THE Race




『サイバイバルレース 開催!』

 看板に踊る文字を見てアイリスの目が輝いた。
 魔法世界に来て、数カ月。色々なこともあり今はマリーと一緒に旅をしている身である。

「ねぇ、マリー、これ出てみない?」
「え、ですが、なんで参加するおつもりなんですか?私たち馬車さえ持ってないんですよ」

 アイリスは無言で看板を指す。

『地に足が付いている乗物ならなんでもOK。魔法の使用も許可』

「だからさ、これに……ごにょごにょ。分かった?」
「ああ。それなら大丈夫かもしれませんね」

 こうしていきなり二人は合同主催のサバイバルレースに参加することになった。
 
 アイリスは元々科学世界の人間である。機械のないこちらの世界では、馬車などで移動してきたが、最近はバイクも召喚できるようになっていた。そこで試し に出てみようということになったわけだ。



 サバイバルレース当日。

 参加者は思い思いの乗物を携えてスタートラインに集まった。馬車のもの、チャリオッツのもの、鎧馬のゴーストなどなどいろいろ集まったものだ。
その中に異様に目立ったものがあった。四方を囲まれた荷車が馬に引かれて来ているのだ。もちろんこんなものでは優勝などできはしない。
 ここでコースの解説をしておこう。レースはいまいる町をスタートし、野を越え山を越えして約150キロの道のりを走破するもの。
むろん途中には野盗もでる、狼も出るし、ゴーストも出るかもしれないというもの。
それに吊り橋や断崖絶壁、深い渓谷など、絶景が連続する。
先日アイリスとマリーはコースの下見をしていた。そこである程度の策は立てたつもりだが実際に走ってみないと分からない。
それに全て、オフロードである。
 
 さぁ、たったいま堅苦しい挨拶が終わり、いよいよスターとなる。会場が静まり返った。
ピストルがわりの火炎球が打ち上げられる。

 ゴォォォン!

 一斉に、皆がスタートした。蹄を響かせ全員がスタート……、いや一台残っている。例の荷馬車だ。馬は外されていた。遠くで早速魔法の応酬が始まったらし く音が響いてくる。
 荷馬車の横でアイリスはマリーに最後の確認をしていた。

「ガソリン持って100キロ地点に行ってて。そのへんで切れるだろうから」
「分かりました。お気をつけて」

 アイリスは荷馬車の囲いの留め金を外していく。板が四方にバタンと倒れていく。

 ―――おおおおおお!

 残っていた観客がどよめいた。中にあったのはまさにバイクだった。レース仕様の750ccを千ccにカスタマイズしたものだ。もちろんオフロードも走れ るように改造してある。
 アイリスはバイクに跨がりスターターを蹴る。

 ドルンドルンドルン……

 低いエンジンの唸り声。また観客が騒ぎだす。

「おい、まさかあの鉄の固まりが走るんじゃないだろうな。」
「いや、無理だろ。車輪はついてるみたいだけど、馬がいないだろ」

 バイクが高い唸りを上げた。アクセルをひねって感触を確かめるアイリス。バイクに乗るのも久しぶりだった。

 ギャギャギャギャ……!

 タイヤが急回転し、荷台から下りる。
 観客のざわめきが一層高くなる。
 時計を確認すると、ざっと5分は遅れている。

「そんじゃ、まいりましょうか」

 アイリスは見せつけるように一回転してからアクセルを全快にした。
 あっといまに煙を残して走り去るアイリス。観客はほぼ呆然状態だった。
 
 いくどめかのカーブを曲がり、快調に飛ばすアイリス。やがて5分の遅れを一気に返上し、最後尾に追いついた。

「しかしなんだな。ここまできたら後はあきらめがつくな。」
「おいおい、何で今そういうことを言うんだよ。まだまだこれからだろ」

 二人で参加していた、最後尾の二人。先頭はすでに見えなくなり、後ろは完全に誰も来ない状態だったので、世間話などしていたのだが、やがて二人の耳に爆 音が響いてきた。

「あん?」

 なにげなく後ろを見た一人は口を開けたまま絶句した。

「おい、どうし……」

 もう一人も、後ろを振り返って絶句した。
 妙な形をした物が爆音を上げて追いついてきたのだ。

「な、なんだありゃあ!?」
「わかんねぇよ!、まだ後ろに誰か……、いたな」

 段々近づいてくる物に乗っている人に、男は見覚えがあった。
 レースぎりぎりになっても、ベンチで本を読んでいた二人の少女。二人ともかなり浮いていたので記憶に残っていたのだ。
 しかし、あんなものを用意していたとは思ってもいなかった。そういえば荷馬車を持ってきていたな。

「ハロー。どう?そちらさんの調子は」

 アイリスが追いついてきて声を掛けた。

「あんた、そいつは、一体」
「とりあえず企業秘密ってことで、いそぐんでじゃあね」

 アイリスはそれだけいってアクセルを捻る。爆音が上がり、簡単に馬車を追い抜いていった。

「なんなんでしょうね。あれ」
「あまり関わりたくない気がしないでもないが」

 後は呆然とするだけの二人であった。
 
 アイリスは次々とライバル達を追い抜いてゆく。誰もが呆然とした顔でそれを見送り、はたまた爆音に驚いた馬が暴れることもしばしば、ヴィジョンでこれを 見ていた観客は大喜びだった。
 5分遅れでスタートした女が一気に50位中29位まで一気に上ってきたのだから。むろん魔法による攻撃もあった。しかし、あらかじめシールドを展開して おいたので、魔法は弾かれるのみ。しかもそれ以前に、早すぎて狙いが定まらないのだ。抜かれたと思ったらすでに向こうにいるのだから。

「楽勝楽勝!……ん?」

 いきなり目の前に選手たちの列ができていた。バイクを急停止させる。

「何事よこれって!」

 いきなり現れた正体不明の乗物に乗る少女に圧倒された選手だが、すぐに悪態をつきはじめた。

「何事じゃねぇよ。先頭の連中、一本橋を落として行きやがった」
「橋を!?」

 アイリスはすきまを縫うように先頭に向かって走った。すると、

「あっちゃあぁぁ………」

 そこには見事に落ちた橋と、深い渓流があった。
 
「どうしよ、これ」

 辺りを見渡せば、皆もどうしていいか分からない様子。

 ――しかたがない。やるか。

 アイリスは剣を取り、柄の先を掲げて言った。

「大地に根ずく木々達よ。我アイリス=スチュワートの名において命ずる。我が道を阻むこの川に、汝が橋をかけよ!」

 アイリスは呪文のウンチクをあまり知らない。剣を媒介に魔法を発動しているのだ。こういう場合もしかりである。
 剣が眩い光を放った。するとあたりに生えていた、木々が地面を離れて、向かってきた。選手たちが驚きの目でアイリスをみる。
 やがて、木々は割れ、折れて、段々と組み合わさってゆく。そして、数分後みごとに橋が完成した。

「そんじゃあお先!」

 アイリスは爆音を轟かせ橋の上を通りレースに復帰する。
 しばし、呆然としていた選手だが、慌てて自分たちも走りはじめた。

 

 余計なところで時間を費やし、かなり引き離されたアイリス。しかし、レースはまだまだ序盤。
 2、30キロがいいところだろう。焦ることはない。アイリスはドリフトとショートカットを駆使し、時間を縮めていく。
 これを見ていた観客も大喜びである。アイリスのただいまの順位、19位。
 崖の上に到着したアイリス。下を眺めれば、舞い上がる砂ぼこりが見える。

「見えた!」

 崖から下まで約100メ−トル。無理をせずに行きたいところだがそうもいかない。
 アイリスは少し後戻りし、アクセルをふかした。クラッチをつないで急発進。一直線に崖の先へ……出た。むろん、重力があるため落ちていく。だが、アイリ スはバイク共々浮遊の術をかけ、無事に地上へと降り立った。
 しばらく走ると、チャリオッツにのった参加者が見えてきた。
 爆音に気づいた選手が後ろを見る。

「な、なんだと?!」
「どうも、その節はお世話になって」

 追いついて並んだ状態で話すアイリス。

「よくもまぁ橋落としたりしてくれたもんね」
「ふ、何を今更、サバイバルレースなのだぞ。これくらいは覚悟しておけ!」

 言って男はチャリオッツをバイクに近づけてくる。チャリオツは中世ヨーロッパで使われた馬車のことである。車輪の中心に槍が出ているのが特徴である。だ が、

 バキバキバキ…!

 折れたのはチャリオッツの槍のほうだった。バイクの方は揺れもしなければバランスを崩しもしない。

「何……!?」
「残念でした。じゃあね」

 槍は木造。バイクのホイールはスチール。どう考えても槍のほうがもろい。迂闊に仕掛けたチャリオッツが悪い。アイリスは前に出るとある程度の距離を取っ て、あるものを後ろに放り投げた。

 グガァァァン!

「だぁぁぁぁぁぁ!」

 それはチャリッツの下で見事爆発。チャリオッツを吹き飛ばした。男は投げ出され地面を転がる。アイリス現在18位。

 

 しばらくしてまたしても選手たちの人だかりができている。

「また、橋でも落ちたの?」

 手近の人に聞く。

「ああ、どうやらそうらしい」

 アイリスはバイクを降り、橋の有った場所へ向かう。確かにそこには橋があった形跡があったが、今はみごとに焼け落ちている。

 ――越えてみるかな。

 アイリスは川幅を慎重に分析した。少しの上り、川幅約10メートル。

「行ける」

 そうつぶやいて、アイリスはバイクに戻る。バイクを物珍しそうに見ていた選手たちを押し退け、アイリスはバイクにまたがる。

「どいてどいて、川越するから」
「おいおいおい、ねぇちゃん何考えてるんだ」

 選手の一人が 声を掛けてくる。

「馬鹿なことよ」

 そういって、バイクを川に向ける。

「おい、皆どけぇぇ!馬鹿女が死にたいらしい」
「馬鹿女はよけいじゃ!」

 チュドーン!

 火炎球を投げつけておいてアイリスは向き直る。既に皆は道を空けている。
 アクセルをふかすアイリス。そして、走りだした。
 助走は十分。アイリスは川に飛び出し……、

 ズザザザザザ!

 見事!対岸に着地していた。選手たちから歓声が揚がる。アイリスは答えて、バイクを走らせた。アイリス現在11位。
 速い連中はやっぱり速い。60キロ地点。彼女はやっと6位の選手を潰した。鎧馬のゴーストを使った選手だ。
 ゴーストは疲れを知らない。ゴーレムもまたしかり。野原を一気に駆け抜けるのは爽快だったが、所々魔法で吹っ飛んだあとがあるのは頂けなかった。
 そして、100キロ地点付近に差しかかったころ、4位の選手を視界に確認した。

「ファイヤランス!」

 炎の槍を放って4位の選手の馬車を炎上させる。どうやらこいつもゴーレムの馬を使っていたらしい。
 そして、100キロ地点。

「アイリスさん!」

 空からアイリスを呼ぶ声がした。見上げるとポリタンクを持ったマリーが飛んでいるのが見える。アイリスはバイクを止める。マリーがそこへ着陸し、ポリタ ンクに入ったガソリンを補給。
 この間に、先程抜いてきた8位の選手が走り去っていく。

「OKです!アイリスさん」
「よっしゃ!ごくろうさん!じゃあね」

 アクセルをふかしてガソリンを満載したバイクは再発進した。
 さっき抜いていった相手にはすぐに追いつき、魔法で吹き飛ばした。
 さらに、5キロほど独走しただろうか。林のなかを走っていると前方に妙なものが見えてきた。
 
 それは植物だった。木の根が道を塞いで選手を襲っているとしたら、あなたはどう思うだろうか。
 アイリスは慌ててバイクを停止させた。目の前では、植物を相手に参加者たちが戦っていた。

「ちょっと、なんなのこいつは!」
「分からん!」

 魔道士らしき人が息を切らせながら言った。

「ここまで来たんだがいきなり現れてこのざまだ。斬っても燃やしても再生しやがる!」
「斬っても燃やしても!?」

 確かに戦っているのは彼一人ではない。剣を持って接近戦を挑んでいる人もいる。剣で根を斬るときられた先は地面にもぐり込んでいき、元のほうは一瞬にし て元の長さを取り戻していく。
 魔道士が火炎球を放った。すると根は火炎球を自ら弾き飛ばし、炎上した根の先は表面がはがれ、下から新しい皮脂が現れる。
 凍らせようとすると、凍った先から先端を切り離してしまう。堂々巡りだ。

「確かにこれはうざったい!」

 アイリスはグレネードランチャーをバイクから外して弾丸を込める。込めたのは火炎弾だ。

 シュボン!

 音を立てて火炎弾は謎の植物へと肉薄していく。根がそれを弾き飛ばす。

 ……かかった!

 火炎弾は、中に燃料と発火剤を込めたものである。着弾と同時に炎を挙げて弾け散る。
 植物はそれをモロに被った。
 一気に全体に火が回り、植物が暴れる。アイリスは続けて第二撃、第三撃と撃ち込んでいく。選手たちから感嘆の声が上がる。炎は無情にも根全体を焼き尽く した。しばらくして、炎が地面をゆらゆら揺れる程に燃えると、選手たちは自分の乗物に乗った。
 それぞれに感謝をすると乗物を走らせ、……吹っ飛んだ。

「ええ!?」

 植物は生きていた。一気に地上へと吹き出し、選手たちをなぎ払う。乗物は無残にも破壊され、選手たちも数人が怪我をおう。

「愚かな……」

 そんな中、ひとり淡々とした意見を言ったものがいた。
 黒い鎧馬に乗り、全身を黒装束で覆っている。顔さえも仮面をかぶって見えない。

「あんた、今なんていったの?」
「愚かといったのだ。安全を確かめもせず、無鉄砲に走り去ろうとしたのだからな。」
「じゃあ、あんたならここを越えられるとでも言うわけ?」
「いや、無理だろう。そうでなければ先頭を走りながらここで止まっているはずもない」
「へぇ、あんたがトップだったんだ。不幸ね」

 しかし、男は、

「気にはしていない。私の黒麒麟には誰も追いつけぬからな」
「へぇ、自信満々ね。あたしのバイクもそれなりに速いけど勝負する?」
「ばいく。聞いたことのない乗物だな」
「5分遅れでスタートしてきたけど、なんなく追いついたわ」
「ほう、なるほど。それならば互角といえような」

 ここで男は始めて感嘆の声を漏らした。

「その前にこやつをどうするかだが」

 と、暴れつづける植物を見やる。
 アイリスは、火炎弾に続けて今度は硫酸弾を撃ち込む。名前のとおり硫酸の詰まった弾丸だ。被った植物が暴れ出す。
 しかし、今度は表面をはがしただけで、たいしたダメージは無いように見える。
 今度は通常弾、要するに爆発弾である。効果は、ほとんどなし。
 アイリスと他の選手たちが舌打ちをしていたとき、

「アイリスさん!」

 マリーが降りてきた。

「どうしたんですか?それにこれは」
「ちょっと足止めをね。良かったら手伝ってくれる?」
「分かりました。」
「そんじゃ一気にかたつけるわよ」

 マリーはアイリスの後ろで呪文を唱えはじめた。するとマリーの体が薄く光りはじめる。続けて、彼女の体が宙に浮かびはじめた。

『おおお……』

 見ていた人達が感嘆の声を上げる。
 次にマリーは宙に魔法陣を描いていく。描かれたいくつかの魔方陣はマリーの後ろに浮かび、幾何学の文様を浮かび上がらせる。それは太極図と呼ばれるもの だ。中国で占術などに用いられるものである。
 ただでさえ巨大な太極図をさらに巨大な六芒星が覆う。やがて木々が揺らぎはじめた。風が舞い、魔法陣が光りはじめる。

「我が力は神の力。神の力は我が力。天地万物の力をここへと集わせん。」

 マリーが厳かに呪文を唱える。

「万物を表す太極図よ。聖の象徴たる六芒陣よ。我ここに汝が力を欲す。
 来たれ、集え、天地万物の奔流よ。光れ、輝け、生きとしいける者たちよ。
 天地と人とをひとつとし、すべてを滅ぼす力と成す。」

 一言一言に空気が密度を増していくような錯覚を選手たちは覚えた。そして、呪文が締めくくられる。

「問え。力を欲する者たちよ。答えよ。力を使いし目的を。我が意思にかないし時、我が力を汝に与う!」

 太極図がゆっくりと六芒星の中を回転しはじめる。それと同時にすさまじい力がそこへ集まっていくのが分かる。
 アイリスはゆっくりと剣を抜き天にかざして叫んだ。

「我は答える。我が意思は敵の殲滅。我に力を与えよ。汝が力、天地万物の破滅の末端を!」
「与えよう。全ての物は破滅に向かう。今ここに、全ての破滅の末端を汝に与える」

 呪文が締めくくられた。
 太極図が回転を止め、次の瞬間凄まじい光の奔流が吹き出し、アイリスの剣に吸い込まれはじめる。
 やがて、光はおさまり魔方陣は消え去る。しかし、アイリスの体と剣は光に包まれていた。
 ゆっくりとアイリスは歩きはじめる。植物に向かって。
 植物が迎撃のため向かってくる。だが、アイリスを包む光に触れたとたん、無音で塵となっていく。

「はぁぁぁぁぁ!」 

 アイリスが剣を振り上げる。そして、

「サザンクロス!」

 グオオオ……!

 十字にアイリスは剣を振った。光は一瞬にして植物を覆い尽くす。すると、植物が段々と崩壊していく。
 しばらくして、植物は跡形もなくなった。

 

 誰もが何も言わない。いや、言えないのだ。アイリスとマリーのの儀式魔法を目の当たりにして。
 サザンクロスは固体の原子がつながり合おうとする力を無にすることができる。つまり植物の原子構造を分解してやったのだ。
 原子そのものを分解してやればいかなものでも存在はできない。以上。
 アイリスはマリーに礼を言ってすばやくバイクに乗った。呆然とする皆を尻目に、バイクを疾走させた。

 

 130キロ地点。アイリスは独走を続けていた。だが、

「ん?」

 後ろから孟スピードで追いかけてくる物があった。

 ――あいつは……!

 そう、黒麒麟に跨がった、わき役その1である。
 やがて、追いついてきた男は、

「見事な手並みだったな。だが邪魔の無くなった今速さだけで勝負させていただこう。」
「ほざいてなさいよ。それが全速?」
「その通り、お主よりは多少速い。お主の勝てる確率は無しだな」
「あっそう。じゃ一人で走ってなさいね」

 アイリスはハンドルについていたレバーを切り換えた。
 突然エンジンがストップした。メーターが違うものに切り替わり、形状も少し変化した。そして、響く低い金属音。
 低温超伝導エンジン。通常のエンジンより回転も燃費も比じゃないほどの威力を誇る未来型のエンジンである。
 アクセルがさっきより敏感になる。

「そんじゃあ、お先!」

 アイリスはスロットルをいっぱいにふかす、超伝導エンジンは低い金きり音を響かせて、アイリスの望むスピードを提供する。
 黒麒麟が離されていく。しかも、ここから先はほとんど一直線。時速は200キロに達した。

 

 140キロ地点。黒麒麟をまいてすぐの地点。

 ゴガッ!

 突然地面が跳ね上がった。

「なっ!……きゃぁぁぁぁぁぁ!」

 気をつけよう車は急に止まれない。アイリスはその地面の歪みにタイヤをとられ宙に吹き飛んだ。このままでは地面に激突し、死ぬのは間違いないだろう。だ が、

「か、風よ!」

 アイリスは一言そう叫んだ。とたんにアイリスの体を風が包み込む。そして、地面に激突したが、風のクッションで重症は免れた。と、

「ん?……わぁぁぁぁぁぁ!」

 ガッシャァァァァン!

 宙に舞ったバイクが落下してきた。間一髪避けたので何とか大丈夫だ。
 アイリスは改めて地面を見た。すると、地面が吹き上がり、アレが現れる。

「そ、そんな!」

 現れたのは、先程の植物。しかも完全復活らしい。しかし、一向に襲ってこない。
 アイリスは慌ててバイクを確認する。スターターが折れている。メーターが吹っ飛びガソリンエンジンは、だめだ潰れている。超伝導は、これは使えるか。
 アイリスはハンドルのボタンを押す。低い金属音が響き、超伝導エンジンが掛かった。

「よし!後は……」

 ブレーキの前が故障しているのを見つけたが、修理している暇はない。タイヤがパンクしなかっただけ幸運と思うしかないだろう。ある程度を慣れない魔法で 修理していると、植物が暴れはじめた。と、
 いきなり植物が上下に断たれ、何者かが姿を現す。

「また、あったな娘」
「あんた!ちぇ、結局追いつかれたか」
「この植物が災いしたようだな。では先に行かせてもらおう」

 と、黒麒麟を駆って、走り去る。

「待ちなさいよ!」

 アイリスがバイクにまたがって走りはじめたとき、後ろに嫌な気配を感じた。恐る恐る後ろを見れば、

「だぁぁぁぁぁ、そんなのありぃぃぃ!?」

 後ろから、例の植物が雪崩の如く追ってきていた。時速130キロ。少しずつ黒麒麟が見えてきた、148キロ地点。二人は並んだ。

「どうやら災いは解決できなかったようだな」
「淡々と言うんじゃないわよ。どうするのよ、あれ」
「知らぬな。お主が何とかせい」
「あのなぁ」

 そうこういっているうちに、ゴールが見えてきた。
 アイリスはスロットルを限界までふかし、とりあえず男を引き離しにかかる。
 さすがに超伝導の速さには敵わないのか、引き離される男。
 そして、ゴール地点。観客がひしめいていたが後ろから迫ってくる植物に気づき、大混乱が起こっていた。
 マリーはゴール地点まで彼女を空から追っていたが、ゆっくりと降下していく。
 アイリスがゴールを通る。次の瞬間彼女はバイクを横にして、自分は席から飛び上がった。
 飛び上がったアイリスを降下してきたマリーが受け止める。そして、バイクは無残にもギャラリー席へ吹っ飛んでいった。
 さて、黒麒麟がゴールした直後、植物もゴールを通るかと思いきや、

 ゴガァァァァァァン!

 いきなり、地面自体が吹っ飛んだ。正確に吹っ飛ばされた植物は、なぜか再生しようとせず、枯れていった。
 下りてきた二人が呆然としていると、

「よ、大変だったな」

 なんとも懐かしい声が後ろからかけられる。二人が振り向くと、雄、隆といった連中がそろっていた。

「みんな。来てたんだ」
「ああ、何か面白いイベントやってるからなんだろうとおもったらアイリスが出てるんだもんな。驚いたよ」
「そうそう、そんであの植物騒ぎだ。慌ててこっちにきたんだぞ。感謝しとけよ」
「そうね。あんがと」
「ありがとうございました」

 そんな全員に近寄る影がいた。

「ほう、あの植物を一撃で倒すとは」
「あ?誰だ。あんた」
「ま、わき役その1とでもしておいてくれ。女。久々にスリルがあったぞ。礼を言おう。さらばだ」

 男は黒麒麟に乗り、表彰式もせずに去っていった。
 結局何者だったのだろうか。
 そして、あの植物。正体が結局分からずじまいだったことも、種だ。
 ま、楽しかったからそれでいいか☆
 

――完――