ーバウンティーー

 

 

 

   4 追跡

 

 ライズリーが乗ってきた車――いっちょ前に立派な車に乗ってやがる――に便乗し、俺達は噂のコムネット社員の……クレックとか言ったか、そいつの家へと来ていた。

「クロード君。一つだけ言わせてもらうが、いきなりここへ来るのは違っている気がするのだがね」

「知るか。俺は賞金稼ぎなんだぜ。踏み込んで何ぼの商売だ」

 ライズリーの腰にあてがった拳銃をしまうと俺は車を降りた。

「僕はここで待たせてもらうよ。争い事は嫌いだ」

「逃げたら抹殺してやるからな」

 ジェイスがすごむと奴は「へいへい」と席を倒す。

 

――キーンコーン!――

 家のチャイムが鳴り響く。返答は……無い。

 俺達は目を合わせると左右に分かれて家の裏側へと回った。その途中家の中を見たがどの窓も厳重と言っていいほどにカーテンが引かれている。

 家の裏手、キッチンらしい。網戸を開いて中のドアノブをひねる。鍵は開いていた。

 予想通りというかキッチンには誰もいない。整然と台所用品が並んでいた。銃を前にかざしながら俺は慎重に進む。

 キッチンを出て、居間へと入った。今時のアメリカ式に家具が並んでいる。カーテンが引かれているので中は暗い。

「おい……」

 振り向くとジェイスが二階への階段のところにいる。二階へ行くと言うのだ。

 頷くとジェイスはすばやくあがって行く。慣れたものだ……、音一つ立てない。俺は壁際の棚へと移動しちょっとした物色を始める。

「……いい酒もってんなぁ。こいつ」

 ぼやきつつ、階段の下に設けられた納戸のドアノブを持った。ひねろうとして、ハタと止まる。何か気配がする。

 扉の左に立ち、左手でノブを回す。そして、扉に隠れるように開いた。

 ドサッ!

「!!?」

 瞬間的に銃を向ける。人間……らしい。体中を切られて血が出ている。うつ伏せの体を足で返すと、女だ。

「ち……レディには優しくしろよな」 

 言いながらもその体に触れる。

 ドバタァン!!

 2階から盛大にドアを蹴り壊す音がした。

「! ちぃっ!」

 俺は身を翻し、階段を一つ飛ばしで駆け上がる。階段を上がったところでほとんどの部屋が開け放たれている。ジェイスが開けたんだろう。

 一番奥の部屋へと駆け込んだ。そこのドアが無かったからだ。

 

 少し時間を戻そう。

 ジェイスが階段を上がって2階を調べていた時だ。

 どの部屋を開けても誰もいなかったし、何も無かった。

 そして、最後の部屋へと差し掛かったときだ。ジェイスは妙な感覚を覚えた。感覚から探るだけで中には人が二人いる。

 ジェイスはドアからいったん離れ、勢いをつけてドアを蹴り壊す!不意をつくことができ、中にいた奴は一瞬硬直する。しかし、

「なっ!?」

 ジェイスはそいつを見て驚いた。全身を黒装束で覆い顔にも覆面をしている。今で言う忍者のそれだったのである。そして、そいつの前で血を流して倒れている男が一人。

 ジェイスはすぐに我を取り戻し、構えた。手には車の中で装着した鉄の部品が付いたナックルをはめている。

 『忍者』のほうはと言うと手に握られた血の滴るナイフが一振り。顔は覆面に隠れているが、唯一覗いた目がジェイスを睨みつけた。

「やる気まんまんか。いいねぇ」

 格闘技が得意であることは前に言ったが、ジェイスは以前に銃を持ったクロード相手に勝っている。ナイフごときではひるまなかった。しかし、だからと言って手を抜くつもりも無かった。

 

 俺が部屋に飛び込んだとき、ちょうど戦いが始まったときだった。

「はぁぁ……!」

 ジェイスが気合を込めて男へと突進していく。俺は男の姿を見てやはり一瞬硬直する。

 ジェイスが飛び込むと同時に男も動いた。ナイフを振りかぶり、突進してくるジェイスに向かって振りぬく。ジェイスはなんとそれを急制動でやり過ごし、がら空きになった胴に右の掌底を叩き込んだ!まともにそれを食らって吹っ飛ぶ男。……弱い。きれいに弧を描いて男は壁に激突した。その手からナイフが落ちる。ジェイスはさらに一歩飛び退ると、その場に手をついて前傾姿勢をる。右手を引き、まるで動物が獲物に飛び掛る格好からジェイスは床を蹴って飛び込んでいった。

 これがジェイスの必殺技の一つ、「獣狼爪」だ。俺はこれを食らって手から銃を弾き飛ばされた。それからというものこの技に関してはかわされる所を見たことが無い。スラムで育ったジェイスの脚力とこれまた通信教育で習ったとか言う「気」を混ぜた攻撃だという。現にジェイスが蹴った床はくぼんでしまった。……しっかし、どこの世界に「気」とやらの使い方を教えてくれる通信教育があるというのだ?

 それだけの勢いで飛び掛り、とどめと思ったときだ。もんどりうって動かないはずの男が体をずらしたのだ。

 ドン!!バキバキバキ……!

遠心力まで利用したジェイスの渾身の一撃はあと数センチの所でかわされてしまい、後ろの壁に激突する。衝撃で周囲の壁にひびが入ったほどだ。

「ちっ、クソ!」

 手を抜いている間に、男は攻撃で起きた真空で切られた左腕を押さえて窓をぶち割った!

 俺はすぐに窓に近づく。すると着地した男はちょうどやってきた黒いバンに乗り込むと、猛スピードで走り去っていく。

「ちっ!ジェイス、なまったか?」

「やかましい!殺すぞ」

 言いながらも俺達は階段を駆け下り、外へ。そして、丁度いいタイミングでライズリーの車が来た。

「追えるか?」

 飛び乗り、奴に言った。

「おうさ」

 

 ライズリーはシフトを入れると猛スピードでバンを追い始める。しかし、こと車となるとうるさいのがこいつの悪い癖なのだ。

「どけどけどけぇぇぇ!!」

「…………」

 前のバン同様、角を曲がるごとに一般人に叫びを上げさせるライズリー。そんなライズリーに声を失うジェイス。

 今バンが目の前の角を曲がる。それを見てライズリーはシフトを1段落とし、車を思いっきり横に滑らせた。

「ひあぁぁぁぁ!」

 角を曲がる前から横を向いた車はそのまま曲がっていく。だが、抜けた所で丁度いい具合に車体が落ち着き、ライズリーは1段戻した。

「無茶な真似すんじゃねぇよ!」

 思わず後部座席から叫ぶジェイス。

「ああ!?ドリフトくらいでビビったのか?嫌だったら降りやがれ」

「……。 おい、クロード!お前もなんか言え!」

「……後悔先に立たず。」

「…………。 いやぁぁぁぁ!!」

 珍しく感情をあらわにして叫ぶジェイス。俺とライズリーは思わず吹き出してしまった。

 

 

「あうぅぅぅぅぅぅぅ。」

 バンが停止してライズリーも車を止める。ジェイスはすっかり伸びてしまっていた。

 人通りの無いスラムだった。

 俺は車を降りると銃を抜いて慎重にバンに近づく。バンからは反応は無い。後部のドアに俺は手を掛け、一気に開いた。

「…………!!?」

 目の前にあったのは時限式の爆弾であった。しかもタイマーは後5秒。

「逃げろ!!」

 俺は叫んでバンから離れ、ライズリーの車のボンネットに飛び乗った。直後にライズリーが車を後退させる。

 ドゴォォォン!!

 間一髪離脱に成功したが、結局バンは爆発。証拠は火の中。

「自爆したのか?」

「さあな」

 降りてきてつぶやくジェイスに俺は言った。

「くそ、いったん退くぞ。人が集まってくる」

 俺達は車に乗りなおした。しかし、ライズリーはハンドルに寄りかかったまま動かない。

「おい?」

「……。修理代、12000Gになります。」

 顔をこちらに向け。つぶやくライズリー。どうやら飛び乗ったせいでボンネットに傷がついたことを言うのだろう。

「分かったから、早くしろ!」

 俺は拳を震わせながら言った。奴は憮然とした表情のまま車を発進させた。

 

 

To be continued―

 

 

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