過去への決別
2
噴き出す怒りと共に、手が銃に伸びかける。その手を握り締め、殺気を押さえ込む。そうしなければここに来た意味が無い。
衛兵が下がり、アイリスとグレイは対峙した。
「ふん。銃なんぞぶら下げてグラサン姿か。持ってきた情報如何では、貴様、即刻逮捕するぞ。」
傘に着ないぞんざいな言い方。優しい声を掛けてはくれなかった父だが、さらに磨きがかかったか?
段々と気持ちが落ち着いてくる。声を聞いて冷静さが戻ったせいだろうか。
「さっさとそれを外せ。いい加減目障りだ!」
6つの目が見つめる中、アイリスはゆっくりとサングラスを外す。
ガタンと、ソファを蹴倒す勢いで左の女性が立ち上がる。
「アイリス!?」
早々に母親は気づいたが、グレイのほうは眉を少し動かしただけだった。いい根性だ。
「アイリスよね!あなた……」
「マリア!よせ」
詰め寄って声を掛ける母親をグレイが鋭く制する。
「あなた!アイリスよ。死んだはずのアイリスが帰ってきたのよ!」
――死んだ……か。よく言ってくれるわ。
「よせと言っている!あいつは死んだ!移送中に殉死したと言っただろう?」
その相貌があたしを睨みつける。グレイもまさか帰ってくるとは思ってもみなかったのだろう。
「でも……!」
「お母様……」
右の女性が声を発した。極めてお嬢様な話し方だ。いきなりの母親の興奮についていけないのだろう。
「こちらの……方は?」
「グレイシアは初めて会うわね。あなたの妹のアイリスよ!この前死んでしまったって訃報を聞いたけど、まさか生きていたなんて……!」
「アイ……リス?」
想像とだいぶ違って見えるのだろう。まぁ、写真写りがよかったとは言わない。それに、眼光鋭く父親を睨みつけるというのもいただけない。
「グレイ・スチュワートさん、ですね?」
極めて事務的に、母親には悪いが無視して、グレイを見据える。
「アイリス、母さんよ!分からない?」
しつこく声を掛け続ける母親を軽く押しのける。
「私はあの人と話をしているんです。余計な話は後にしてください」
顔を見ずにそう言った。
「アイリス……」
「できればあなた方にも話を聞いていただきたい。どうか座ってください」
そう言われて、すごすごとソファに座るマリア。
「で、どんな情報を持ってきた」
ひじを突き、手を組んだ格好でグレイが問う。
「えぇ、あなた方の元ご息女。アイリス=スチュワート嬢死亡の詳細報告です」
アタシの台詞にグレイの口元がゆがむ。
『……!!』
「聞きたくも無い」
グレイの言葉は辛辣だ。
「アイツは移送中に死んだ。それ以上の何がいると言う……」
「私は聞きます。」
強い口調でマリアが声を発した。
「アイリス。聞かせて頂戴」
母親は聞く気だが、グレイは立ち上がった。
「聞く気は無い。悪いが出て行ってもらおうか」
言って呼び鈴に手を伸ばし、
シュタンッ!
呼び鈴と指の間に薄刃のナイフが突き立った!
「くっ!?」
慌てて手を引っ込め跳ねるようにこちらを見る。アイリスの右手が前に伸びている。まぁ、今の動きが左右の二人にも見えたかどうか。
手が鋭く動くと、再びその手にナイフが現れた。
『――!?』
「動かないで貰いましょうか?グレイさん」
「ふん。脅迫するか?私を」
「話を聞いてもらいたいだけです。特にあなたには」
「……よかろう」
苦い口調でそう言って席に戻る。
「手を机の上に。机下のブザーを押されるのも面白くありませんから」
「ふん」
そして、先ほどと同じ体勢に戻る。まぁ、足で押せると言うこともあるがそのときはその時。
「では、お話しましょう。あれは……」
アイリスが語ったのは無論、護衛艦隊が交戦になり、里中達が救援に駆けつけたあたりからだった。詳細に全てを語り、最後に叔父との事件。
「……というわけです」
「あなた!!」
終わったとたんにマリアが立ち上がって怒鳴った。
「あなたと言う人は……アイリスを見殺しにしたのですか!?」
「……知らん」
やはりグレイは表情を変えずに言った。
「確かに弟はネオジオンに肩を貸す不届き者だが、アイリスを盾に取ったという話は知らんし、話もしていない。
アイリスは移送中に死んだ。この事実だけだ。」
「……やれやれ。」
呆れるように声を出すアイリス。
「じゃ、私のことはどう説明をつけるつもり?」
「……やっぱり!」
マリアに笑みを返し、再びグレイを見据える。
ここに来てアイリスは自分という札を切った。
「死んだはずの、アイリス=スチュワートここに帰還せりです」
しかし、
「ほう……。ならば、証拠は何処にある」
揺らがない。自身を明かしたアイリスに対しても全く。
「お前が、本物のアイリスであると言う証拠がな」
「あなた!……あなたと言う人は」
「母さん。」
アイリスが声を掛けた。
「……座っていて」
「…………」
アイリスの自信に満ちた口調にマリアも静かになった。
「……そう、無いわね。確かに」
グレイの口元に笑みが、しかし、
「生命保険。通行許可ライセンス、……」
いきなり様々な名前を列挙するアイリス。その全てが関係各所に届け出て正式な交付が必要なものばかり。
「不思議よね。死んだはずの人の記録が何も残っていないなんて。護衛艦隊作戦指令書も消えていたわ。普通、消えそうも無いものまで」
「…………」
「あたしに関するありとあらゆる証明という物がことごとく消える。おかしいと思わない?ねぇ、姉さん」
「え……?」
話を振られて考えるグレイシア。
「……確かに、おかしいです」
「ほら。誰かが消したとしか考えられないのよね。誰が消したのかしら」
皮肉を込めてグレイを見るアイリス。
「でも、ひとつだけ消えていないものがあったわ」
ピクッとグレイの眉が動く。
アイリスはコンテナリュックに手を伸ばす。上が開いて、一枚の書類が顔を出した。それを提示し、
「医療機関発行の出産届けよ」
グレイの口が憎々しげに歪んだ。
「確かにライセンスその他は抹消も出来るわ。けど、これだけは別。医療機関は独立した機関。軍とはいえ簡単には介入できない仕組みなの。残念だったわねぇ、これが消えればアタシの存在その物が消えて無くなるんだから。」
「……社会的に……抹殺」
グレイシアがつぶやいた。
「そう。そして、もう一枚」
もう一枚を取り出して提示する。
「これは、私の血液診断書。ちなみにDNAのね。
病院というのは便利なシステムがあって、行方不明者がひょっこり帰ってきたときの為に、記録を完全に削除はせず死後2年くらいは保存する決まりがあるの。このDNA鑑定書があればその場で再発行してくれる。無論、ハッキングできないようにローカルのスパコンに入れることになってる。簡単には消せない。消せたとしても、出産証明と照らし合わせれば同じこと。これで出産証明書と合わせてまず保険証が生き返る。
後は、その保険証から全ての証明書を再発行してもらえばいいだけ。ちなみにもうやってきているんで、あしからず」
指を立てて言うアイリス。
「つーことで、私は正式にスチュワート家の人間ということ」
「……すごーい」
素直に拍手するグレイシア。
「さて、アタシの身分も証明されたところでこっから本題よ」
グレイを再び見据えていった。
ここでさらに札を切るつもりのアイリス。
「母さん。父さんが浮気しているって噂聞いたことある?」
唐突に切り出した。
「なっ……」
「い、いえ……」
グレイが思わず声をあげ、マリアが否定した。
「突き止めたのよねぇ、浮気の証拠」
「…………」
何も言わないつもりらしい。
「いいでしょう。聞かせてあげるわ。
えぇと、あたしが連邦の軍事機密ファイルにハッキングしたときに見つけたものなんだけど……」
「なっ……!」
思わず立ち上がるグレイ。
「あら、どうしたの?」
「貴様、それがどういうことか分かっているのか?」
「一応はね」
「軍事機密ファイルは独立したネットワークの中にあり、なおかつアクセスする端末も限られている。ハッキングしようとすれば軍事コロニー内の端末まで行く事になるのだぞ。そんな真似ができるか!戯言をぬかしおって」
「行ったのよ、これが。」
平然と答えるアイリス。
「結構面白かったわ。ゲームの中より緊張感あったし。でもセキュリティの拙さには幻滅したけどね。
あんまりつまらないから帰りには警報をわざと作動させたわ。面白かったわよ〜。右往左往する警備員を眺めるのって」
「貴様、本当に言っているのか……。それを」
「嘘に決まってるでしょ」
あっさりと、アイリスはとんでもない発言を否定した。
「誰が、そんなことすると思うのよ。馬鹿じゃあるまいし。それに、証拠はあるの?侵入したという証拠が」
「くっ……」
もはやグレイはアイリスの手の上で踊らされている状態だった。
「それにあたしの発言だけでむやみに逮捕しようものなら、逆にあなたのほうが痛い目を見るのよ」
「どういう意味だ?」
アイリスはポケットから一枚のカードを取り出した。
「これ、今アタシが所属してる軍の身分証なんだけど、姉さんちょっと読んでみて」
カードを受け取ったグレイシアは指でなぞりつつ、
「……エンゼル中将管下特務艦ジャンヌダルク所属、上級特佐、アイリス=スチュワート」
『なっ!?』
これにはグレイとマリアが同時に反応した。上級“特佐”!?
「今のアタシはあなたより階級が上なの。曲げようの無い事実としてね」
「偽造だろう……」
「確認すれば?叱られるだけよ?」
苦し紛れの反論も叩き伏せられる。
「でも、どうやって?」
マリアが聞く。
「働きが良かったからかな?」
いけしゃあしゃあと言い放つアイリス。
「さて、これはほっといて話を戻すわよ。浮気の証拠、医療機関が独自調査で行っている人物検索で引っかかったのよ」
言ってまたリュックから数枚の書類を出す。
「地球圏、コロニーを含めてスチュワートという“姓”は約3000万人。
死亡者や50歳以上を除外して約3万人。この内軍に所属するのは3000人。仕官に絞ると200人。佐官クラスは40名。
最終的にこの40人を全員洗ったわ。そうしたら不思議。最新のデータで父親の名前が一致する子供がなんと7人も出てきた。」
「まさか……」
マリアが愕然とグレイを見た。グレイも顔面蒼白になっている。
「一人目。アイリス=スチュワート。紛れも無く私。
二人目。グレイシア=スチュワート。姉さん。
三人目……」
「やめろ!!」
叫んだ。恥も外聞も無く。
「………分かった。認める」
「………お父様」
「…………」
呆然と二人はグレイを見る。
「ごめんね。母さん、姉さん」
アイリスが重くつぶやいた。
「あたしも自分のことしか考えていない。こうしないと気が晴れないの……」
「アイリス……」
グレイは今や力なく、椅子にもたれている。
マリアはアイリスとグレイを見ていたが、しばし、毅然として言い放った。
「……たった今より、あなたとは離縁させていただきます。よろしいですね?」
「お母様!?」
「あぁ、行くがいいさ。どこへでも……」
悲しい家族の一瞬だ。
グレイシアをつれて部屋を出て行こうとするマリア。しかし、
「まだ終わってないわよ!」
『――!』
言い放ったのはアイリスだ。
「まだ何かあるのか……」
「えぇ。私達を弄んでくれた清算ができてないわね。失うなら全てを失ってもらわないと」
「……何?」
「実は、この書類に書かれたあなたの愛人とその子ども全員に会ってきたわ」
「何だと!!?」
椅子を蹴倒して立ち上がるグレイ。
「んで、ありのままを全て暴露してきたわ。」
「……き、……貴様……」
血管浮かび上がらせて激怒するグレイ。
「正体見せたわね。権力に執着しているって聞いたけど、外交的には妻と子供がいないと様がつかないと思ってるようじゃ半人前よ」
グレイシアとマリアを後ろにしてアイリスは毅然と立つ。そして、リュックから最後のカードを取り出した。
「余計かと思ったけど、5家族分の離縁状。母音付で貰ってきてあげたわ。役所に出してあるコピーだからもう手遅れよ」
次の瞬間、机が豪快に吹っ飛んだ!グレイが怒りのままにひっくり返したのだ。
「きさまぁぁぁぁぁ!!!」
ひっくり返った机の先のグレイの手には銃が握られている。コルトガバメントだ。
「伏せて!」
言うと同時にリュックから斜めに剣が飛び出した。もちろん「赤竜剣」である。抜くと同時に銃が火を噴く。
しかし、
ギンギィンギギンギギィン!!
撃ち込まれる弾丸のその全てが、アイリスの握る一本の剣によって弾き飛ばされる。
「――!!??」
信じがたい目の前の状況に弾切れを起こしたことさえ忘れるグレイ。その隙を見て床を蹴り、瞬時に肉薄するアイリス。後ろのドアにはかんぬきを掛けてある。しばらくは誰も入ってこれないはずである。
ジャッ!
剣が一閃する。一瞬の後、コルトガバメントが斜めに断ち切られた。衝撃でグレイも窓際まで吹っ飛ぶ。
「ぐはっ!……くぅ」
呻き、見上げるグレイ。アイリスは剣を持ち替え右手で懐の銃を抜く。例のコルトSAAである。
「悪人根性は大した物ね。でも、あたしを相手にしてそれが通用するかはまた別よ」
弾倉を開放し、3発を抜いた。間を開けて。
「あたしに銃を向けたことはいいとしましょう。けどね!」
激鉄を上げ、二の腕で鋭くシリンダーを回転させ、殺気と共に突きつける。
「あたしの家族に銃を向けたこと!その身を持って後悔するといいわ!」
指に力がこもる。その時、
「アイリス!やめて!」
カチーン!
乾いた金属音が響いた。引くつもりでいたから声がかかると同時に引ききってしまったのだ。しかし、結果として弾丸は出なかった。
『…………』
「……命拾いしたわね」
憎々しげにそう言ってアイリスは銃を引く。
グレンは緊張の糸が切れたのか、そのまま横にずり落ちる。
剣もリュック内の鞘に入れ、戻ってくる。
「アイリス……あなた」
「出ましょ。母さん」
唖然とする2人にアイリスは語りかける。
「港に船がある。こんないけ好かない場所はさっさと出るに限るわ」
笑いかけ、肩を叩く。
「中佐!中佐!?何事ですか!!」
扉の外で銃声を聞きつけた衛兵が駆けつけてくる。扉を開けようとするが、中から閂がかかっているため開かない。
「破るんだ!」
数人が扉に体当たりする。数回体当たりを繰り返した後、ついに閂が弾けて扉が押し開き、
どごぉぉぉん!!
入ってきた全員に机がぶち当たった!その衝撃のまま壁に叩きつけられる。もちろんアイリス以外にでかい机を持ち上げて投擲しようなどとは考えない。
「こっち!」
アイリスは2人を先導して部屋を飛び出した。しかし、気を失ったと思っていた一人が壁の非常警報を押したのである。
基地中に警報が鳴り響いた。
「くっ……まずいわね」
警報を受けて、基地内の空気が緊迫したものへと移り変わったのを感じるアイリス。
実際に警備室では、アイリスとグレイの部屋の状況が確認され、基地内に放送が流れる。
『中佐のご家族が拉致された!目標は凶悪な武器を所持している模様。至急対処せよ!至急対処せよ!』
「拉致ですって」
『…………』
「人の気も知らないで何をのんきな」
誰ともなくそう言ってアイリス達は出口近くまでさしかかる。そして、出口には武装した警備兵が十数人。
『止まれぇ!貴様は完全に包囲されている!武器を捨て、人質を解放せよ!!』
拡声器越しに怒鳴る。警備隊長らしき人。
「アイリス、どうするの?」
「こうよ。」
言って懐から紙切れ、もとい呪の書かれた札を取り出した。
「天尊神地尊神、札に封じし白虎よ、我が敵を討て。急急如律令!」
言うと同時に札を投げ放つ。ナイフが飛ぶように一直線に警備兵に飛ぶ。警備兵は何をするのかと唖然としたが、それが命取りとなる。
「王虎雷帝!!」
札が強烈な光を放った!
『――!!?』
バリバリバリ……!!
『ぐおおらじぇあえ〜〜!!』
悲鳴が入り混じって何を言っているのか分からない。が、警備の全員が雷撃に身を打たれたのは事実。全員がもんどりうって倒れる。
「はい。一丁上がり」
「……そんな物をどこで」
グレイシアの突っ込みは無視して外へと走る3人。むろん外にも警備兵はいる。アイリスは外に出る直前にリュックのボタンを押した。
そして、外に飛び出したとたんに一斉射撃の雨が降った。しかし、
「な、何だ!?」
「弾が……!!」
「……避けていく」
そう、弾丸のその全てがアイリス達をかわしていくのである。ありえないことだった。弾丸の弾道が捻じ曲がるなんて。だが、目の前の光景は何だ!?
銃撃だけで取り押さえようとしない警備兵達をあっさりとやり過ごし、車のところまでやってきた。アイリスはリモコンでドアをあけると、二人を中に押し込む。そして、一人外に残ったのである。
「アイリス!何をする気!?」
「ちょっと、遣り残したことがね。一応バリアは張っておくから心配しないで。」
「アイリス!アイリ……」
母親の叫びはアイリスが車に装備させたバリア機能によって遮られる。ドーム状に車を囲むバリアの外で、アイリスは基地に向き直った。馬鹿の一つ覚えと言うか、依然として銃弾はアイリスを襲っている。むろん当たらない。
「さ〜て、少し運動していきましょうか」
ゆっくりと歩き出すアイリス。銃撃がひときわ激しくなる。意味のない事を。
今更ながら解説すると、リュックに仕込んだ“ある装置”のせいだった。超強力な磁場を発生させて、アイリス周辺の流れを変えているのである。「磁界フィールド」とも言う。銃弾ぐらいなら、何千発食らおうが当たりはしない。地味に既存技術だったり。
アイリスの手が銃に伸び、ゆっくりと引き抜く。歩きつつ無造作に狙いを定めた。
ドドゥン!!ドゴガァァァ……!!
爆発炎上したのはトラックだった。横を向き、さらに2発。今度は迫撃砲が爆音を上げた。
迫撃砲や、トラック、戦車等。それをデザートイーグルの一撃で次々に粉砕していくアイリス。
ふと、目をめぐらせると、兵士の一人が残った迫撃砲をこちらに向けている。アイリスは右手の銃をしまい剣に手を伸ばす。
ドォン!!
発射される迫撃砲弾。
ギィン!!
一瞬後に起こる、金属音。そして上がる爆音はアイリスの後方、2つの警備小屋だった。アイリスは剣でもって砲弾を真っ二つに斬ったのだ。
「……化け物!」
アイリスが返す刀で剣を振るう。剣からは衝撃波が飛び、砲台を破壊した。
「く〜〜、一回やってみたかったのよねぇ、基地を壊滅させるのって♪」
アイリスにとっては鼻歌交じりでこなせるものらしい。あまりに非常識である。
『おおおおおおお!!』
血気にはやったのか、銃が効かない事に諦めたか、数人がナイフを片手に向かってきた。
「勇気と無謀を取り違えるなんて……、ここの軍の規律ってどうなってるのかしら」
言って剣を一閃。突風が巻き起こり、向かってきた全員を吹っ飛ばす。そして、再び二丁拳銃で今度は兵士の武器を狙い打つ。
シン達に無駄な流血だけは避けるように言われてきたので、アイリスも相手の戦闘力を削ぐ事を念頭に戦っている。
といっても……、さっきから銃弾が雨あられと飛んで来る。それは全てアイリスの前で軌道を変えて通り過ぎる。不幸な奴はその流れ弾でやれている。
「はぁ……」
ため息をついた直後、アイリスの姿が消える。
『――!!?』
次の瞬間、そこら中から金属の断ち切られる音が連続する。アイリスは高速移動で掛けながら武器を破壊しまくっているのである。ついでに兵士達に当て身を食らわせながら気絶させまくってもいる。見る見るうちに兵士達の数が減っていった。
「……っと」
立ち止まるアイリス。そのときには、周囲の兵士は漏らさず倒されていた。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
残った兵士達が我先にと逃げていく。
「遅いのよ。逃げるのが……」
やれやれという表情で剣を仕舞うアイリス。しかし、今度聞こえてきたのは機械の駆動音!
「…………、こうこなくちゃねぇ」
振り向いたアイリスの目には次々起動する。MSの姿が映る。
MSネモはいきなり手に持ったビームライフルをぶっ放してきた。
「っと!」
さすがにこれは磁力でどうこうできるものではない。アイリスは横っ飛びで回避し、狙いをつけなおそうとするライフルの銃口めがけ、こちらは人外のスピードでポイントし、ぶっ放す!
ゴバァァァン!
エネルギーが収束していたライフルは一撃で簡単に自壊した。さらにアイリスは剣を抜くと、一気に差を詰め足を袈裟懸けに斬る!
両足は見事な切り口を見せて斬れた。そして、上体がずり落ちる。派手な音を立てて倒れるネモの上に乗り、さらに顔の上に跳ぶ。銃を構えると顔面のモニター目掛けて鉛弾を十数発叩き込む。いくらがんじょうなMSと言えど、モニターの部分は強化するにも限界がある。デザートイーグルの一掃を受けたモニターは無残にも爆発したのであった。
「一応、コクピットは外すわね」
着地しつぶやくアイリスの手に数本の針が現れる。それを振り向かないまま後ろに投擲する。小気味いい音を立てて針は後ろに迫った3機のネモの顔面に突き立った。
シャリーン。
針には鈴がついていた。その鈴が鳴る。その途端、その針が大爆発を起こす!モニターが使えなければMSもガラクタ同然である。パイロット達は機体を停止させると一目散に逃げていった。
『死ねぇぇぇ!!』
もう一機。ライフルを発射した瞬間にはアイリスは視界から消えている。そして、そのパイロットが最後に見たのは剣を振りかぶるアイリスの姿だった。
モニターを、両腕を、両足を一瞬にして切り落とす。コクピット部分が土煙を上げて落下した。
立ち上がって見渡せば、すでに動くものはいなくなっていた。全員気絶したか、逃げたかしたらしい。
改めてあたりを見渡すと、剣をしまい、銃をホルスターにしまった。踵を返したその時!
パン!
乾いた音が響いた。アイリスが振り向く。その先には倒れながらも拳銃を撃った兵士の姿が。
「残念ねぇ……」
弾はやはり磁力で捻じ曲げられていた。
「……くっ」
「おとなしく、寝てなさいよ!」
アイリスは振り向きざまに右手にエネルギーを集中、ボール状にして手放し、“蹴った”。
ドゴォォォン!!
「ぐわぁぁぁぁ!!」
無駄な抵抗を試みた兵士の最後であった。……死んでないけど。
時間は数分前に遡る。
「中佐!中佐!!」
兵士の数人がグレイを救助に来ていた。
「……む、むう」
なんとか身を起こした、グレイ。しかし、目に焼きついたあの光景が消えなかった。銃を突きつけたアイリスの見ただけで殺されるようなあの目。
「くっ……。奴はどうなった!」
その妄想を振り払い、聞くグレイ。
「はっ、ただいま追い込んでいる途中であります。まもなく捕まるかと」
「構わん!ころ……」
ドゴォォォォ!!
強烈な衝撃がグレイ達を襲った。
「何だ!?」
兵士達も共に外を見るが、その光景に唖然となる。アイリスがMSを相手に戦いを演じているのである。生身で。
次々と撃破されていくネモ。剣と銃だけの武装の奴にMSが手玉に取られている!?
「なぁあれは……人間か?」
兵士の一人がつぶやいた。
「化け物……」
全員がそんな風につぶやく中、グレイは更なる恐怖のどん底にいた。
(何だあれは?化け物か、MSと戦うなどと……。あんな奴をマリアが生んだのか?ありえん、断じてありえん。
ならばあれは兵器か?ネオジオンが作ったサイボーグだとでも言うのか?……)
妄想は留まる所を知らない。そして、うつろな顔のまま立ち上がった。
「中佐?」
「アレを出す」
「は?」
「聞こえんかったのか!!アレを出すといっている!!」
『は、はっ!!』
飛び出していく兵士達。
「おのれ……」
憤怒の表情で車で去るアイリスを睨みつけるグレイ。
「認めんぞ。認めるものか……私は、私こそが……」
グレイはふらつきながら部屋を出て行く。その目にはもう意識の光りは宿っていなかった。
「……簡単に言ってそんな訳。分かった?」
『……全然』
「の〜〜〜・・・」
アイリスは自分が得た力に対してふたりに説明を行っていたが、あまりに常軌を逸したことなので本気にはしてもらえない。
「まぁとにかく、そんな非常識なちから貰ったからあんなことができたの。」
「でもいいですよね〜。空とか飛べるなんて〜」
「かる……」
グレイシアはなぜか羨ましいらしい。と、いきなりマウントディスプレイが起動し、何かを映し出した。
「!? 何よこれ!」
表示を見てアイリスが声を上げた。
「どうしたの?」
マリアが心配して声を上げるが、アイリスは、
「あの男。まだやる気みたい。しかも、いやな物持ってね……」
アイリスはそう言って、ジャンヌダルクの里中に連絡を取った。
MSのコックピット内で俺は出撃準備をしていた。
「指定座標到達まで五分てところか」
操縦桿を握りシンは、言う。
「……Zガンダム!シン、出るぞ!」
飛行形態Zに乗ったシンは滑走路から出撃する。
もちろん周辺基地に許可は取ってある。派手な破壊をしなければ大目に見てもらえるはず。
『とりあえず急いでくれる?こっちも気が長いほうじゃないからね』
アイリスから通信が来る。
「なるべく急ぐ……」
言ってシンはペダルを踏み込んだ。
全速力で街道を突っ切りつつ、あたしは叫んでいた。
「何であのクソ親父があんな物もってんのよ!!」
「アイリス、言葉はできるだけ丁寧に。ね」
「……姉さんは少し静かにして」
あたし達を追ってきたもの。それは何あろう、ZZガンダム!!?
アレは確かブライト・ノア率いるガンダムチームに配属された一機だけと聞いたが、なんで地球なんかに!?
まぁとにかく、さっきからミサイルをバカスカ撃って来る飛行形態の奴にあたしはなんとかかわしながら車を走らせていた。
「ククク……ククク……」
ZZを操るグレイは完全に正気を失っていた。もはやアイリスを殺すことしか頭に残っていない。
しかし、そんな追いかけっこに水を差した物があった。
『テメェ!何さらしてくれてんだァ!!』
「――!!?」
いきなりの通信。そして、襲い来るビーム攻撃の雨。グレイは機体を急反転させてかわしきった。MS形態へと変形し、着地した。
そして、グレイを襲ったMS、Zも変形しブーストをふかし着地する。この時代おいて最新型と目されるZZと現役を張るZ。片や重武装、片や高機動型。どちらが上を取るか。
「どけぇ!!」
叫び、持っているダブルビームライフルを車めがけ撃ち込むグレイ。それをシンは特別装備として取り付けたビームシールドで防ぐ。
「アイリス、行け!ここは俺が持つ」
『ダメよ!』
あっさりとシンの提案を否定するアイリス。
『MSを頼んだのはあたしよ。あたしが戦うからシンは母さん達をお願い!』
「母さんだって?」
驚いてモニターに目をやるシン。確かにアイリスの後ろに人が見える。
「なら、なおさらお前が守らなきゃダメだろうが」
『つべこべ言わずに代わりなさい!!』
「…………はい。
したらちょっと待ってろ!」
シンはZをZZ目掛けて突っ込ませる。むろん迎え撃つZZ。しかし、シンはメガビームライフルの銃身で突きかかったのだ。虚を突かれてZZがバランスを崩した。それを見計らって足でZZを蹴り飛ばしたのである。吹っ飛んで倒れるZZ。
「今のうち!」
シンは素早くZのコクピットから出る。アイリスも車から出て高速移動でZに取り付いた。
「母さん達をよろしく。」
「お前もしっかりやれよ。」
「言われなくてもね」
言いながら中に入るアイリス。シンは車に乗ると、
「アイリスの同僚のシンていいます。お見知り置きを」
「はぁ……」
「よろしく」
「んじゃ、飛ばします!」
車が猛スピードで離脱したのを確認すると、アイリスはグレイに向き直る。
「さぁ、第二ラウンドの開始と行きましょうか?父さん!!」
「死ね死ね死ねーー……!!」
メガビームライフルはさっきの衝撃で故障してしまっている。ダブルビームライフルも倒れた拍子にいかれたらしい。お互いにビームサーベルを引き抜いた。そして、親子の文字通り真剣勝負が始まる。
ビームが交錯し、火花を上げる。そしてアイリスはいやな感覚を覚えて瞬時に機体を横に滑らせる。
ゴアッ……!!
凄まじいエネルギーが放出された。そう言えば、ZZには額にメガビームキャノンが装備されていたというのを思いだす。
「せぇい!」
サーベルを振るって、キャノンを切り落とした。次の瞬間に機体を後ろに飛ばす。同時にZZの左の裏拳が襲ってくるが、紙一重でかわす。
『おおおおおおお!!』
バルカンを撃ちながら向かってくるZZ。盾で防ぎつつ後ろに飛ぶ、予想通り突きかかってきた。着地と同時に左に身をよじる。サーベルが行き過ぎて、あたしは右手を跳ね上げた。
ザンッ!
ZZの右腕が切断された。返す刀で右足を斬る!バランスを崩して倒れたところを左に動き、円を描くように左足と、左腕を斬る。
決着は早かった。四肢を破壊されてはどうにもならない。
「もう二度と会うこともないわ。それじゃあね」
そう通信してアイリスは踵を返す。と、
「……?」
ふと後ろを振り返った。すると、そこでは無駄と分かっているのかいないのか、グレイがハンドガンで撃ってきていた。
「…………」
もはや元に戻ることもないのかもしれない。完全に正気を失ったグレイを悲しい目で見据え、アイリスはブーストを全開にしてその場を飛び去った。
その後には、何かをつぶやきつつトリガーを引き続けるグレイだけが残った。
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「それじゃあ。行くわ」
あれから数日後、あたし達はコロニーの母さんの実家に来ていた。おばあさん達は優しく迎えてくれた。母さん達ももう一度ここで暮らすことになる。
あの後、グレイは病院に収容されたそうだが、何かトラブルを起こして軍を除隊させられたらしい。その後の消息は分かっていない。
「体にだけはきをつけて」
「えぇ。母さんも、姉さんもね」
「たまに遊びに来てくださいね」
笑顔でグレイシアが言った。
結局あたしは残るのをやめた。あたしがいることで無用なトラブルが迷い込むのがいやだったのと、もう少し旅を続けたかったから。
「いつでも帰ってきなさい。あなたの家なんだからね」
母さんはどういって、そっとアタシの頬にキスをした。
「…………。それじゃ」
バッグを背負ってあたしは踵を返す。向かう先には車で待つシン達の姿があった。
「良かったのか?本当に」
車に乗って数分。俺はいきなりアイリスに問うた。
「な、何よ。ここに来て」
驚いたように声を上げるアイリス。
「自分の親を手にかけたことだよ。後悔はないんだな?」
「あるわけないでしょ。いまさら」
「そうかしら?」
サリナが後ろを向いていった。
「その傷を背負って生きていくことになるのよ。この先、一生」
「…………。そうね、確かに」
アイリスが俯いていった。
「おいおい、だったら何のために俺らがいるんだ?」
と、いきなりシンが明るく切り出した。
「傷の舐め合いじゃないが、俺達はそんな過去をいくつも体験して来ただろ。
これ以上アイリス追い込んでどうすんだよ。」
「シン……?」
真っ直ぐアイリスを見てシンは言う。
「俺達がその傷を埋めてやるよ。時間はたっぷりあるんだからな」
「な……」
真っ赤にあるアイリス。と、
「何カッコつけてんのよ!」
スッパァン!
どっから出したのかサリナがハリセンでシンを引っ叩いた。
「ってぇ!」
さらにグリグリとやりながら、
「アンタがそれを語ろうなんて思わなかったわねぇ。思わず突っ込んじゃったじゃない!」
「いや、突っ込む場所違うだろ!」
などと、意味のない口論がいきなり始まった。
唖然とそれを見るアイリスだが、自然と笑みが浮かんできた。
こんな仲間なら、退屈はしないだろう。と、思う。
そして、大切にしたいと思う。
― To be continued ―
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後記(あとがき)
はい!予告もなんもせずにこんなものを思いつきで書き上げました。いや〜、前半興奮しまくって徹夜で書いてしまった。
どうしてくれるんだ。この気だるさをぉぉぉ!!!(激違!!)
はぁぁぁ……、まぁいいとしましょう。色々と書いてきましたが、アイリスの過去を引っ張っていて後日談的に書いたのは初です。
そのうち、サリナを書くかなとか思います。
マリーは、……いやだ、書きたくない!18禁になってしまう!!(謎!)
そろそろ投稿でもしようかなと思っていたりもします。そのためのシナリオも漠然と立ってます。後はこれをハイテンションのままにどうやって原稿用紙350枚以内に収めるかが鍵!
応援してくれると言う方は応援よろしく。一次で落ちるのが“落ち”だったりして。(言ってると落ちるんだよな)
色々とリングのイベント無視しまくってるからそろそろ参加しないとなぁ。除名させられる〜〜。(汗)
てなわけで、寝ます。ちょうど3時!
じゃ、また次回!!
2002/07/09