3・逮捕
あたしは床に落ちたショットガンを回収した。
あたりには、荒れたテーブルと料理が散乱するだけ。
「・・・・まったく、まさに塵も残さずだな」
ロックは剣を戻して腰に手を当てて毒ついた。
ヴァンパイアの末路は灰になって、後には塵も残さず消滅するのが通例。
まぁ、知らない人が入ってきたらここで何があったんだと思うだろう。
「しかし、えらい根性だな・・・あのマスター」
ロックが指す先には変わらずにグラスを磨きつづけるマスターの姿。
「マスター!修理代わりにとっておいて」
そういってあたしはポケットからあるものを出す。
ピッ!
ボタンを押し、マスターへと投げる。
ライターぐらいの大きさのそれは宙を飛んで、マスターの手の中に納まった。
そのとたん・・・!
キュゴォオォォォ!!
マスターが火に包まれた!
「・・・なっ!?」
ロックが驚いて声を出した。
火はマスターを容赦なく包み込み、燃え尽きるかと思いきや、
「・・・・・シャアァァァァァァ!」
燃えながら、マスターがカウンターを飛び越えて、襲ってきた。
マスターさえもヴァンパイアだったのだ。あたしはそれに気づいていた。
ショットガンを燃えるマスターに向け撃ち込む。
衝撃でマスターは吹っ飛び、またもカウンターを飛び越えて酒瓶の並んだ棚に激突する。
派手にビンが割れて、酒が飛び散った。するとどうなるかと言うと・・・・、
ボッ!!
引火!
あたしたちはすばやく酒場の外へと非難する。
「しっかし、お前さん。とんでもない武器持ってるな?新種の魔法武器か?」
「ん?違うわよ。まぁ、詳しいことを言っても理解できないと思うけど?」
そのとき、後ろから男たちが数人近づいてくる。先ほどサリナが両替所に行ったとき主人が奥から呼んだのがコイツらだった。
男たちはサリナから金品の奪取を命じられている。
むろん、今まで起きていたことは知らない。
酒場から離れる二人を追って酒場の前を通り過ぎようとしたとき・・・・、
づどむ!
酒場が大爆発を起こした!さっきの酒に引火したのだ。
むろん酒場の前に差し掛かっていた数人はモロに巻き込まれた。
「大変だぁぁ!巻き込まれたぞぉぉ!!」
「水だ!水をもってこい!!」
周囲の人が矢継ぎ早に消火活動を始めた。
「・・・あらら、巻き込まれたんだ。かわいそうに」
あたしは素直に遺憾の意を表した。
「やれやれ、・・・こうなるとどうしようもないな」
ロックが剣を鞘ごと抜き、柄をサリナに突きつけた。
「名前、サリナつったっけか?あんたを逮捕して取り調べる。番所まで来てもらうぞ。嫌といったらどうなるか・・・・・」
「・・・・え?」
「とにかく来い。話は番所で聞くから」
と、ロックはあたしの襟首掴むと引きずるように番所へと連行していった。
「酒場での乱闘行為。及び家屋焼失罪。さらに公務執行妨害。巻き込まれた人二十余名・・・・・」
つれてこられた番所ではあたしのほかにも数人が取り調べを受けていた。奥では留置所に入れられた人がうなっている。
「あんたの所持品を全部ここに出してもらえるかい?」
ロックと他の騎士があたしの取り調べをしているのだが、そのもう一人の騎士がそういった。
「はいな・・・と」
あたしは、まず先ほどのショットガンを机の上にドンと置いた。
さらに、UZIを二丁。バトルスティックを一本。それから、大介たちともしものときに通話ができる(同じ世界限定)携帯電話。
財布と、リュック。
それらを、特に銃器とスティックに関心を持つ、騎士さん。
銃器を取り上げて、
「純金製にしては軽いな。これは特注か?」
「・・・・・・ハンドメイドなんですけど」
「・・はぁ?」
「要するに自分で作りました。」
今度はスティックを取り上げて、
「これは?」
スティックは通常は10センチ強の長さにしているので武器だとは思われないのだ。
「それも、一応武器です。」
「ふうん。・・・・リュックの中を見ても?」
あたしはうなずく。彼はリュックを開けた。
覗いたとたん目を見開いて、あたしをもう一度見た。
「何だね。これは・・・」
声が上ずっている。
「私物ですけど」
「これ全部がか!?」
怒鳴って彼はリュックをひっくり返した。
ザラザラザラ・・・、とリュックに入っていた宝石が全部落ちてきた。
金、銀、プラチナ、ダイヤ・・・・ETC。大小取り混ぜていろんな宝石が入っていた。
「ななな・・・・・・!?」
ロックが変な声を上げた。他にも番所中の視線がこっちに集まる。
「全部私物だと・・・?」
「ええ」
こともなくあたしは言った。その態度に騎士さんは一瞬黙り・・・、一言。
「没収だぁぁぁぁ!」
だから私物だって言ってるのに・・・・・・。(泣)
番所からロックとともに出たとき、あたしはこともなげに言った。
「どうしてくれんの?」
「まぁ、あれよあれよと言ううちにとっ捕まえて持ち物没収されたのは謝っておこう」
シュイン!
「他に言うことは…?」
いささか怒気をはらんだ声で、あたしは彼の肩に剣を置く。刃は水平だ。
「…って、それ俺の剣!?」
そう、あたしが持っているのは彼が今の今まで腰にさしていた剣だ。一瞬で相手のものを掠め取るのは簡単だ。
「どうしてくれんのよ。あの宝石。今後の生活資金なのよ。」
「その点はご心配なく。必要経費を差し引いたらそのまま帰ってくる。」
彼の根性もたいしたものだ。剣を間近にして焦る様子が無い。
「あんたたちが余計なことを考えなければじゃない?」
「ま、それは人それぞれってことで・・・・」
などといいあって辺りの視線を集めていたときだ。
ふと、ロックが横を向き、
「よう、・・・ファングじゃねえか。どしたんだ?」
「ファング・・・?」
あたしもよこを向こうとしたとき、
ギィィィン!!
「うあ・・・!!?」
いきなり持っていた剣が甲高い音を立て、跳ね上がった。あたしは思わずバランスを崩し、しりもちをつく。
しびれた右手を押さえながら再びそちらを向くと、少し離れたところに一人の男がいた。
「ロック。お前が剣を取られるとは、油断が過ぎるぞ」
淡々とした口調で彼は言った。
男は、ロックと同じほどの身長で黒い髪。顔立ちははっきりとしている。しかし、表情は冷たく氷のようだった。
ロックは跳ね上がった剣を空中で器用にキャッチし、鞘へと戻す。
「まぁ、そういうなって。お前さんこそどうしたんだ。お前地方で仕事してたんだろ?」
「城から連絡が来た。至急来てもらいたいそうだ。」
「へぇ、ごくろうさん」
「ふざけるな、お前もだ」
「何ぃぃぃ!!俺も!?」
「ちょっと、ちょっと、ちょっと!」
あたしは我慢できなくなって話に割り込んだ。
「誰よこの人。あんたの知り合い?」
と、ロックに聞く。
「そういえば誰だ。この娘」
と、ファングと呼ばれた男がロックに聞く。
「ああ、はいはい。この娘はさっき捕まえた犯罪者だ。
そんで、サリナちゃん。こいつはヘイルイースとクルドウェスト合わせて4人しかいない、お偉いソードマスターこと、アレックス=ウォルド。
俺のダチなんだが、ファングって呼んでる。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あら・・・、なんかいいたそうだな」
「ええ」
あたしはロックの肩を持ち、
「あたしは犯罪者じゃないし、あんたなんかに『ちゃん』づけで呼ばれたくは無いわね」
と、「少々」手に力を込める。
「いでででででで・・・・!!分かった!分かった!
砕ける〜〜〜!!」
あたしは手を離すと、再びファングを見る。彼は表情一つ動かしてはいなかった。
−To be continued ―