Go back in the time

           ―認めたくない世界―

 

 

    13・襲撃、そして

 

 準備は着々と進んでいた。伝令を買って出たエルフたちが他の街へと飛び、武器が急ピッチで整えられる。無論それだけでは足りるはずもなく、私達はやむなくこういう方法に打って出た。

 

 ゴゴゴ……。

 土が蠢き盛り上がる。そして少しずつその姿を人形へと変えていった。ゴーレムである。それが百体近く。そしてそれに順ずる数のゴーレムの馬。気がつけばあたし達の本営にはゴーレムの騎馬兵が勢ぞろいした。土だけど。

「なかなかいい作成術持ってるわね。」

 整然と並ぶ騎馬兵を確認しながらアリスはつぶやいた。彼女が騎馬兵を担当し、あたしが馬を担当したのだが、しっかしこの娘もなかなかやるものである。自分とほぼ同サイズのゴーレムを百体も作るなどと、なかなか非常識な魔力を持っている。

「これだけの体格の馬作るなんて、あたしぐらいの腕でも難しいのに」

「ポニーでも期待してたんですか?」

「まぁね」

 うわ。はっきり言う奴。

「後は武器か。木製の盾と、竹やりぐらいが妥当かな」

 兵を見てそういった。どうでもいいが全員が全員女性の体格と言うのはどうだろうか。魔力不足??

 ま、武器が無いと言うなら……、

「武器はまかしてくれる?すぐにそろえるわ」

「え?……ちょっと、お金もないのにそんなこと」

「いいから。任せておきなさいって」

 出撃は明後日。それまでに隙を見つけて武器をそろえる。ついでに通常兵士用の武器もいくつか出せるだろうか。

 そんな事を考えているうちに、伝令の人がやってきた。初めは整列しているゴーレム兵に驚いたものの、淡々と現状報告をする。

「各支部へ飛んだ伝令からの返答が参りました。」

「よし。聞こう」

「は。各方面揃って急なことなのですが、すぐに準備を始め移動を始めると言うことです。武器の方についてはエルフ細工の物を使用できるとのこと。」

「エルフの武器か。ありがたいな。見張りからは何も?」

「はい。何も」

「本当かしら」

『!?』

 アリスと伝令が顔を上げた。あたしの行動に驚いて。まぁ、いきなり伝令の頭に銃を構えてれば驚くのも無理ないけど。

「な、何を!」

「誰、アンタ」

 あたしはアリスを遮って聞いた。

「誰……とは?」

 上ずりつつも答える男。

「アタシって物覚えが非常にいいんだわ。今までほぼ全員の顔見てきたけど、その中にアンタのような奴いなかったわ」

「ちょ、そんな……無茶苦茶な!!」

「問答無用!!」

 そして、アタシは問答無用で引き金を引いた。炸裂音と共に魔力弾が銃から放たれた。

 弾丸は空を裂き伝令を直撃した、はずだった。

『おのれ……、こうも早く見つかるとは』

 くぐもった声は後ろから聞こえた。

 振り返ったあたしの視界に入ってきたのは黒装束に身を包んだ、人型の魔族。

「……なんだ、本当にいたのか」

 あたしはつぶやいた。

『ちょっと待て〜〜〜!!』

 驚きの声は両方から。

「何!?分かっててやったんじゃないの!?今の!」

 目の前の魔族に臆するでもなくアリスは突っ込む。

「あたりまえじゃない!誰が魔族のことなんて眼中に入れると思ってるのよ。あ〜もぅ、銃を撃たれたときのあの怯えたリアクションが面白いのに……」

 間違いなく性格を疑われる発言だけど、ま、これは言葉の綾ってことで。

『・・・・・・・』

 一方、魔族のほうは完全に声を失っていた。たかが人間の興味に自分の本性を明かしたことに対する怒りと、羞恥に潰される思いだろう。

 そう、あたしはこっちが見たかったのだ。人間に小馬鹿にされた魔族のリアクション。雑魚連中に限らず中級とかの連中も意外と面白いリアクションをするのだ、これが。

 しばらく、うつむいていた魔族だが、フッとその感情の揺らぎが消滅した。……来る。

 アタシが銃を跳ね上げると同時に魔族が跳躍する。目標はアリス! その爪が何倍にも伸び、確実な威力を持ってアリスに迫る。しかし、空中に浮いたのが運の尽きだ。左手で銃を抜き空をポイントする。

「つーわけで、レイボム」

 声を出したのはアリスのほうだった。かざしたのその手から光の爆発が起きる。

『ぎゃぁぁぁぁ!!』

 断末魔を上げて名も名乗らずにその魔族は消滅した。まさに瞬殺だ。

「・・・・・・・」

「何よ。面食らった顔して」

「いや、よく呪文唱える暇あったわね。」

 あたしは聞いた。と、

「だって、気づいてたもの。」

「……え?」

「魔族だって気づいてたって言うの。あなたのほうこそ、よく気づいたと思ったけどトンだ茶番劇だったわねぇ」

 気づいた?今のを?

 言っておく、気配を消して近付こうと思えばいくらでも可能だ。今のも暗殺が目的で出てきたのだろうが、あたしの目はソレを見抜くことが出来る。しかし、アリスはどうだ。ただの一般人なのに魔族の変装を見抜いていたって?

 あたしが言うのもなんだが非常識である。

「何よ。はとが豆鉄砲食らったような顔して。

 どっちにしても大事よ。さっさと準備と仲間の確認をしないと」

 落ち着き払った口調で、走り去るアリス。

 ……あたしの先祖って、普通でも非常識だったの?

 などと言う考えが浮かんでしまうあたしであった。

 

 

 翌日。

「そうか。」

 イライザいや、その中の“彼”は報告を聞いて苦い顔をした。暗殺担当があのコートの女によって正体を暴かれ、かつあの女に滅ぼされたと言う。らしくもない失態をしてくれたものだ。

「で、連中の動きは分かったのか?」

「は。明日と」

「……明日か」

 “彼”は外を見た。

「よし。貴様はもういい。手駒を揃えて待て」

「御意」

 そして、影は再び消える。

「さて、王に上申でもしに行くかな」

 その後、王子飼いの者からの密告という名目で、城中の軍を待機状態にさせ、かつ城下に駐留しているハンター連中にも協力を求めた。むろん、エルフの反乱と聞いて金になると思い込む連中のこと、喜び勇んで参加した。

 正規軍だけで500。ハンターをかき集めて200。計700がアリス達を迎え撃つこととなったのだ。

 

 

「やられたわね。」

 本陣の中でアリスは爪を噛んだ。町に潜入していた者からの報告で全軍が待機状態にあると言う。さらにハンターまでも抱きこんで700もの軍が相手になる。今のアリスの軍だけでは約100がいいところだろう。半分以上がゴーレム騎馬兵だ。無論魔法が使える部隊が混じっていればさらに状況は悪くなる。むろん、王軍の配置は正面からハンター連中をぶつけて来て、次に正規軍をぶつけるだろうと考えがつく。ハンターは烏合の衆とはいえ、金に目がくらんだ奴らである。油断しないに越した事はない。

「援軍の到着を待つのはどうでしょう。エレバスの支部からは200近くが向かっているそうですが」

「エルフ中心?人中心?」

「え、……半々かと」

「そうねぇ、そっちは東から入るように言ってきてくれる?クラコスからは?」

「50近くとの報告が来ています。」

 ――少ない。

 アリスの予想に反して反乱軍の数が集まらない。現状と言えば現状でしかないだろう。ハンターは個々の実力を見ればそこそこの奴らもいるのだ。

「……? サリナは?」

 ふと、見渡せばサリナの姿がない。

「ゴーレムのところだと思いますが」

 隊員の一人が言った。

 

 アリスが隊長格と共にゴーレムのところに来た。そして、

「こ、これって……どういこと!?」

 ゴーレムの全員が板金鎧にランスで武装している。馬のほうも棘付の特攻装備だ。その装備がきらびやかに輝いている。

「まかせろって……、どこからこんなに武器が」

「アリス様!こちらへ!」

 一人が奥のほうを指して呼んだ。言われたほうへ行ってみれば、奇怪な物が置かれていた。金属で四方を囲まれた巨大な箱。コンテナである。その陰からサリナが現れる。

「来たわね。武器は用意したわ。自由に使って」

「武器……って?」

 つぶやくアリスにサリナはコンテナの跳ね上げ扉を上げた。

『おおおおおおお!!?』

 中から現れたのは、白金に輝く武器防具一式。それも半端な数ではない。ここの部隊の全員分が用意されている。

「どう?」

「あ、あなた、こんな武器防具どこから持ってきたの!?」

「それは聞かないで。」

「でも!……」

 アリスの話も途中にサリナは歩き出す。

「ちょ、ちょっと!」

 後を追うアリス。サリナの歩いた先にはもう一つコンテナがあった。いや、同じコンテナが5つほど並べられている。

「もう一つ。さっき奴等の状況を聞いたわ。先制攻撃として使えるからこれも置いておくわ。」

「これの中身は?」

 サリナは片目をつぶって、

「ちょっとしたシロモノよ。これはアタシが当日操作するわ。誰も触らないでね。死ぬから」

 言いながら、ガンガンとコンテナを叩いた。

「正規軍の動きを止めるのに役に立つからね。門の中で待機していればの話だけど。

 うまいくすれば、正規軍を無効化できる。」

「ほんと!?」

「えぇ。うまくいけばね。

 あたしの仕事はここまでで精一杯。後は運を天に任せて……ね」

 

 

 そして、当日。

「クレバスからの援軍が配置に着きました。」

「全員へ武器がいきわたりました!」

 森の中では出撃の準備が着々と進行していた。皆気後れこそしていないもののさすがに緊張は隠せない。

 アリスのいるこの本隊はゴーレム兵を戦闘にして魔法の使えるものを後方部隊として突っ込む構えである。むろんあたしはゴーレムの指揮を執り、アリスは後方で本隊の指揮を取る

 そういえば、敵の物見がいくつかやってきたけど、問答無用でエルフ達に捕まっていたっけ。馬鹿な連中である。

 あたしがちょっと締め上げると、簡単に口を割った。

 連中も正面から迎え撃つ気らしい。街中での乱戦は避け、外での戦いになる。さらに正規軍は城からは出ておらず、ぬくぬくと待っているということも。

 これはかなりついている。

 あたしはさっそく端末をいじりつつ、放った式神からの映像を見ていた。確かに敵は町の外に出て陣形を展開している。もしかしたらゴーレムの突撃だけで蹴散らせるかもしれない。しかし、魔法を使われでもしたら耐魔法性のないゴーレムは一撃で粉砕される。さらにもう一つ。例のサキエルとか言った魔族の存在。奴もどこかで息を潜めているのではという懸念。懸念でしかないが、魔族と言うのは人の絶望とか行った負の感情を糧とする生き物。戦争などはいい場所なのだが……。まぁ、それはどうとでもなる。

「サリナ?何してるの?」

 アリスが声を掛けてきた。

「えぇ、あの箱の中身を撃ち込む準備をね。」

 端末には各コンテナの稼動状況が表示されている。コンテナの中身は高性能のミサイルだ。もっとも弾頭の中には即効性の痺れ薬を大量に入れてある。場内に突入した頃には兵士達は無効化出来ているだろう。

 その点をアリスに説明すると、

「OK。それは使えるわね。んじゃ、それを号砲代わりに使いましょうか」

「号砲!?」

「そうよ。東からの200が突っ込んでくることは敵は気づいてない。警備も50と少し。同時に攻め込めば先に城内に攻め込めるわ。」

「……分かった。じゃあ時間はいつにする?」

「そうね。伝令の時間を考えて、昼。真昼にしましょう」

「了解。んじゃ真昼ちょうどにぶっ放すわ。」

 今はあたしの時計で見て9時。あと3時間。目標を城内各所に設定し、タイマーを仕掛けた。後は待つばかりである。

「3時間あるなら、あたしもちょっと出てくるわ。」

 あたしは立ち上がり端末を持って言った。

「いまさらどこへ?」

「戦うなら勝てる戦いを、よ」

 そう言ってあたしは空へと身を躍らせた。

 

 

 2時間半後、

 ゴゥンゴゥン……

 5つ並んだコンテナが次々と自動で開いていく。

「な、何だ?!」

「い、いいのか?動いてるけど」

 警備をしていた数人は驚いてそれを見つめる。中から顔を出したのは、ずらりと並んだ特製のミサイルが30連発x5である。じっと空を睨みすえるミサイル群にただただ唖然となる兵士たち。

 何がっても触らぬこと、と言われているがやはり気になるのが人というもの。

 安全の為に引いた柵を越えて、ランチャーに近付く兵士。手に持った武器で弾頭を叩こうとした時、

「止めなさい!!」

 突如空から静止がかかる。むろんアタシが見つけて急降下しながらかけたのである。

 ドンと着地すると馬鹿をやろうとした兵士を怒鳴りつける。

「あんた死にたいの?触らないでって言ってあるでしょうが!ここで爆発したらあんた達皆死ぬのよ!それでもいいの?」

『う゛……』

 言われて詰まる兵士たち。

「分かったら配置に戻りなさい。ここはもういいから!

 さあさあ」

 兵士をせかしてランチャーから遠ざける。まったくこれだから科学を知らない人間は……って、アタシも元々そうだし。

 あたしは端末を取り出して色々と微調整を掛ける。アイリス並みにさっさと出来るわけではないから焦る。

「……よし、と」

 ポケットからスイッチを取り出す。スイッチを入れて動作を確認すると、あたしはアリスのところへと戻る。

 いよいよ、始まる。

 

 

「いい!よく聞いて!」

 アリスの口上が始まった。

「あたし達は正面から突撃を掛けるわ。先陣はゴーレムの騎馬兵がするから、後に続くわよ!」

『おおおおおおおお!!』

「そして、突入の合図だけど、知っているものもいると思うけどもあのドでかい箱から砲弾が飛んで、城内を攻撃するから、それと同時に突っ込むわ!いいわね!?」

『おおおおおおおおお!!』 

 士気はそこそこ高い様子。これならいけるか。

「サリナ。そろそろいいわ。」

 馬に乗って――これは本物――アリスはアタシに近づいてくる。

「了解。真昼までもう少し。」

 再び端末をいくらか操作して、目標の確認をする。なにせ150発のミサイルが城を攻撃するのである。もしかしたら壊滅するかも、……知ったこっちゃないか。

「サリナさん!」

「ん?あ、ラミア」

「今確認してきましたけど、大丈夫です。誰もいません」

 ラミア達エルフ数人にはランチャーの見張りをお願いしていた。どうも好奇心旺盛な人間よりは、エルフのほうが忠実に動いてくれるからだ。

「……後3分。OK。箱に赤い光が灯ったら全員退避させてね」

「ハイ!」

 再び駆け戻るラミアを見送って、あたしはスイッチを取り出した。電源を入れ、コンテナを起動させた。

 ラミア達が見守るコンテナに光が灯る。情報が書き込まれ、ミサイルが目標への弾道を計算し、設定する。

 1分前。赤いライトがコンテナに灯った。

「退避して!全員退避!」

 ラミアが声を上げ、エルフ達がコンテナ周辺から退避する。

 そして、

「目標、ガリウスト城内!

 ミサイル一斉発射!!」

 スイッチを押す。それと同時に、コンテナに満載されたミサイルが各コンテナから一斉に轟音を上げ、発射されていった。

『おおおおお……!!』

 空に次々とミサイルが放たれていく。これが連中にどう写るか。

 

 

「あれは……?」

 “彼”はいまだに自室で成り行きを見ていたが、いきなり森から何かが飛び立った。

「鳥か?……いや違う!」

 見ているうちにその飛行物体は数をかなり増やしていく。そして、真っ直ぐにこちらに向かってくるではないか!

「連中がやったのか?させんわ!」

 “彼”は傍らの槍を掴むと、窓を全開にした。そして、その槍に光が灯る。

 

 

 いきなり空を光が薙いだ。それにやられてミサイルが半数近く誤爆する!

「な、何!?」

「あれは……!!」

 驚くあたしと、何かに気づいたアリス。兵士たちの間にも動揺が走った。

 光は数条空を薙ぎ裂き、ミサイルを撃墜する。結局城内に突っ込んだのは30にも満たなかった。

「あれじゃあ、効果なんて半分以下じゃない!」

「イライザの奴……!」

 しかし、号砲は撃った。風の流れに乗って時の声が聞こえる。

「行くしかないわ!!サリナ!」

「ったく!ゴーレム、突撃開始!」

 あたしはゴーレムの馬を駆って先陣を切った。むろんこんな馬は乗り捨てである。

「行くわよ!」

 アリスが槍を振り上げた。

「全軍!!ガリウストへ突撃!!」

『オオオオオオオオ!!』

 こちらも大音量の声を共にゴーレムの後に続いた!

 エルフの自由を賭けた戦いが今その先端を切ったのであった。

 

 

To be continued―

 

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あとがきな感じ

 

 遅れまくりまして申し訳ありませんが、ここにオリジナル小説「認めたくない世界」11篇を送り出します。

 前の奴からいくら経ってるんだ?ったく(爆死)

 さて、W杯もブラジルの優勝で幕を下ろしましたし、タイガースも出だしの勢いが減衰して今は3位か?

 この先何が起こるかわからない中でこの小説も何が起こるか分かりません。

 次回も期待してください!!

 

 

 

2002/07/09