14・決戦!ガリウスト
風の流れに乗って多くの意思が迫ってくる。世を変えようとする戦争の始まりだ。“彼”は静かにその声を聞いていた。先ほど妙な鳥を落としたが、アレは一体なんだったのか。そんなことを考えつつ、“彼”はまた槍を城の正面から向かってくる軍隊へと向けた。
「混乱すれば混乱するほどいい。……それには数合わせは大事だからな」
槍に光が灯った。
ジャッ!!ドドオォォーーン!!
強烈な光が今度は突撃するゴーレム部隊の横の林を薙ぎ裂いた。木が爆発し、軽い衝撃波が襲ってくる。
「この……、当たったらシャレにならないじゃない!」
サリナはゴーレム馬の上に立った。揺れる馬の上に立ち、スティックを構える。伸ばした状態のスティックを肩に担ぐと、背中側が大きく開き、そこにエネルギーが集約していく。5秒もせずに充填が完了した。
「これでも……!」
光が襲ってきた城に向かって砲口を向けたとき、後ろから光が一条行き過ぎた。
「え……?」
その光はものの見事に城を直撃した。防御する暇は無かったと見える。大爆発が起こり、直撃した上の方にあった尖塔が倒れる。……あれはあそこにいた人死んだな。
「アリスか」
どうやら、秘伝のアレを使ったらしい。城から来た物とは威力が違うが、効果は出た。
つーことはサリナが充填したものは……、
「目標変更!!」
サリナがポイントしたのは町の前に陣取っていたハンター連中のど真ん中だった。
ドゥンッ!!
強烈な発射音の割にバックファイアはない。が!発射音に似合っただけの巨大な光弾がハンター達に襲いかかった。
いきなり飛び込んでくるものにハンター達は混乱し、隊列が乱れ、
づどむっ!!!
町に入るときに通るであろう門ごと、ハンター達の約半数が吹っ飛んだ!ま、城を吹っ飛ばそうと調整したものだし、これくらいは当然と言えば当然。衝撃波に吹っ飛ばされた者も含めて大混乱が生じている。これならこっちの班は大成功と言っていいか。
そして、吹っ飛ばしたハンター達の中にあたし達は突撃をかけた。
づどむっ!
アリスが放った簡易版セイントバスターの直後、強烈な爆発音が門から響いてきた。
「な……!?」
いきなり起こった爆発。遠目でもそこにいた連中の半分以上が吹っ飛んだのが見えた。
「…………」
唖然となった。サリナがやったのは想像がついたが、馬の上から放てるほどの呪文のストックがあったのか?彼女には。
いや、そんなことはどうでもいい。よくすれば、こちらは無傷で城内に入れる!
「正面の敵は無視して一気に城内になだれ込むわ!!乗り遅れないでよ!!」
『おおおおおおお!!』
ゴーレム達が、半数以上減じ混乱しまくるハンター連中を叩き潰すのは意外に早かった。さすがに反撃で20体ほどはやられたが、後ろから来る本隊の邪魔者は排除できた。
「本当は、もうすこし穏やかに行きたかったんだけどな……」
アリスの一発で吹っ切れたサリナがいまさらなことを言う。
「よし!ゴーレム、町に突入!ハンター達を片付けるのよ!!」
馬に乗ったもの、馬を破壊されたもの。全員が隊を整える間もなく町に乱入して行った。その後ろからサリナも駆ける。
しかし、町に入って200Mも走ったとき、前を走っていたゴーレム達がまとめて吹っ飛んだ。
「!?」
魔道士たちが出てきたようである。吹っ飛ばされたゴーレム達の先になおも呪文を唱える一団が見える。同時に、サリナを見つけた連中が剣を構えて突撃をかけてきた。
「アンタ達の相手はしてれられないのよ!」
それでもサリナはスティックを抜くと、その先に蒼い刃を具現させる。クレイモア並みの長剣だ。ハンター達の間を突っ切るように駆け、同時に3人を斬り捨てる。刃を振るうことも出来ずにその場に倒れる男達。それを見た魔道士の口が思わず止まり、
ザンッ!
倒れる魔道士を見ずにサリナは駆けた。目指すは城内。あのミサイルの効果が出なかった以上、正規兵達が出てきた場合の結果は目に見えている。全滅させるか、戦闘不能にしておかないと。
サリナは風を纏って飛んだ。地面ぎりぎりを土ぼこりを巻き上げながら。路地から出てきた別の連中もいきなり目の前を通り過ぎたものに唖然としたり、運の悪い奴は飛行線上に入ってしまい、吹っ飛ばされたりしてしまう。
やがて城壁が見えてきた。サリナは構わず突っ込み、城壁の一歩手前で急制動、急上昇をかけた。城壁をなぞるように上へと飛び、城壁が切れたと同時に風を解除した。同時に銃を抜き、城内に向けたと同時に、
「なっ……!?」
目の前の光景に目を疑った。重力にしたがって落下するサリナ。城壁の上へと着地し改めて中を見る。
異臭。血の匂い。それも鍋に入れて煮詰めたような強烈な激臭。
そこはまさに地獄と化していた。
千切れ飛んだ四肢、もはや原形を留めないほどに破壊された肉片。人だったもの。さっきまでここで戦闘準備を行っていたであろう兵士達。吐き気がした。そして、その周辺で蠢く物がいた。
それは数十、百匹にもなろう数の魔族たち。デーモン達だった。
「…………」
呆然とサリナはデーモン達が、今さっき殺したであろう兵士達を“喰っている”現場を見ていた。
銃を持つ手が震える。奥歯が鳴った。
「…………この!」
サリナは銃をその惨劇の舞台の中心へと向けた。そして光が、目に見えるほどに強大な魔力が銃へと集中していく。その光を見たもの、その魔力の強大さに気が付いたデーモン達は一斉に振り向き、
「おあぁぁぁぁぁ!!」
クオガッ……!
巨大な光弾がデーモン達の中心と撃ち込まれた。着弾と同時に光は波紋となりその広場全体へと広がる。
カッ!!
次の瞬間、広場から光が立ち上がる。いや噴き上がった!噴き上がった光は虚空へと消える。
数秒の後光は収まった。そして、広場には“何も残っていなかった”。
デーモン達も、兵士の死骸も、血塗られた土も、全てが無かった。ただ平坦な、草の茂る広場へと変わっていた。
「はぁ、はっ、はぁ……」
腰を折り、上がった息を何とか落ち着けようとする。さすがに汗が流れた。
ありとあらゆる物を浄化し、全て無へと帰す“浄化の光”。とっさとはいえ出したことは正しい。
あんな連中がアリス達に襲い掛かったなら一瞬で蹂躙されることは目に見えている。
と、
「なんと、すばらしい」
「――!!」
いきなり掛けられた声に顔を跳ね上げた。彼女のすぐ横に騎士がいた。兵士、ではない。その鎧は漆黒でその背には翼を纏っている。
「なるほど、サキエル様が私達を呼んだのもうなずける。そうは思いませんか?」
友人にでも話しかけるような表情でサリナを見る。すぐに距離をとり、腰のスティックに手をかけるサリナ。
「いけぇねぇなぁ。武器を振り回しちゃあ」
サリナの表情が固まる。気配を感じさせずにもう一人後ろに立っていたのだ。
「ちぃ!」
サリナは地を蹴り、城内へと横に飛ぶ。
グガァァァ!
魔族の振るった何かが城壁を粉砕する。バランスを取りながら城内へと着地し、スティックを引き抜く。そのまま体をひねって伸ばしたスティックを振った!
ギィン!と金属を鳴らした音がした。
「ほう、中々太刀筋はいいようだ」
不意打ち気味に振ったはずのスティックを手甲で受けた老人顔の魔族が言った。
更にサリナは後ろへと低く飛び、左手で銃を抜き、撃った。銃弾は老人の頭上を行きすぎ、ギィンと言う音と共に弾かれた。
「……気づいたか」
まるで、粘土を塗り固めた粗悪な人形のような背の高い魔族が何も無い顔から声を出した。その手には同じく巨大な剣が握られている。
銃弾はその剣ではじいたようだ。
「……4匹」
サリナは銃をしまい、スティックを構える。表情に余裕は無い。
横に並んだ二人の魔族、そして、城壁から降りてきた二人の魔族。“浄化の光”で消えなかったところを見ると、どこか別に場所にいて見ていたらしい。しかし、その力に臆することなく対峙しようとしている所を見ると、相当の力を持っていることが分かる。
サリナの生まれ育った時代の魔族達は弱かった。いや、強い奴に出会ったことが無いのかもしれない。しかし、過去は根本的に違う。
様々な種族が共に勢力を伸ばした時代であり、その力は著しく高かったという。自分の時代と同じと思っていると手痛い傷を負うことになる。
「人間の女一人を片付けろなんて言われた時は、さすがにあの方の性格を疑ったが……」
城壁を破壊した魔族――軽鎧を纏ったその頭だけがトラの姿をしている、その手に持った大剣をドンと地面に突き刺し、
「……どうしてどうして、面白い奴じゃねぇか」
「我々にどう、対抗するのか見物ですね」
騎士姿がゆっくり剣を抜く。その刀身だけが白銀に輝いている。
「では、行きますよ!」
4人がそれぞれにサリナへと襲い掛かった。
「町にいるハンター達は雑魚ばかりよ!ひるまないで!」
アリス達は早々に町へと侵入し、すでに町の半分を制圧し終わっていた。部隊を二つに分け、苦戦している西側へと送った後、アリスは残りを率いて城へと向かった。
城までもう少しと言うところである。
グオッ……!
城の方角からとてつもない魔力の流れを感じた。城を振り仰いだと同時に、兵士の誰かが叫んだ。
「おい!何だよあの光は!」
確かに光だった。城の広場から光が立ち上り、そして消えた。
「サリナが敵兵を眠らせたのかしら……」
アリスはそう思った。実際は敵兵の死骸を魔族もろとも浄化した光であるが、その場所からはそうとしか見えなかったのも事実。
数秒で消えてしまった光。アリスは兵を叱咤し、また兵を進軍させた。
城を守る堀の外から、アリスが光弾で橋を支えている鎖を破壊した。轟音と共に落ちる橋。そしてなだれ込むアリス達混成部隊。城内はすぐに大混乱になった。
そんな中、アリスは気になっていた光の正体を確かめるべく、城内部を突っ切って広場へと向かっていた。
「お待ちください!」
前に剣を持った兵士が立ちはだかった。
「押し通る!邪魔するものは貫く!!」
走る速度はそのままにアリスはトゥルースピアを正面に向ける。槍の腕前をよく知る兵士達。それでも剣を向け、迎え撃とうとする。
そして、槍の間合いに入る直前。アリスは槍を反転させ、石突で地面を突いた。同時に地を蹴り、唖然とする兵士達の頭上を飛び越えてしまった。そして、そのまま突っ走っていく。
『…………』
「……さすがだ」
兵士の一人がそうつぶやいた。
広場へ通じる扉を開いた時、アリスの目に飛び込んで来たのはサリナの剣が粘土細工の魔族をぶった斬ったところだった。
『ギォォォォ……!』
この世ならぬ声を上げ、崩れるように消滅する魔族。
「……くっ、ガイラスが」
トラ顔が呻く。
自分の身長の倍はありそうな深紅の大剣を振り回し、構えるサリナ。額に汗が浮かんでいる。
「サリナぁぁ!!」
現場の状況はともかく、予想していなかった光景に思わずアリスはサリナを呼んだ。思わぬところから予想しなかった声がかかり、サリナの注意がそっちに向く。
「アリス……!」
その瞬間を見逃さず、騎士魔族が剣を振るった。間合いのはるか外だ。しかし、振られた瞬間、剣は捻じ曲がり、延びて生き物のごとくサリナへと襲い掛かった。
「くっ!」
何とか打ち払ったサリナ。しかし、体勢を崩したそこに老人魔族が入り込んだ。見た目に似合わない素早さでサリナの懐に入り込み、その拳を振りかぶる。
ギュアッ!
その瞬間、光が一条迫り老人の右腕を切り落とした。
「なにぃっ!?」
驚きに意識を奪われた魔族。だが、その一瞬がサリナに決定的な隙になる。
「疾っ!」
右下に袈裟懸けに振り下ろされた剣は通常の長剣の形をしており、老人の体に食い込み、真っ二つに絶った! そのまま地を蹴って上空からトラ顔へと剣を振った!剣で受け止める魔族。
「なめ……っ!」
叫んだ魔族の顔にサリナは空中で抜いた左手の銃を突き立てる!
ゴァウ!
マグナムの十数倍の威力を持った銃弾がトラ魔族の顔を粉砕した。着地と同時にサリナは銃を手放し横へと飛ぶ。直後、崩壊しかけの魔族を貫いて自在剣が襲い掛かってきた。
「おのれぇ!」
騎士魔族は憤怒にその表情を曲げ、剣を操る。その剣は軌道を180度曲げると、扉の所で槍をライフルでも構えるように持っているアリスに向かっていく。
「!!?」
いきなり迫り来る刃にリアクションの取れないアリス。刃が目前に迫り、ガァン!という音と共に刃は弾かれ、アリスのすぐ横の城壁を派手に粉砕した。
「あんたの相手は私でしょうがぁ!」
サリナはそう叫び持った剣を振るう。すると刃がスティックから離れ、光刃となって騎士魔族を襲う。騎士魔族は体をひねり、捻じ曲がったままの剣でそれを受けるが、鈍い音と共に刀身は折れ、光刃も消えた。
「ちぃっ!」
しかし、折れた剣は柄から新しい刃がすぐに生成される。そして、走りこんできたサリナと刃を交わす。二、三合打ち合ってから離れる両者。だが、
「ガッ!」
いきなり騎士魔族の体が跳ねる。魔族がゆっくり自分の体を見る。その体は円形に穴が出来ていた。体勢を立て直したアリスがお返しとばかりにチャージ量を増やして光線を撃ちこんだのだ。
呆けた様にそれを見る騎士魔族。その目の前に右手を赤く輝かせたサリナが見えていた。
「破ッ!」
突き出した右手から魔力の爆発が起き、騎士魔族の頭部を粉砕した。
「アリス!意外と早かったわね」
銃を拾い上げ、約束の相手に言うように言った。
「早かったじゃないわよ!」
ゴス!
「うごっ」
近づくサリナの頭をアリスは槍でどついた。
「魔族がいるならいるで作戦の建て直しが必要だったのに!アンタって人は……」
「片付いたからいいじゃない。」
「まぁ、あたしのおかげでね」
「…………おい」
「まぁ、魔族も退治したことだし。さ、行くわよ」
一人で自己完結するアリス。一人で城内へと戻っていく。
「……雰囲気ぶち壊しじゃんよ〜」
すごすごとついていくサリナであった。
兵達の報告からすでに城内は謁見の間以外は制圧を完了したとのこと。そして、地下室にアリスの母上が監禁されているので来て欲しいのことだった。
「母さんが!?分かったわ。すぐ行きます。謁見の間への突入はサリナさんに任せます」
サリナを見るアリス。サリナもうなづいた。
半壊した城内においてほぼ無事だった謁見の間の近くにはすでに兵達が集まっていた。城内を見て回ったが、他の場所に城主はいなかった。だとしたらここしかない。他にイライザも顔を見せていない。と言うことは全員ここに集まっていることだろう。
緊張した兵達を従えてサリナは謁見の間の扉に前に立った。とりあえず押してみる。やはり閂がかかっていた。
「では、行きますよ」
一歩下がってから、
「はっ!」
前蹴りを扉の中心に繰り出した。
ドバキャ!!
扉が派手にひしゃげ、壁との接合部分が砕ける。
ドドォォォォン!!
数メートルを飛んだ扉は轟音と共に倒れた。
『・・・・・・・・・・・・・』
とてつもない脚力を見せ付けられた全員が揃って声を失った。
「・・・・・・・・・」
そして、サリナは謁見の間の中に広がっている光景に声を失う。倒れていたのである。近衛兵が、神官が、文官が、数十人が倒れていた。そして、その先、玉座に座っている王と宮廷魔道士イライザを除いて。
―To be continued―
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あとがき
認めたくない世界「決戦ガリウスト」完成しました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
ぎゃぁぁぁぁぁ!!ごめんなさ〜〜い!!(石が飛んできたらしい)
ゲームにはまっていたのも事実なら小説をサボっていたのも事実それは認めよう。しかし、小説は読んでいると言う不条理な作者です。
とりあえずまぁ見てくださった人には感謝感激。
そして、これからも……見てくれるのかなぁ(涙