ー バウンティー ―

 

 

 

 

  1・コムネット

 

 ある時、ある場所の小さな電子開発研究所。

 大きな研究所の委託を受けての開発をしている場所なのだが、そこでとんでもない物が開発されてしまった。

 『超次世代通信システム』と銘打たれたそれが市場に出回るのはあっという間だった。

 そして、同時にある計画も発動していた。

 作った者の策略。簡潔かつ遠まわしに。

 

 

 今日も今日とて、やることと言えば賞金首を追うことぐらいしかないのだが、それでもやらないと生活に関わるってんだから世の中ってやつはまったく。

 俺達はとあるハッカ−を追っている。

 全銀行を荒らしまわり、数千億も荒稼ぎしているどえらいやつだ。

 手口としては簡単。銀行にアクセスして、管理サーバーに侵入。その後顧客情報を書き換えて、自分の口座にぎりぎりまで転送させる。

 簡単ではあるが、ファイヤーウォールをありえないほどの短時間でといたと言うソフトが問題になった。

 しかも、痕跡を残さずにサーバー内を歩き回ったのだからかなりやっかいかつ、狙われる可能性がある。

 足を出したのはこの間襲われた銀行のサーバーに残されたかすかな『足跡』だ。

 逆探知してみればご近所だったもんで、出張ってきたのだが…、

「おい、クロード。どうなってんだ、あれは?」

「俺が聞きたいね」

 相棒で男を自称する「女」のジェイスが聞いてくる。

 知るわけが無いだろ、ターゲットのいるはずの窓の『カーテンがたなびいてる』なんてよ。 

 俺達は顔を見合わせると、アパートに突入する。

 階段を一気に駆け上がり、浮浪者どもを蹴散らしながらターゲットの部屋の前に到着する。

 ジェイスがドアを蹴り壊すと同時に俺は飛び込んだ。

 入ってすぐのキッチン。奥の風呂場とチェックする。問題は・・・、無い。

「クロード!」

 ジェイスが呼んでいる。

「どうした?・・・・・!!」

 リビングに入ったとたん、血臭がした。

 ジェイスと同時に入ってきた人影。手首から血を流し、出血多量で死んだハッカー。

「・・・・・ちっ、遅かったか!?」

 俺は奴の使っていたパソコンに飛びつき、すばやく操作した。

 あのソフトを持っていかれたのなら最悪だが、・・・・・・。

「あるな」

 ツールの項目にしっかりと例のツールが入っている。俺はそいつを持っていたMOにコピーする。むろんコピーした痕跡は消す。

「さてと・・・・、こいつだ」

 MOを回収して俺の『個人的』な仕事は終わった。あとは、こいつだが。  

「とっとと警察呼ぶか。気は進まないが」

「そのほうがいいな。確かに」

 ジェイスも賛同したところで俺は携帯を出した。

 

「さて、それじゃあんたらは探偵で、例のハッカーを追っていたらここを見つけて、踏み込んだら奴は死んでいたと?」

『ああ』

 俺たちの声がハモった。

「はぁぁ、やれやれ。ま、鑑識がなんというか楽しみだが、現場をいじっちゃいないだろうな?」

「そりゃあもちろん」

「・・・・・・・・ならいいが」

 思いっきり疑った目で俺を見てくる。いやな刑事だ。

 俺たちは奴の死んでいた部屋でパソコンを前にして話しているのだが、事情聴取って奴が俺の嫌いなものワースト10に入るんだなこれが。

 ダラダラ長いし、分かってることをいちいち聞いてくるし、うざったいったらありゃしねぇ。

 俺はタバコを出すと咥えて火をつけようとライターを探していると、

 ピピピッ!

 突然パソコンがビープ音を立てた。

『・・・!!?』

 その場にいた全員がパソコンを注目する。

 パソコンは画面を黒くすると、文字を浮かび上がらせた。

 

『コムネットは人殺しだ!!』

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 場が硬直し、

「やはりいじったな?」

 刑事のいやみが響いた。

 

 

   2 

「コムネットについて知りたい?

 あんたにしちゃ珍しい質問だな」

「ああ。俺もあんまり知りたくも無いんだが、知らなくちゃいけない事件が起きてね」

 俺たちはあのアパートの帰りがてらに、いつも利用している情報屋の所へと足を運んだ。

 金さえ払えば正確な情報を提供してくれる。

「コムネットね。知れてる情報だから安くしとくよ。100クレジットだ」

「ジュース一本分じゃねぇか」

「そんだけ知れてるんだよ」

 

 コムネット――元々は小さな研究所で開発された通信技術なんだ。

 人の思考に追いつくほどの超高速通信。

 作ったのは「ロベルト・ローガン」とかいう三流にも満たない研究員さ。

 だが、それを使ったモニターがこれは売るべきだと絶賛してな。実際とんでもない速さだったらしい。

 それでなんと二年前から、全国で使われてるんだ。

「あんだよ。モロにいいことづくめじゃねぇか」

 それがよくないんだよ。売ると決めた時点で他の通信会社が、「ぜひウチで」とその研究所を抱き込もうとしたらしい。

 でもその研究所も断固として譲らず、技術をばら撒いたんだ。全通信会社に。もちろんそれなりの料金をとってな。

 ここで国が動いたんだ。

 『独占禁止法』ってのは知ってるか?世の中ってのは平等にできてる。誰かが抜け駆けしようとすると国が止めに入るんだ。

「じゃ、よくねえんじゃねぇか」

 それがよかったんだよ。国が止めに入ると、通信会社、ひいては試験使用したユーザーが国に、国にだぜ?クレームを出したんだ。

 あんまりクレームがきついもんだから、国はついに折れて、特例として認めちまったんだ。

 そんで大々的にその技術が応用される世になった。工事なんていらない。今ある回線を切り替えるだけなんだからな。

 創始者はそいつを『コムネット』と名づけて、今に至ってるというわけだ。

「結局よかったんじゃねぇか・・・・」

 ところが特定の連中によってはよくないことが起こったんだ。

 その回線、どういうわけかユーザーを判別できる機能を持ってるらしくてな。

 正規ユーザー以外が無断接続すると、自動的に逆探知、センターに報告ということになるんだ。

「じゃ、ハッカー連中は仕事納めになったんだな」

 ジェイスの言うとおりハッカー連中は一気に検挙される運びとなった。

 だが、ハッカー連中も賢くてな、*1ガードパケットを回避できるソフトを開発しやがった。ごく一部だがな。

「悪の根は以前絶えず・・・・か」

 

「まったくそのとおりだ。」

 情報屋は背もたれに深く座った。

「100クレジット分はここまでだ。」

「・・・・・・ちょっと待て!まだ続きがあるのか?」

「ああ、こいつはまだ新しいからな。2000クレジットだ」

「足元見やがって・・・・・・・」

「じゃなきゃ、こんな商売やっとられんでな」

 タバコをくわえて情報屋は火をつけた。

「聞くかい?どうする?」

「ち、・・・・つまらなかったら殺すぞ。」

 俺は財布から1000クレジット紙幣を2枚出した。

 それを机にたたきつける。情報屋は後生大事にしまいこんだ。

「おし、聞かせようか。

 最近になって殺人事件が増えただろう?」

「ああ。ここいらじゃ、あの一軒だけだが、他にも多いらしいな」

「その連中はどういったことをやっておった?」

「はぁ?ハッカーだが?銀行強盗をやってるせこい連中だ」

「・・・・どんくさいのう。気づかんか・・・?」

「何に?」

「今日起こった事件で殺されたあいつな、例のガードパケット回避ソフトを開発した一人なんだよ」

 ガタンッ!

「なんだよ、それ!」

「おや、あんたいい物を手に入れたといっていただろう?どうせ奴のパケット回避ソフトだろ?」

「・・・・・・・ああ」

「不思議なのはそこなんだよ。

 ソフトもろとも消去するならともかく、なんで開発者だけを消したのか。そこが謎でな」

「確かに・・・・妙だよな」

「まぁ、ここまだだが見合うだけの意味はあったと思うぞ。

 あ、そうそう。・・・・・くれぐれもそのソフトを使うなよ。連中が殺しに来るからな。

 ハハハハハ・・・・!」

 情報屋はそういって大笑いした。

 

To be continued ―

 

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*1 ガードパケット--- インターネット上で警察のような仕事をしているプログラム。必要に応じて不正な侵入者の逆探知や、撃退を行う。