モリース=ファリシアン、 エルフ、 17歳。

 この少女を主人公とした物語がある。

 これからこの物語を話そうと思う。

 それはあまりにこっけいで、あまりにくだらなくて、あまりにむなしかったので、いまのいままで書かなかった物語である。

 

「いいこと、勝手に魔法の実験したらだめですからね」

「はいですぅ♪」

 のんきな声で答えたのは、エルフの暮らす国のとある村に住んでいた、少女だった。

 彼女の名はモリース。3頭身の身長しかないがエルフでは普通の成長の度合いだ。

 そんな彼女は魔道士見習いである。世界の例に漏れず、一般教養としての範囲だった。

 しかし、彼女、精神年齢は10歳程度しかなく、何かにつけて好奇心を抑えることができない。

 それに、

「いってきますですぅ♪」

 末尾に音符をつけるような、話し方。

 村の中ではちょっとした有名人だ。

 もっとも、それは他の起こした問題の数でも言えることだ。

 一つ、魔法の練習と称して火炎魔法を使ったところ危うく山火事が起こりそうになった。

 二つ、魔法の練習と称して風の魔法を使ったところ通行人が巻き添えを食って吹き飛ばされた。

 三つ、魔法の練習と称して氷の魔法を使ったところ、家畜が凍りついて凍傷にさせてしまった。

 などなど。 

 潜在能力が大きいのか、どうなのか、失敗はするものの、その威力には先生まで驚かされているらしい。

 しかし、失敗なら失敗で学習すればいいものだが、いつまでたっても上達しない。

 ……やはり精神年齢10歳では、……ってか。

 

「るんるん☆」

 町の中を彼女は歩いていた。向かう先は村はずれの野原だ。いつも魔法の練習をしている場所で、彼女もそこが好きだった。

 しばらくして、野原へとつくと彼女は近くの切り株へと腰をおろした。

「さぁて、今日も魔法のお勉強するですぅ♪」

 背負っていたリュックから出したのは、魔道書。しかも革張りで、いつも先生が使っているものとは違う。どこか異様な感じを受ける。

 これは彼女が先生の家で見つけたもので、ばれないように持って来てしまったのだ。やはり抑えきれない好奇心がそうしていた。

「ふにゅぅぅ・・・・」

 革張りの魔道書を開いたはいいのだがまったく分からない文字が並んでいる。当然といえば当然だ。

 すると、あるページに紙がはさんであった。それはそのページに書かれた呪文を訳したものらしい。

「わぁぁ、読めるぅ、読めるですぅ♪」

 彼女の読めるような表現で書かれているとすると、将来は彼女に渡すつもりだったらしい。

「えぇ、とぉ」

 彼女はまずそのページに書かれた魔法陣を描くことからはじめた。魔法陣を書くことは魔道の基礎だ。

 彼女は本を見ながら、落ちていた枝で、地面に大きな円を書き、星を書き、文字を書いていく。

「ふんふん……。よし、完成ですぅ☆」  

 地面には本に書かれているものと同じ魔法陣ができていた。

 彼女は魔法陣の前に立ち、厳かに(?)呪文を唱え始めた。

「えぇ、とう。

 天と地とのあいだよりぃ、時のハザマに住むものよぉ、我の名において命ずるぅ……、

 光をまといてぇ、闇をいだきぃ、四方をすべるものよぉ、我が前にぃ、現れ出でよですぅ♪」 

 のんきな詠唱とともに魔法陣に光がともった。

「わぁい、成功ですぅ☆イェーイ♪」

 彼女は飛び上がって喜んだ。しかし、彼女は気づいていなかった。その本のページに刻まれたマークの意味に。

『使用厳禁

 これはあらざるものを呼び出すものである』

 と。

 

 変わってこちらは、里中達一行。旅が終わって、戻ってきたところだ。

「はぁ、やれやれ。今度の旅も、目的があれかよ」

「やってられないわよねぇ。ほんと」

 サリナがあいづちを打つ。

「ごくろうさんですねぇ。まったく

 さてお二方、すぐにでも行けますが、行きますか?」

「えぇ、ちょっと待ってくれよ。こちとら長旅で疲れてるのに、すぐにでも行かせようってのかよ」

 と、そのとき、

 コォォォォ……

 里中の周囲が光り始めた。

「!?

 おい、天使!待てって言ってるだろ!」

「それはわたしではありません!!」

 珍しく天使があせっている。

「誰かが強制召還しようとしているんです!」

「はぁ!!?」

 光はどんどん大きくなる。

「くそ、体が……」 

 里中は体の自由が利かなくなっていた。

「大介!ちょっと……!」

 サリナが里中の手をつかんだ。

「できる限り抵抗してください!そうしないと完全に心を支配されます!」

 そういう天使の姿が薄くなっていく。

「やろう……!」

 次の瞬間、

 グガッァァァッァァン!

 魔法陣が大爆発を起こした。

 天使が顔を上げるとすでにそこには二人の姿は無かった。

「……やれやれ」

 

「なにがでるかな、なにがでるかな♪」

 モリースは魔法陣の前で何が出てくるのか待っていた。

 やがて、魔法陣にひかりが集まってくる。

「わぁぁぁ・・・」

 見とれる彼女だが、次の瞬間、

 キュゴォォォォォン!!!

 大・爆・発。

「うじゅぅぅぅぅぅ・・・・!?」

 人形のようにころころと転がって木に激突する。

 さいわいけがはないようである。

「い。痛いですぅ……」

 そうぼやきながら彼女が魔法陣のあった場所を見ると、

「☆★※♪#$&!%#“+*‘」

 ようするに声にならないのである。 

 何かが倒れていた。

 近づいてみる彼女。

「……!!」

 自分たちに似ているが、ちょっと違う。一人は男。一人は女。しかし、そろいの黒コートを着込んでいる。

 問題は耳が長くないことと、白い肌でないこと、どうみてもエルフ族では無い。だとしたら……、

「わぁぁぁぁぁぁぁ!!

 人間ですぅぅぅぅぅ!!

 人間を呼んじゃったですぅぅぅぅ!!」

 右へ左へと走り回る彼女。

 さぁ、大変なことになった。

人間がいる。

 これは村、ひいては国の問題である。

 彼らに対して虐待の限りを尽くした人間たちは歓迎されない。それにつけて入国さえ管理され、禁止されている。

 そして、密入国の手引きをしたものは、国家反逆罪。もし、呼び出したとなると……、

「う、う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 もはや彼女の理解の範囲を超えている。 

 そのとき、何者かが近づいてきた。

「モリース!どこなの!?」

 村の人たちだ。先ほどの爆発音を聞いて駆けつけてきたのだ。それに、彼女がこちのほうへ来たとの目撃情報もあった。

 やがて、野原に彼らがやってきた。

 そして、ないているモリースを発見する。そして、倒れた人間二人。そして、皮本一冊。

 その後、村では村人がそろって対策会議が行われた。

 

「……う、うう」

 里中は目を覚ました。

 魔法陣の光に包まれると、どこかに放り出されるような感覚に襲われ、直後意識が途絶えた。

 まず見えたのは家の天井らしかった。腕を動かしてみると、容易に動く。

 ――どうやら、地獄じゃないらしいや。

 体を起こした、どうやらベッドに寝かされていたらしい。

 ふと隣を見るとサリナが同じように寝かされている。

「おい、サリナ。サリナ」

 里中がサリナの体をゆらすと、

「うー、後5分。……」

「どっかの寝太郎か。お前は」

 いうと、里中はサリナの頭をこづいた。

 とたんにサリナは跳ね起きて、 

「ちょっとー、なにするのよ」

「状況見ろよ。」

「はい?」

 サリナもやっと置かれた状況に気が行った。

 しばし、

「どういうこと?」

「さぁね。どっかに落ちて、誰かが見つけて保護したってのが妥当だろうな。」

 ベッドから出て、窓から外を見る。人の気配は無い。

「しゃーない。いつもどうり、あたってくだけろだな」

「……なんであたしたちってこうなんだろ」

 

 家を出て、彼らは村を散策した。すると、町のはずれから、人の気配がする。

 村のはずれでは、村人が総出で会議を行っていた。もちろん元凶のモリースは中心にいる。

 それから、全員が剣やら弓やらを持っているのも、不思議だった。

「彼らをどうするかだが、モリースとしてはあれがなんの魔法かは知らずに使ったらしいんだ。彼らが何者かは知らないが、城まで行って人間の国まで送るほうがいいのではないだろうか」

 村人の一人が言った。

「たとえ害が無かろうとも、呼び出したという事実がある以上、この村の責任になる。いっそ殺して、埋めてしまったほうが村のためだ!」

 と、まっぷたつの意見が交錯している。

「おだやかじゃねぇなぁ」

「ほんと」

 木の上で枝と葉の間に隠れながら気配を消して、彼らは会議を聞いていた。

 どうやらここでは人間は歓迎されないらしい。

「そんじゃお邪魔にならないうちに消えましょうか。」

「だな……」

 と二人が動こうとしたとき、

 バキ!

『あ』

 サリナがもろい枝に足をかけたらしい。折れた。

『どうわぁぁ!!』

 バキボキベキキ!!

 盛大に音を立てながら、落下した二人。

「つーー・・・・。!」

 むろん、全員が二人を注目していた。

「あはははは、皆さんおそろいで……」

 しかし、落ちた場所が悪かったらしい、殺してしまえ派が目の前にいたのだ。

「このっ!」

 いきなり弓や剣を構えると問答無用で、向かってくる。

『ちょっとまてやぁぁ!』

 慌ててよける二人。そこに弓が突き刺さった。

「話を聞けぇぇぇぇ!」

「問答無用!」

 矢をよけ、剣をかわし、間合いを広げる。いきなりの乱戦に突入した。

 さて、これを見ていた、モリースだが、

「・・・・・・・・・・・・・・」

 声なし。

「話を聞けつってんだろぉが、我ぇぇぇ!!」

 里中はバトルスティックを引き抜くと、巨大な刃を具現させ、地面に叩きつけた!

 グバァァァァァァン!!

 土くれが吹き飛び、エルフたちの足が止まった。

 里中はスティックを肩に担ぐと、言い放った。

「こっちはいきなり召還されて訳がわからないんだ!誰か説明してくれ、説明!」

 肩に担いだ『斬馬刀』の威圧感と殺気に押されて、彼らは息を飲んだ。サリナもバトルスティックに刃を具現させている。

「説明なら私がしよう。」

 と、里中に声をかけたのは、珍しくひげを生やしたエルフだ。

「と言っても、あんたがたを呼び出したのは、こっちのモリースなんだがな」

 といって、モリースを前に出す。

 顔を真っ赤にして、いる彼女。

「……はあぁ!?ちょ、呼んだの彼女!?冗談だろ?」

「そうよ!大体そんな魔力がエルフの子供にあるはずないわ」

 これは正論である。

「しかし、事実なのだ。彼女が魔道書を持ち出し、先の野原で呪文を唱えたらしい。

 我々としても遺憾なのだ。まさか人間を呼び出す呪文があるなど……」

「ご、ごめんなさいですぅぅぅ……」

 モリースが謝った。

「……はあ、なんでもいいけど、とにかく俺たちは出て行くさ。もともと来る気なんてなかったからな。」

 いまだに警戒を解かない殺してしまえ派に集中したまま、里中は言った。

「右に同じ」

 サリナである。

 と、そのときである。

 ズゥーン……ズゥーン……

 妙な地鳴りが聞こえてきた。

「なんだ?こりゃあ」

 しかし、エルフたちの反応は違った。

「奴らが来るぞ。みんな家へ避難しろぉぉ!!」

 慌てふためく一同、一目散に散っていく。

「ねぇ、ちょっと、……ったく、なんなのよもう!」

 すると先ほどの男が、声をかけてきた。

「あなた方も来なさい!急いで」

「あ、……ああ」

 今のところ彼らに従ったほうがよさそうである。

 

 グルルルルルルル……

 ――どっしぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!

   なんじゃ、ありゃぁぁ!!

 先ほどの家に飛び込むと、彼らはかんぬきをかけ、剣を持った。

 窓から外を見ると、遠くのほうから来たのはなんと、

 ヴェロキラプトル!?しかもかなりの大型!

「ちょっと待ってよ。なんでヴェロキラプトル!?」

『何それ??』

 サリナと、この家の奥さんだろう。同時に突っ込まれた。

 どっちにしても、やばいことには変わりは無い。

 ヴェロキラプトルは3体。赤い奴と、黒い奴が2匹。赤いほうは屋根までとどかんばかりの体躯をしている。

「何者なんです?奴ら」

「さぁな、分からん。ただ、奴らのせいで我々の仲間たちが何人か犠牲になった。しかも奴ら、耐魔法生物らしくてな、我々の魔力を持ってしても、倒すのは至難の業なんだ。だから、隠れて通り過ぎるのを待つしかないと言うわけだ。」  

「エルフも大変なのね」

 サリナは同情の意見を言う。

「あなた方、あやつらにあったら極力隠れることを進める。人間ごときの魔力では太刀打ちなどできん。それにやつらはすばやい。」

 と、言っているとき、

 ガタン!

 いきなり正面の家で物音がした。

 空気が凍りついた。

 ヴェロキラプトルは、その音を聞き逃さず、その家へ向かっていった。

「いかん!!あそこにはモリースと家族が!!」

『なんだって!?』

 よりによってお向かいさんかい!! 

 おっさんは家を飛びだした。

 奥さんが悲鳴をあげた。

 ――まったく!!

 里中とサリナは顔を見合わせると、自らも飛び出した。

 そこで、驚くべき光景を目にした。

 なんと、飛び出してきたのは彼だけではなかった。

 そこら中の家から男たちが剣を持って、飛び出してきたのだ。

 ――おいおい、お前ら!

 ヴェロキラプトルの2体が気づいて、Uターンした。赤い奴は家の前まで来ると、咆哮を上げ、屋根に噛み付いた。

 猶予はならない。

「サリナ。雑魚は任せる!俺は赤いのだ」

「オッケー!」

 里中は一気に加速すると、ジャンプをした。 

 赤い奴のゆうに2倍の高さだ。

 赤いのは屋根を食い破り、下にいた家族を見つけた。

 口をあけ、食いかかろうとした瞬間!

 ザン!!

 光が、その首を両断した!

 むろんやったのは里中である。

 首が家の中に落下する。そして、その前に里中が。

「やれやれ、間一髪」

 言って、スティックを頭上に放り上げた。

 モリースと家族が目の前で震えていた。

「大丈夫か?もう安心だ」

 手を差し伸べる里中だが、

「後ろ!!」

 モリースが叫んだ! 

 首だけになったヴェロキラプトルがなおも食いかかろうと、襲ってきたのだ。しかし!

 ヒューー、ざぞん!

 真上から、巨大な刃が降ってきて、ものの見事に命中した。

 里中のスティックである。

 里中は後ろを見ようともせずに言った。

「な、大丈夫だろ?」

 

 一方、黒いほうは村人へと肉薄してきた。

「うわぁぁぁぁぁあ!」

 叫ぶ村人。そこに容赦なく襲い掛かるヴェロキラプトルだったが、

 ぼぐぅぅ!!

 いきなり、鈍い音とともに吹き飛んだ。

 しりもちをつく村人の下に来たのはサリナだ。

「さぁて、楽しませてもらいましょうか。少しは」

 両手を打ち合わせサリナは不適に笑った。

 グォォォォォォ!!

 そこへ向かってきたのはもう一歩の奴だ。

 サリナは食いつかれる瞬間、飛び上がった。そして、

「うりゃあぁぁぁ!」

 気合とともに左腕を振り上げ、空中でヴェロキラプトルの脳天に一撃を与えた。

 どごぉぉぉん!

 手には何らかの魔法でも付加させているのか、強烈な一撃は一匹を地面に叩き伏せた。

 着地してすぐにさきほどの奴が襲ってくる。

 するとサリナはあろうことか、自分からヴェロキラプトルへと向かってゆく。その手にはバトルスティックがあった。

「我流、殺人剣、一式……!」

 そして、サリナはヴェロキラプトルと交錯する。

 走る銀光、着地する双方。

 ぶじゃあーーー、と血を噴出したのはヴェロキラプトルだ。

「大剣。一刀……と」

 

「なんとお礼を申し上げてよいやら……」

 さきほどのおっさん――村長だったらしい――の家で里中達は、お礼にと料理をご馳走になった。

 モリースもちゃっかりおこぼれに預かっている。

「しかし、驚きましたな。人間があれほどの戦闘能力を発揮するとは」

「まぁ、大した事ですけどね」

 あんなことを普通の人間ができるはずが無い。

「……ところで、やつらってなんなの?」

 サリナが村長に聞く。

「先ほども言ったはずです。分からんと」

「あたしが聞きたいのは、やつらの本拠のことよ。あいつら個人のことじゃないわ」

「ほん……!?待ちなさい、何をするつもりです!」

「決まってる、あいつらまとめて駆逐してやる!」

 里中が言い放った。

「そうそう、大体耐魔法生物なんて存在するはずないもの。となれば、……」

「誰かが、……作っていると言うことですか?」 

「でしょうね」

「その作っている奴をやれば、カタはつく。」

 里中はそう言ってジュースを飲む。

「あなたがたは、なんでそんなことを平気で言えるのです?」

 確かに、里中達は召還された人間。しかもここはエルフの土地。守る義理も、いわれもないはずだ。

「きまってるでしょ。そんなこと……」

『刺激がほしいから……』 

 語尾こそ違ったが、二人とも同じことを言った。

「お分かり?」

 里中が言った。

「……そんな非常識な」

 もはや悲痛な表情の村長さん。

 非常識。結構毛だらけ猫灰だらけ。

 非常識なほど、刺激になる。

 ま、そういうわけだ。

 いつのまにか話題がずれまくった気がするが、それは気にしないで置こう。

 

 

 

―完―