ー二人の天使ー 

 

 サリナサイド

 

 

 

  4・手合わせ

 

 ロックとファングの二人は、城の執務室へと来ていた。むろん王に呼ばれたからにほかならない。

「失礼します。アレックス=ウォルド、お呼びにより参りました」

 ドアの向こうに向かってファングが言った。

「・・・おう、入ってくれ」

 中から声が返ってきて、二人は中へと入る。

 中は意外に広く、両壁に書架があり、なにやら色々あり散らかっている。正面に大きな木のテーブルがあり、その奥に書き物をするテーブルがまたあった。

「おう、来たか」

 書き物をしていた王が振り返る。 

「近衛師団、一番隊隊長アレックス=ウォルド。参りました」

「遊撃師団総隊長ロック=クレイブ。来ました」

「ああ、ま、ご苦労さん」

 軽い感じの王だ。

 それもそのはず彼はまだ28なのだ。

 ヘイルイース国王、ローランド=シュナイダー。

先代である父親のロベルト=シュナイダーが無くなったのが去年の秋、そのころ彼はヘイルイースとクルドウェストを行ったり来たりの放浪生活をしていた。

 「暇だから」という理由で。

 といっても、20のときから放浪を始めて彼は諸国の各所を回って見聞を広めていた。夜盗に襲われることもあったし、ヴァンパイアとの争いも数回ではない。

 各所の治安や情勢なども見れたし、得意の剣術、魔術も磨くことができた。

 余談だが、今でもまだ戦士としての血が騒ぐのか、玉座に「視察に行く」と書置きを残していなくなることがたまにあった。まぁ、誰も心配などしなかったのだが。

 城に戻って王に即位してからは、近衛師団を設立、各所に支部を設立し治安の安定、プラス、ヴァンパイアの掃討を主な目的とした。

 彼は威張るということや、強制するという事をせず、今で言う民主主義に近い王制を敷いている。それと騎士志願をしてくる皆には、1ヶ月ほど研修期間として郊外の合宿所で仁義ある騎士に、と教えていた。

 さらに、両国あわせて4人しかいないといわれたソードマスターの称号を持っている一人でもある。

 この称号だが、むろん簡単に名乗ることなどできるものではない。剣を極め、かつ魔術と絡めた戦い方を極め、100以上のヴァンパイアとの戦いを勝ち抜いた者にしか与えられない称号だ。

 剣や魔術を極めるのは簡単だが、ヴァンパイアは人間の戦闘力を軽く超えているため、100などという数を倒すのはそれこそ命がいくつあっても足りないのだ。

 だから、ソードマスターは最強と呼ばれ、近衛師団を任されるようになり騎士たちの憧れと同時に畏怖を与えるものとなっている。

「さて、来てもらったのは他でもない・・・」

 木のテーブルを挟んで3人は向かい合っている。これがいつもの隊長クラスとの話し方だ。

「クルドウェストとの小競り合いだが、やはりヴァンパイアが噛んでいるらしいというのが判明した。」

「やはりそうですか」

 ヘイルイースとクルドウェスト、両国は数年前まで国境を同じにしていて、友好関係にあった。しかし、最近になって小競り合いが起こるようになったのだ。

 原因は不明。とにかく、お互いに嫌がらせ程度でしかない騒ぎだったのだが、兵士たちがけんかを起こすようになってしまったので、国境を分け、間に中立地帯を作った。

 それでも、小競り合いは収まらなかった。

 クルドウェストの女王とも話し合った結果、誰か別の奴らが関係しているのではないかと思われたのだが、証拠は無い。

 騎士たちの下層部ではすでに溝ができ始めている。このままでは兵たちが暴走して、戦争が起こらないとも限らなくなって来たのだ。それはお互いにとって望むことではない。

 最近になってある騎士が国境付近でヴァンパイアたちが群れを成しているのを発見したことがあった。もちろん一人では太刀打ちなどできないので、その場は引いたらしいのだが、ヴァンパイアの中に、騎士服を着ているものがいたというのだ。

 ヴァンパイアが騎士の中に紛れ込んでいる。

 由々しき事態に上層部は裏づけを急いだのだが・・・・・、

「まさか・・・・ヴァンパイアが」

 沈黙が流れる。と、

「失礼します。」

 扉がノックされ、一人の男が入ってくる。

「おう、ミシェルか。なんだ」

 入ってきたのはミシェル=バーク。国王の側近の一人だ。民間起用でのし上がってきた一人で、いつもは警備・警察関係の仕事を任されている。今で言う警視総監か。

「はい。さきほど城下町のヴァンパイアバーで小競り合いがありました」

「・・・・・本当か?」

「はい」

 王は頭を抱えた。城下町にヴァンパイアバーがあるということに気づかなかったのだ。いや、正確にはすでに片が着いたのだと思っていたのだ。

「ヴァンパイアバーの駆逐は任せていたと思うが、どうなんだ?」

「すいません。やはり、数が多いもので・・・・」

 これはほんとの話。

「しかたなしか。まぁいい。それで」

「そのヴァンパイアバーでそちらのロック殿ともう一人がバーを破壊したそうです。」

「言わなかったな」

 ファングが、ぽつりと言った。

「聞かれなかったんでね」

「ロック殿が任意同行され、取り調べたところ所持品の中に妙なものがあり、詰め所のものが上申に来ました。

 それが、・・・これです」

 彼は、持っていたものをテーブルに広げる。

 それは、サリナが持っていたリュックとショットガン。UZIにバトルスティックだ。

「・・・・ふむ」

 王は無造作にリュックをひっくり返した。

 ざらざらざら・・・・!!

『!!?』

 中から出てきたのは、宝石の山。

「これはこれは・・・・」

 王はいくつかを手に取る。

「鑑定は?」

「実は、ヘイルイースで宝石が盗まれたと言う報告はありません。クルドウエストで盗まれたとしても関所で持ち物検査で引っかかるため、密輸入も考えられないんです。

 それに、その中の工芸品はヘイルイースでは扱っている店がないんです。」

「出所不明か・・・。それで、諸費用は?」

「すでにその中から払ったのですが、なにぶん、一つ取って数千の品が多いもので、かなり余ったしだいです」

「なるほどねぇ。・・・・こっちは?」

 こんどは銃のほうへと手を伸ばした。

「ロック。お前、そいつの戦い方見てたんだろう?これはなんだ?」

 と、ショットガンとUZIを持ち上げた。

「はい。飛び道具だと思うのですが、轟音とともに何かを発射するものらしい、としか。

 そっちは、連発のようです。」

「・・・さっぱりだな。ボーガンやクロスボウみたいなものか」

 しばらくいじっていた王だが、引き金に指がかかり、

 ドゥン!! 

 書架の一部が、ごっそり吹っ飛んだ。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 一同呆然として、

「持ち主を後で呼んどけ。話があるとな・・・」

「はぁ・・・」

 

 ガチャ!と扉を開けてロックが出てきた。

「遅かったわね。」

「まぁ、そう言うな。こっちも仕事だ。」

 ロックはそう突っ込んだが、サリナの隠した怒りに薄々感づいているだろう。今にも首が飛ぶほどの…。

 サリナはあの後どうすることもできないので、ロック達の宿舎の一室を借りることになったのでついてきていた。

「それでだ。着いてきてくれ。話があるそうだ。・・・王からな」

「はいはい。」

 半ば呆れてサリナは答えた。

  

「つれてきました」

 今度ロックたちが来たのは執務室ではなく完全な謁見室だった。かなりの広さがあり、ちょっとした立ち回りならできる。

「おう、ご苦労」

 王は光剣を具現させたスティックを振っていた。

「なっ…!」

 それを見て一瞬サリナが声を発する。

「お初にお目にかかる。私がこのヘイルイースの王をしているローランドだ。よろしくな。

 時に、いい物を使っているな。」

 言って、光剣を収める。

「良く、扱えましたね。それ」

「まあ、難しくは無かったな。ちょっと意識を集中すれば剣が反応した。よくできている。

 どこで手に入れた?」

 明らかな疑いの目でサリナを見る。

「自分で作った。と、言っても信じちゃくれませんね。」

「・・・ああ。今の光量でヴァンパイア数体を薙ぎ裂いたというのも信じられないな。」

 沈黙が流れた。

 ――やれやれ。王の悪い癖だ。

 ロックは思った。どうしても戦士として相手の実力を見たいらしい。

「私はこれを使わせていただこう」

 言って、もう一度剣を具現させる。

「・・・あなたはどうする」

「このままで」

 素手でやろうという気なのかファイティングポーズを取る。

「なるほど・・・・、では試させてもらおう!」

 いったとたんにローランドは疾走している。

 サリナは走りながら斬りつけるローランドをいなすと、テラスへと走り出した。

「ち、待て!」

 ローランドも後を追う。

 サリナはテラスの扉を開けると外へと出る。

そして、手すりの上に飛び乗ると、ローランドのほうに向かって、

「そこじゃせまいでしょ。場所を変えるわ。この下がちょうど広場らしいから先に行ってるわね」

  と、あろうことか手すりから空中へ身を躍らせた。

「ば、馬鹿な!?下まで何メートルあると思ってる!」

 ローランドはあわててテラスから見下ろした。

 サリナはサリナで落下速度を調節しながら降りていく。

 タンッ!

 心地よい音を立て、着地した。いきなり降ってきた少女にあたりにいた兵士が呆然としている。

「う、うそだろ・・・・。」

 下を見てロックがうなった。そして、

「・・・・ん?だぁぁぁぁぁ!?ローランド様!お気を確かに!」

 対抗心にほだされた王までが飛び降りようと、手すりに足をかけていたのだ。何とか引き摺り下ろしたロックは階段からと説得する。

 

 3分後。広場に王とロック。そして、ファングが顔をそろえた。

「ファ〜〜・・・。あんまりレディーを待たせるものじゃないわよ」

 サリナはあくびなどしていた。

「いいかげんに・・・せんかぁ!」

 ローランドはスティックをサリナ向けて投擲した。次の瞬間には腰の剣に手が行っている。

「!!」

 サリナが剣を体をひねって受けたとき、

「衝撃!」

 ローランドが剣を抜刀しつつそう叫んだ。すると、剣風がカマイタチになってサリナを襲った。

 それをサリナは跳んでよける。

 着地と同時に、剣が爆発的に光を放った!先端が開き、そこから長大な光剣が具現する。

「・・・なるほど!」

「光刃衝!!」

 今度はサリナが剣を思いっきり振りぬく!それとともにすさまじい衝撃波が空気を振動させながら、ローランドに向かった!

「障壁!」

 防御呪文で結界を張ったローランドだが、

 ドゴォォォォン!!

「ぐぅ・・・・・っく!?」

 結界は持ったものの、5メートルほど地面を滑らされた。

「やるな!小娘!久々に楽しいぞ」

 ローランドは剣を振り上げる。と、サリナあhその剣を見て驚いた。

 ローランドの使っているものも光剣なのだ。サリナほどではないにしろ、光を収束させた、まぎれもない光剣。

「あたしも、・・・・なんだか遊べそうな感じがしてきたわ」

 言ってサリナは剣を構えた。

 

To be continued ―