Fate/Stay night
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5:二月五日 朝〜夕
side 凛
結果から言うのならば、アーチャーは学校へは行けなかった。
何故かと言うのは今更だが、道場の件である。私たちのいない間に何をしたのかと聞いてさすがにこっちが驚かされたが、道場がこんなでは家主としてもいたたまれないし、私としても彼女を学校に行かせないちょうどいいネタだったので、アーチャーには道場の修理を命じた。
……もちろん一人で。
「地獄に落ちればいいのに、マスター」
などと言っていたが、全面的に悪いのはアーチャーらしいので知らん振りである。
「とにかく、修理が終わるまで外に出るんじゃないわよ。それから、二度とセイバーと道場を壊すような真似をしないこと。厳命よ」
「修理の備品の買出しは、許可の範囲なんでしょうね?」
「はぁ?」
「土蔵のあれやこれやじゃ、絶対足りないって。板とか障子用の紙だとか。それの買出しはアリよね?」
「……そうねぇ。まぁ、それくらいならしょうがないか」
「緊急時の戦闘行為は?」
「……OKよ」
「外も?」
「くどい」
「あいあい。そんじゃ、マスターはさっさと学校に行きなさいよ。もう出る時間なんでしょ?」
「この……、じゃあ行ってくるわ。後よろしくね」
「寝るなよ?」
「寝るかぁ!!」
/// ///
side 士郎
学校について愕然とする。
よくよく注意してみると、周囲の空気が全く違うのが感覚として判る。
これが、結界。
「本当だ。外と中じゃ空気が違う。甘い蜜みたいな空気じゃないか」
「へぇ、士郎にはそう感じられるんだ。……貴方、魔力感知は下手だけど、世界の異常には敏感なのかもしれないわね」
などと言うのは、遠坂の談。
間をおいて、昼休みになった。
「よし、今なら歩き回っても変に思われない」
昼飯を数分で済ませて廊下に出る。
昼休みが終わるまでに1時間、成果があるとは思えないのだが――
一通り校舎を回って外に出る。
そして、ある場所に着いて、その濃密な違和感に吐き気すら覚えた。
グラウンド、校舎裏には異常は無かったが、この一帯は毛色が違い過ぎる。
「―――まさか、ここもか」
……校舎の中にもおかしな場所はあった。
それは、階段の裏、廊下の行き止まり、空き室の教室等、人目の無い場所。
だが、この弓道場は違う。人目が無いどころか、毎日人が集まる。
「……どうして、気がつかなかったんだ。
異常って言えば、ここが一番異常じゃないか―――」
……ここは妙に息苦しい。
濃密な風、湿った空気は違和感では済まされない。
いや、一度この匂いに気づいてしまうと、吐き気すらこみ上げてくる。
「……結界には基点がある、と遠坂は言ってたな。
何ヵ所あるか知らないが、最初の基点がこの辺りにあるって事か……」
刻印を探してあちこち探し回る。
結果は無理だ。魔力感知に疎い俺じゃ、結界を括っているサインなんて見える筈が無い。
「……ふう」
しょうがない。とりあえず遠坂にここの事を報告して―――
「なんだ。探し物かい、衛宮」
「―――!」
突然の声に振り向いた。昼休み、人気の絶えた弓道場の前に立っていたのは―――
「―――慎二」
「やあ。奇遇だね、僕もその辺りに用があってきたんだけど……君、もしかして見た?」
「……見たって、何を。別にここには何も無いぞ」
「ああ、やっぱり見たのか。……なるほどね、君が遠坂と一緒にいた理由はそれか。そうだよねぇ、マスター同士、手を組んだ方が効率がいいもの」
「―――! 慎二、おまえ」
「そう警戒するなよ衛宮。僕と君の仲だろ。お互い、隠し事は無しにしようじゃないか。
君が何を連れているかは知らない。けど、君もマスターなんていう酷い役目を押し付けられたんだろ?」
何をはばかることも無く、慎二はきっぱりと口にした。
彼自身が、マスターだということを。
物言いからまず間違いないとは思うが、どうにも怪しい。だが、嘘でマスターという単語が出るのも妙だ。
そして、次に彼が持ちかけてきたのは相談だ。
今後、自分と協力するつもりはないかと。
「ま、こんな所で話をするのもなんだろ。誰に聞かれるとも判らないし、場所を変えよう。
ん……そうだね、僕の家がいい。あそこなら遠坂の目も届かないし、襲われても安全だ」
「場所を変えるって、何言ってんだ。昼休みももう終わるし話があるなら―――」
「馬鹿?授業なんてさぼればいいじゃん。ほら、いいから行こう。衛宮がマスターって知って嬉しいんだから、あんまり水を差さないでよね」
「そんな訳にいくか。授業を抜け出したら不審に思われるだろ」
「チッ、融通が利かない奴だな……って、ああそうか!それはそうだよね、普通は警戒する!
けど安心しなよ、何があってもこっちから仕掛けることは無いさ。ほら、僕が騙し討ちなんかするように見えるかい?」
「? ああ―――そうか。確かに、おいそれとは付いていけないな、それは」
「…………。まあいいさ。そっちだってサーヴァントを連れてるんだろ?そんな危ない相手にけんかなんて仕掛けないよ」
……?
慎二には、俺がセイバーを連れているように見えるのか?
違うな―――慎二の奴、霊体になっているサーヴァントが見えないんだ。
だから俺が今もセイバーを連れている、と勘違いしているのか。
「いいから行くよ。遠坂に見つかったら僕も君も只じゃ済まないんだから」
付いていくしかないか。下手にごねて、セイバーを出さざるを得ない状況にさせられても困る。
慎二の話にも興味はあるし、午後の授業は諦めよう。
/// ///
side アーチャー
「――――たりぃ」
そう何度呟いて、この道を歩いているのだろうか。
確かにあの道場を滅茶苦茶にしたのは私らしいが、自分に記憶は無い。
ただ、自分の中にセイバーと戦ったという情報だけはちゃんと残っている。一夜明けてセイバーの太刀筋を思い返している自分に気づいたのは、修理を始めて1時間もしてからだ。叶うとは思えない対セイバー用のシミュレートを何度もしながらとりあえず、床と壁の修理は終わらせた。
問題は障子だった。土蔵を漁らせて貰ったが障子に使う紙が一向に見つからないのだ。
まさかセイバーに手伝ってもらえるはずも無く、しょうがなく買い物に出ることにしたのである。
まぁ……、ついでに武器の調達もしてきたからいいとしよう。本当に使えるかは試してみるまで判らないが。
で、商店街でみつけた古びた店で障子用の紙を買いつけ、その帰りである。
その角を曲がれば衛宮家、学校、凛の家とどこへとも繋がっている角に至った時だ。彼らを見かけたのは。
「―――?」
最初は午前中で学校が終わったのかと思った。
だが、今日は土曜日ですらない。
でなければ、学生が昼過ぎから街中をうろついているはずは無い。
しかも二人は鞄すら持っていない。
一人は衛宮士郎、もう一人は誰だ……?
もはや、直感だった。
悠々と歩いている一人に対し、明らかに警戒の色で歩いている衛宮士郎。
だとすれば、あの男はマスターか?サーヴァントを連れている様子は無い。だが、衛宮士郎にはサーヴァントの感知はできない。あの男もそうなのだろうか。
……後の思案は止める。どっちにしろ、彼をこのまま一人歩きさせる事はできない。
「……戦闘行為の許可もらっておいてよかったわ。うん」
買い物袋を放り出して霊体化し、彼らの後ろにつく。
わざわざ教える必要も無いか。気取られてサーヴァントをけしかけられても面白くないし。
それに、相手のサーヴァントは限られてる。ライダー以外なら私に分がある。アーチャーと気取られる前に倒せる。
マスターの家とは反対方向にその屋敷はあった。……マスターの家も人を拒絶するような佇まいだが、この屋敷はそれ以上に暗い。いるだけで陰鬱な気分になる。
ったく、やっかいな奴に捕まったわね、衛宮士郎。
昼だというのに、屋敷の中は暗い。基本的に光が入らない作りになっている。……察するまでも無く悪の巣窟といった風情だなこりゃ。
「衛宮、こっちだ。居間にいるから早く来いよ」
男が言った。苗字で軽薄に呼ぶあたり友人なのだろう。友人がマスターとは、これはまた。
しかも、衛宮士郎も暗い廊下を迷わずに進む。来慣れているといった風情だ。……ふぅん。
居間に入る。カーテンは閉められ、日の光は遮断されている。人口の明かりは無く、昼間は暗く闇に沈んでいる。
「衛宮、こっちだ」
衛宮士郎が振り返る先、そこには椅子に座った男と―――
黒い、闇が結晶したような、女の姿があった。
「紹介しよう。僕のサーヴァント、ライダーだ」
「なっ!?」
声を上げたのは衛宮士郎だ。昨日襲われたというサーヴァント。同一人物だったと見るのが正解か。
それはこっちも同じだ。まさか、不安が本当になるとは思わなかった。
「……二人だけで話をするんじゃなかったのか、慎二」
わずかに後退して、衛宮士郎が口にする。
「やだな、用心だよ。衛宮が襲い掛かって来たら怖いからね。ライダーにはすぐ近くにいてもらわないと」
「もう一つ、そのサーヴァント見覚えがあるんだけどな」
「? そりゃまたなんでかな」
「昨日、学校の裏でそいつに襲われた」
「…………。 あぁ、襲われたのは君だったのか。そりゃ済まなかった。
こっちも素人でね。うまく抑えて置けないんだ。それにコイツ手癖が悪くてね。すぐ人を襲う。
怪我をしたのなら謝っておくよ」
「じゃあ、昨日女生徒が襲われたのは事故だったんだな?お前のせいじゃないと」
「誓ってね。そんなことを続けさせていたら、遠坂に感づかれるじゃないか」
嘘だ。コイツ、ライダーが血を吸う類であることを知っている。
彼女が実体化しているのは私がいるからだろう。その面で覆っていてもわかる視線が私に冷たく刺さってくる。
「それに、今は用心のためさ。衛宮が襲い掛かっていたら怖いからね。
ライダーには近くにいてもらわないと」
「人を連れてきておいてそれか。用心深いにも程があるんじゃないのか、慎二」
「やだなあ、冗談だってば。衛宮がそういうのができる奴じゃないって判ってるよ。
ま、けどおまえのサーヴァントは別だからね。僕だってコイツを躾けるのには苦労したんだ。サーヴァントがマスターの命令に従わない、ってのは珍しいことじゃないだろ?現に昨日あったわけだし。だから、これはちょっとした牽制だと思ってくれ」
よく喋る口だ。あぁ、言う手合いは人の寝首を掻く。後ろのサーヴァントもそうだろう。殺すときは容赦が無い。光の部分など一切排除した類だ。
「……牽制か。あまりいい気分じゃないな」
「ゴメンゴメン。何分素人だからさ、衛宮みたいに慣れてるって訳じゃないんだ。そのあたり勘弁してくれ」
「……ふん。俺だって馴れてる訳じゃないけどな」
その先は、お互いの協力関係だのこの家の住人、つまるところ間桐桜の問題だ。
一子相伝がこの家のモットーで、彼女は魔術は知らない。そして、この家自体枯れた家系で彼は偶然マスターにさせられたとの事。
いろいろ喋ってくれたお陰で、この家のことも判った。……まぁ、どこまでうそかは知らんが。
結果―――この男は気に入らない。それ以前に自分勝手な物言いが癪に障る。後ろにライダーがいなければ、私がこの場で殺している。
だが、ライダーはこの間桐慎二の後ろを微動だにしない。
判らないと言えばこのライダーも判らない。事戦闘においてあの面当ては邪魔だと思うのだが、もちろんそんなわけは無い。
あれは多分、何かの封印だ。そして、封じられているものは十中八九魔眼の類。
だとしたら、不味い事になった。私は魔眼の耐性なんて持ち合わせていない。耐久は低いだろうが、敏捷は私の上。だが純粋な腕力なら私が上。
獲物は鎖付きの杭。ヒットアンドアウェイの典型だ。
宝具は……、判る筈も無い。
勝てるかといえば、五分。この女、何か隠し玉が絶対にある。
「おい衛宮、協力の話はどうなんだよ」
「それは断る。遠坂を倒す、なんて相談にはのらない。
第一、あいつは何もしてないだろ。あいつとは……いずれ戦うことになるけど、今は信頼できるし、していたいんだ」
「……ふん。何かってからじゃ遅いと思うけどね。まあ君がそういうならいい。僕も君と同じく様子を見るさ」
よかった。協力するなんて言い出したら、頭に一発かましてやろうかと思った。本気のをポカリと。
さらに、
「……よし、一ついいことを教えてやるよ衛宮。誰だかは知らないけど、マスターの一人は寺に巣を張ってるよ」
桜の事を心配した例としてこの男とんでもない事を言い出した。
「―――!? 寺って、まさか柳洞寺にか!?」
「ああ、僕のサーヴァントが言うには、山には魔女が潜んでいるそうだ。大規模に魂を集めているそうだから、早めに叩かないと厄介らしい」
大規模の魂の集積、地脈、昨今の昏睡事件……、か。
「話はそれだけだよ。
それじゃあライダー、送ってやってよ。いいかい、衛宮は味方だから傷付けるんじゃないぞ」
間桐慎二に命じられ、ライダーが近寄ってくる。私とも距離をとって。
「っ……いや、それは」
「遠慮するなって。家を出るまでは僕の責任なんだから、怪我をされたら困る。
ああライダー、送るのは玄関まで出いいからな。外にさえ出てくれたら僕とは無関係だから、それまでは丁重に送ってやれ」
それだけ言って、彼は奥の部屋へ引っ込んだ。
ライダーを後ろに、私達は玄関まで来た。
「……ライダー。さっきの慎二の話は本当なのか?」
突然、衛宮士郎がライダーに話しかけた。恐らく駄目元だろう。
「――――」
「……だよな。悪かった、敵同士なのにつまんないこと訊いちまって」
そして、私たちが玄関をくぐると、
「嘘ではありません。あの山に魔女が棲んでいるのは真実です」
「え……ライダー?」
「挑むのならば気をつけなさい。あの魔女は、男性というものを知り尽くしていますから」
いきなり、饒舌に語りだすライダー。
……なるほど、玄関をくぐったから彼の命令はご破算ということか。
「あ、その……忠告、ありがとう。
――それと慎二のことをよろしく頼む。アイツはああいう奴だからさ、アンタが守ってやってくれ」
「……人が好いのですね、貴方は。シンジが懐柔しようというのも解ります」
言って踵を返す。と、
「貴方のサーヴァントもなかなかに大人しいのですね。少しでも怪しい動きをすれば私も動いた物を……」
「え……?」
「バレてた?」
言って、実体化する。
「お、フゴッ!」
何かくっちゃべろうとする衛宮士郎の口を塞ぐ。
「で、どうする?彼の命令はご破算になってるけど、戦る?」
「―――まさか、彼はああ言ってますが私も馬鹿ではない。今戦えばどちらが被害が大きいかは判っているでしょう?」
「後の話?――今の話?」
「さて……どっちでしょうか」
それだけいうと、彼女は去っていく。
大きくため息をついた。
「衛宮士郎、いい?絶対に私の名前を口にしない事。口の動きで勘繰られるから」
そう言ってから彼を解放した。
「ブハっ。お前……なんでここに?」
「障子張り用の紙を買いに出たらあんたとあの間桐慎二が歩いてるのを見かけてね。つけさせてもらったわ」
言いながら、屋敷を見上げる。
屋敷の窓はどれもカーテンが締め切られている。
「そ、そうか。で、ずっと後ろに?」
「しょうがないでしょ手を組んだんだから。ったく、手間を掛けさせないでよ。ただでさえ彼女が動けないってのにこんな軽率な真似を……」
「でも、お前遠坂のサーヴァントだろ。こんな場所まで俺を護衛する必要なんて……」
と、ある窓から嫌な視線がこっちを見下ろしている。あの間桐慎二が移動した場所とは全く別の場所だ。
こちらが気づいたと気づいたか、カーテンの奥に消えた。
…………ほーーーーう。
「……ア……おい?」
衛宮士郎が驚いたように私の顔を見る。
そんなに私の顔はにやけていただろうか。
「行くわよ、今のところここの用事は済んでるわ」
さて……これからだ。
バーサーカーのアインツベルン、セイバーの衛宮家、遠坂、そしてこのライダーの間桐家。さらに、網を張っているという柳洞寺。
何だろう、心のそこから笑い出しそうなくらい面白い。
面白くて、面白くて……、楽しくなりそうだ。
……で、その後一緒に衛宮家に戻り、凛が帰宅してきてから道場の現状を見るまで修繕の事をど忘れしていたのはご愛嬌である。
……今は反省している。
-To be continued-
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アーチャーステータス
クラス:アーチャー
真名:(現在記憶喪失)
性別:女性
身長・体重:165cm・56キロ
属性:混沌・善
筋力:B 魔力C
耐久:C 幸運:B
敏捷:B 宝具:??
クラス別能力:
対魔力D:一工程による魔術行使を無効化。魔除けのアミュレット程度。
単独行動B:マスター無しでも存在できる能力。2日程度。
詳細:
現在のところ不明。記憶喪失によるところが大きい。銃に関した技を使用する。
保有スキル:
戦闘続行B:瀕死状態でも戦闘ができる能力。
直感B:未来予知はできないが、行動予測という点での“読み”。
心眼(偽)C:記憶の中で眠っている感覚の読み出し、行動予測。
狂化D:理性を断ち、筋力、敏捷、耐久をワンランクアップする。気絶する事により、解除される。
wiseupラーニングC:戦った相手の技術を記憶する。Cランクなら物理的な剣術、体術等。
wiseupものまねC:ラーニングで習得した技術を再現する。Cならば体術までを再現可能。
ガンブレッドCQB(Close
Quarters Battle)
宝具ではないが、彼女が使用する銃に似た近接戦闘。
腕の筋肉に瞬時に力を送り込み、火薬のように爆発させ、拳圧で最大5メートルの距離にいる敵を殴りつける。
記憶喪失で力を出し切れていないため、威力はランクダウンしている。
宝具: 不明
2005/12/04