あなたはアーチャーでしょう?剣を鍛錬することに意味があるのですか?」
しかし、彼女はあっけらかんと「ないんじゃない?」と言った。
「でも、いろいろ手を出しておくのはいい事じゃないの?多芸なのは悪いことじゃないでしょ?」
「はぁ……、しかしアーチャーたるものが弓を使わず剣を使うというのは……」
「あのねぇ、私みたいな現代っ子が弓なんていう中途半端なもの使えると思う?」
「現代っ子……ですか」
「そうそう、やっぱ弓より銃よ。冷たい銃身、重いトリガー、破裂する炸薬、やっぱデザートイーグルだなぁ……」
……何か私の分からない物の話になっている。
「あ、そうだ。セイバー、暇なら剣の相手してよ」
「剣の……、それはマスター抜きで決着をつけるということですか?」
全身に緊張が走る。やはり、シロウを学校に行かせたのは間違いだったのか?
「あのさぁ、殺気プンプンのところ悪いけど、私達協力関係だってこと失念してない?」
「あれはシロウと凛が決めた事。あなたの動きを制限する物ではない」
「……制限されてるんだなぁ。これが。
とにかく、私は軽く試合しようって言うだけよ。これだけ生活環境が整ってるのにわざわざ破壊したらバチが当たるし」
言って、床に転がった剣を蹴り上げると、私に投げてよこす。
「それに、今のうちにあなたの攻略法も探せないかなぁ、と」
やはり、こちらを詮索する考えもあるのか。
「できません。お互いの力量を測るだけの試合など。試合う理由もない」
「あるわよ。理由なら」
「何?」
模擬刀をまっすぐに向けてアーチャーは言う。
「あなたが騎士で、セイバーだから」
「は?」
「こないだからこっち、色々と情報を整理してた。最初に会った時よりは強くなってる自覚もある。だったら試してみたいのは道理でしょ?強い相手と戦いたい。理由はそれだけ」
「馬鹿馬鹿しい。私を倒したいなら倒したいと言えばいいではないですか」
「あなたとなんて相手になるわけないでしょ?まして剣は貴方の領分だし」
「アーチャーが常に弓を宝具として持っているわけではない。貴方の実力を私は測りようがない」
模擬刀でトントンと肩を叩くアーチャー。
「もしかして、私なんか相手にならないなんて思ってる?」
……………………
「貴方を見くびる気はない。先ほどの剣舞は確かに見事だった」
「だったら、手合わせぐらいしてくれてもいいじゃない。昨日のバーサーカーとの剣戟を承知で言ってるんだけど」
「しかし……」
「あーーもう、分かったわよ!!」
こちらの反論を強引に断ち切り、アーチャーは竹刀をダランと下ろす。
「口論は飽きた」
ダンッ!!
音と共に一歩で間合いを詰めるアーチャー。
「――っ!!」
バシンと、お互いの竹刀が打ち合う。
/// ///
side アーチャー 2/4・昼〜夜
右手の上段からの一撃ははじかれた。だが、そんなものは牽制に過ぎない。逆手に持った左腕を振りぬく。
竹刀同士が強烈な音を上げ、セイバーがあとづさる。
「っ!アーチャー、貴様!」
「アンタがこないってんなら構わないわよ。せいぜい、サンドバッグになってよね!」
竹刀が疾る。上下左右、袈裟に突き、怒涛ともいえる波状攻撃をセイバーは全て防ぎきる。
「――くっ!」
「どうしたのよ、セイバー!打ち返してきなさいよ!守ってばかりじゃ勝てないわよ!!」
大振りの攻撃を続ける。わざと隙を作りながら、セイバーの攻撃を待つ。
その時、セイバーの腕が動いた。
――くる!!
パァン!!
作っておいたわき腹への打撃を防いで後ろへ下がる。
構えなおす。目線の先にはこちらに殺気を向けるセイバーの姿。
「やる気になった?」
「何故です。何故私に剣を振るわせたい?」
「また口論?飽きたって言ったはずよ」
「こちらも言ったはずだ。試合う理由はない。それに、これはマスターの命令に反する!」
「騎士の忠誠ねぇ。じゃあこう考えましょうよ。これはあのバーサーカーに対抗するための特訓だって」
セイバーの剣先が少し下がる。
「特訓?我々サーヴァントは生前の業しか行えない。死してからの成長などありえない」
「それは……どうかしら!」
疾る。そして、右手を振るう。技も何もない相手を叩き潰すだけの乱打。それは、バーサーカーの剣筋だ。
「――なっ!」
「おぉぉぉらぁぁぁぁぁ!!」
受け、回避し、弾き返す。私の膂力じゃセイバーを弾き飛ばすなんてことは無理。しかし、バーサーカーを意識した私の剣は確かに重みを増している。
「クッ!!」
パシン!!
初めてセイバーが剣を合わせてきた。1合、2合と剣を振るい続ける。
バーサーカーの巨体に合わせるために飛び込み斬りも組み入れる。お互いの剣の速度も増していた。
理性を失い、ただ剣を振るい敵を叩き潰す。バーサーカーはそういう存在。せっかくセイバーと特訓しているんだから、真に迫らなければだめだ。
ただ攻める。引くことも躱す事もせず、愚直に、真っ直ぐに、そして力の限り剣を叩きつける。闘争本能のみをもって、敵を駆逐する。
「アァァァァァァァ!!!」
「――!!?」
あの夜私が体験した全てをここに再現する。動きも剣筋も目的も、半神ヘラクレスという怪力無双の存在を私に重ねる。ヘラクレスになりきる。……否、ヘラクレスそのものに“成る”のだ。
バキャン!!
躱された竹刀が床に叩きつけられ、粉砕した。
「アーチャー、貴方……一体!」
「オオォォォォォ!!!」
持っていたのは二刀、左手の竹刀を持ち替え再度攻める。
で、気がついたら、私は床に倒れていた。
「――あ、……ったー」
強烈に頭痛がする。頭を思いっきり殴られたようだ。頭を振りながら体を起こす。そして、周囲の様子を見て唖然とした。
壁は裂け、床は割れ、障子は何枚かが粉砕されている。
そして、目の前には竹刀を杖に膝をついて荒く息を吐くセイバーが居た。
「ちょ、セイバー……、あたた。何よこの状況!」
すると、セイバーは怨むような表情でこちらを睨んで来る。
「覚えて……ないと?」
「ゴメン、覚えてない」
恨みの篭った一撃を振るってきた剣先を躱して再度聞く。
「ご、ゴメン!だから、一体何が起こったの!?」
「全く……、冗談では済みませんよ」
息は荒いままそれでも立ち上がってセイバーは言う。
「確かに、先ほどまでのあなたはバーサーカーそのものだった。剣筋、膂力、スピード、どれをとっても真に迫っていた。コレが真剣だったら私が死んでいる」
「……てことは、私意識を失ってもまだ貴方と戦ってた?」
「貴方がそう言うならそうなんでしょう。アレで意識があったと言ったら今すぐぶちのめしている」
完璧にセイバーの怒りを買ってしまったようだ。
結局、セイバーにはへそを曲げられそのままなぁなぁに時間が過ぎて夕方になった。
『アーチャー?聞こえてる?』
七時前になって凛から念話が入る。
「な〜に〜?」
セイバーは寝室で眠っている。私は鍛錬すらやり尽くし、今でテレビなど見ながらゴロゴロしていたところだった。
『って、何よそのあからさまにダラけてますってな、返事は』
「まぁ、実際ダラけてるし。お笑い面白いし、……アハハハハ!!」
『あぁ、もう!そんなのいいから今すぐ家に戻ってきて!』
「――何かあったの?」
体を起こし、居間から縁側に出る。
『サーヴァントに絡まれたわ。衛宮君が手負いなの。悪いけど、こっちからの護衛よろしく』
「はぁ!?」
やれやれ、セイバーの危惧は正解のようだ。寝ているセイバーに護衛なんてさせられないし、霊体になった私なら護衛にはうってつけだろう。
全力疾走で物の数分で凛の洋館に到着する。んで、居間にたどり着いて開口一番に尋ねた。
「で?絡まれたのはどこのサーヴァント?」
「おわっ!?」
何を驚いてるのか、いきなり現れた私に向かってリアクションをする衛宮士郎。
「さっき呼んでおいたのよ。家に帰らなきゃいけないし、セイバーは魔力を温存しなきゃいけないし、アーチャーなら護衛にはうってつけでしょ?」
「ま、そゆこと。――で?サーヴァントは?」
「絡まれたのは士郎よ。私は残念だけど陰しか見てないわ」
で、視線が自然と士郎へと向く。
「俺にも分からないよ。蜘蛛みたいに木の間を行き来しながら攻撃してきた。鎖付きの鉄製の杭が武器だったけど……」
「まったく……、あんな事で貸しを作っちゃうなんて私も甘いわね」
「杭?……ならライダーじゃない?」
ハッと二人がこっちを向く。
「ってアーチャー、杭を使うサーヴァントがライダーって心当たりあるの?」
「――へっ?」
「へっ?じゃないわよ。アンタ杭を使うサーヴァントってだけでライダーと断言したのよ?根拠は何よ」
「……いや、根拠ったって」
いや、しかし…………なんでライダーだなんて思ったんだろう、私。
「…………さぁ」
「憶測で物を言わないでくれる?」
明らかな失望の目で私を見る凛。
ム、今の反応は見て見ぬ振りはできぬなぁ。
「何よ、だったらこういう考えは?
セイバー、アーチャー、バーサーカー、ランサーは顔が割れてる。分からないのはアサシン、キャスター、ライダーの3人。
直接戦闘力に欠けるキャスターは真っ向勝負になんか出てこないだろうし、アサシンだったら気づく前に士郎なら殺されてるでしょう?」
「…………それって、暗におれが弱いって言ってるのか?」
「一般ピープルなんだからしょうがないでしょうよ」
「…………“一般ピープル”、死語だこと」
凛の突込みが入って、続ける。
「なら、ライダーは?そこそこ直接攻撃能力も持ってて、かつ姿を晒す様な真似をする輩。
腕に自信がなけりゃ簡単に姿なんか出さないでしょう?」
「……確かに、気位が高そうな感じもしたな」
「ま、状況からの推測だけどね」
どうでもいいが、七時を過ぎてしまっている。セイバーとかタイガとか桜とかを放って置いていいのだろうか?
それを言ったところ、大急ぎで帰途に着いたのは言うまでもない。
/// ///
side 凛
「シロウ!!アナタという人は!!」
セイバーの怒声が響いたのは、夕食が終わって桜と先生が帰った後、今日の報告をしたときのことだった。
まぁ、セイバーが怒声を上げるのを予測していた私達は耳を塞いだけど、しなかった衛宮君はモロに鼓膜に来ているようだ。
「な、何だよセイバー。そんなに怒鳴ること無いじゃないか」
「これが怒鳴らずにいられますか!心配していたとはいえ案の定、敵の攻撃を受けたではないですか。しかも凛を守るために腕一本潰すなど……!」
む、それって私なぞ守らなきゃ良かったって言うことか?
「セイバー。その言い方は誤解を招くんじゃない?暴れだす前に訂正したら?彼女に」
私が口を開く前にそう言って私を指すアーチャー。
――って!
「ちょっと、アーチャー。それじゃ私が始終暴れてるみたいじゃないの?」
「自分の家のドアでさえ蹴り壊すってのに、違うの?」
コイツ……、本気で二つ目の令呪で口きけない様にしてやろうか。
「いいんだよ、セイバー。腕は大した事無かったんだ。逆にピンチを遠坂に助けられたんだ。言っちまえばチャラだよ。そんな物」
「…………」
納得の言ってなさそうな顔だが、マスターである衛宮君がそう言ってしまっては彼女としてはこれ以上追求もできないだろう。
「とにかく、明日からは私も学校へ行きます。今度サーヴァントに襲われたらたまった物ではない」
「なっ!ダメだぞそれだけは。いつも通りの生活を送らなきゃいけないって決めたってのに、そんな事したら怪しまれる」
「襲われておいてまだ言いますか」
「そりゃ言うさ。もし万が一学校でマスターと出くわしたら、学校全体に被害が出る。そんな真似したらどうなるか判るだろ?」
「――しかし!」
まぁ、士郎が来て欲しくないのは他にあるだろう。なにせ、セイバーは小柄なくせに美人だ。一発で衆目を浴びること間違いない。
そんな奴が学校なんかに来たら、一発で学校中が嵐になる。……何かと思春期の年齢だし。
「OK!なら、こっちから解決策を出しましょうか?」
アーチャーが声を上げた。
「私が学校に行くわ。凛の制服でも借りれば大丈夫でしょ」
――なにぃっ!?
「ちょ、アーチャー!何勝手な事言ってんのよ」
「だって、それが確実にいいじゃない。セイバーは姿を隠せない。隠せないと何かと問題がある。いざ戦闘になったらそこらじゅうに被害が出る。よっていいことなし。
その点私なら学生に見えるし制服着れば騙せるはずよ。あの藤村って言う先生に見つからなきゃ大丈夫だって。見つかったとしてもいずれ転校する事になるって言えば大丈夫かもよ」
「記憶喪失で宝具も使えないあなたが、向こうの思惑に嵌ったらシャレになら無いこと解ってるんでしょうね?」
「そこは私の技量しだい」
にしし、と笑いやがるアーチャー。
決まってる。コイツ、単に暇を持て余してるんだ。絶対そうだ。
「それに、私なら一見して何のサーヴァントか推測されないでしょ。正体が知られても如何様にもごまかせるわ」
まぁ、確かに。私も一見して彼女がアーチャーだとは見抜けない。というか、アーチャーなのかどうかすら怪しい。
かと言って、ランサーとの戦いで彼女のアーチャーぶりはよく解ったけど。
結局、セイバーは現状維持。アーチャーが制服を着たまま学校についてくると言う事で話が付いた。
まぁ、制服を貸したところ胸がキツイと言い出しやがった時は、本気でガンドの的にして、“居間”が少々荒れてしまったのはご愛嬌である。
-To be continued-
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アーチャーステータス
クラス:アーチャー
真名:(現在記憶喪失)
性別:女性
身長・体重:165cm・56キロ
属性:混沌・善
筋力:B 魔力C
耐久:C 幸運:B
敏捷:B 宝具:??
クラス別能力:
対魔力D:一工程による魔術行使を無効化。魔除けのアミュレット程度。
単独行動B:マスター無しでも存在できる能力。2日程度。
詳細:
現在のところ不明。記憶喪失によるところが大きい。銃に関した技を使用する。
保有スキル:
戦闘続行B:瀕死状態でも戦闘ができる能力。
直感B:未来予知はできないが、行動予測という点での“読み”。
wiseup心眼(偽)C:記憶の中で眠っている感覚の読み出し、行動予測。
狂化D:理性を断ち、筋力、敏捷、耐久をワンランクアップする。気絶する事により、解除される。
ガンブレッドCQB(Close
Quarters Battle)
宝具ではないが、彼女が使用する銃に似た近接戦闘。
腕の筋肉に瞬時に力を送り込み、火薬のように爆発させ、最大5メートルの距離にいる敵を殴りつける。
記憶喪失で力を出し切れていないため、威力はランクダウンしている。
宝具: 不明
2005/09/24