―バウンティ―

 

  6・勇気?無謀?

 

「だから、何でそんなことをやらなくちゃいけないんだと聞いてるんだよ」

 俺の提案したアイディアにどうしても納得しないジェイスの一声が部屋に響く。

「だから、お前が地下道からコムネットに侵入して俺達が上から入る。そうすれば速く目的のものを探せるだろう、って言ってるんだよ、俺は」

「無茶も大概にしろっつーの。確かに俺はスラムで育って地下道も慣れてる。けどよ、何が待ってるかも知れないところへ単身忍び込んで見つかってみろって、その時は助けてくれるのかよ?」

 もっともな意見だがここで認めてはいかん。地下道はこいつにしか通れないからだ。

「悪いが一張羅をすすで汚すほど俺は人間できてないからな」

「……この野郎」

 手を握り締めて今にも飛び掛ってきそうである。

「んじゃ俺はすすだらけになってもいいのか!」

 最もな意見である。

「いい」

 パギッ!

 答えた瞬間にジェイスの足が俺を急襲した。それに対して俺は手近にあったライズリーの頭をつかむとその射線上に出した。案の定いい音がする。

「ぎゃっ!?」

 短い叫びと共にライズリーは吹っ飛んだ。

「……何しやがる!」

 抗議の声を上げるライズリーだが、俺達には聞こえては来ない。

「ち、かわしたか」

「ま、お前の行動パターンは知ってるからな」

 テーブルを挟んで対峙する俺達。

「……ったく、痴話げんかはよそでやってくれってん……」

 ドゴォ!!

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 モロに顔面パンチを食らって壁まで吹っ飛ぶライズリー。

『誰が痴話喧嘩だ!誰が!!』

 思わず声がハモる。そして再びにらみ合う俺達。結局ライズリーはヤラレ役でしかないということだ。

 

 結局のところ、ジェイスにはライズリーが引っ付いていくということで、ライズリー意外は話がまとまって俺達は解散した。

 

 

 数時間後、俺は無断借用したライズリーの車でコムネット本社へとやってきていた。ご丁寧に門までしつらえてやがる。

 ここの敷地は異様なまでに広い。ドームが一つ納まるくらいと言ったら理解していただけるかな?

 俺は車を一般来客用の駐車場に止めると、堂々と正面から入っていく。そして、正面の受付には行かずに社員用ゲートへ向かった。警備がこちらを睨んで来るが、俺は取り合わずにゲートにポケットから出したカードを通した。

 ピピッ

 電子音と共にゲートが開く。こいつは昨夜の襲撃者の一人からせしめた物だ。

 悔しげに俺を見つめる警備に一瞥をくれると、俺はずかずかと敵の本拠地へと入っていった。

 

 

 一方ジェイス達は例の地下道を地道に伝ってこちらへと向かってきていた。

「たく、……なんで俺がこんなことを」

 ジェイスは地下道をズンズン進みながら愚痴をこぼす。

「お前はまだいい。俺なんか半強制的なんだからな」

 後ろからライズリーがライトを持ってついてきている。

「てめぇの境遇なんか知ったこっちゃねぇ」

「はいはい……」

 肩をすくめるライズリー。そんな彼らの前に光が見えてきた。近づくとそれは厳重な扉だった。電子ロックがかけられている。

「よーし、こいつをぶち破って……」

「待て待て!」

 コキコキと指を鳴らすジェイスをライズリーは制すると、

「ここぶち抜いたらサイレンが鳴って、一発でブタ箱行きだぞ。焦るなよ」

 ライズリーは持ってきたバックから端末とツールを出すと、器用に電子ロックを解体し中の配線をいじくる。一端を端末に繋ぐと端末を操作する。

 ジェイスから見ればまどろっこしい上に、何をしているか分からないのでイライラがつのっていった。

「まだかよ……!」

 痺れを切らしたジェイスに、

「待てって、ここを……よし」

 ピー、ガチャ!

 電子ロックが解除され、鍵が開いた。

「後はクロードの奴がしくじらなければ、10分後に入るぞ」

 

 

 ――10分か。ぎりぎりだな。

 俺は警備の目と監視カメラを掻い潜り、配線室へとやってきた。ここへ入って配線へ細工する。そうすれば10分後地下の配線を切れるはずだ。俺は手早く作業を開始した。地下へ通じる配線を探し当て、タイマーと配線をかばんから取り出すと、言っても分からないだろう作業を行い取り付ける。

 配線室から脱出し、俺は中庭へと向かう。こっちのいわゆる「オフィス地区」から変わって奥の「技術地区」へと向かうのだ。

 言い忘れたが、ここは難しい経理などがひしめくオフィス地区と、コムネットの技術スタッフがひしいめいている、いわゆる技術地区とに分かれている。持っているIDはオフィス地区の経理係のものなので、この先へは入ることはできない。ならば、中庭のレストスペースで休んでいる技術スタッフから盗むしかない。つまりはそういうことだ。

 地下道に続いているのはどうやら技術練の地下のようだから急がねば。

 俺は中庭に抜けた。オフィス練の連中は仕事中なのかいないみたいだが、逆に白衣を着た科学者と言わんばかりの連中が何人かだべっている。暇人は何処の世界にもいるものだな。

「よう!クロードじゃないか!?」

 びびくぅぅぅ!!?

 俺は完全に硬直した。いきなり声をかけられるとは思ってもいなかったからだ。声のしたほうを振り返ると、一人の男がニコニコと立っている。

「……お前、ニコル、ニコルか!?」

「久しぶりだな。……って、あいかわらず無茶なことをやっているみたいだがな」

 ニコル・アランハイト――以前に俺に依頼を持ち込んできた奴だ。技術者だとは言っていたがまさかコムネットの社員とは!

「お前こそ、……ここの社員だったとはな」

「他人のプライベートは秘密とした意味が分かったか?」

 こいつ、数ヶ月前俺達に盗まれたデータディスクを取り返してくれと頼んできた。『警察の仕事だろ』と断りかけたが、『前払いで20万出す』、とか言われたらどうしても、欲が働き受けてしまった。

 なんとか取り返したのはいいのだが、その結果えらく警察に睨まれる事となってしまった。最近は収まってきたが。

 こいつは技術者とだけ名乗り、『他人のプライベートは聞かぬ事』とかぬかしやがった。黙認していたが……まさかな。

「で?今度は何をしている。こんなところまで入り込んできたんだ。少しは手伝ってやらないでもないぜ」

「断る。……と言いたい所だが、切羽詰ってるしな。向こうに入るカードをくれればそれでいい」

「おいおい、そんな邪見にするなよ。あの時は感謝しているんだ。ちっとは借りを返させろ」

「結構。お前は一生借りにまみれているのがお似合いだ。」

「…………。まいぃ、ついて来い。技術地区に入りたいならな」

 反対する理由も見つからなかったので俺は奴についていった。

 

「ほー、コムネットの実態ねぇ。そんな事を調べてるのかい」

「まぁな。ついでだから聞くが、お前ここの事どれくらい知っている?」

「さぁてねぇ、ただじゃ教えられないな」

 俺達は技術練に入って地下2階を歩いていた。サーバーが山のようにひしめき、そこらじゅうで担当者が右往左往している。

「金を払って教えてくれそうも無いだろ。アンタなら」

「まぁな。俺はしがない技術屋だ。せいぜいここが次世代ネットの開発に成功したってことぐらいしか知らん」

「何の役にもたたねぇじゃねぇか。おい」

 いいながら時計のタイマーを確認する。後2分でタイムリミットだ。

「だけど、一つだけ知っていることがある」

 サーバーホールを抜け、人気の無い場所へと移動し始めるニコル。

「ある情報筋から入手した話だ。信用はできる。それによるとこの会社、裏でアンドロイドの研究もやっているらしい」

「アンドロイド?なんでまた機械人形なんぞ作る気になった……?」

「知らん、欲でも働いたんだろうよ。そこでだ、この会社ではアンドロイドのAIの開発が行われているって言う話がる」

「AIねぇ。生まれてこの方そんな物は見たことがねぇが?」

「あるんだよ。この会社の地下に。すでにプロトタイプとテストタイプの2機が稼動している。それが一体何を行っていると思う?」

「何だ、エロ画像の収集か?」

「ふざけろ。俺は真剣なんだ」

 足を止め、俺を真正面から見据える。

「最近、俺の同僚が行方不明になってな。そいつは危ない橋を渡るのが好きな男だった。だから、この会社のネットにアクセスを繰り返して上司のやばい経歴なんかを持ち出してはひけらかしてた。

 だがあるとき、奴は血相を変えて俺に言った。『俺は会社に殺される』と。奴は俺にIDとMOを渡すと蒸発した。もう一ヶ月になる。

 MOの中に入ってた情報。奴がネットのさらに奥。アングラ並みにヤバイ領域から持ってきたのがAI達がやってる計画だ」

「計画?AIがか?」

「ああ、『自己進化』てやつだ。奴らはネットの中を駆け巡り様々な情報をかき集め、進化している。そして、奴らの監視を回避するソフトを開発した連中を殺し、俺達の進化を妨害しようとしてる」

「ちょ、チョット待て。おい。 すると、何か?それは全部AIが勝手にやってるのか?」

「らしいな。信じたくない話だが」

 ニコルはため息をつき、壁にもたれかかる。

「最初は開発者が情報の管理に当てていたマシンだ。それが、何を考え付いたか開発者連中を洗脳し、コムネット内のネットを制圧し、洗脳した連中を使って情報の淘汰を行おうとしてやがる。それが、今のこの会社だ」

「AIが、自己進化……情報の淘汰……」

 考えてもいなかった。まさかAIごときが人間を操っているなどと誰が想像するだろうか。

「ほら、持ってけよ」

 ニコルはおれに1枚のカードを投げてよこした。

「お前にやる。なき友人の形見だ、大事に使え。それと、アイツはもうこの会社にはいないことになっている。使えるのは恐らく1回だけだ。

 奴はIDすら書き換えて奥の管理エリアまで入っていったつわものだ。きっと最難度のセキュリティも突破するくらいの権限を持たせている。」

「……いいのかよ。俺なんかに渡しちまって」

 コイツとはたった1回の仕事上の付き合いしかない。こんなまねをさせるのは割に合わないのだが。

「いいんだよ。俺もアイツと同じ橋を渡っちまった。もうマークされてるだろう。だったら最後くらい、いい格好させろ」

 言って、もと来た道を戻り始めていく。

「その奥に行け。管理エリアがある。俺は技術区画の配線所に行って小細工でもしてくる。後、よろしくな」

 そして、俺はたった一人残された。だったら、やるべきことはただ一つ。

「しかたねぇ……面倒ごとは嫌いなんだが」

 言って、ポケットから無線を取り出した。

「ジェイス、ライズリー、始めるぞ。地下3階で落ち合おう。そこから一気に下に行く」

 

 

To be continued―

 

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 あとがき

 

 夏休み中にやっておこうと思います。滞ってる全作品の更新を。

 まず一つ目ですよ。ああ、何年ぶりの更新だ。このシリーズ。

2004/08/30