Fate/staynight
Fate/Unlimited
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6:二月五日・夜
side アーチャー
飯抜きで修繕をさせられた挙句、障子まで完璧に終わって居間に戻ってくれば、すでに桜とあの大河は帰った後だった。
で、
「………………」
「――――――」
何だというのだ、この沈黙は。
「アーチャー、何か私に言うことがあるんじゃないの?」
あぁ、明らかに怒ってるな。
「まぁ、衛宮士郎に聞いた事と寸分違いはないかと」
「だからって、士郎にくっついて、ライダーのマスターと会ってきた事くらい言うもんじゃない、普通?!」
テーブルぶっ叩いて激昂する我がマスター。
「……だって、道場の修繕が」
「私が帰ってくるまでニヤニヤしてサボってた奴が言う台詞かしら?」
「……正直すみませんでした」
――今は反省している。
「で、どういう話になってるの?
……って、今日のご飯は?働き詰めでお腹減ってるんだけど」
「あぁ、おひつに混ぜご飯が入ってるよ」
「サンキュ、まぁ後にするけど」
この雰囲気でひとりで飯を掻き込むと言うのはあほらし過ぎる。
「柳洞寺が落ちた霊脈で、誰かが陣取っていそうな環境が整っていて、正門しか入れなくて、まず罠が待ってるでしょうという。気乗りしない状況」
「なら、パスなんだ」
「そ。正直訊いただけの情報じゃ動けないわ。せめてどんなサーヴァントを連れているか判明するまで待つべきよ」
「意外ですね。凛ならば戦いに赴くと思ったのですが」
「侮ってもらって結構よ。戦うなら確実に勝つ。遠くから搦め手で来るような輩とはアーチャーと相性が悪いわ。だから、しばらく傍観する」
「わかりました。それではシロウ、私達だけで寺院に赴きましょう」
セイバーはやる気のようだ。……まぁそうだろうバーサーカー戦の後まともに戦闘をしていない。フラストレーションもたまるだろう。
「―――いや、俺も遠坂と同じだ。まだあそこには手を出さない方がいい」
意外にも我が未熟な協力者はセイバーの提案を却下した。
馬鹿ではなかろう。“罠”という単語が出てきていながら、それを無視して特攻するのは馬鹿か能天気な奴だけだ。……もしくはバーサーカー?
打開策が無い限り行くものじゃない。
あくまで戦いにこだわるセイバーと、未熟な自分を足手纏いと知っているマスター。
しばし、押し問答が続き、
「ああそうかよ。けどな、そう簡単に頷けるか。
以前だってそれでセイバーはバーサーカーにやられちまっただろう!?無理を通して戦って、また俺もお前も共倒れ、なんて真似を繰り返すつもりか!?
冗談じゃない、俺はあんな、無残に殺されるなんて二度とごめんだ……!」
その一言でセイバーの動きが止まった。
あーあ、言っちゃった。
今のを判りやすく言えば「倒されそうになったら俺はお前の盾になる」と言っていると同じだ。
正直、衛宮士郎もどうかと思う。マスターとしてセイバーを見ていない気がする。実際見ていないんだろう。
「……それを言うのは卑怯ではないですか、シロウ」
彼女は謝罪するようなそんな言葉を口にした。
「……卑怯で悪かったな。
とにかく、こっちから仕掛けることはまだしないぞ。
俺だって柳洞寺にいるマスターは放っておけない。けど俺達はまだ戦える状態じゃない。こんなんで戦ってやられちまったら、それこそ誰が柳洞寺のマスターを止めるんだ」
十中八九相手はキャスター。キャスターとして呼ばれたからにはそれなり程度じゃすまない罠が待っているだろう。
こっちは、抗魔力は最強のセイバー、並みの私と凛、で極弱の衛宮士郎。
行けばまず衛宮士郎は的だろう。次に私か凛、セイバーは放っとけば消える。……割に合わない。
「いいか、こっちから撃って出るのはおまえの傷が治って、万全の状態になってからだ。それに文句があるんなら、さっさと他のマスターを見つけてくれ」
あぁ、そういやセイバーってランサーに受けた傷もあったんだ。
「―――分かりました。マスターが、そう言うのでしたら」
結局、彼女は引き下がった。
その後、その場はお開きとなり、私はようやく飯にありつける運びとなった。
/// ///
side セイバー
雲が流れ、地上は無風。
されど遥か上空では轟々と大気がうなり、幾重にも連なる雲を泳がせていた。
「―――風が出るな」
上空を仰いで私は呟く。
次に庭の端にある土蔵を。
「―――貴方が戦わないというなら、いい」
私は庭に立つ。すでに武装は済ませ、剣を抜ける状態にある。
主の命には服従すべしという騎士の理念を破ってまで自分はここにいる。
否、これは彼を勝たせるための選択だ。逆らっているわけではない。
「彼は甘い。それでは他のマスターに殺されるだけだ」
彼が甘さを消せないのなら、自分が非情になるまで。そう、決める。
傷は癒えていない、さりとて戦闘に支障は無い。
自身の性能を確認して、視線を月に移す。
もはや主の眠る土蔵に関心は無い。
武装した以上、自身にあるのは敵を屠る意思だけだ。
そして、私は月が翳るのを合図に屋敷を飛び出した。
―――闇を駆ける。
寝静まった町並みを、駆け抜ける。
向かうべきは柳洞寺唯一つ。
寺に潜むマスターを単独で切り伏せる事がどれほど困難か、自分で理解している。
シロウの言うとおり、一人で挑んでは深手を負う事は目に見えている。最悪返り討ちのパターンもある。
だが、この身は英霊。恐れなど抱いて何が英雄か。
故に、例えどのような罠があろうと怯まず、単独であろうと挑むだけ。
勝機がないというなら切り開く。
持っているのは、幾多の敵を打ち破った名剣である。
この風王結界を持つ以上、恐れる物など何も無い。
「よ。おつかれ」
だというのに、住宅街の交差点で彼女はさも当然という風情で私の前に立っている。
ポケットに手を突っ込み、眠い目をして。
「アーチャー。何のようですか?」
「ご挨拶ね。見て分からない?」
「分かりますよ。私の邪魔をしにきたとしか思えない」
「だったら、帰るわよね」
「帰りません」
「あ、そ」
ゴン!
「―――!!」
次の瞬間に飛んできた一撃を剣で受け止める。
「ちっ、なかなか……」
気配も挙動も何も無く彼女は攻撃を放ってきた。
アーチャーは余計な言動を嫌う。意思確認だけして気絶でもさせようと言うのだろうから身構えていたが、何だ今のは?
「一応訊くけど、……もしかしてあんたのマスターのため?」
「それ以外に何があると?」
「いーえ、何もなさそう。さすがは騎士様ね。主のために根回しはやっておこうと言う根性は好きよ。
でも、主の決めたことを破るってのは、誇りに生きる者としてどうよって話」
「どうもこうも無い。私は勝つために呼ばれ、勝つために戦う。だから、私に逃げや待つなどと言う選択肢は無い」
どうする。アーチャーが邪魔に入るとは思わなかった。切伏せるのは簡単だが、それでは凛の戦力を奪うことに……、いや凛ともいつか縁を切る。ならば、ここでアーチャーを倒せば後の……
「あんた、兵を率いた経験ってある?」
「は?」
「戦場に立つ兵士ってのは、指揮官に左右されるって事」
「それが……何か?」
「戦場の指揮官は常に現場の様子を見て戦い方を決める。机の前にふんぞりかえって勢力図だけ見てる馬鹿な将校じゃない、一隊を任せられた指揮官よ?
重要な任務を背負ってる部隊の中に一人だけずば抜けた能力を持ってるくせに、はねっ返りな奴がいたとしましょう。
現場は密林、敵勢力不明。
指揮官は待機を命じた。けど、誰がどう見ても敵はいそうに無い。
その時はねっ返りが自己判断で勝手に進んで行ってしまう。指揮官が呼び戻しに部隊を進ませた所にゲリラが登場。
で、部隊丸ごと壊滅。
この意味分かる?」
「戦場の考察をする趣味はありません。どいてください」
「教訓は只一つ。チームの和を乱す奴は許されないって事。一人の突出がチームを危険にさらす。
今のあんたはまさにそれ。そんなことも分からずに英霊語ってたの?」
「…………聞き捨てなりませんね。私に兵法の心得がないとでも?」
剣先をわずかに下げる。アーチャーが言っていることがどうにも癪に障る。
「無いじゃない。ボロ同然の車でF−1に出るようなもんよ。負けが判ってるくせに、意地になって、ばっかみたい」
ギリッ……!!
「貴様……私を愚弄するか」
「何、怒ったの?でもそれがいい証拠よ。無駄に誇りがあるだけに始末が悪い。騎士って連中は誇りだ誇りだって自滅していく。
そうね……有名な騎士王ってのも、どうせそんな一銭にもならない物のために死んだんでしょうね」
ブチッ!
比喩無しに、自分の頭の血管が切れる音が聞こえた。
「貴様ーー!!!」
遠慮などしない。騎士の誇りを侮辱するものは許せない。特にこの女!
魔力を限界まで浸透させ、剣を握る。
「セイバー、キレるのもいいけど、それじゃアンタのマスターに戦闘中ですって教えてるようなものよ」
「―――!?」
魔力が霧散する。
そうだ。せっかくマスターに黙って出てきたというのに、これでは教えてしまっているようなもの。
令呪はマスターとサーヴァントを繋ぐ物。シロウ側からは薄いが、私の方からは……、
「貴方……まさか」
「非礼は詫びるわ。けど、戻らないなら私は貴方と戦う。戦えば衛宮士郎に貴方のことは伝わる。
私が手抜きできない相手だって事はさっきので判ったと思うけど?」
さっきの不可視の一撃。否、目視できない剣と違い、あちらは目視できない矢。
だが、攻撃の相性以前に、戦闘そのものが今の私には禁じられているというのか。
「衛宮士郎が貴方の異常を感づいて柳洞寺に駆けつけてきて、サーヴァントなりマスターなりに殺されたらあんたの行動は全くの愚作だったことになる。
とてもじゃないけど、それって誇りじゃ片付かないわよ」
「だが、私は勝つために……」
「戦うたびにマスターを危険にさらすサーヴァントが勝つなんて事できないでしょう。
違うか。アイツ、セイバーを只の女の子としか思ってないし」
「なっ……!私は女である前に武人だ。私を女と思うことが失礼ではないですか」
「アンタの都合は知らない。でもアノ男は、貴女が傷つくのがいやなんでしょ。だって、バーサーカーの前に飛び出したくらいなんだし。
たぶん、命の優先順位がアンタのが上なんでしょう?判っていても常に貴女の命が優先。だから、戦闘は極力避ける。
私のマスターは実利で戦闘を避けるけど、アンタのは思いやりで戦闘を避けてる。
思い返して御覧なさい。衛宮士郎が何度貴女の体調を理由に戦闘を避けたか」
…………………………
「もう一度言うわよ。アノ男はあんたを最優先に考えてる、女の子の盾になるのが当然と思ってるような奴。
気をつけないと、令呪を使ってでも戦闘を止めさせようとしてくるわよ。それどころか、あんたは置いといて、自分が戦うとか言い出しそう」
戦えば、常にシロウにそれが知れる。そうなれば彼は必ず追ってくる。私の事を大切に思う故に……、
「凛に、頼まれたのですか?」
「さあ、彼女なら寝てるんじゃない?」
「…………帰ります」
「OK。助かったわ」
/// ///
side アーチャー
セイバーと一緒に帰路に就く。鎧姿のままだがまあ誰も見てはいまい。
沈んだ表情で黙りこくったままだ。
「ま、大事に思われてるってのは女としてそう悪いものじゃないでしょ?」
「………………」
「やれやれ」
ようやく家にたどり着く。
「はーい、迷い姫のご帰還でーす」
「アーチャー、その言い方は止めてください。できれば」
「いやー、私こういう性格だから。あんたはさっさと部屋に戻って寝なさいな。今日少し魔力消費したんだから」
「はあ」
セイバーは家の中に消える。私は土蔵の方に歩く。道場の修繕をした際に使用した道具をいくつか外に出しっぱなしだったのだ。さすがに締りが悪い。
で、道具を片した後に土蔵を出るとセイバーが血相を変えて出てきた。
「アーチャー!シロウは中に!?」
「は?いない……け、ウソ!」
「柳洞寺です!やられました!」
「え、だってトイレとかじゃ……」
「見えませんか?糸が」
糸? 目を凝らして庭を見る。そう言えば、やたら長い糸が部屋から外に……はぁ!?
「ちょ、セイバーこれ……ちょっと!!」
セイバーはわき目も振らず屋敷から飛び出していた。
「言った先からこれか……」
衛宮士郎の受難振りには感服する。
セイバーを追って柳洞寺へ向かう。だが、返りの道で彼とは出くわさなかった。だとしたら、別の道を通ったのだろうか。いくらあの交差点が利便がいいからといって他に道が無いわけではない。よく言う地元の利という奴だ。
家に入り込まれた魔力の残滓。確実にキャスターの物だろう。衛宮家にも警報があるらしいが、それをして気づかれずに衛宮士郎をさらうとは中々に外れた腕の持ち主のようだ。
あの交差点を通り過ぎ、峠道を抜け参道を駆け上がり、嫌になるほどの石段が目に入ってくる。
セイバーの気配は上から、たぶん別の奴と当たっただろう。
「結界か……」
私はポケットに入っている物を確認し、横の林へと入る。
「当たるも八卦、当たらぬも八卦ってね」
−To be
continued−
*********************
アーチャーステータス
クラス:アーチャー
真名:(現在記憶喪失)
性別:女性
身長・体重:165cm・56キロ
属性:混沌・善
筋力:B 魔力C
耐久:C 幸運:B
敏捷:B 宝具:??
クラス別能力:
対魔力D:一工程による魔術行使を無効化。魔除けのアミュレット程度。
単独行動B:マスター無しでも存在できる能力。2日程度。
詳細:
現在のところ不明。記憶喪失によるところが大きい。銃に関した技を使用する。
保有スキル:
戦闘続行B:瀕死状態でも戦闘ができる能力。
直感B:未来予知はできないが、行動予測という点での“読み”。
心眼(偽)C:記憶の中で眠っている感覚の読み出し、行動予測。
狂化D:理性を断ち、筋力、敏捷、耐久をワンランクアップする。気絶する事により、解除される。
ラーニングC:戦った相手の技術を記憶する。Cランクなら物理的な剣術、体術等。
ものまねC:ラーニングで習得した技術を再現する。Cならば体術までを再現可能。
ガンブレッドCQB(Close Quarters Battle)
宝具ではないが、彼女が使用する銃に似た近接戦闘。
腕の筋肉に瞬時に力を送り込み、火薬のように爆発させ、拳圧で最大5メートルの距離にいる敵を殴りつける。
記憶喪失で力を出し切れていないため、威力はランクダウンしている。
2005/12/16