二人の天使

 サリナサイド

 

 

 7・汝黒き剣を持つ天使

 

 

「マリー?ホントにマリーなの?」

 駆け寄り、彼女を抱き起こす。どうやら、これはホントに本物のマリーのようだ。同じ世界に来ていたのか。

「サリナ……さん。……本物ですよね」

 いいながら力なく私の顔に触れてくる。どうしたんだろう、えらく精神が不安定だ。

 まあ、原因は察しが着く。

「あんた……あの幻影を見た?」

 あのふざけた幻影。同じ状況をマリーが見たのだとしたら、彼女だったら恐らく影響を受ける。

「幻影……、なんですよね」

「はっ?」

「私……大介様を……皆さんを……」

 涙を流しながら自分の両手を見るマリー。どうも少々の食い違いがあるようだが、絶望的状況を見せられたことには違いない。

 私は彼女の頬を引っ叩いた。

「っ!?」

「いい加減、目を覚ましなさい!マリー、あんたの見たのは幻!ただの映像よ!その証拠に、あたしはちゃんと生きてるでしょ!」

「……………………」

 呆然とあたしの顔を見るマリー。まぁ、彼女の頬を引っ叩いたのはこれが初めてではないだろうか。

「ほら、しっかり立ちなさいよ」

 彼女の体を起こし、しっかりと立たせる。叩かれた頬を押さえ、彼女は周囲を見渡した。

「ここは……どこでしょうか?」

「さぁ、解かんない。変な黒い彫像に近づいたらこんな場所に送り込まれたんだけど。マリーはどうして?」

「私も、妙な白い天使の像に近づいたらこの場所に……」

 黒い像に、白い像? この二つに接点があるの?

 あるとすれば……、

「サリナさん!」

 マリーの鋭い声。ハッと意識を戻すと、マリーが草原の先を見据えていた。つられてそっちを見ると、

「……ここに来ても、このネタで攻めようって言うわけね」

 苛立ちのこもった口調で私ははき捨てる。そして、新たに現れた影に対峙した。

 黒い剣と白い剣。対となる二つの剣を持った大介が目の前に立っていた。もちろん、彼はそんな武器など使わない。私と同じバトルスティックに2丁拳銃がスタイルだ。だが、この“大介”は銃を持っている様子もないし、端から剣を抜き身で持って現れた。

 これを幻影といわずして何と言おうか。

「いい加減、その姿を見せられると腹が立ってくるわ!」

 スティックを引き抜き1メートルほどに伸ばし、赤い刃を具現させる。そして、まっすぐに斬りかかって行く。スティックが“しなる”ほどの勢いをつけ、怒りと共に振る。

 パァン!

 インパクトと同時に軽い音を立てて赤い刃は砕け散った。

「えっ……!」

 驚いている暇も有らばこそ、すぐに左手の剣が突きこまれてくる。スティックを回し、なんとか弾く。だが、弾かれてなお懐に飛び込んでこようとする“大介”。

破ッ!!

 気を込めた全周囲への無挙動の魔力の開放。たまらず全身に受けて弾き飛ばされる。だが、すぐに体制を直し剣を構えた。

 ――早い……

 今の緊急回避に放った一発も大して効いている風には見えない。まぁ、敵を弾き飛ばす以外の用途はないのだが。

「…………」

 意思があるのか無いのか解らない目をこちらに向け、“大介”が剣を持ち上げる。その剣に白と黒の魔力が纏わりついた。

 ――来る!

 “大介”は剣を頭上で交差させ、一気に振り切る。すると魔力は波動となり、さらに衝撃波としてこっちに向かってきた。

「盾!」

 知っている中で最強の盾を召喚、展開する。衝撃波は盾にぶち当たり派手な閃光と衝撃をもたらす。そして盾ごと、私は吹っ飛ばされていた。

 

 

「かっ・・・!」

 全身が痺れている。動けないことは無いがもう一回あれを受け止める自信は無い。

 そして、内心では驚いていた。偽者のはずの“大介”がどうしてこんなに強いのか。これは幻影のはず、ならばあたしの意思で破壊できる。だができない。これはどういうことなのか。

 いや……、まて……ありえる!

「サリナさん!」

 後ろにいたマリーが寄ってくる。

「だ、大丈夫ですか?」

「じゃなかったら困るって……、ったく」

 立ち上がりこちらを見据える“大介”と再び対峙する。しびれはなんとか取れてきた。

「マリー、幻影解除魔法、かけられる?」

「えっ……し、しかし」

「まだ、こだわってるの?アイツは幻、心の投影。あたしの中で大介が私より強いって言うジンクスがある限りは私達より強いのよ」

「えっ!」

 そう、というかこれしか思いつかない。もしこんな場所に私達を招いた奴が私達の心の中をスキャンしたんだとしたら、今現時点においてコイツは私達の戦い方を全て知っている。

 どんな武器を使い、どんな戦闘パターンを使うかを知っている。その上、私達が知っている大介の戦闘方法を使い、攻撃を仕掛けてくる。

 私が見知っている中で大介が二刀流で戦闘をした試しは無い。ならば、マリーが知っている中で大介が使った戦法だろう。

 どっちにしても、消してしまえば終わりだ。

「マリー!解除を。早く!」

「はい。……全能なる力、個なる力、精神をすべる精霊よ……」

 瞬間、“大介”が動いた。一挙動で右手の白い剣をマリーに向かって投げつけてきた。同時に踏み込んでくる。

「くっ……!」

「――!!」

 私達は同時に左右に避ける。剣が二人の間に突き立つ。そして“大介”が狙ったのはマリー。

「守りの壁よ!」

 解除魔法を中断し、盾を召喚した。マリーは守りに長けている。私が展開した盾よりも強力な奴を“大介”と自分との間に展開する。だが、

「マリー!だめ!!」

 すぐさま、私は迎撃に踏み切った。

 “大介”は左手の黒い剣を突きの構えに持って行き、突如、マリーの展開した盾の中心が無くなった。

「――!!!―――」

 無防備な格好になったマリーに対し、剣を突き込む。

 だが、すんでのところで私のスティックが下から弾き飛ばす。高々と剣が宙に舞う。

 “大介”はとっさに私達から距離をとる。同時にマリーの盾が復活した。

「なんとか、セーフ」

 マリーの前に立ちはだかり、スティックを握りなおした。

 どういうわけか知らないが、奴はマリーの盾を消し、無効化した。いや、相手の使う魔法の解析をする暇は無かったはず。ならば、盾の内と外に扉のようなものを作ったのだろう。

 ごくごく短距離の『相転移空間(テレポート)の扉』。普通術者は盾を張ってもそのフォローはしない。そこに漬け込んだ相当に強引な手法だが。

「さぁて、どうやって攻めようかしら……」

 相手の弱点にことごとく付け込んでくる相手。

 ――ちょっとだけ、面白くなってきたわね。

 

 

 -To be continued-

 

<小説TOPへ>  <HP・TOPへ>

 

2004/09/04