ー二人の天使ー

 

                     ーサリナサイドー

 

 1嫌な客

 

「さあて、今度はどんな冒険が待ってるのかしらね」

 サリナ達にとっていつものごとく、あるワールドへと転送されてきたところだ。

 あたりは乱雑な木箱やごみが散乱し、壁によって日の光が遮られている。典型的な裏路地である。

 人影は無い。

 サリナはとりあえず裏路地を出ようと歩き出した。

 歩いて少し、光の方向へ歩いていくと、表通りに出た。

 少し瞳孔を慣らせて見渡せば、なかなかの賑わいぶりだ。

「さて、・・・・・・手始めは持ってる宝石の換金かな」

 背負っているリュックには盗賊からせしめて今も持っている宝石が詰まっている。

 世界がころころ変わっても宝石の価値だけはどこも一緒なのだ。

 近くの露天の人に銀行か両替所の場所を聞いて早速そこへと向かう。

 道すがら家々を見ると、故郷を思わせる様式の建物が並んでいる。

 それだけでなく、遠く小高い丘の上には城まで見えている。どうやらそこそこの町のようだ。

 サリナは通りを曲がって、奥まった一軒の店へと入っていく。

「いらっしゃい」

 店の店主が出迎えた。

 サリナはさっそく持っていた宝石を出し、店主と交渉。

 宝石10個ほどを売り、見立てた価値の1割増し程度の金貨を手に入れる。

 ――ん〜〜、やっぱ売るときは粘らないとね。

 店主はむすっとした顔をして、来客を見送った。

 そして、おもむろに奥の部屋に声をかけたのだった。

 

 次にサリナの向かったのは酒場だ。

 ギィ・・・・・

 扉が開き、サリナが中に入るとなにやらいやな視線を感じる。

 見渡せば荒くれ者が集まっているようだ。

 酒場自体も昼間だと言うのにやたらと暗い。

 ――あたしも好きになったわね。こういうの・・・・・・。

 サリナ自身こういう何か起こりそうな雰囲気の場所が好きになっていた。

 やはり、連中の影響だろう。

 サリナはゆっくりと、かつ堂々とカウンターへと進む。

 おもむろにカウンターに座るとマスターに注文する。

「ねぇ、ミルクもらえる?」

「・・・・・・」

 マスターは無言で、ミルクを出してきた。

 同時に、周囲から含み笑いが起こる。  

 一杯目を一気のみして、2杯目をもらったときだ、

「よう、隣いいかい?」

 なにやらハスキーな声が聞こえてきた。

 そして、答える前に隣の席に腰を下ろす。

「マスター。ブランデーだ。ロックでな。

 さてと、一人かい?」

 いきなりサリナに問いかける男。

 ちらっとサリナは男を見てから、視線を戻し、

「悪いけど、声をかける相手間違ってるんじゃない?」

 静かに突き放すサリナ。

 男は、パリっとした詰襟の服を着崩し、髪は黒でザンバラ。しかも剣まで持っている。

 そこそこ使えるほうだが、並みの上ぐらいだろうと結論付ける。

「間違ってなんざいねぇさ。こんな酒場に来るような女の子は、根性が座ってる上に人見知りをしない。

 そういう娘が好みなんでね」 

「あんたの好みなんて聞いてないわ。

 立ち去ってもらえる?でないと痛い目見ることになるけど?」

「へぇ、痛い目ね。例えば?」

 思いっきり、なめた口調で言ってくる。

「はぁ・・・・・・」

 サリナはため息一つ、コップをテーブルに置き、

 ドンッ!!

 いきなり何の前触れも無く男が吹き飛んだ!

「・・・・・・!!?」

 男は後ろの客の座っていたテーブルにモロに突っ込む。

「てめぇ、なにしやがる!!」

 響く怒号。またも突き飛ばされる男。また倒れるテーブル。

 あれよあれよという間にサリナの後ろは乱闘場と化した。 

 食器が飛び交い、怒鳴り声と悲鳴が舞う。

 そんな中平然としているのはマスターとサリナの二人だった。

「・・・・・お客さん。高いですよ」

「ミルク2杯で?それともあたしが何かしたのを見た?」

「・・・・・・・・・・・・」

 確かにマスターの目からはただ音ともに男が吹き飛んだ光景しか見えなかった。

 そのときだ、

 ゴァァァァァァァ!!

 店の中に尋常ではない声が流れた。サリナが思わずミルクを吹き出すほどの。

 むろん騒ぎは一瞬にして膠着した。

 サリナは振り向き、その光景を目にした。

 男が宙吊りにされている。そして、宙吊りにしている男が……いや、人間とはいえなかった。

 人の2倍ほどの体格をし、腕はサリナのウェストほどもある。化け物だった。

 そいつは首をつかんで宙吊りにした男の首筋に食らいついた!

 男の悲鳴。

 ――血を・・・・吸っている!?

 やがて、血を吸い尽くされた男は床に落ちた。

 それを皮切りに、酒場の空気が一変した。

 そこかしこで悲鳴が上がったのだ。

 客と思っていた数人が変貌していく。

「ヴァンパイア・・・・・」

 数分後、サリナの見ている目の前で、血の宴が開かれた。

 

To be continued ―