―バウンティー―

 

 

  5 謎

 

 騒ぎが一段落した翌日、……って! 一段落するの早いなおい!

 元々スラム街で人通りもあまり無い。加えて暴力団だのマフィアだのが横行するのがざらなここのことだから、たいして気に留めるほどでもないのだろう。

 そして、俺たちは戻ってきた。あのバンが爆発炎上したこの現場に。さらに、連中が五体満足でいる、ということが簡単にわかった。

「マンホールだな」

「あぁ、マンホールだ」

 バンが爆発したすぐ下には炭化したが原形をとどめたマンホールがあった。たぶん奴らは爆弾を設置すると同時にここからトンずらしたに違いない。

 なんと周到な奴らか。

「どうする、追うか?今から」

「追ってどうする。無意味にスーツをぬらすのはごめんだ。」

「俺もだ」

 俺の意見にライズリーも同調した。

「見かけによらず高いんだぜ、このスーツ」

「自慢はいい」

 ライズリーの自慢話を制し、目線を戻すとジェイスが右手をマンホールにあてがっている。

「……おいまさか!?」

「破ッ!!」

 バゴンッ!!

 

 なんと気合を込めただけの手のひらで、鋼鉄製のマンホールのふたが物の見事にひしゃげ落下していった。しかも、爆発の熱で淵がくっついてたはずじゃあ……?

「…………」

 俺は思わず顔を覆った。

「お前の相棒って……、非常識な奴だな」

 言うな、頼むから。

「おし、成功成功。」

 具合を確かめるように手のひらを閉じたり開いたりするジェイス。

「んじゃ、俺がちょっと見てくる。懐中電灯あるか?」

 一応持ってきた懐中電灯を渡すとジェイスはすばやく体を滑らせ降りて行った。

「そういえばあいつもスラム出身だったな。」

「何!?聞いてないぞ」

「言ってないからなぁ」

「この……。」

 

 10分もしてジェイスが戻ってきた。体中をすすで汚してしまっている。

「だぁめだ。方々探したがこれと言って目立つような物は無い。

 せいぜいが地下酒場くらいだ」

 

 <地下酒場>――要するに、上で商売できないような内容のやり方で商売している酒場のことだ。一度だけ踏み込んで賞金首をとっ捕まえたことがある。

感想としては、常人には行きたくなるかもしれないが俺はごめんだ。慣れられん。

 

「しかたなし、か。よし水道局にでも行くか」

『は?』

 いきなり切り出した俺の提案に素っ頓狂な声を上げる二人。

「水道局なんか言って何する気だ、お前は」

「下水道の地図だよ。こんな所の下水道なんか地図無しじゃ迷うだろ?」

 そう、こういうときこそ慎重にだ。大方連中は下水道を通ってどこかに抜けるか、あるいは別の場所から上がって逃走したと思う。地図があれば大方逃げた足取りは絞れるのだ。

「ったく、どうしてこんなことに首突っ込んだかな?俺は……」

 ライズリーがぼやいた。

「お前が勝手にコムネットの情報を持ってきたからだろうが。今更いってんじゃねぇよ」

 言いながら俺はタバコを一本抜き、火をつけた。

 

 

 水道局――こういうところはムカつくほどに小奇麗なんだからこの世はまったく。

 さて、水道局で下水道の地図を求めたところ、意外なことに最新版が手に入った。しかも前回を変わったところが明確に示されている。

「ついてんじゃないか。珍しく」

「道端で札束を拾うくらいに珍しいな」

 俺はライズリーの胸倉を引っつかみ、

「それってありえねぇ、って解釈してもいいのかい?」

「ははは、……目が怖いよ、クロード君」

 ライズリーを放り出し、俺は地図を広げる。地図によれば最近工事された場所はあの場所から離れていない。しかも意味があるのかわからないようなずさんな工事がされている。コムネット敷設のための地下配線がされたなんて話は聞いたことがないから、これはあやしい。それからもう一点。地下から直接大きな川への配管が通されている。これは相当古いものだが、使えることは使える。川に船でも用意して乗り移るには支障なく使える。これで二点。例の地下酒場だが多分、この地図上によるところの『構内作業員休憩所』なるところがそうだろう。デカ過ぎて逆に目立つ。

 最後に怪しいのは、「これでもかぁ!!」ってくらいに直線状に伸びた坑道だ。延びた先にはなんとコムネットの本部があるじゃないの。

「あ、くそ〜。こんな坑道あったのかよ。気づかなかったぜ」

「どうせ壁に偽装した扉でも張ってあるんだろ?気にするな」

 よし、方針は決まった。明日準備ができしだいこの坑道を通って見に行ってやる。それに、あの暗殺者どももとっ捕まえることができるかもしれないしな。

 

 

 さて、その晩俺達はつものように寝に入っていた。

 ――キシッ!

 床のなる音がする。次にドアの鍵をいじる音、……破られたか。もろい鍵してるなこの宿。人数は感覚として感じるだけでは5人。

 寝室へと入ってきた5人。覆面をした例の忍者スタイルだ。一体どういう神経してるんだか……。手に手にナイフを持ち、振り上げると両方のベットに向かって振り下ろした。

 その瞬間、やつらの真上から何者かが落ちてきて、手始めに落ちた勢いで一撃を浴びせる。なすすべなく打ち倒される二人。いきなり現れた影二人に動揺するうちに、ジェイスは狭い部屋なのに身軽に動き、

 ドカッ!バキッ!ズカッ!

 気持ちのいいくらいに残りを殴り倒した。

「終わったかい?」

 後からのんびり入ってきたのはライズリーである。

「また、貴様というやつは……」

「まぁまぁ、どうせ俺なんて足手まといにしかならないって」

 腹立ち紛れに殴りつけた後、襲ってきた馬鹿どもの身体検査をする。

「おーおー、しっかりとID持ってるじゃん」

 ジェイスが一人に懐から取り出したカード入れから取り出したのは、『コムネット社員であることを表すIDカード』であった。

「またわかり易い襲撃者だな。馬鹿なのか律儀なのか……」

 とりあえず全員を縛り上げた後、一人に活を入れ起こす。

「う、うう……ここは?」

「ここはじゃねぇ、タコ」

 眼前に現れた顔に驚き、離れようとする社員だが、体に巻かれた戒めがそうはさせない。

「な、なんだ!?君たちは……ここはどこなんだ?」

「催眠術だな」

 ライズリーは言った。

「だな。おい、あんた。どこまで覚えてる?」

「な、何の話だ。」

「コムネット社員だろ?最近記憶が飛ぶとかそういうことが多かったんじゃないのか?」

「そ、そうだが……、わ、私が何かしたのか?」

「人を数人殺したぜ」

 ジェイスが言った。

「な、ば、馬鹿を言うな!私は……」

 言いかけて目の前にナイフが突き出され声を飲み込む。

「これに見覚えは?」

 首を横に振る。

「あんたがたった今襲ってきたときに持ってたナイフだよ。

 よかったな。これ以上犯罪を重ねることがなくてよ」

「で?記憶が飛んだときのこと、覚えてるか?」

 ライズリーが聞く。

「……社長に呼び出されたときだ。社長室に入ると……、妙な感覚になって気がついたら自分のデスクに伏せていた。

 仲間は過労だと言っていたというが……。たまに日付が変わっていたこともある。」

「ふうん。お前、会社を辞めな。」

「はぁ!?いきなり何を言う!唯一の収入源なんだぞ」

「あんたの担当は?」

「計理だ」

「収入は?」

「……月50万」

『わお』

 二人が感嘆の声を上げる。通常の倍のサラリーである。

「社に入ったのは?」

「コムネット敷設当時だ」

「てことは……?」

3年前だな」

 ライズリーが合いの手を出す。

「スラムにまでコムネットのことは話題になってたぜ。ハッカーが泣いて喜ぶだろう、ってな」

 今度はジェイスである。

「んじゃ、貯金には余裕あるわけだ。田舎にでも越しな。

 でなけりゃ、あんた他の社員に殺されるぞ」

 目の前で低い声で言われ、声を失う社員。

「他の連中はあんたの同僚かい?」

 覆面をはいだほかの面々を見た社員は、

「いや」

 と、一言。

「んじゃ、一応、安全な留置所でも入って考えな」

 この頃になって、闇夜の中をさっき呼んだ警察のサイレンが近づいてきた。

 

 

To be continued

 

 <小説TOPへ>   <HP・TOPへ>