Fate/staynight

 

 

 

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 7:二月五日・深夜 柳洞寺

 

 

 side アーチャー

 

 

 とっときの手札を一枚使って結界を通過、柳洞寺内に乱入する。結界の影響は無かった。と同時にこの手が確実に使えるものだという自信も得る。

 寺の庭。遠くにセイバーと誰かの剣戟の音を聞きながら、目の前ではローブを着込んだ輩が衛宮士郎の体に触れ……、

 

「チェスト―――!!」

 

 飛び上がり、ありったけの拳を撃ち下ろす。

 

「―――!!」

 

 驚いたローブ姿が後ろに下がる。都合十数発の打撃を全く受けず、キャスターは立っていた。

 私は衛宮士郎を後ろに置いて対峙する。

 

「や、色男。夜中に美人と逢引なんてどこで覚えた洒落?」

「アーチャー……、何で」

「さあ―――単に運が無かったのかも。

 で、どう?キャスターの糸、切ったと思ったけど」

 

 そういわれて手足の挙動を確認する衛宮士郎。

 

「動く。キャスターの呪縛は解けた。けど……」

「ならよし。隙見て出ようとは思うけど……、あんま動かないでよ」

「く、アーチャーですって!?……貴方一体どこから!」

 

 キャスターは、私がどこから入り込んだかの方が気になるらしい。

 

「どこ?林の中からに決まってるでしょ。奇襲しに来たんだから」

「林……結界を抜けてきたって言うの?」

「どうやってとか聞かないでよ。面倒だから。

 ……それより、山門のほうで戦り合ってるアサシン。なかなか強いんじゃない?セイバーを押し留めて置くなんて結構な手練ね」

 

 ジリジリと移動しながら隙を探す。最も、常に周囲を障壁で覆っているキャスターに私の銃弾が通じるとは思えないんだけど。

 

「――ふざけた事を。あんな男、英雄などとは呼べない。御しがたいったらありゃしない」

「ふーん、てことはアンタとアサシンのマスターって協力関係なのね。後方支援と暗殺なんて取り合わせが皮肉すぎない?」

「――アーチャー今の本当か!?セイバーがここに来てて、アサシンと戦ってて、おまけにキャスターとアサシンが協力し合ってるって?」

 

 いや、あんた一気に聞きすぎ。

 

「現状見ればそうでしょ。セイバーの邪魔してる奴がアサシンなのは明白だし、だとすればこいつらと協力関係なのは簡単な推察よ」

「あ」

 

 だが、それを聞いたキャスターの方は、

 

「ふ。あはははは! 何を言い出すかと思えば、ずいぶん的外れなことを言うのねアーチャー」

「む。違うっての?だったら、そもそもアサシンがセイバーの邪魔に入るとは思えないんだけど?」

「見当違いも甚だしいわね。仲間ですって―――?

 私の狗にしか過ぎないあの男と?」

 

 笑い続けるキャスター。

 ……狗?何故狗なんて表現を使う。

 狗――飼われるもの、蔑みの言葉、主従の……。

 

「……まさか、あのアサシン」

「そう、貴女の予感は正しいわ。私のマスターは誰とも手を組んでいないし、アサシンのマスターも同じ。

 そもそもあの狗にマスターなど存在しないのですからね」

「な―――に?」

 

 衛宮士郎が疑問を口にする。

 

「……へぇ、じゃあアサシンのマスターは早々に退場したって事。マスターの代わりをアンタがやってると?」

 

 マスターがいなければ魔力という命を供給されないサーヴァントは消える。だとしたら、あそこにいるアサシンは誰に魔力を供給されているか。考えるまでも無い。

 

「あら残念。それも違うわ。サーヴァントを呼び出すのは魔術師。ならば魔術師の私がサーヴァントを呼び出せるって言うことを、思いつかなかったのかしら?」

 

 ―――てことは何か?

 

「あんた……、ルールを破ったのね」

「厳密には破ってなどいない。サーヴァントがサーヴァントを呼び出したことで、ちょっと齟齬が生じただけよ」

 

 だとしたら色々と、不都合が生じる。

 まずこいつのマスターはどこにいる。サーヴァントがサーヴァントを呼びつける。それを彼女のマスターが許可したとは思えない。

 魔術師同士の間に生じるのは主従関係だけとは言えないからだ。自分より優れた魔術師を呼んでおいて、そんな勝手な真似をされては迷惑極まりない。

 だったら、彼女はマスターを確実に掌握していることになる。さっきの衛宮士郎よろしく操り人形にされているに違いない。

 

「なぁる。ライダーがアンタを魔女と呼ぶのも判るわ。

 対魔力のあるセイバーやランサー、ライダー用の手駒としてアサシンを召喚する。アンタはせせこましく魔力の集積。

 引きこもるだけがキャスターと思ってたけど、なかなかどうして策士だこと」

「――――――。

 貴女は正しいわアーチャー。でも勘違いしてもらっては困る。聖杯戦争に勝つなんて簡単だもの。

 私が貴方たちに敵わない訳じゃないのよ。私がここにいるのも後のことを考えているから」

「簡単ねぇ……。引きこもりの魔女がよく言うわ」

「言ったわ。ここなら私は誰よりも強いもの。セイバーやバーサーカーならいざ知らず、貴女程度じゃかすり傷も付けられないでしょう」

 

 うーむ、痛いことを言ってくれる。

 確かにさっきの連射もキャスターを狙っていた。だが、そのほとんどは彼女の障壁で防がれてしまっている。溜めの長いパイルバンカーや、デザートイーグルを使わせてくれるとも思えない。

 

「それより、貴女こそ逃げる算段をつけたらどう?

 一度目は許しても二度目は無いわよ。私を“魔女”と呼んだものには相応の罰を与えます」

 

 魔力が集まり、キャスターの周囲に陽炎を成して溜まって行く。

 

「―――じゃあ、一つ試したら逃げますわ」

 

 言って、私はポケットに手を突っ込んだ。

 

 

 

 /// ///

 

 side 衛宮士郎

 

 

 

 アーチャーがポケットの手を突っ込んだ次の瞬間だった。

 

 ドパン!!

 

 不可視の何かがキャスターの頭をスイカのようにぶち割っていた。

 そのまま血も流さず空中に溶け消える。

 

「あら――――」

 

 取ったというより、唖然とした顔でアーチャーが漏らした。

 大口の叩いた割りにあっけなさすぎる。

 だが、アーチャーがいまやったのはなんだ?彼女はポケットに手を突っ込んでいた。その状態から離れたキャスターを攻撃したというのか。音も気配もないままに。

 

『……………………』

 

 キャスターの体が完全に消えて、緊張が解けようとしたその時、

 

「……驚いたわ。貴女もなかなか奇妙なことが出来るのね」

 

 いないはずの境内に、キャスターの声が響いた。

 次の瞬間には、上空から光弾が飛来してきた!

 

「いやぁ、それほどでも」

 

 アーチャーがそう言うと同時に、飛来した光弾が空中ではじけ飛ぶ。

 そして、もう一発も同じ道をたどる。

 それから、アーチャーは上空を仰ぎ見た。

 空には満天の星、黒い雲が雲海のごとく。そして、その中心に羽を広げるようにキャスターがいた。

 

「さすが。トカゲの尻尾きりとは恐れ入るわ」

「そう?けど、今のがそう何度も続くかしら」

 

 そして、次に見たのは冗談のような光景だった。収束する魔力。アーチャーに向けられる杖。その周囲に展開される無数の光弾の球体。

 

「チッ―――!」

 

 アーチャーが動いた次の瞬間、魔力で作られた光弾がそれこそ雨のように降り注いだ。

 際限のない雨。一撃が必殺の魔術を雨霰と撃ち出している。

 桁外れなのは俺にだって理解できる。

 コレだけの魔術を杖を向けるだけの動作で発動するなど、比較対象が思いつかない。

 

「このっ!」

 

 だが、アーチャーはそのほとんどを撃ち落していた。何をどうやっているのかさっぱりだが、変わらず手をポケットに入れているのに降り注ぐ光弾が一定の間合いから入れずにいる。しかし、全てとは行かない。自分の落下範囲に入っていないものは、無視していた。

 キャスターも落とされるたびにより多く、より強く光弾を形成していく。いずれ限界が……、

 

「何ボケてんのよ、この馬鹿!!」

 

 いきなりアーチャーがこっちに走って来る。そして、あろう事か俺を抱えだした。

 

「ちょ、何するんだ!」

「何じゃないわよ、スカタン!死にたいの?」

 

 信じられない。自分よりがたいの大きい俺を抱えて走っている。しかもその状態で光弾を撃ち落しながら。

 

「降ろせよ!―――何考えてんだ!」

「黙ってなさいよ!助けに来たのに呆けてるあんたが悪い!」

 

 また撃ち落す。だが、さすがにその数は少ない。手もポケットから出し、最低限自分の上から来る奴だけを落とすので精一杯だ。

 こんな状態じゃ、キャスターからすれば格好の的だ。現に今も……、

 

「アーチャー!上!!」

「―――!」

 

 数に任せた雨ではなくただ一発。キャスターは砲弾のような魔力を光弾に形成し、

 

「―――この!」

 

 アーチャーが、俺を蹴り飛ばした。

 キャスターが光弾を放つ。

 体勢が崩れた状態でアーチャーはそれでも地を蹴り、至近距離で光弾の着弾の衝撃を食らった。

 

 

 

 /// ///

 

 side セイバー

 

 

 時間が少し巻き戻る。

 セイバーが山門へ到着したときだ。

 

 

 足がひたりと止まった。その視線の先には男が一人。気配は人間ではない、だとすれば……、

 

「貴様に用は無い。そこをどけ、アサシン」

 

 不可視の剣を構え、間合いを計っていく。今はとかく足場が悪い。有利さで言えばアサシンに分がある。

 だが、当のアサシンは現れた相手をまじまじと見つめ……、

 

「なるほど、そういう事か……」

 

 などと、一人呟いている。

 

「……。もう一度だけ言う、そこをどけアサシン。退かぬならこの剣の錆になるぞ」

 

 妙な感じだった。その紅い男からは何も感じない。風格も、威厳も、感じない。

 アサシンというサーヴァントがまっとうな英雄であるはずも無い。だが、それを抜いてもそのアサシンからは冷たい人間味以外の何も感じられない。

 

「悪いが、出来ん相談だな」

 

 事もなげにそう言うと、その両手に一対の剣が出現した。

 

「あいにく俺はこの山門の警備を任せられている。昼ならばいざ知らず、夜来る者は片っ端からお帰りいただいている。

 お前もその例に漏れんぞ、セイバー」

「……ほう、私がセイバーだと何故解る」

「―――知っているさ。恐らくこの聖杯戦争に参加している誰よりも、俺はお前の事を知っている」

「何?」

「貴様に衛宮士郎を返すわけにはいかんな。キャスターが奴から令呪を奪った後、俺がアイツに用がある。

 来るなら来い、セイバー。四半時も持ちこたえれば、それでいいのだからな」

「――――」

 

 アサシンの言っている事は気に掛かる。だが、それより奴の言った四半時の制限時間。

 階段を駆け上がる。ただ、士郎の無事を祈って、剣を振るう。

 

 

 

 /// ///

 

 side 衛宮士郎

 

 

「アーチャー!!ぐ……」

 

 至近距離で光弾が着弾し、アーチャーがまともに吹っ飛ばされた。そのまま力なく地面に転がった。ボロボロになって完全に意識を失ったようだ。

 

「余計な手間を掛けさせてくれたわね」

 

 アーチャーの沈黙を確認し、キャスターが空中から降りてくる。

 

「ちょっとは期待したんだけど、所詮はアーチャーって事ね。マスターでもない男を守って死ぬなんて愚かな女」

「―――くそ、」

 

 アーチャーが蹴り飛ばしたおかげで何とか被害は免れた。だが、まともに腹を蹴られたせいで満足に力が入らない。

 

「残念だったわね、坊や。せっかく守ってもらったというのに、結局、死ぬ羽目になるんだもの」

 

 キャスターが近づいてくる、その手に魔力を込めて。

 アーチャーはまだ死んだわけじゃない。それに山門にセイバーが来ているはず。アサシンがセイバーに敵うはずも無いし、山門までいければ助かる道は……、

 

「え……」

 

 思わず、そんな声が出た。

 

「―――?」

 

 視線はキャスターではなくその向こう。吹っ飛んだアーチャーに向けられている。キャスターがなんとなく振り返ったその先で、

 

 

「※※※※※※※※―――――!!!!」

 

 

 それはまた、雄叫びを上げていた。

 

 −To be continued

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アーチャーステータス

 

クラス:アーチャー

真名:(現在記憶喪失)

性別:女性

身長・体重:165cm・56キロ

属性:混沌・善

 

筋力:B  魔力C

耐久:C  幸運:B

敏捷:B  宝具:??

 

クラス別能力:

対魔力D:一工程による魔術行使を無効化。魔除けのアミュレット程度。

単独行動B:マスター無しでも存在できる能力。2日程度。

 

詳細:

 現在のところ不明。記憶喪失によるところが大きい。銃に関した技を使用する。

 

保有スキル:

 戦闘続行B:瀕死状態でも戦闘ができる能力。

 直感B:未来予知はできないが、行動予測という点での“読み”。

 心眼(偽)C:記憶の中で眠っている感覚の読み出し、行動予測。

 狂化D:理性を断ち、筋力、敏捷、耐久をワンランクアップする。気絶する事により、解除される。

 ラーニングC:戦った相手の技術を記憶する。Cランクなら物理的な剣術、体術等。

 ものまねC:ラーニングで習得した技術を再現する。Cならば体術までを再現可能。

 WiseupガンブレッドCQB(Close Quarters Battle)

        宝具ではないが、彼女が使用する銃に似た近接戦闘。

        腕の筋肉に瞬時に力を送り込み、火薬のように爆発させ、拳圧で最大5メートルの距離にいる敵を殴りつける。

        無音、無動作による攻撃を可能とする。ただし、一発の攻撃力は9mm銃弾程度。

 

2005/12/19