ー二人の天使ー

 

                                     ーマリーサイドー

 

  2・懺悔

 

 教会は広場をはさんでと言うか、広場の真中に建っていた。

 木々が乱立しており、数人の修道士や、町人が出てきていた。

 マリーはそれらを見渡しながら、教会へと入っていく。

 教会の中は外見よりも意外に広く、入ってすぐ参拝者が座る為の長いすがズラーッと並んでおり、さらにその先の両側にひな壇がある。

 その奥に、祭壇がしつらえられ神像と共にミサのための道具が置かれている。

 ステンドグラスもなかなかの大きさで、どうやら神の降臨の構図なのだろう。

 修道女たちが賛美歌の練習をしている。他に、それを聞きながら席に座っている者。本を読んでいる者もいる。

 マリーは、入って左手の方にある木造の懺悔室に入っていった。

『よくいらっしゃいました。神の子よ。あなたの悩みを聞きましょう』

 司祭が懺悔室の向こう側でブラインド越しに話すスタンダードな懺悔室だ。・・・・・だからなんだと言うわけではないが。

「私は神官として従事させていただいた教会より出奔し、心優しい仲間達と旅をしているものです。

 今日来たのは、自分が今何をすべきなのか分からないからです。

 私はいつも人任せにしていた気がするのです。自分で主張せずに、助言だけ。

 何かを決めろと言われたとき、私は常に迷うのです。

 これが正しいと言えないのです。

 私は正しいのか、もしかしたら間違っているかもしれないとか、そういことで常に迷うのです。

 いつも私は二人行動でした。

 しかし、今回は一人なのです。自分が何をすべきなのか決めかねています。

 どうしたらいいでしょうか。」

 マリーは話し終えた。

 しばし、時が流れ、

「・・・・・迷うことは罪ではありません。迷うことで人は成長するものです。」

 司祭は話し始めた。

「旅と言うものははっきりとした目的をもっていません。

 目的が無いからこそ旅なのです。決められないと嘆く必要はありません。

 一人だからと言って寂しがることも無いのです。あなたも神に仕えたのなら、分かるでしょう。

 神はあなたのそばにいつもついています。心配することはありません。

 必ず神はお導きくださいます。・・・・・・・」

 

 懺悔室から出たマリーは意外と晴れた気分だった。

 まぁ、神官だった彼女が神を信じないと言うと問題だが・・・、

 懺悔の後、マリーは情報収集として酒場に入った。酒場と言うのはどこの世界も情報収集のためには無くてはならないものである。

 出てきた教会から見える少し寂れた酒場にマリーは入り、席についた。

 と、その少し後のことだ。

 バタンッ!!

 荒々しく扉を開けて何人かが騒ぎながら入ってきた。

 入ってきたのは、数人の荒くれ者と・・・・って、さっきグレイズに退散させられた人たちではないか。

「いい加減にしやがれ!毎日毎日人の店を荒らしに来やがって…」

「はっ、言ってろ!あの騎士が来なきゃあの場で殺ってやったんだ。

 命があるだけでも感謝しな!」

 ――あきずによくやりますねぇ。

 出された紅茶を飲みながらマリーは思う。

 しかし、だんだん彼らは取っ組み合いになり始めた。

 そして、殴られ倒れた荒くれ者がキレたのか、いきなり剣を引き抜いた!

 一瞬で酒場の空気が一変する。逃げ出す者。テーブルの下に避難する者。

 バーテンは慣れたものでグラスを磨いていたりする。

 一人が抜いたのを皮切りに、荒くれ者達の全員が剣を抜く。

 ――止めなければ!

 さすがにこの場を血に染めたくないマリーは、立ち上がって両袖の中に指を入れた。

「死ねぇぇ!!」

 剣を振り上げ振り下ろそうとしたそのとき、

 ギィン!!

 甲高い音を立て、男の剣が根元から折れ飛んだ。

『・・・・・・なっ!!?』

 全員がいきなり折れた剣に呆然としたとき、声がかけられる。

「おやめなさい。この場を血に染める気ですか?」

 男たちは声のするほうを向いた。マリーのほうを。

 マリーは、右手を差し出すような格好で彼らを正面から見ていた。

「それ以上やると言うなら、私も黙っていません」

 やんわりとした声に男たちは一瞬あっけに取られ、

「てめぇか!!」

 剣を折られた男が今度はマリーに向かって歩き出した。

「人の剣をよくも・・・」

 言い終わるより早くマリーが動く。

 右手を左に動かし、右に払うと同時に左手を上げた。

「・・・うおわぁぁ!!?」

 ズダァァァン!とその場でひっくり返った。

「な、何だ!?魔法か?」

「こいつ・・・騎士か!?」

 騒ぎ立て、剣をサリナに向けなおす男たち。

 マリーは今度は右手を上に動かし、思いっきり振り下ろす。

『うおわあ・・・・・・!』

 男たちの持っている剣が持ち主を離れ、飛んだのだ。

 そして、ガシャガシャいいながら落ちたのはマリーのはるか後方だ。

「無駄ですよ。あなたたちの周りには金属糸が流してあります。

 下手に動けば切れます。首だって簡単に飛びますよ。」

 マリーは右手を下ろしながら言った。

「おとなしく退散してはくれないでしょうか。そうならば別に危害を加えたりはしません」

「・・くっ!」

 場は硬直した。男たちの間には信じられないと言う表情と、敗北の表情が浮かんだ。

 しかし、ただ一人戦意を失っていない者がいた。

 男は腰から短剣を抜くと、マリーに向かって投げ放ったのだ!しかし、

 パシッ!

 軽い音を立て短剣はマリーの手に、

「なっ・・・!?」

 今のは完全な不意打ちだったはず、それを簡単に受け止められた!?

「そうですか。これが答えですね」

 マリーは悲しそうな顔をする。短剣を捨て、両手を上げた。

「ちょ、待て!」

 マリーは一回手を振った。

 キュイィ・・・。

 金属が擦れ合う音、同時に男たちは体に触るものを感じた。

 さぁ、っとマリーは右手と左手で大きく円を描くように両手を動かした。

 と、

 ブワッ!!

『うおわぁぁぁぁぁぁ!!』

 男たちの体が浮いたかと思うと直後には扉に向かって飛ばされた。

 扉を粉砕して男たちは外に放り出される。

 ィィィィィィィィ・・・・・。

 小さく高い音を立て、リールに糸が巻かれていく。

 マリーは戸口で男たちに言った。

「帰ってください。お願いします」

 死んでないと思った男たちが逃げ出したのはもう分かるだろう。

 

 酒場の中は静寂が支配していた。

 マリーの非常識な技を見て、

 そんな中、マリーは飲んでいた紅茶の代金をテーブルに置くと早々に出て行く。

 あんな雰囲気の中にいるのは嫌だったし、また教会に行かなくては・・・、

 

 そして、そんなトボトボと歩くマリーの後ろを誰かがつけていた。

 

― To be continued ―