まぶらほ

 

 

 魔法と美少女と体育祭

 

 

 魔術師――それは、世界において最も重要な位置を占める人々のことである。

 古代から現代まで様々な魔術師が世界で活躍し、様々に暗躍してきた。

 様々な流派や思想によって個々に個性があるが、ただひとつ、これだけは全員が同じである。

 

『魔術には使用制限があり、使いきったものは塵と化す』

 

 そう、生まれた瞬間からその者は魔術の使用回数が決まり、その回数を使い切ると文字通り塵と消えてしまうのである。

 現代では、その使用回数は生まれたときにきっちりと計られる。通常のものは十数回かそれくらい。

 しかし、エリートと呼ばれる者達は数千回や数万回があたりまえ。そして、この「使用回数=魔力」が多い者ほど将来の地位が約束されているのである。

 

 

 

 東京都の魔法学校『葵学園』

 押すに押されぬエリート校。日本中に名の知れた学校の一つ。

 その中の二年B組、式森和樹。

 趣味なし、学力なし、ルックスなし。3無しの星の下に生まれた彼は今日も今日とて朝のホームルームの始まるまでの時間を、外を見ながら過ごしていた。

 他の級友はいつもの通りに経済新聞(株式情報)を読みふけり、ラジオの先物取引に耳を傾け、後ろのほうではブラックジャックに金をかけて過ごしている。

 彼のいるこの二年B組は相当に変わったクラスだった。

 どの程度変わっているのかといえば、“濃い”のである。それぞれの個性が異常なほどに濃い。

 たとえば、経済新聞を読んでいる奴。市場取引のできる年齢はもっと上のはずなのに、代理人を立てて平然と金を儲けている。

 先物取引を聞いている奴らは、誰彼かまわずキャッチセールスを行い、それぞれに金を儲けている。

 ブラックジャックをしている奴らに至っては、胴元が勝ちすぎると、すぐに「イカサマだ!」と文句を言い、それに周りが便乗し、そんな騒ぎをよそにチップを盗もうとしている奴もいる。

 要するに、詐欺師、嘘つき、泥棒、胴元、予想屋、偽造屋……以下略!!

 日本中の性根の腐った連中が集まったクラスなのである。

 「友情」=「中国の首都」と答えて、教師の一人を倒した。

 「友人とは騙す為にいる」と言ってその教師を病院送りにした。

 そんな中にいて、式森和樹はまだまともな部類だった。B組の法律から言わせると変わり者だが。

 そんな連中を尻目に、和樹は窓の外を見ながら思う。

(はぁ、今日も天気がいいなぁ)

 と、

「おはようございます。和樹さん」

 そんな彼に声をかける女子がいた。

 だが、そのとたんそこらにいた連中の意識が和樹に向けられたのをはっきりと感じた彼。

 人の幸福を見ると激怒する連中でもあるのだ。ここにいる奴らは。

「おはよう」

 和樹は振り返る。そこには眩しいばかりの笑顔があった。

 宮間夕菜、掛け値なしの美少女である。そして、和樹とは「友達以上彼氏彼女未満」という位置にいる。

 どうして、そういう位置なのかをここで言ってしまっては諸々に関わるので却下だが、そういう関係なのである。

 しかも、夕菜がかなり積極的な為に、和樹が少し引いている。それでも迫ろうとするからB組内では和樹が目の敵にされる。

 彼女が来た当初は、誰も彼もが彼女を物にしようとしたために殺人ギリギリの決闘まで行われ、急遽B組では「宮間夕菜には干渉しない」という独自の決まりまで作ったほどだ。だが、彼らはそれをどう合法的に破ろうか今現在も思案している。

 ま、そんな事で、和樹が殺されるようなことになっては困るから和樹と夕菜は少々の距離を置いている。

 閑話休題。

 そして、予鈴が鳴った。

 だが、彼らはラジオを聴くことも新聞を読むことも、ブラックジャックと言えないカードゲームもやめようとしない。

 そして、先生も来ることも無かった。

 10分も過ぎただろうか。

 バーン!とドアを壊しそうな勢いで開き、誰かが飛び込んできた。

「あーちくしょう。遅れたか!」

 一人の女性だった。美人だ。だが、物腰に品のかけらも無ければ、言う言葉に衣も無い。

「おーし、お前ら!いねぇ奴は手を上げな。……おし、欠席者なしな」

 出席簿に何やら書き込み、教卓に放り投げる。

 実際欠席者はいないので別にいいのだが。

 彼女こそ、この教室の担任であった。いや、前の担任が病院送りになったから後任だ。

 名前は伊庭かおり。年齢不詳。自称『吸血鬼』。独身。趣味、売られているゲームを全て制覇すること。そしてそれを目標に財産を賭け、金無し胸無し色気も無し!女である。

「黙らんか!そこ!!HR(ホームルーム)始めるぞ!テメェら、賭けも詐欺も先物もしまえ!」

 今日はいつにも増して不機嫌だった。

「昨日は『星を見るひと』をクリアしようとしてジン一本開けちまって頭痛いんだ。静かにしろ」

 マニアックなファミコンソフトを上げた。

 今時誰が、19871027日発売「GA夢(ガム)/ホット・ビィ」社発売のRPG、価格5300円のファミコンソフトを知っているというのだろう。

「ちきしょー……あの移動速度は犯罪もんだぞ……」

 何やらぶつぶつ言っている。

「さて、ちゃっちゃと行くぞ。今日はな、転校生が来てる」

 教室がざわついた。

「帰国子女らしいから皆食うんじゃねぇぞ。国際問題になるからな」

 何やらヤバい事を言ってから外に声をかけた。

 ガララ、とドアが開き、一人入ってくる。

 

 ……教室が沈黙した。

 

 少女だった。均整の取れた体つきに葵学園の制服が映える。顔も童顔で愛らしさが溢れ、さらにその頭から腰まで伸びる金髪。

 いそいそと教壇の横に立った。

「おおーーー……」

 ようやく男子生徒の一人が声を上げた。

「今日から入る「マリエッタ=リバーンズ」だ。よろしくやってくれ」

 思いっきり帰国子女じゃない名前をカタカナで黒板に書いた。右に曲がっている。

「んじゃ、自己紹介でもやってくれや」

「……はい」

 一歩前に出て、マリエッタが言う。

「初めまして。マリエッタ=リバーンズと申します。不束者ですがよろしくお願いします。それから、マリエッタでは名前が長いと思いますので、どうかマリーとお呼びになってください」

 そして、微笑み。

『はぁ……』

 全員がため息とも応答とも取れない声を出した。だが、その片隅では、

「どこのクラスの刺客だ?」

「きっとF組あたりが送り込んできたのよ」

 などと、公然と疑ってかかるやつがいる。

「んじゃ、アンタの席は一番後ろの窓側な」

「はい」

 マリーが席の間を縫って後ろへと歩く。席に着いた瞬間、誰かが息を吐いた気がする。

「よーし、後は特になし。んじゃな」

 やることをやるとかおりは教卓を離れて教室から去る。入れ違いに別の教師が入ってきて授業が始まった。

 

 休み時間になった。とたんに喧騒が復活し、叫びと怒号と悲鳴が乱舞する。

 誰も彼もとマリーに声をかけようとして、誰も彼も止めようとするのでそこら中で悶着が起こったのである。

 そんな彼らを見て、マリー自身は冷や汗を流すしかない。

 結局、彼女に最初に声をかけたのは和樹、夕菜の二人だ。

「こんにちは、マリーさん」

「初めまして〜」

「あ、初めまして」

 マリーが立ち上がって礼をした。

「あ、そんなに他人行儀にしなくてもいいよ。」

「いえ、もう癖ですから。え、と」

「式森です。式森和樹」

「私は夕菜。宮間夕菜よ」

「よろしく。式森さん、夕菜さん」

「大変だね。このクラスに入ってくるなんて」

「はぁ。確かに」

 冷や汗を流して、周りで大声を張り上げる級友たちを見る。部分部分で争っていたのが、今は全員が何かについて言い争っている。

「いつもの事だから気にしないほうがいいよ。」

「そう、ですか?」

 かと言って話題がマリーについてだということははっきり判る。

 結局、その日はマリーについての議題が教室を占め、昼休み、放課後を費やして議論が交わされた。最終的に宮間夕菜と同様に「干渉しない」という所に落ち着いたようだが、このまま終わるようなB組ではないのは明らかだった。

 

 こんなろくでもないクラスだが、ただ一つ他に比べていい所がある。

 それは、このクラスは他に比べても魔力の高い者達が集まったクラスであり、将来の心配が要らない連中なのである。

 最も、付近の評判は最悪を通り越しかねない勢いで落ちているが。

 B組の連中が一番目の敵にしているのがクラスメートという有様であり、誰かが皮肉めいて作った、

『獰猛なライオンと、トラ。そして、クラスメートがいて、魔法の使用限界は3回。あなたならどうする』

 という問いに、彼らは延々うなり続け、クラスメートに攻撃魔法2回という正解を9割が叩き出した。

 一部は全部使うなどと答えていたが。

 そして、そんな中で一番異彩を放っているのは、和樹と夕菜だったりする。

 和樹はどうも昔の先祖がナニだったらしく、魔法使用回数が少ないくせに、膨大な魔力をその身に宿していたりする。その力は、体を月まで飛ばし、東京に豪雪をもたらしたほどだ。

 そして、夕菜の方は魔法の使用回数が膨大なのである。その数なんと20万以上。塵になるのに20万回も必要なのである。……違うか。

 まぁ、そんなどうでもいい話もありーの。

 そんな腐りまくった中にいて、マリーの立場というのは少々きついものがある。転校生という立場上、何かにつけて「教える為」と称して、馬鹿野郎どもが大挙して押し寄せてくる懸念があるのだ。

 まぁ、実際そんな気配が漂いつつ全員がそれを狙いつつ、けん制しつつ嫌な空気だが。

 さすがにマリーもあからさまな作意のこもりまくった空気に耐え切れなくなり、引きつった笑みしか浮かべられないが。

 

 

 そして、放課後。更なる事件は起こった。

「来週は体育大会がある。とりあえず、覚えとけ」

 伊庭が帰りのHRでそう発表した。

『ええ〜〜!?』

 明らかに不満の声が上がった。彼らにしてみれば、そんな行事さえ疎いのである。

「何やるんすか?」 

 一人が手を上げて、伊庭に聞く。

「あぁ、それはだな。魔法を使ってのクラス対抗戦だそうだ」

 一瞬にして、教室の空気が静まり返った。

 魔法を使っての対抗戦。それが何を意味するのか、いやB組内でどんな意味を持って理解されるのかを知らないマリーは突如空気が変わったことに気づかなかった。

「諸君!ようやく我々の力を見せ付けるときが来たぞ!」

 いきなり席を跳ね飛ばす勢いで男子生徒が立ち上がった。名を仲丸由紀彦という。

「我々は常にいがみ合い、協定なんぞというものを結ばなければ、お互いの肩を持つことも許されない状態にあるのは承知の事実だ!」

 仲丸は別にクラス委員な訳でも無い。だが、ひたすらに上に立とうとする意欲は強い奴だ。

「どうだろう!この対抗戦はクラス一丸となって勝ちあがり、付近の学校のみならず、父兄の一人にいたるまで俺たちの力を見せ付けるんだ!」

「具体的にどうしようっての?」

 呆れた声が響く。仲丸に負けず劣らずの性格の松田和美だ。

「そう!そこでだ。対抗戦でやるべき事をあらかじめ決め、もろもろの問題を持ち込まないようにしようということだ!」

「ちょっとまてぇぇ!」

 また男子生徒の一人が立ち上がった。

「てめぇ仲丸、そう言いながらテメェでしきって言いように仕立てようって気だろ!」

「そうよ!仲丸に任せたら、何されるか分からないわ!」

 あれよあれよといううちにほぼ全員が荒唐無稽な言い争いへと割り込んでいく。

 帰りのHRだというのに議論の嵐が吹き荒れ始め、普通の生活を送ることを望む式森たちにはいい迷惑だ。

 その後、唖然とするマリーの前で、およそ1時間にわたって怒号とも意見ともつかないやり取りが続き、議題が「会議を仕切る奴を決める為の投票を行う為の会議を開く場所はどこがいいか」という所に入った頃、

「んじゃ、後よろしく」

 とりあえずいなきゃならないだろう、と言う義務を終えたように、教師の伊庭が帰ってしまった。

 それを見て、式森と夕菜も教室を抜け出した。無論、マリーも気配を消しながら、教室を抜ける。

 

 

 ということで、体育大会当日である。

「大変よねぇ。色々と……」

 式森の先輩に当たる風椿久里子という女子が声をかけてきた。大財閥の息女ということもあり名に恥じぬエリートではあるのだが、彼女の当面の目的は和樹の体だったりする。実家から和樹を婿にもらって来いと命じられたのである。彼女自身はそんな政略結婚的な処遇にも拘らず和樹に積極的だ。しかも、相当に一方通行な積極さだった。

「久里子さんも出るんですよね」

「まぁね。和樹はもちろん出ないんでしょ」

「えぇ……まぁ」

 そう、和樹は使う回数が異様に少ないくせに威力が膨大すぎるので体調不良を理由に体育大会は欠場扱いになっている。同じ理由で夕菜も欠場していた。彼女の場合は別に試合などどうでもいいのである。……和樹が休んだので、というのが99.99%を占めるが。

「凛は残念がってたわね」

「凛ちゃんが?どうしてですか?」

「さぁ……、本人はふがいない和樹を叩きなおす為だとか言ってたけど」

 神城凛。1年の剣豪女子で、久里子と同じく実家から和樹を婿にと言われてきているが、こっちは和樹が嫌いだった。だが、最近になって和樹の株が上がりつつあるようだ。微妙な言動が目立つようになっていた。

 しかし、久里子は積極的に対し、凛は奥手だった。恋愛に関する感情表現が苦手というのか、幼い頃から退魔を生業とする剣術の家系で育って来た為だろうか。それっぽいことを言い始めたりするのだが、和樹の方が愚鈍すぎていつもから回りしつつ、久里子や夕菜と取り合いが起こっている。

 ……モテてることを自覚していない和樹にしてみればいい迷惑だが、見ているこっちは歯軋り物である。色々と。

 全校生徒が体育着に着替えて校庭に集合した。ほかに体育祭の開催を聞いた父兄達や野次馬たちが校庭の端に陣取ったりしている。

 そして、今回の体育祭の主催である生徒会代表が壇上に立った。

 開催前の挨拶だとか、教頭の健闘をたたえる訓示だとかはまっさらに省くとして、対抗戦のルールが発表された。

 

 1:対抗戦は1クラスを1チームとし、学年を無視した総当り戦である。

 2:魔法は無制限。但し観覧者の安全を考え、グラウンドを一定ラインから結界で囲む。参加者は競技中そのラインを越えない事。

 3:競技中に戦闘不能、もしくは戦意を失った者は自力で場外へ出るか、待機している救護員へ助けを求めること。競技者はこれに攻撃を加えないこと。

 4:対抗戦は完全サバイバルで行われ、対戦時に欠員がいようとこれを行う。対戦辞退をしたいチームは申し出ること。

 5:全員が全力を尽くすこと。

 

 まぁ、最後のは問答無用で社交辞令だが、簡単に言ってこういう事である。

 4について簡単に言えば、たった一人残ろうとも戦ってもらうということだ。それが嫌なら辞退しろと。開始時に参加できないほどやられた者は休んでろってことで。

 

 

 そして、競技が始まった。

 マリーもその様子を外野から観戦したが、いやはや、すさまじいものだった。

 炎、水、雷、土。西洋魔術に東洋魔術。まるで、魔法使いの博覧会を見ているような感覚だった。

 一人が炎の渦を発生させれば、誰かが水の障壁でガードする。頭上に雷雲が現れたら風で吹き飛ばし、何人かが一緒に唱える複合魔法をやはり何人かが唱えた巨大な魔力障壁で防ぐ。誰かが作った式神を誰かの放った光の矢が叩き落とし、砂のようになった地面に飲み込まれた奴に向かって攻撃が殺到したりする。

 ほとんど阿鼻叫喚、地獄絵図だ。

 決着がついた頃には、両者ともに10人残っていればいい方だ。

「すさまじいですね」

 同じ観覧場所にいた和樹達にマリーはそう漏らした。

「う〜ん、この学校の連中って色々とあるから」

「…………」

 冷や汗を流すしかなかったマリーである。

 

 

 そして、いよいよ2−Bの試合がやってきた。和樹と夕菜を除いたほとんどの連中が競技場に立ち、そろってやる気満々である。

 もちろん打算がある。この体育大会を彼らがみすみす見逃すはずもなく、すでに観覧席の各所で先に仕込んでおいた胴元が掛け金集めに励んでいる。

 金儲けのためならすべてを利用する彼ららしい考えだ。

 彼ら個人が何を考えているかは判らないが。

 そして、相手は同じ2年のD組。体育着に着替えた両者がグラウンドの両端に陣取った。

「試合開始!!」

 審判が笛を鳴らした。

 一斉に呪文を唱える声が響いた。数秒して一斉に締めの言葉が発せられ、呪文が発動した。

 2−Dは全員が結界の呪文を、2−Bは一斉に攻撃呪文を叩き付ける。

 ドドドォォォォン!!

 大爆発が起こって会場は一瞬にして煙に巻かれた。B組の陣地だけが。

「…………はい?」

 クラスの後ろにいたマリーは一瞬その光景が信じられなかった。攻撃呪文を唱えるまではいいが、それをあろうことか味方に叩きつけ始めたのだこの連中は。

 煙が晴れて見えてきたのは死屍累々と倒れ付すB組の面々。もちろん結界を張っていたD組は無傷である。

「ふん、やっぱりこうなったか」

 マリーの後ろから声が聞こえた。振り返ってみるといったいいつの間に移動したのか仲丸の姿があった。

「予想はしてたけどやっぱりか」

 松田の姿もある。

「あの……、これは?」

「まぁ、こういうクラスだってことだ。うちは」

「そうそう」

 仲丸も松田もそろってうなずく。マリーは全身から力が失せて行く気がした。目立つためなら味方さえも問答無用で吹き飛ばす連中なのだと、彼女もようやく理解できた。

「どうする?ギブアップする?」

 騒ぎの中生きていたもう一人が声をかけてきた。杜崎沙弓。彼女も凛と同じように退魔を生業とする家系で育ったこともあり、その技術は折り紙つきだった。ちなみに凛とは山ひとつ隔てたところに本部があるせいで実家がライバル関係にある。

 マリーの頭の中でもさすがに20人以上と4人での戦力差は簡単にわかる。

 救護員もすぐさま戦闘不能と見て取った者から次々回収していく。

 いや、もしかしたらD組はこうなることを見越していたのかもしれない。マリーは知る由もないが、B組の実態は知る人ぞ知るなのである。同じ学校にいればなおさらだ。

 そうしているうちに、D組はじりじりとマリー達をとり囲みつつあった。仲丸と松田の名は知れ渡っているし、杜崎の情報も色々と流れている。

 あまりにも不利すぎるのだが、決断は早かった。

「転校生がでしゃばるとあれだと思いますけど……」

『ん?』

 身構えていた3人がマリーを見た。

「負けるのは嫌ですね」

 半分開き直ってマリーは言った。そして、少し足を開く。

「勝てる戦いですか?」

「誰にいってんの?」

 松田の口から笑みを含んだ言葉が漏れる。

「しゃーねぇ……やるかぁ」

 仲丸もそう言った。

「これで勝とうとすると胴元の連中が大損するんだがな」

「いいんじゃないの?どうせ、B組の券も押さえてあるんでしょ?」

「大穴狙いか。たまにはいいかぁ」

 そういってため息をつく仲丸。

「こっちはいつでもいいわよ」

 じりじりと間合いを詰めてくるD組を見据えながら杜崎が言う。やはり少数対多数の戦いに慣れているのだろうか。

「んじゃ、行きますか!」

 松田がすばやく印を結んだ。そして、全身から炎が噴出す。

「炎龍!!」

 炎は一瞬にして数頭の龍の形を取ると、D組へと牙をむいていく。

 虚を突かれたD組の数人がそれを受けて吹っ飛ばされた。だが、数人が結界を展開しそれを防ぐ。そんな攻撃を防いだ連中の真っ只中へ杜崎が疾風のごとく踏み込んでいった。手足に装着したプロテクターに魔力の光が見て取れる。

 ここに来てD組が浮き足だってきた。杜崎の突撃によってD組に穴ができた。そこに松田の龍が、仲丸の拳から放たれる衝撃波が無防備な連中へと叩き込まれていった。

 もちろん、その反対側にいた連中は黙ってみていたわけではない。松田や仲丸も呪文の詠唱中はどうしても無防備になる。そこを狙って攻撃を仕掛けてきた。

 だが、それらの攻撃はいくつも展開された盾によってことごとく防がれていた。

「アァァァァァ……ゥゥゥゥゥゥ……」

 マリーが異音を発していた。……もとい、声を発していた。聞きようによっては歌にも聞こえるが、はっきりとした歌詞があるわけではない。例えて言うなら、モンゴルの“ホーミー”のような高音と低音が交じり合った、不思議な音。

 これがマリーの得意とする戦法のひとつだった。元々巫女という立場にいた彼女は聖歌隊に所属していた経験もあり、声を思いのままに出すことができる。声を音に置き換え、組み替える事で高速詠唱を可能にする。それはまるで電話回線から聞こえてくる電子音にも似た感じだ。

 しかも、攻撃は四方八方から飛んでくるにも拘らず、彼女はその全てに対応して見せた。大きな盾を展開させるのではなく、小さな盾をいくつも同時召喚し、一つ一つの攻撃を防ぎきるのである。

「やるじゃない!」

 その戦法を見た松田も賞賛を送り、動揺している連中に向かってさらに攻撃を繰り返す。

 この時点で、形勢は完全に逆転していた。

 

 

 終わってみれば、B組の完勝だった。

 杜崎の特攻と大暴れによって戦線は大混乱に陥り、ほとんどが3人の餌食となった。

 そして、数が減っていくうちに戦意をなくした者が出始め、最終的にD組はギブアップという形で幕を閉じたのである。

「情けないわねぇ。たった4人も倒せないなんて」

 松田が控え場所に戻ってきてそう言った。

「やれやれ……無駄に疲れちまった」

 仲丸は逆に地面に腰を下ろすとそう言った。

「しっかし、あんたやるわねぇ!」

 松田が、マリーの肩をバシバシ叩く。

「そ、そうですか?」

「何いってんのよ!まさか、あんな防御の仕方するなんて、一体どこで習ってきたのよ」

「すみませんが……、それは秘密です」

「あーーにいってんのよ!どう、食券10枚でその魔法教える気無い?」

「いや……だから」

 そんな彼らを見ている影がいくつかあった。その内の一つ、風椿久里子は、

「……あの子、あんな特技があるのね」

 自分が対戦する相手をじっと見詰めながらつぶやいた。

 

 

 その後、続けて行われていく試合でも怪我人やらギブアップが続出し、第2試合以降棄権するクラスも出てきた。

 そして、第2試合。2−Bの対戦相手はまた2年、F組だった。

「F組か……ちょっとキツイかも」

 松田が試合前にそう漏らした。

 2年F組は、団結力で言うなら学内でも屈指だった。実際、クラス単位で行われる行事でもF組は持ち前の団結力を見せつけ、他を寄せ付けない。

 最も、優秀な連中が集まっているはずのB組は例外なく足の引っ張り合いをして結局下位に甘んじている。

 第1試合でも、攻守ともにバランスを取った配置をして3年のクラスを破っている。しかも、被害は最小限。

 B組はというと、回復した連中もいるにはいたが、復帰してもまた吹き飛ばされるならやりたくない、という連中が多発して結局4人のままである。

「あいつら団結力だけはあるからなぁ……」

 言いながら、松田を見る仲丸。その視線に気づいた松田が、

「何よ、ここに来てあたしが何かやるとでも?」

「さぁな」

 何かやる気だったのか……。

 

 

「いいんですか?ほんとに」

 試合が始まる前にF組のクラス委員が話しかけてきた。

「何が」

「たった4人でこの人数を相手にする気か、と言うことです」

 後ろではF組の面々がいまだに何かを話し合っている。作戦の確認でもしているのだろうか。

「さっきはD組の連中をのしたんだぜ。やる気に決まってるさ」

「もちろん見ましたよ。お二人の戦法も、そちらの杜崎さんの戦い方も。そして、転校して来たばかりのマリエッタさんの防御術も」

 どうも、こちらの戦意を削ごうという気らしい。

「対策はもちろんしました。それでもやりますか?」

「くどいぞ。やるといったやらやるさ」

「そうですか。なら、手加減はしませんよ」

 腐ってもエリートの集まるB組である。手加減はしないほうがいいと判断したのだろう。

 クラス委員が戻っていき、また何事か話すと、こちらを向いた。

「試合開始!」

 審判の声が笛とともに響いた。

 ほぼ同時に、F組から波状攻撃が飛んでくる。

「この!」

 マリーは瞬時にドーム型の結界を形成。全員を覆った。

 ドドドドドド……!!

「くぅっ……!!」

 完全に防御できるといっても、さすがに波状攻撃されるとマリーの精神力がしだいに削られていく。

 しかも、F組は波状攻撃しながら扇状に展開。防御一辺倒と見るや、攻撃の手を強めだした。

「まずいわね。ことこん」

 松田がさすがに結界内でため息をつく。

「ギブアップでもする?」

「冗談言うな。あいつらにだけは負けられん!」

 あきらめかけた松田に対し、仲丸は頑として譲らない。どうやらF組は彼にとって宿敵らしい。

「でも、このままじゃマリーももたないわよ」

 冷静に杜崎が言う。

 結界を支えているのはマリーの魔力である。波状攻撃の中、結界内に風一つ起こらないというのは、相当に強力な結界を張っていることになる。負担はかなりのものだ。

「くそ……、ジリ貧だな」

「あの……いいですか?」

 苦戦の中、マリーが声をあげた。

「10秒代わっていただければ、なんとかできるかもしれませんけど」

「10秒て……何ができるってんだ?こんな状態で」

 波状攻撃はいまだに続いている。叩き潰すつもりだろうか、それとも日頃の恨みを晴らしたいのだろうか。

「えっとですね……」

 マリーは思いついたことを3人にいい、

「待て!んな、真似できるのか!?」

「そうよ!できるの!?」

 松田と仲丸はその案を信じられなかった。

「それしか今は思いつきません。とにかく、このままギブアップはちょっと私も嫌です」

「……ち、しかたねぇ。貸しは作りたくないんだが」

「別に貸し借りの問題じゃありませんよ。作戦の問題です」

「い〜や、世の中は貸し借りで動いてるからな。貸しを作るくらいなら他をあたる」

「いいんじゃない?食券10枚くらいで」

「何でもいいですけど、乗るんですか?乗らないんですか?」

「しゃーねぇ、乗った!」

 仲丸がそう言って、結界用の呪文を唱え始める。松田もそれに合わせるように呪文を練り始めた。

 そして、二人の呪文が完成した。

 結界の展開と同時にマリーは結界を解除する。

「くっ……!」

「ちぃ!」

 そのとたんに二人の展開する結界に波状攻撃が殺到。その威力を一人で耐えていたのが不思議なほどだ。

「こんな、攻撃に耐えてたのかよ!!?」

「早くしてよ!10秒だって持たないかも!」

 言われるまでもなく、マリーは呪文の詠唱に入っている。

「聖なる神々よ、大いなる力、全てのささやきを運ぶ風の精霊。……」

 魔力の集中とともに、彼女の構えた両手の間に緑色の光が収束していく。

 びきぃぃ!!

 結界にヒビが入った。

「まだか!?」

「……全ての空を裂き、荒れ狂え!」

 ほぼ10秒。

 サッカーボールほどに増幅された力をマリーは一気に解き放った。

 ゴアッ……!!

 結界の内側から放たれた風の魔法は、結界をぶち破り、向かってくる全ての魔法を弾き飛ばし、油断していた防御要員の隙を突き、展開していたF組の中央にいた連中の20人ほどを一気に薙ぎ散らした。

『――!!!??――』

 F組は驚くというよりあっけに取られた。

 完全に不利な状況から、1つの風の魔法で10人以上が唱える全ての攻撃魔法を相殺しようなどと誰が考えるだろう。いや、できたとしてもそれには膨大な魔力が必要だ。

 完全に虚を突かれた反撃でF組は一気に浮き足立ち、風を追うように突撃する杜崎に蹂躙され、松田や仲丸が攻撃を開始した時点で、完全にF組は制圧されていた。

 

 

「いやー、まいったまいった」

 他のクラスまでが今の試合の健闘をたたえにやってきてB組周辺は大騒ぎになっていた。大体の連中は賭けに勝ったせいもあるが。

「まさか、あんな無茶な策が通るとは思わなかったぜ」

「ったく……一時はどうなることかと思ったわよ」

 戻ってきてさっそく文句をたれる二人であるが、そろって笑みを浮かべていたりする。

「お二人のおかげですよ」

「私は入ってないの?」

 杜崎も戻ってきてそう言った。

「いえ、そういうわけでは……」

「あぁ、そうそう。次から私出られないから」

 いきなり杜崎がそう言った。

『えぇ!?』

「攻撃をよける時に足を捻ったらしいの。悪いけど」

 確かに格闘家にとって怪我を推して出るというのは少々危険だ。

「ち貴重な戦力が」

「はぁ……どうする?3人よ、次」

「俺はやめだ。これ以上無理を押しても実入りが少なくなるだけだ」

 ……やっぱり彼も賭けに参加しているらしい。どこを買ったのだろうか。

「んじゃ、私も降りる。分が悪すぎるわ」

 残ったのはマリー一人だが、

「それじゃあ、私一人ですか……」

「やめときなさいよ。たった一人で戦ったって、勝ち目ないわよ」

「だな。辞退してる連中も多いが、残ってる連中は10人以上残ってる」

「じゃあ、10人強ですか。」

 何を考える必要があるのかマリーはしばらく考え、

「やれますね」

『待てコラ』

 二人が揃って突っ込む。

「たった一人で10人と戦う!?さっきのはほとんどまぐれなのよ!」

「確かに、さっきみたいに遠距離戦にされれば不利ですけど、接近戦なら……」

「格闘できるの?」

「たしなみ程度には……」

 

 

 で、結局たった一人で参戦を決意。対戦相手は3年E組。15人と数こそ減っているものの、闘志はいまだ衰えずといったところ。

「たった一人で参加するなんて、その戦意だけは買うぜ!」

 試合開始と同時に、数人が接近戦に持ち込むために飛び出してきた。このクラスは接近戦が得意な奴が多いようである。

 そのほかの生徒は後ろで呪文を唱えだした。

 メインはこの接近戦の数人、後は防御と補助魔法要員とマリーは判断した。だとすればこの数人さえあしらってしまえば、

「おらぁぁぁ!!」

 手に魔力を集中し、威力を上げた正拳がマリーに向かう。だが直後、仕掛けた方の生徒の視界がいきなり逆転した。

「え……?」

 ずだん、音を立てて背中から地面に叩きつけられる。

『なっ!?』

 驚いて一瞬足が止まる一同。だが、その一瞬でマリーは動いた。両手に数本の細い魔法の矢を召喚すると投げ放った。

「ちっ!」

「くっ!」

 だが、動揺していても全員がきっちりとそれを回避する。

「なめやがって!」

「女だてらに調子に乗るんじゃねぇ!」

「まぁ、怖い」

 今度は二人同時に向かってきた。マリーは右へ左へと飛びながら散発的に魔法の矢を放っていく。

「ちょこまかと!」

 矢を回避しながら毒づく生徒。

「くらえ!」

 炎の魔法、オーソドックスなファイヤーボールを放つ。マリーはこれを盾できっちりガードしてお返しとばかりに数本の魔法の矢を放つ。だが、やはり回避される。

 そんな事が3分も続いただろうか、

「くそっ!援護は何やって……、!?」

 ふと、後ろを見た生徒は唖然となった。いつの間にか、後ろで援護をやっていた全員が倒されている。残っているのは接近戦を挑んでいる自分ともう一人の二人だけになっていた。

「い、いつの間に!!」

 憎々しげにマリーを睨む。もう一人も現状に気づいて驚いた。

「ギブアップしないんですか?」

 マリーから声をかけられる。

「このままおめおめと引き下がれるかよ!」

 けん制の魔法を放ちながら一気に間合いを詰めた。だが、その生徒はマリーの実力を見くびりすぎていた。

 けん制に放たれた魔法、それに向かってマリーは自分から足を踏み出した。

「!?」

 そして、その全てを必要最小限のフットワークだけで回避し、ハッとなった時にはすぐ目の前まで間合いを詰められていた。

「すみません」

 謝る声。そして、交差した。交差したとたんにその生徒から全感覚が失せていた。

 いつしか、グラウンドで歓声を上げていた観衆までが黙り込んでいる。

「なななな……」

 残ったもう一人はさすがに動揺しまくっていた。15人という圧倒的有利にいたはずが、一体どういうわけで二人になり、そして見せ付けられた彼女の体術。

 喧嘩などで身につくような生半端な物ではない事くらい彼にも判った。戦い慣れしているのである。1対多数の戦闘に。

 そして、彼も気づいたときには風の槍を受けて吹っ飛ばされていた。

 

 

「こいつは、荒れるな」

 観客席に移動してきたB組連中は大慌てで札を換金し、買いなおしている。

 たった一人になったマリーが、年長の3年を苦もなくあしらってしまったのだ。

「すごい……」

 夕菜もマリーの戦いにのみ込まれていた。

「戦い慣れしてるな。彼女」

 杜崎がつぶやいた。

「接近してくる連中を壁にして後方の連中を遠距離から倒す。高速の矢を使うことで防御の暇さえ与えずに、か」

「一体どこであれを習得したのやら」

「どわっ!!?」

 和樹の後ろにいつの間にか久里子、凛がいた。

「本気で一人で優勝する気かよ。勘弁してくれ」

 仲丸までが苦りきった表情で言った。今の試合、3年にかけていたようである。

 

 

 その後、たった一人の彼女が勝ち進んだことで、さらに参加辞退するクラスが増えた。まさか一人で10人以上を蹂躙されては優勝などできやしない。

 で、次の試合は1年神城凛のいるクラスとだった。

 1年のクラスで勝ち進んでいるのは彼女のクラスのみだ。そのほとんどは凛の戦闘能力の賜物であるが。

「ま、そういう事だ。よろしく頼む」

「はぁ、そうですか」

 自分よりも背の低い凛と簡単な挨拶をするマリー。その視線は彼女の持っている日本刀に向けられていた。武器の使用は認められていたのだろうか、とはっきり思う彼女である。

「位置につけ!」

 審判員が声をかけた。

 ちなみに、今凛以外に残っているのは5人ほどしかいない。激戦で疲弊したもの、戦意を失った者、マリーの戦いを見てやる気をなくした者が出て、こうなったのである。

「では、始め!!」

 日本刀を抜き放ち、一気に突出してくる凛。

「いざ、勝負!」

 マリーはすぐにこの少女との勝負は不利だと判断する。武器を持っていることもさることながら、リーチの読みにくさがある。それに、さっきまでの試合で手を見せすぎて読まれることも考えた。

 マリーは第一閃をぎりぎりまで引き付けて避け、後ろで傍観を決め込もうとしていた後衛に向かって攻撃を放った。

『どわわわわ……!!?』

 驚いた後衛はそれだけで乱れ、標的にされたと見るや、すぐにフィールドから退散しだした。

「戦いの最中に背を見せるとは!」

 モロに背中をさらしたマリーに向かって凛は鞘を引き抜いて、それで殴りかかろうとした。だが、マリーも前に出てそれを回避する。

 完全に1:1の試合になった。だが、やはり不利なことが一つ。やはり武器の存在。ついで、彼女が相当な使い手であることが物腰からわかること。

 となると、徒手空拳では戦いにくい。となると、

「やはり、剣がいりますね」

 マリーはそうつぶやくと、両手を合わせ、呪文を唱える。

「させるか!」

 すぐさま、凛が間を詰めてくる。振られる日本刀を大きく跳んで回避すると、今度は両手を地面につけた。

 バリバリバリ……!!

 地面と両手に放電が起こった。

「ちぃっ!」

 何か嫌な気配を悟った凛が攻め込む。

「破ぁっ!」

 魔力を這わせた日本刀を大上段から振り下ろす。

 すぐさまマリーが反応して右手を振り上げた。

 ガキィィン!!

 金属同士の打ち合う音がした。

「なにっ!?」

「ふっ!」

 以外に強烈な力で押してくるマリー。凛はすぐさま距離をとった。そして、マリーの手に握られているものを見て驚愕する。

「ど、どこからそんなものを!!」

 立ち上がったマリーの両手にはいまだ放電を続ける剣の出来損ないのようなものが握られていた。だが、それは少しずつ精錬されてゆき、数秒で完全な剣としてマリーの手の中に納まった。長さは80センチほど。1つの金属から掘り出したかのようにつなぎ目もないまっすぐな剣だ。

 キーン!とマリーは剣同士を打ち合わせる。まるで感触を確かめるように。

「土壌に含まれる鉄分を抽出して剣にしてみました。あなたの剣ほどのものじゃありませんが、今はこれで間に合わせますね」

 純銀の輝きを放ち、鏡のように精錬された剣を構えるマリー。両腕を交差させて構える。

「参ります」

 言ったとたん、マリーは弾丸のごとく飛び出す。

 地面ぎりぎりまで上体を沈め、間合いぎりぎりで強引に上体を起こし斬撃をあびせる。

 ガギィィィィン!

 マリーの剣と凛の刀が激しく交錯し、火花が散る。そして、突っ込んできた勢いまで仕掛けられた斬撃にさすがに凛も弾き飛ばされた。

「くあっ!?」

 ビリビリと手に強烈な痺れが走るが、凛はなんとか体勢を立て直す。

(――速い!!)

 マリーはゆっくりと腰を落とし、両腕を上に持ち上げる。

「……飛燕」

 ジャッ!

 両腕がかすみ、残像が走る。残像は光刃となり凛へ向かって飛ぶ。

「くぅっ!!」

 光刃を刀を横にして受け止める。衝撃で全身の筋肉がビリビリと悲鳴を上げる。

 そろそろ刀に纏わり着かせた“剣鎧護法”が弱くなってきているはずだ。

 凛は一度間合いをおくと呪文を唱えなおす。

 改めて剣を構え直すまで、マリーは律儀にも待っていた。

「よろしいですか?」

「くっ、おのれ!」

 凛は低い位置からマリーの懐へ飛び込む。下から上へ袈裟懸けに斬る!マリーはそれを小太刀2本で防ごうとするが 、

 ガキィィン!!

「ん……」

 小太刀が耐え切れずに折れた。瞬時にマリーは状態を後ろへずらす。そのまま手を付くとばく転数回で間合いから離れた。

「はぁはぁはぁ……」

 剣鎧護法を強化していたせいだろうか、即席の剣をやすやすと折ってしまった。だが、向こうも体力が持っていない。

「せやぁ!!」

 気合とともに凛がさらに追撃をかける。マリーは右手に具現させた光の玉を地面に叩き付けた。

 カッ!!

 強烈な閃光。グランドにいた全員が目を覆う。コンマ数秒で光は収まったものの、予想していなかった凛は目をやかれる。

「くそっ!」

 凛は下手に動かず、その場にとどまり気配を探る。しかし、相手も限界まで気配を消しているせいかなかなか察知できない。

 と、いきなり目の前に気配が出現した。

「!!?」

 気配に向かって剣を振るう。だが、腕を押さえつけられた。次の瞬間、目を覆われる。

 見えてもいない目に何故手を当てるのか凛には分からなかったが、ふと目元が暖かくなった。

 捕まえられた腕も解かれ、気配が離れる。

 目元を手で押さえる。別になんともなっていない。きっちり見えている。

「……!?」

 見えている??閃光でやかれた目が?

「見えるようになりましたか?」

 離れたところで驚いている凛を見ながら微笑むマリー。

「お前……何故?」

「正々堂々戦う方があなたも納得するでしょうし、治療して差し上げました」

「…………、後悔するぞ」

 凛は日本刀を持ち上げた。

「では、後悔のなきよう戦いましょう」

 マリーはその場で両手を広げる。すると、

 ジャッといきなり地面から剣が飛び出してきた。今度は2本の曲刀だ。

「“戦乙女の刀幻境”」

 マリーがそういった途端、

 ドドドドドドド……!!

結界の内側をなぞるように100本はあろうかという数のさまざまな刀剣が飛び出してきた。

「な……に???」

 いきなりの事に驚く凛。いや、彼女だけじゃない、集まってようやく閃光の余韻が消えたギャラリー達もこの異様な光景に目を疑った。

 ――こんな魔法が存在するのか???

 大多数の人間はそう思っただろう。

 マリーもあの閃光の中で何もしていなかったわけではない。この術のための複雑な呪文を練り上げていたのだ。完成と同時にそれを遅延魔法とし、先に凛の視界を回復したのである。

「さぁ、始めましょう。お互い納得のいくまで。戦って戦って、戦い抜きましょう」

 曲刀を華麗に、ダンスを踊るように振る。

「……ふっ」

 唖然としていた凛も口元に笑みを浮かべた。

「上等だ!!」

 日本刀を構え、凛が踏み出した。

 

 

 凛が繰り出した斬撃をマリーの曲刀が受け流す。

 曲刀は元々斬りあうための剣ではない。突くという動作を捨てたあくまで斬るための武器。おまけに刀身は取り扱いのしやすいように細く作られている。凛の“剣鎧護法”が纏わり付いた日本刀をまともに食らえばさすがに折れる。

 マリーはフットワークを使いながら、凛の攻撃を受け流し続ける。斬撃の合間を縫い、自分も攻撃を繰り出す。

 まるで踊りを踊るように、今の二人はそんな感じだった。

 しかし、

「せぇっ!」

 マリーではなく、剣に狙いを定めた斬撃が曲刀を叩き折った!

「くっ!」

 左手の刀で追撃を交わしながら、マリーは下がる。

 凛が大振りを弾かれた所に、マリーは魔力を這わせた掌底で腹を突く。

「がっ!」

 姿勢を崩す凛。その内にマリーは曲刀を捨てると間合いを離す。間合いを離したところで、両手首に仕込まれた極細ワイヤーを引き出し、魔力を這わせて右と左に放った。

 ワイヤーは正確に地面からせり出している剣を捕らえ、絡みつく。

 絡み付いた剣は、長さ170センチ、身幅が5センチはある長剣だ。

 力任せに引っ張り、剣が宙に跳ね上がった。回転しながら両方から飛んでくる剣を見もせずにきっちりキャッチする。

『おおお……!!』

 ギャラリー達には、マリーが手を振ったと同時に剣が飛んで来たように見えたはずである。

 両手で振り回すような剣には見えないが、マリーは苦もなくそれを構える。

 ザッと靴を鳴らして凛へと突っ込む。

 瞬時に凛との距離が縮まる。

「ふっ!」

 両腕を大上段から振りかぶり同時に振り下ろす。凛はそれをぎりぎりで後退して回避する。着地したマリーが不安定な体制から回転し強引に剣を振るう。

 右手の剣が凛の右から襲い来る。まともに当たるのは危険と凛は打ち合わず刀を横にして剣の軌道に乗せた。

 ギャン!!

「! せぇい!!」

 強烈な金属の擦れる音がして音がして、マリーの剣が流れる。寝た状態の刀を突きの形に持って行き、突く!

 だが、刀は空を切った。突きの体勢に持って行った事をマリーは気づいたのだ。一瞬の間にマリーは跳躍していた。

「よっ」

 マリーの左手が振られる。

 ズンッ!!

 まだ突いた状態から体勢を戻していない凛の目の前に大剣が突き立った。

「!!??」

 とっさの事に身を引き、つまづいてしりもちを付いた。

「……はっ……はっ、はっ……」

 唖然とした表情で凛は必死に息を整えようとする。だが、今の一歩間違えば絶命という一撃に驚いて焦りが出ていた。息がなかなか整わない。

(強い!……強すぎる!)

 凛は後方に着地したマリーを見据える。今の回避からの突きは間違いなく決まったと思った。それをあっさりと回避され、目の前に大剣を突き立ててきた。

 立ち上がり、なんとか整ってきた息を押し殺し、刀を構える。

(……私は、神城家の剣士だ。これしきの事で!)

 闘志覚めやらぬ目でマリーを睨みつける。

「いい目ですね。やり甲斐があります」

 剣をゆっくりと目の前に持ってくる。そして、おもむろに刃の付け根に左手の人差し指と中指を付ける。

 ゆっくりと指を剣先へと持っていく。そして、それを追うように剣に光が纏わりついていく。

「……“剣鎧護法”!?」

「この技は、私の友のものです。あなたにも使えるかも知れません。見て、覚えてください」

 剣先へと完全に光が覆い尽くす。

「……殺人剣・壱の四式」

 マリーが剣を背中に持っていく。

「!!!」

 嫌な予感を覚え凛が防御の構えを取る。

「……“疾風剣・火の太刀”……」

 何の技も無い、ただ刀を振り下ろすだけの行為。光を纏った剣は振られるままに空を裂き、地面に叩きつけられる。そして地面に叩きつけられた瞬間、強烈な炎を巻き上げ、凛へ向かって一直線に地を走る!

 ドゥン!!

 強烈な炎が凛の横を一瞬で駆け抜ける。

「く、……ぐっ」

 回避した……?いや、わざと外されたのだ。今の速度なら確実に取られていた。

 今の衝撃に耐えられなかったのかマリーの剣はぽっきりと折れている。マリーは柄を捨てた。

 

 

『…………』

 ギャラリーは完全にこの試合に見入っていた。いや、魅入られたと言う方がいいだろうか。

 学校では名の知られた剣術の使い手を相手に、速度で、力で、技で上を行き、様々な剣術が繰り出されるマリーの戦いに。1転校生のマリーに、である。

「すごい。凛と互角以上に戦ってる」

「…………」

 和樹や夕菜も彼女の戦いに魅入っていた。

「あいつ……、さっきから手を抜いているようにしか見えないな」

 杜崎がそれでも冷静に場を見ていた。さすがに汗も浮かんでいるが。

『え?』

「そう?二人とも本気で戦っているようにしか見えないけど」

「もし、彼女が本気戦っていたら……」

 頬を擦りながら杜崎がつぶやく。

「凛は1分もせずに殺されてるよ。」

『え?!』

 フィールドではマリーがまた刺さっている剣を手に取る。今度は日本刀型だ。

「彼女の動きも凛の動きも、確かに隙が無い。けど、二人の表情を見ればどの程度力を出してるかは大体分かるわ」

 二人が切り結ぶ。

「凛も私も魔物退治の名家って言っても、最近はあまりソレらしい事はしていない。鍛錬はしていても所詮は鍛錬でしかない」

 凛の日本刀を受け流し、繰り出されたマリーの剣がわずかに凛の袖をかする。

「きっと彼女は転校して来るずっと前から何かと戦ってきたんだと思う。毎日のように大量の魔物か、それ以上のものと」

「……それ以上って?」

 夕菜が恐る恐る聞く。

「さあ、彼女と同じ力を持ってる相手か、さもなくば“神”の名を冠したような敵、かな」

 深読みしすぎる部分もあるが、まあ似たようなものだ。

 凛の日本刀の剣圧に耐えられず、剣が折れた。

 

 

一体、何十分戦い続けただろう。100本あった剣も残り少なくなり、今マリーの目の前に刺さっている剣一本のみとなった。

 凛も息は絶え絶えだが、その目はまだ闘志を残している。全身に汗をかき、装束もところどころが斬れている。

 ソレに対してマリーはただ静かに凛を見据えるのみ。汗も掻いていない。

「よく持ちましたね。神城さん」

「はぁ……はぁ……」

 凛は体力を持たせようと無言で対峙するのみ。

「剣も残りこれ一本ですし、そろそろお開きにしましょう。」

 目の前に刺さっているのは、衣装の施された鞘に刺さった長剣。他の物とは明らかに違っている。

「“この一撃に全てを”……」

 本来の意味はこう。だが、発音したのはどこか知らない国の言葉。

 マリーが剣をつかむ。

 すると、彼女を中心に風が巻き起こった。いや、普通の風ではない。

 

 杜崎が身を乗り出した。

「……あいつ、本気を出すぞ」

 ゆっくりと剣が抜かれていく。すでに風は結界の中で渦をまいている。

 だが、凛はまっすぐにマリーを見据えるのみ。

 そして、剣が半分も抜かれた時、いきなりマリーが体を前に倒す。

『!!!』

 その瞬間、誰の目にも映っただろう。

 一瞬でマリーの姿が掻き消え、銀の軌跡が凛を断ち切り、ほぼ同時に凛の後ろに現れたのを。

 数メートルもの長距離の抜き打ち。

「凛ちゃん!?」

「凛!!?」

 マリーが立ち上がった。その後ろでゆっくりと凛の体が傾いでいく。膝を付き、手から刀がこぼれ落ち、上体が倒れていく。

 ダンッ!

 と、倒れる直前、凛が手を突いた。

 

「…………」

「……甘かったな。……貴様」

 こぼれ落ちた刀に手を伸ばす。

「私の、“剣鎧護法”を……なめるな!」

 刀を杖に、何とか立ち上がる凛。だが、膝が笑ってしまっている。なんとか軽減はできたがダメージは入っているようだ。

「構えろ!勝負はまだついてないぞ!」

 マリーが振り返った。その左頬に縦に一筋赤い線が走り、血が流れていた。

「すごいですね。あのスピードについてこれましたか」

 斬られたことより、そっちに驚いたらしい。

 凛がまた片膝をつく。だが視線はまっすぐにマリーを見据えていた。

「付け焼刃の剣術でしたから、隙ができてしまったようですね」

 棒立ちのままマリーがつぶやく。

「お互い、後一歩でしたね」

 視線を凛に向け、笑顔を作る。構えは無い。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 凛の上体が再びかしぐ。と、直前で足を踏ん張り、

「はぁっ!!」

 左からの抜き打ち。渾身の一振り。だが、マリーは右後ろにわずかに身を引いただけ。マリーの顔の寸前を凛の刀が通り過ぎる。

 振り切った凛はその体勢のまま地に身をなげうつ。体力が限界を通り越したのだ。

「……強いですね。あなたは」

 今度こそ起き上がってこない凛。

 新たに横に赤い線が走った。十字傷の顔でマリーは静かに凛を見下ろす。

 ここでようやく審判がマリーの勝利を告げた。

 

 

 マリーが剣を鞘に戻しながら控え場所に戻ってきた。

 凛は彼女が自ら医務室へ連れて行った。その途中治療魔法をつぶやきつつ。

 マリーが戻ってきても誰も何も言わない。言えないのだろうか。

 目前であんなすさまじい死闘を見せられたのだから。

「あの……マリーさん?」

「あ、和樹さんに夕菜さん。お恥ずかしいところをお見せしました」

「いや……そういう事じゃなくて」

「顔の傷のことでしたらご心配なく。すぐ治せますから」

「いや、だから……」

「次は準決勝ですね。お相手はどなたでしょう?」

「…………」

「次は九里子さんですよ。しかも彼女のクラスはここまで全員生き残ってます」

 夕菜が和樹に代わってそう答える。

「そうですか。このまま優勝できればいいですね」

 胴元連中が脇で大騒ぎをしていることなど目に留めず、マリーは微笑んだ。

 

 

 はっきり言えば、九里子は決勝戦は棄権するつもりだった。

 何故と問われるまでも無く、転校生のマリエッタ=リバーンズのとてつもない戦闘力を見せ付けられた後だったから。

 準決勝に進んだクラスは彼女のクラスを除き棄権を宣言し、結界の外で事の成り行きを見守っている状態だ。

 これが事実上の決勝戦。相手は2−B、人数はたった一人。

 対して九里子のクラスは20人以上。しかもクラスとは名ばかりの3年から集められた混成チームである。

 九里子は財閥の娘であり、しかも彼女の姉はこの学校の理事をしている。その関係上彼女はこの学校を裏から取り仕切る裏番であり、その護衛として3年連中がついているのである。

 この大会に九里子が参加したのも彼らが押したからに他ならない。彼女自身はあまり面倒を背負い込むタイプではなく、どちらかといえば和樹に始終張り付いていたいタイプなのだが、周りが彼女を押し上げようとしているので押し切られた感じで参加している。

 まぁ、彼女自身呪符魔術の使い手であることには違いないのだが、今回は相手が悪すぎる。

 今も九里子は最後方、他は全員前に立ち彼女を守るように配置している。

 審判が結界の外で拡声器を持ち上げる。

 位置に付いた両者に緊張が走る。特にマリーの方は左手に剣を持ち突っ立っているだけだが、見ているだけで斬られそうな気迫が感じられた。

「それでは、はじ……」

 審判の腕が振り上げられた。

 そのコンマ数秒の間にマリーの殺気が膨れ上がる。

 審判の腕が一番上まで持ち上げられた時マリーは足を引き、剣の柄に手を掛ける。

 振り下ろすと同時に剣を引き抜き、腕が中ほどまで来た時にはすでに腕を切り返し、地面へと向かう。

 

 ドゴォォォン!!

 

 審判の声が「め」を言ったと同時に、大爆発!九里子を守っていた男達が一瞬にして吹っ飛ばされる。

 パラパラと土ぼこりが巻き起こる中、声を失った群衆が唖然として試合場を見る。

 後方にいた九里子でさえ、一瞬何が起こったのか判らなかったほどである。

 だが今事実としてあるのは、試合開始と同時にマリーが九里子を守っていた男達を全て薙ぎ払ったと言うこと。

 大地に干渉し、中距離の敵をまとめて吹き飛ばす“殺人剣5ノ弐式・活火山”。これも彼女の仲間の持ち技だった。

 呪文の詠唱など無く、“剣鎧護法”のように武器に付与させる魔法でもなく、大勢を一瞬にして倒すほどに強力な魔法。

 魔法そのものが危険なものであり、この学校には学校丸ごと吹き飛ばすほどの魔力を持った者もいる。

 それを踏まえても今の一撃は強力なものだ。

 地面に食い込んだ剣を引き抜き、マリーは姿勢を直す。

「ギブアップ……しませんか?」

「…………」

 さすがに九里子の方も勝てるとは思えなかった。だが、やられっぱなしは彼女のプライドが許さない。

 九里子は腰をかがめると、懐に手を入れる。

 マリーが足を踏み出す。

 九里子が懐から取り出したのは呪符だ。彼女の最も得意とする魔術。紙の兵士を召喚するのである。

「チェンジ……」

 だが、彼女の手から呪符が離れ宙を舞った次の瞬間、呪符は一閃と共に切り落とされる。

「!!??」

 場が硬直した。九里子もその場から動けなくなった。

 マリーが彼女の首元に剣を突きつけているからである。しかもマリー自身は九里子を背にして真下にしゃがみ込み、剣を脇の下から突き出して、である。

「勇気と無謀の違いはご存知ですよね?」

「うぅ……」

 だが、九里子が「ギブアップ」という前にマリーがその場から離れた。

 その一瞬後、マリーのいた場所に氷の矢が降り注いだのである。ダメージから持ち直した数人の護衛が攻撃を仕掛けたのだ。

「おのれよくも……」

「九里子様!ご無事で!」

「え、えぇ……」

 護衛達がマリーに飛び掛っていく。九里子はその間に息を整え、改めて呪符を取った。

 

 

「紙の式神……。厄介ですね」

 九里子が召喚した紙の兵士は徐々に数を増し、向かってくる。

 紙だけにただ斬ればいいというものではない。下手をすれば剃刀の様に飛んでくることも考えられる。

「さすがに、刃がこれでは本気は出せませんね」

 接近してきた護衛の一人を峰打ちにするとマリーは刃を指で挟む。

『??』

 出方を見計らっていた数人が何をするのかと警戒する。

 だが、マリーがやったのは単に柄の部分と刃の部分を分離させただけ。しかも刃の方を投げ捨てた。

 自分から武器を無くしたのを好機と数人が足を踏み出す。

 マリーは剣を前に掲げる。

「……“精神剣”」

 マリーの剣の間合いに男たちが踏み込む。次の瞬間、

 ジャッ!

 光が、男達の胴体をモロに薙いだ。

『!!!???』

 畳み掛けようと動き出した男達の動きが止まった。先に突っ込んでいた男達はもんどりうって倒れ、動かなくなる。

「き、貴様……」

「何だ、ありゃ!?」

 各々にマリーが手に持った物を見た。

 刃が外された柄だけのはずの物に、今新しい刃があった。青く輝く光の剣と言っていい刃が。

「殺してはいませんよ。斬りつけた瞬間に圧縮した術式を体内に送り込んでいるんです。1時間もすれば体が動くようになりますから」

 剣を横に大きく振りかぶる。

「鬼斬一刀……」

「おのれ!」

 護衛の一人が呪文を唱え、

「怒涛斬」

 剣が地面に叩きつけられる。同時に剣先から発せられた衝撃刃が護衛達の列に突っ込む。

「がっ……!?」

「ぐあぁ……!」

 呪文を唱えかけた者二人、紙の兵士3体を巻き込み、突き抜けた。

「ち、散開!取り囲め!!」

 一人の指示で護衛連中が散開して向かってくる。紙の兵士は真っ向から。

「まずは……」

 マリーは左の人差し指と中指を合わせて立て、その間に小さな炎を灯した。足を広げ、大きく息を吸い、

 ゴァッ……!!

 さながら火炎放射器のように、マリーの放った息は火で引火し、紙の兵士だけを焼き払う。

「冗談だろ……!!?」

「こんな魔法が……!!?」

 ザンッザシュッ!!

 それを見た二人が声をあげ、次の瞬間にマリーの斬激で打ち倒された。だが、マリーは動いていない。だが剣が大きく変わっていた。

 さながら剣をいくつもの節に分け、ワイヤーでつないだ武器。鞭のような武器を振るい、マリーはもう一度剣の状態に戻した。

 鞭としての柔軟性、剣としての切れ味。両方を突き詰めた結果生まれた「ツェアライセン」とも呼ばれる特殊剣だ。

 扱うには相当の鍛錬が必要であり、一朝一夕で使えるようになるものではない。

 場内がまた硬直した。火炎放射、そして武器の形態変化。

「テメェ……、どこでんな術習ったんだ!!」

 一人が思わずマリーに問う。

「戦いの中で、少々」

 言うと同時にマリーは足で地面と打つ。同時に地面が吹き上がりマリーの姿を隠した。

『!!?』

 身構える。だが、次の瞬間には目を疑った。消えたのだ、目の前から。

「んな馬鹿……」

 ザンッ!

 一人が声を漏らすと同時に斬激音が響く。そして一人が物言わずに倒れた。

「なっ!?」

 ザシュッ!

「がっ!」

 ドッ!

「気をつけろ!!幻影で姿を隠してやがる!!」

「幻影とは違いますが」

 警告したものの耳元でマリーの声がした。

「いっ!!?」

「おやすみなさい」

 一瞬だけ具現させた剣で生徒を斬る。すぐに刃を消し、移動する。その繰り返し。

「どこだ!?」

「くそっ!!誰か、解除魔法を!」

「くそったれぇ!」

 手だれた者たちといえど場が混乱すると統率力を失う。あれよあれよと言ううちに一人、また一人と仲間が倒される。ついでに紙の兵士も。

「精霊よ!かの者の光を消し去り、我が眼に姿を晒せ!」

 呪文を唱えたのは九里子だった。すぐに効果が発揮され、何も無い場所にマリーの姿が現れた。

「いたっ!」

「なろぉ!」

「よしなさい!!」

 逆上した残りの護衛達が群がり、九里子が静止するまもなく、マリーは次の行動に出る。

 剣を地面に突き立て一言、

「“鋼鉄の処女”(アイアンメイデン)」

 ドドドドドドド……!!

 マリーの周囲の地面から無数の切っ先が突き出し、護衛達全員を串刺しにする。さらには残った紙の兵士たちも貫かれている。

 マリーが剣を抜いた。同時に突き出した切っ先が消滅し、男達は地に落ち眠る。

「アイアン・メイデン……?」

 呆然と九里子はアイリスの言った言葉を反芻する。

「今のは私のオリジナルです。ちょっと荒削りではありますが」

 累々と倒れ付す者達を避けながら、マリーは久里子のほうへ近づく。

「……そっか、どっかで聞いたことがあると思ったら、アンタ」

 何かに気づいたのか、久里子がマリーを睨みすえて言う。

「ブラッディ……」

 ザンッ!

 言い切る前にマリーの斬激が久里子を断ち切った。

「その名前は好きではありません。忘れてください」

「なん……で……」

 久里子の全身から感覚が失せた。

 

「勝者、2年B組――――!!」

『ウォォォォォォォ!!』

 B組の健闘、というかマリーの常人離れしまくった技の数々に興奮した連中が雄叫びを上げた。

 

 

 ボロ勝ちした者たち、ボロ負けした者達とB組は二つに割れた。

 3年のクラスをあれだけボコボコのギタギタにのしたものなど、学校始まって以来であろう。

 だが、まぁそこら辺の騒ぎは数日もすればおくびにも上がらなくなった。

 B組は相変わらず先物取引やギャンブルに興じ、株式情報に耳を傾け、あぁでもないこうでもないと言っている。

「まぁ、一つ変わったことといえば……」

 和樹が窓辺でつぶやく。

「マリーちゃんが、他校から喧嘩を売られることが多くなったことかな」

「何か、全国から試合の申し込みが殺到してるよね」

 夕菜も窓辺からグラウンドを見ていった。

 今もマリーはグラウンドで試合と言う名の戦いを行っている。交流試合と称した魔法合戦を申し込まれる事が増えたのだ。しかもマリーを直指名で。

 無駄な殺生はしたくない、といっていたマリーも断れないと言う性格と、負けたくないと言う意地のせいで連戦連勝という怒涛の記録を作ろうとしている。

 もしかしたら「東方不敗」とか「西方無敵」とか言われる日も来るのかもしれない。

「お願いですから休みをくださーい!」

 連日の激戦でへばりつつあるマリーが言った言葉は歓声にかき消された。

 

 

 −End

2004/05/03