トラブルシューター・シェリフスターズ

   バストライナー

 

 

 

「座標設定!最終目標、惑星アカンタ、第三衛星スクルドへ向かいます」

「ワープ可能域に入り次第、ワープよ」

「了解!ワープ可能域まで3時間」

「せいぜい、スペースパイレーツが出ないことを祈りましょうか」

 アイリスが不謹慎なことを言う。

「来たとしても追い返すだけよ」

 レティシアが冷めた声で言う。

 彼女もライトニングアローに乗って来ていた。彼女達は元々“シューティングスター”という宇宙船に乗っていたらしいが、今はこのライトニングアローに格納されていると言うからこの船の大きさや推して知るべし。

 さて、ここまで来た以上は流れに任せて、というサリナ達の暗黙の了解の通り護衛の手伝いを願い出た。まぁ、レティシア達にとってはサリナ達は会社の客という身分だが、会社のプライバシーにも関わる事なので簡単には承諾はしてくれなかったが、ここでた奇妙なことが起こった。クィーンが受取証を独自ネットで会社に送った所、いきなりシェリフスターの社長がコンタクトを取ってきた。

『やぁ、レティシア、クィーン。がんばっているようだね』

 出たのは、なんとも頼りなさげなヤサ男だった。

「社交辞令はいいから。何の用?兄さん」

「兄さん?会社の社長が?」

 サリナがつぶやくと、つつつ〜とクィーンが寄ってきて、

「社長が兄さんで、シェリフスターの親会社のクロフト・カンパニー社長が彼女の父親なの」

「はぁ!?何よそれ!」

 思わず叫ぶサリナ。はっとなって周りを見れば皆こちらを見ている。

「あはは、ごめんごめん」

「で、何の用?」

『うーん、それなんだけどさ。そっちに二機の戦闘機を作るように頼んだよね。』

「受取人が今ここにいるけど」

 と、アイリスとサリナを指すレティシア。

「ども」

「よろしく」

 手を振る二人、

『あぁ、これはどうも。うん、あなた方二人に少々頼みたいことがあるんだ』

「ちょ、一般人に依頼って、それってどういう意味よ!」

 レティシアが兄の心中を図りきれず聞く。

『彼女達なんだけど、ちょっとした逸材らしくてね。そっちの護衛のクライアントから彼女達を推して来たんだ』

「まさか、護衛に?」

『護衛の、援助にね』

「マジな話?」

『僕が今までマジでない事を言ったことがあるかい?』

「……ありまくるけど今はいいわ」

 もはや呆れた口調で言い放つ。

『そういうことで、その二人と共に護衛のほうよろしく。じゃね!』

 そう言って早々に通信を切ってしまう社長。

「あの馬鹿兄貴は、ホントに……」

「あの〜〜〜」

 遠慮がちにサリナが声を掛ける。

「何よ!」

 鬼の形相で振り返るレティシア。

「……。怒るのもいいけど、一応仲間になったんだからよろしく」

 言って、手を差し出す。

 出された手を見つめるレティシアだが、

「ま、いいわ。どうせ大した仕事でもないし、大した長さでもないだろうから」

 そう言って、レティシアは手を握り返した。

 

 

「取り逃がした。か」

『はっ、思わぬ邪魔が入りまして』

 とある宇宙海域、とある宇宙船の中でその男は、あの燕尾服の男からの通信を受け取っていた。

「サイボーグどもをあれだけ貸し出したにも拘らず失敗とは、どういう相手だ?」

『それが、女であります』

「女?クロフトのサイボーグか」

『いえ、クロフトではないようです』

「ほう、……ということは他のどこか、ということになるな」

『……さようで』

「……よし、分かった。今度はこちらが直接手を下す。

 お前は、先にスクルドへ向かえ。今度はそれなりの“駒”を送ろう」

『感謝いたし……』

 ぶつ、っと通信も途中に男は通信を切った。

 ――クロフトのほかにもサイボーグを開発していた会社があるのか?いや、内部情報は全てここに来ているはずだが……。

 彼の上層部は相当に大きな会社である。その会社はクロフトを含めてほとんどの内部情報に詳しく、シェリフスター社長でさえその存在を知らない。そういう意味では、相当なものであった。しかし、そんな彼らが唯一恐れているのが彼の内部諜報員の謀反だ。

 こういう仕事をさせている諜報員はそのほとんどが、この会社によって何らかの弱みを握られている者ばかり。そして、それは金銭問題だけに留まらない。

 しかし、今回彼らが躍起になるレティシアが請け負った護衛対象はそんな会社の諜報員なのだ。悪ければ命が危ない、良くても社会的に抹殺の憂き目を見ることは必至であった。

 詳しい情報は、クロフトの息のかかった場所でとスクルドが選ばれたのだが、どうも彼らもその辺の情報はすぐに手に入ったと見える。

 そして、軍隊上層部までその根は伸びており、今回彼が乗艦している旗艦“デルフリンガー”を初めとした巡洋戦艦、駆逐艦の船団は、万が一の事を考え、ザラスからワープ可能域ギリギリに配置されていた。名目は軍事演習である。

 彼は自室を出ると、ブリッジへと向かった。

 ブリッジに着き、艦長席へと腰を下ろす。

「大佐、ご指示を」

 彼の副官が声をかける。この副官も少なからず会社から恩恵を受けている。

「よし、全艦に通達。

 先ほど緊急回線よりザラスに攻撃兵器を満載した海賊が現れたとの知らせがあった。我々はこれよりザラスへ向かい、その船を捕縛やむなくは、撃破する。総員、戦闘配置にて待機せよ!」

 通信は行き渡った。艦隊はその進路をザラスへと取り、レティシア達“ライトニングアロー”の方へと進軍を始める。

 ――軍用サイボーグ……。Cクラスとは言え、あれだけ送った連中を倒したというのか……。どんな女だ。

 そんな事を考えながら、補充要因を頼むために通信機を手にした。

 しかし、彼は知らない。その女二人が、クロフト社随一のエンジニアによって作られた兵器を持って、てぐすね引いて試運転を待っていることに。

 

 

    

 

「前方に艦隊を確認!真っ直ぐこちらに向かってきます!」

 スティッキーがレーダーを見て叫ぶ。

「艦隊!?こんな場所に?」

 アイリスがさすがに声を上げる。

「通信が入っています」

 トゥーラが静かに言った。

「読みなさい」

「『こちらは宇宙軍“デルフリンガー”艦隊である。海賊達に告ぐ、無駄な抵抗は一切認めない。機関を停止し降伏せよ。抵抗した場合、一切の話し合いを拒否する』だそうです」

「海賊ですって!?」

「こっちの艦名と所属を向こうに送信して、何かの間違いのはずよ」

 レティシアが冷静に言った。

「それが、さっきからやっているんですが、一切返答が無いんです」

「へぇ、根性座ってるじゃない。クロフトを敵に回すなんてね」

 クィーンが含みのある口調で言い放った。

「よろしい!そっちがその気ならこっちは受けて立つわよ!

 全艦戦闘態勢!全兵装オープン!」

「……あの、姐さん」

 スティッキーが遠慮がちに言う。

「クィーンよ。何?」

「この船が輸送船だって事、忘れやしませんか?」

『へっ?』

 サリナ達、及びレティシアが間の抜けた声を出す。

「だから、兵装といってもバルカンの一門もありませんが?」

 ……………………

 その場の空気が冷たく流れた。

「ほほほ……、ならレティシア、お願いね♪」

「おい」

 さすがにレティシアが青筋立てつつ突っ込む。

「……ったくしかたないわねぇ。シューティングスターの用意は?」

「いつでも出せます」

 トゥーラから返答が帰ってきて、

「なら、あたし達も初出動と行きましょうか!」

 サリナ達も席を立った。

 

 

 戦闘機のコックピットに再び腰を下ろす二人。二度目だというのに長年の愛機のごとくその操作にはよどみは無い。

 ちなみに、彼女達は現在耐Gスーツは着ていない。不必要という勝手な解釈だった。

 席に座り、キーを捻った瞬間にジェネレーターに内蔵された魔力探知が働き、サリナとアイリスを感知する。

 そう、このジェネレーター自体がひとつの魔法吸収・増幅器なのだ。座席に座ったものの魔力を検知し、同時に座席からダイレクトにその魔力を吸収・増幅処理を施し、エネルギーとして各部に送り込むのである。そのエネルギー放出量はクィーンの行った通り非常識なまでで、規格のままのパーツを使ったのではすぐにバーストを起こしてしまう。その為、クロフト側に誰かさんが魔力強化パーツを送りつけたのだ。そのパーツならば、通常の10倍以上のエネルギーを流すことが出来る。そして、そのエネルギーは魔力の続く限り消えることは無い。つまり、サリナ達のような無限に魔力を引き出せるものが座っていると、半永久的な動作が可能なのだ。その為、武装も弾数を考慮しなくてもいいビーム系に統一されているのだ。……ミサイルはおまけのような物だが。

 ジェネレーターがサリナとアイリスの魔力を取り込み、エネルギーに変換し、ブースターに火が灯る。

 

『各システムチェック。……オールグリーン』

『ジェネレーター出力、上昇中。各武装使用可能域に』

『シューティングスター、出るわ』

 モニターから見える艦隊はもうすぐ近くまで来ている。

「部下その1!格納庫のハッチを開きなさい!」

「スティッキーです。 了解!」

 スティッキーの操作で格納庫のハッチが開かれ、戦闘機を固定していたアンカーが外された。

 

「さて……、えぇと?」

 サリナは出ようとして行き詰った。何か大事な事を忘れている気がするのだ。どうやらアイリスも同様のようだ。二人とも何かを探している。

『どうしたの?早く出なさい!』

「ちょっと待ってよ、えぇと……」

 サリナはマニュアルを取り出すとその表紙を見やる。

「あ、こういう名前か!」

 ブリッジの三人は何を言うのかと思ったが、

『改めまして、バストライナー・サリナ機!出ます!!』

『バストライナー・アイリス機!行きます!!』

 今度こそ二人はブースターを全開にして虚空へと飛び出していった。

 ……要するに合図(?)を上げたかったのだ。

 

 海賊船より艦載機が3機射出された模様。

 レーダー監視員がそう叫んだ。無論、先刻の通達の通り彼らは問答無用で全砲門を全開にして狙いを定める。が!

2機が高速で接近してきます!!」

 ドドォォォン!!

 言うが早いか、デルフリンガーの横にいた巡洋艦のブリッジが爆発を起こした!

「何だ!何事だ!?」

「敵艦載機の攻撃です!」

「ブリュンヒルデが落とされました!!」

 一瞬にして旗艦のブリッジは混乱した。それだけではない。そこいら中の戦艦という戦艦がドンドン火を吹いていくのだ。

「これは……いったい!?」

 

 

 一方、

「これは……かなりのじゃじゃ馬だわ!」

 高速で飛行するバストライナーのパイロットにかかるGは相当なものだった。サリナ達だから耐えられるということにしかならず、一般の人ならまず急旋回したとたんに脳震盪を起こすだろう。

 事実操縦する二人の額にも汗が浮かんでいる。しかし、それだけの戦闘力は持っている。超高速での接近、重兵器での先制攻撃が可能になり、すでに6隻が二人によって落とされており、艦砲射撃さえサリナ達を追いきれない状態だ。見せ付けるように艦隊の間をすり抜け、攻撃を加える。

「いただき!」

 アイリスがまた一隻の駆逐艦をサイトに捕らえる。ブラスターカノンが火を噴き、ブリッジをモロに直撃した。

 その横を通り抜けざま、ガトリングがその後ろにいた駆逐艦の装甲を撃ち抜いた。

 

 

「ホホホ……」

 クィーンは端末を見つめたまま怪しく笑っている。自分の作った作品が途轍もない戦闘力を発揮しており、各部に置いたセンサーがそのスペックを送信してくるのだ。さらに、その数値は実験でも得られなかった非常識ともいえる数値だった。

「しかし、あの二人化け物ですかね……」

 スティッキーもGスーツも無しに飛び出していった二人が操るバストライナーを見ながらつぶやいた。

「それはそれで興味があるわね。でも、問題はあの戦闘機よ。うんともすんとも言わなかったジェネレーターがあの二人が乗ったとたんに起動を始めたのよ。……理解できないのよねぇ」

 確かに送られてきた設計図どおりに作ったが、ここまで非常識な真似をしてくれるとパーツが持たないと思うのがエンジニアである。しかし、そんな様子は毛ほども見せずバストライナーは軽快に、かつ豪快に飛行を続けている。

 この分ではこちらに手が伸びる前に全部が撃破されるのも時間の問題だろう。

「……それにしても、この二人って何者なのかしらね……」

 さすがに、その非常識な機体の性能を十二分に引き出している彼女達にクィーンも少々疑問を持ったようだ。

 

 

「……こんな、こんな馬鹿なことが」

 デルフリンガーはいまだにもっているが、そのほかの艦は無残だった。ほとんどの艦がブリッジを一撃で潰され、艦砲射撃が味方を撃つような事態にまで発展してしまっている。

 しかも、奇妙なことに通信機が一切使用不可能になってしまったのだ。強力なジャムで妨害をかけられているらしい。

 そして、いきなり虚空から強烈なビーム砲がブリッジを襲った。

「馬鹿な!馬鹿な……」

 悲痛な叫びもブリッジの爆発によってかき消される。

 実は、この通信障害はレティシア達シューティングスターがやったことなのだ。シューティングスターは強力なジャミングとステルス装備を備えている。その強力なジャミングで通信を妨害し、ステルス装置で宇宙と同色、青から黒へと船体の色を変え、奇襲をかけるのだ。これもクィーンの趣味の一環らしいが。

 ……他にも色々とあるようだが、ここでは割愛させていただく。

 この時点で旗艦を失い、連携さえも取れないデルフリンガー艦隊は全滅の憂き目を見たのであった。

 後日この事態は、海賊の反撃にあったとして大々的な海賊狩りの大義名分に利用された。

 

 

「さすがに……疲れたわね」

 タラップを降りて汗をぬぐうアイリス。それだけ、操縦に神経を使ったというところだろう。格納庫にはクィーンが姿を見せていた。目的はもちろん、

「いい腕ね。脱帽したわ」

 言いながら二人に近付く。

「ありがと。いい機体に仕上げたわね。さすがクロフトに主任を任されるだけあるのね」

「世事はいいわ。それより、この機体動かないはずのジェネレーターが基準値を大幅にオーバーして稼動してたけど、大丈夫だったの?」

「……いえ、別に。あれでも70%くらいよね」

 アイリスがサリナに振り、

「そうね。全開にはしてなかったわ」

「……ホント!?」

「嘘言ってもしょうがないし……」

「……ホントに、どこまでも理解を超えてくれるわね」

 言いながら、機体のはしごをよじ登り、各部のチェックを始めてしまった。

 

 

 シューティングスター格納後、予定通りワープコースに乗ったライトニングアローだが、これで奴等の襲撃が終わったとは思えないのが、レティシアを含めての全員の意見だった。事実、あの燕尾服がまだ生きている。襲ってくるなら、ワープ後か、スクルドに到着した後か。前者は無いだろう。ワープの出際を狙うのは不可能だからだ。

 とにかく、途中経過を本社に報告し彼女達はつかの間の休息の後、いよいよ大物と対面するであろうスクルドへと到着した。

 

 

   

 

 援軍は到着した。装備も以前に増して重装備を揃え、作戦も綿密に立てた。

 彼にとってはもはや手段は選んではいられない状況になっている。

 上からの直接の報告では、あの大佐の艦隊がものの見事に全滅させられたというではないか。どんな方法でそんなことが出来たかは知ったことではない。しかし、事実として自分はその相手とまた事を起こそうとしている。

 狙う場所は、先刻と同じく宇宙港へ通じる地下鉄の走るセンターモール。しかし、今回はそのセンターモールのいたる所に爆薬を仕掛けた。常時数百人規模の観光客や買い物客が訪れるこの場所で、彼が行おうとしているのは“人質”という、ある意味古典的なことであった。

 しかし、古典的であるが故に効果が期待できる場合もある。さすがに向こうも無関係の人々を巻き込もうなどとは思うまい。

「完璧、と思いたいがな」

 これだけの計画のもとに動こうというのに彼の不安はまだ消えなった。

 

 

「お久しぶり。とだけ申しておきましょうか」

「会いたくは無かったけどね……」

 アタシとメニィ、そして男は地下鉄を降りたとたん、目の前にあの燕尾服の男がいた。ご丁寧にその後ろにはまたもサイボーグ連中がいる。しかし、前のときと装備類が強化されているようにも見える。それから、この建物自体からにおってくる妙な気配。

「のこのこ目の前に出てくるなんて、よほど自信があるのね。」

 あたしは静かにそう言った。ある程度の確信はしていたが、降りたとたんにくるとなると……巻き込む気満々だな。

「先刻も申しましたが、その男をこちらに引き渡してもらえますかな」

「お断りよ」

 もちろん即答するが、

「ふむ、ならばこうですな」

 何気に言って腰から取り出したのは何かのスイッチ。それのひとつを無造作に押す。

 ドゥン!!

 鈍い音と振動がここまで響いてきた。

「な、何をしたの!」

「いえ、この建物の一部に爆薬を少々ね」

 こともなげにそういう男。

「……くっ」

 もちろんこれで終わりとは限らない。一回の爆発だけで何もかも破壊しては奴らも何のために出向いているのか分からない。

 やっと、こいつの目的が分かった。建物に来ている人々全員を人質に取った脅迫だ。この……よりによって。

「その通り。

 どうです?レティシアさん。一つ取引をしませんか?」

「取引、ですって?」

「えぇ。こちらの要求はそこにいる男のみ。もしその男を渡して頂けるんでしたら、この起爆装置はお渡ししましょう。

 どうです?フェアじゃないですか?」

「フェア……ねぇ」

 こういう奴はえてして取引を悪用したがる奴が多い。あの起爆装置は本物かもしれないが、予備、もしくはもう一つの起爆装置があるかもしれない。

 しかし、どちらにしても今の状況はこちらに不利。

「……仕方ないわね」

 歯軋りしたいのをこらえてあたしは言った。そして、男に向かい目配せをすると、行くように言った。

「中間まで行ったらこっちに起爆装置を貰いましょうか?」

 頷く燕尾服。

 そして、男が中間まで行き、燕尾服は起爆装置をこっちに放る。

 バキャッ!

 足元まで転がってきたそれをアタシは踏み壊した。これで一応は大丈夫のはずだが。

 男が彼らの元へと行き着き、燕尾服の傍らをすり抜ける。

「それでは……ごきげんよう」

 燕尾服はそう言って予想通り懐に手を滑らせ、何かを取り出した。……しかし。

「これは!?」

 取り出したのは何故かレティシアの名刺だった。

「パース!」

 そう言って何かを放ったのは男だった。それは紛れも無くさっきと同じ起爆装置。

「な、……何!?」

 その瞬間に、あたしは腰の後ろから瞬時に銃を抜き跳ねあげると、空中を舞うその起爆装置に向かって銃弾を撃ち込んだ。

 軽い音を立て壊れる起爆装置。

 その瞬間に周囲から銃を引き抜く擦過音が聞こえてくる。ついでに一般人の悲鳴と逃げる足音。

「貴様いつのまに!?」

 そう言って視線を男に向ける燕尾服だが、そこにいるはずの男の姿は無く代わりに彼の着ていたコートがハラリと落ちる。

 タン。と軽い音を立てて、男が着地した。いや、

「改めまして、お久しぶりと言いましょうか?おっさん」

 しゃがんだ態勢でそう言ったのは紛れもなくサリナだった。

「貴様は……」

 思い出した。あの時、もう少しで成功しそうだった襲撃が失敗に終わった時いきなり襲ってきた奴の一人。

「くっ……してやらてた、ということですか」

「そういうことよ」

 レティシアはなぜか懐からメガネを取り出して掛ける。そのメガネに光が灯る。

 ここで燕尾服はそんなレティシアの向こうで動くものに気づいた。

 拡大してみれば男とレティシアがすでに階段部分まで行き着いている。しかし、ここにいるレティシアは……??

 まぁ、勘のいい人なら分かるだろうがレティシアはアイリスが変装した姿だ。この変装をお互いに見せた時エライ驚かれた。そうだろう、何処をどう見てもまったく同じ姿なのだから。というか、二人に関して言えば変装と言うより変身といったほうがいいのだろうが。

 なお、メニィは普通について来てもらった。さすがにどうにもできなかったので。

「……仕方ありませんね」

 パチンと指を鳴らす燕尾服。そこら中に配置されたサイボーグたちが一斉に銃を3人に向けた。そして、問答無用で引き金を引く。

 しかし、銃弾が銃から飛び出た瞬間に二人は行動を起こす。瞬間的に上へと飛んだのである。アイリスはもちろんメニィを抱えて。その時、その場に置き土産も。今度は飛んだ瞬間をサイボーグ達も反応し目で追ってくる。サイボーグ達が銃を跳ね上げ宙を舞う3人に狙いを定めたその瞬間に、強烈な光の爆発が起こった。その光の爆発はサイボーグ達の目を焼いた。

 その一瞬で目を覆っていた二人は着地と同時に行動を起こす。サリナはスティックを引き抜くと近くにいたサイボーグに斬りかかり、アイリスはメニィをレティシアの逃げた方向へと投げ飛ばした。かなりの長距離を飛ばされたにも関わらず、メニィはキチンと着地した。

 メニィは打ち合わせどおりレティシアの援護に戻り、アイリスは変身を解かぬまま背中に背負ったコンテナリュックを叩く。すると、リュックが開き銃が1丁飛び出してきた。それを左手で器用にキャッチし両手の銃を構える。

「さて、始めましょうか!」

 レティシアの姿と声でそう言うとかなり違和感が出るのはしょうがないとしよう。

 そして、銃撃が開始された。スタングレネードの効果は持って5秒がいいところ。その5秒のうちにアイリスは常人には絶対に出来ないクイックドロゥで周囲を射撃する。まるで踊るように銃が動き、銃弾が吐き出される。しかもその銃弾全てが的確にサイボーグ達を捉えるのだからたまらない。両手の30発の銃弾を一気に吐き出しつくすとマガジンを落とした。すると、コンテナリュックの下部分が開くと数個のマガジンが数珠繋がりになって飛び出してきた。腕を後ろに回して底から直接銃にマガジンを装填する。スライドを戻し、発射可能を確認するとマガジンは引っ込んでいった。そんなアイリスの前に一人のサイボーグが飛び出してきた。その手にはなんと剣が握られている。

 一瞬でそれを目視すると、振りかぶる剣をポイントし銃弾を発射する。寸分違わず銃弾は遠心力のついた刀身を撃ち、耐久力を超えた衝撃に刃は折れる。そして、無造作な回し蹴りでそのサイボーグははるか向こうの壁まで吹き飛んだ。

 蹴ると同時にアイリスは走り出す。正面から突っ込んでくる2体のサイボーグを迎え撃つためだ。双方とも剣を装備している。たぶん何の付加効力もない剣ではないだろう。予想するならば、超振動ブレード。食らったら余裕で死ぬる。アイリスは走りながら双方をポイントする。そして、

「風よ!切り裂け!!」

 声と共に銃弾が発射される。見た目に何の変化も無いようだが、着弾したその瞬間、

 ドパァウ!!

 強力なスパイラルを起こし、そのどてっぱらに大穴を穿った!

「ほらほらほらぁぁぁ!!」

 次々に銃弾の雨が降り、ほとんどのサイボーグ達が腕を、足を、胸部に大穴を開けていった。照準をめまぐるしく移動させていくアイリスはその最中で燕尾服も視界にいれていた。無論、乱戦の中で躊躇は死に直結する。アイリスは迷いのかけらも見せず、燕尾服を撃った。

 

 ドシャン!ドパゥ!

 壁に叩きつけられたサイボーグの脳天に銃弾を撃ち込んで、サリナは息を整えた。

 すっかり静かになったロビー。どうやら今ので最後だったようである。もやは原形をとどめているのが不思議なほどのロビーだ。

 床という床に薬きょうが転がり、サイボーグの死体と、血。制圧と言う言葉もおこがましいほどに蹂躙された場であった。

「終わったわね。」

 アイリスが顔に被せていた面を剥がしながら言った。

「後の事は地元の連中に任せてレティシア達と合流しましょう。」

「…………。えぇ」

 何やら無口になってサリナはさっさとその場から歩き始める。

 さすがに、こたえたらしい。

 

 

  

 

 仕事は成した。レティシア達はその後サリナ達と合流し、クロフト傘下の子会社に逃げ込んだ。ここまで来れば後はクロフトが事後処理をやってくれるだろう。

「とりあえず、礼を言っておくわ」

 言ってレティシアはサリナに手を差し出した。

「まさか、アレだけの戦力を投入してくるとは思ってなかったけど」

「ま、いいってこと。で、どうするの?これから」

「迎えというか、来るはずなんだけど」

 言ううちに社員の一人が人を連れてきた。

「待ったわよ。二人とも」

「しょうがないでしょう。こっちも色々取り込んでたんだから」

「どうやら、無事のようだな」

 一人は少女、もう一人は長髪の男性だった。よく見れば瞳の色が違っている。……なんか、違和感を覚える。

「で、そちらさんは?」

 短髪の少女がこちらをいぶかしげに見る。

「一応紹介するわ。サリナとアイリス。道中、護衛の手伝いをね」

「うわ、簡単ねぇ」

 アイリスがげんなりして言う。

「手伝いって……まさか自主的とかじゃないでしょうね?」

「兄さんが無理矢理押し付けてきたのよ」

「あぁ、アイツが」

 仮にも自分の上司である人を指してアイツ呼ばわりする少女。で、

「で、そちらさんは?同じ制服着ているところを見ると、別働隊とは言わないけど、同僚でしょ?」

「あ、自己紹介まだだったわね。私はサミィ=マリオン。んで、こっちがイーザー=マリオン」

 自分と長髪を順に指差して紹介するサミィ。

「マリオン……?」

「あれ、確かその子もマリオンじゃ……?」

 メニィを見るサリナ。

『兄妹?』

 そろってそういう二人。

「まぁ、似たようなものだ」

 イーザーが声を発する。

「んじゃ、そろそろ行きますか。

 ご同行願います」

 男を促してサミィとイーザーはそのまま立ち去っていってしまう。

「さ、帰りましょう。メニィ」

「あ〜〜い」

「ちょ、ちょっと。これで終わり?」

 いきなり帰り支度を始める二人に慌てて声をかけるサリナ。

「そうだけど」

「何か、終わりはあっさりしてるわね」

「私達の仕事はターゲットをここまで護衛すること。後はあの『モーニングスター』の二人が所定の場所まで護衛。それだけよ」

「てことは、私達もここで御役後免て言うことか」

「そうなるわね」

 笑みを浮かべてそう言うレティシア。

「意外と楽しかったわ。それじゃあね」

 と、メニィを連れて行ってしまった。

 

 

 二人も社屋を出てどこへともなく歩いていた。

「けど、あの3人。なんか妙な感じしなかった?」

 アイリスが切り出したのはメニィ達だ。

「そうね。メニィにサミィ、それにイーザー。親の顔が見たいわ。」

「サイボーグ、または意思を持った人型の生物兵器」

「どこの世界も考えることは同じね」

「あ〜〜あ、ほんと歯切れ悪いわ」

 アイリスは手を頭の後ろで組んでそうぼやいた。

 

 

「無事到着しました」

「うむ」

 とある会社の一室、そこには一人の男が座っていた。その会社の社長である。

「で、処分のほどは?」

「我々を裏切ったものがどうなるか、いまさら言うまでもあるまい」

「は、ではそのように」

 男は去った。社長は椅子から立ち上がり窓辺に立った。そこからは町並みが良く見える。

 ――人が死ぬ。それで我々の体裁は保たれる。ただそれだけのこと。

 男の脳裏には、ただその考えが浮かんでいた。

 

 サリナ達はその翌日に自称「天使」の待つ場所へと帰って行った。その日発行された新聞の片隅に、クロフト社社員の訃報を見ることも無く。

 

 

―バストライナー END

 

<小説TOPへ>   <HP・TOPへ>

―――――――――――――――――

   あとがき

 

さてお立会い。

 俺は一体何をやっているのだ……。( ̄◇ ̄|||)

 依頼を受けてからこれを仕上げるまで二ヶ月以上掛かっている。

 やはり、電波か!?

・・・・・・・・・・すいません。私のせいですごめんなさい。

急いだために少々内容が薄くなってしまった感じが作者自身にもあるので薄いでしょう。(マテ

 依頼を貰った方の名前も忘れる始末。(核爆死)

 

 様々な意味でごめんなさい。そして、これからもこんな作者の作品をよろしく。

かしこ。

 

 2002/11/10