GO back in the time

    認めたくない世界

 

 

 

  15・発動

 

 

 石段をいくつもの靴音が駆け抜ける。いくつもの扉を開け、アリスはその場所へとたどり着いた。

「!!」

 その場所に入った時、すでに数人の兵が待っていた。そして、檻の中で静かに座禅を組んでいる女性も。

「……母さん」

 アリスが声を出した。女性が静かに目をあけ、アリスを見た。

「あらアリス。遅かったじゃない」

 何の気なしにそう言うユリカ。

「母さん……。この!!」

 アリスは持っている槍で鉄格子を薙いだ。

 ジャジャギィン!!

 より強力な魔力干渉を受けて鉄格子は切れる。上下を薙いだアリスは、折れた鉄格子を踏み越えてユリカに飛びついた。

「母さん!!」

「あらあら……、しょうのない子ね」

 周りの兵を気にすることなくアリスは泣いた。アリスを抱くユリカも物腰こそ落ち着いていたが、その目には涙があふれていた。

 

 数分後、魔法封じの首輪を切り剥がし、ユリカは自分の足で立った。気のきいた兵士が持ってきたガウンを羽織り、地下室から脱出する。

「アリス。あなたがこの兵達を率いてきたの?」

「そうよ。でも、皆エルフ達が虐殺されるのを見ていられなくなった人達だもの。数人で始めたこの反乱も今じゃ全国に広がってるわ。」

「…………この数を」

 地下室から出てきたと同時に大歓声が二人を迎えた。エルフと人間の両方がである。

 手を振り返すアリス。歓声が大きくなった。

 と、

 ドォォォン!!

 城全体が大きく揺れた!

「何事!?」

 と、言われても誰にもわかる訳がない。

「全員外へ!!早く!!」

 アリスが号令を飛ばすと、我に返った兵士達がすぐに退却を始める。アリスもユリカを別の兵士に背負ってもらった。

 

 全員が外に出た。そして、城を振り返ったとたんに絶句する。城から、謁見の間のある辺りから光が昇っている。まるで天を貫くかのような光だった。

「あれは……」

 ユリカがつぶやいた。

 

 

 時間は少し戻ってサリナである。

「貴様達!王の御前である。帯剣とは無礼であるぞ!」

 イライザがいきなりそう言った。

 サリナが息を吐き、扉だったものを踏み越えて堂々と入っていく。

「やかましい!悪の化身が堂々とそんな口を叩くなど言語道断!

 アンタ達の世界はどうかは知らないけど、こっちではきっぱり変なのよ、アンタは!」

 何故かそう叫んだ。

「……ふん。貴様か」

 イライザが玉座の横から離れて段を降りる。そして、十メートルほどの間をあけて対峙する。

「おまえが来るとはな。首謀者はどこだ」

「さぁ、どこかしら。

 で、アンタ。宮廷魔道士のイライザね」

「そうだと言ったら?」

「説明して貰いましょうか?この現状を」

 言って床に倒れる者達を指す。

「喰ったのさ。精神をな」

「でしょうね……。悪魔のやる手口だもの」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 兵士達が恐々入ってきた。

 イライザがそれを見て、持っていた槍をサリナに向けた。ほぼ同時にサリナも銃を抜き向ける。兵達の動きが止まった。尋常でない殺気を感じたのだ。

「先日は世話になったからな。貴様と今ここでケリをつけるのも面白いかもしれん」

「はぁ?」

 いきなり何を言い出すのかと思うサリナ。無論サリナはイライザとは初対面であるが、イライザの中のサキエルはサリナに痛い目にあっている。

「誰かと間違ってない?」

「いいや、『間違ってはいないさ』」

 声色が途中からサキエルに変わった。

「……!?」

 サキエルはいきなり槍を頭上へと向ける。その槍に光が灯る。

 ゴァッ……!

 強烈な光が謁見の間にあふれた。そして、光は謁見の間の天上を貫き、空へと立ち上る。

「これは……!」

 サリナが目を覆いつつ言う。

『見せてやろう。人間ども。この力のすばらしさを!』

 サキエルの体が浮かび上がる。呪文も唱えないまま彼は天井の穴から空へと飛び立った。

「待ちなさいよ!!」

 サリナもとっさに飛び上がる。

 

 城の屋根へと着地して空を見上げる。イライザが羽を広げていた。金色に輝く2枚の羽。さらに漆黒に彩られた黒い羽が二枚。

「……堕天使の翼。あんたまさか!」

『あの夜、貴様から受けた傷は完治した。さぁ、向かってくるがいい。愚かなものどもよ!』

 サキエルは槍をサリナへ向ける。先ほどとは段違いの光が収束していく。

 ――あれが、“英雄の槍”!?

「させるか!」

 サリナは風をまとって飛び上がる。そして、発射の直前、軌道を変えた。つられてサキエルは槍を動かす。放たれた光線は町の向こう、連なる山々を薙ぎ裂いた!

 サリナの背に寒いものが走った。アレを食らったらさすがに生きてはいられない。

「くっ!」

 スティックを抜き、赤い刃を抜く。

『余興は終わりだ。決着をつけようではないか!』

 

 

 光と共に飛び出してきたのは翼を持った女性。周囲に動揺が走った。

「イライザ……」

「アイツ!」

 続いて飛び出してきたのはポニーテールの、サリナであった。

「あの子は?」

 ユリカがサリナを指した。

「レジスタンスに加わった仲間よ。魔道士だって言ってたけど、まさかイライザと槍に挑む気なの!?」

 イライザが槍をサリナに向けた。光が収束する。

 収束と同時にサリナが風をまとってイライザに迫るが間に合わない。発射と同時にサリナは避けた。光線は軍の真上を通り過ぎ、彼方の山々を薙いだ。

「母さん!」

 アリスがユリカを見る。

「……アリス」

 彼女には言いたいことがよく分かる。自分が助けに行きたいと言うのだ。

 そして、昔を思い出す。後先構わずに何かに首を突っ込んでいた自分を。

「……いいわ。行ってきなさい!」

「はい!」

 アリスは嬉しそうにうなずくと、呪文を唱えだす。彼女の全身が淡く輝き、それは背中へと収束する。そして、

 バサァァ!

 空気を打つ音と共に二枚の金色の翼が現れた。

「行ってきます!」

 行ってアリスは地を蹴る。翼はその魔力で風を捕まえ、アリスを空へと飛び立たせた。

「……さてと」

 ユリカも一息つくと、

「誰か。食べ物持ってきてくれない?」

 周囲の兵にそう言った。

 

 

 サキエルが槍を構える。サリナもスティックのリミッターを解除する。五鈷杵の爪の部分が開き、刃が燃え上がるように大きくなる。

 風を纏ったままでも使える優れものだ。双方が出方を伺う。と、

「ちょっとまったぁぁ!!」

 いきなりアリスの声がして下からアリスが飛び上がってきたのだ。そして、サキエルの後ろに位置する。

「アリス!?あんた……!」

「まさか、当事者が黙っていられる状況でもないでしょう?家族間の問題ならなおのことね。」

 言ってイライザを睨む。

『……面白い。ちょうどいいハンデだ』

 気にも留めずにそういうサキエル。

「えっ?」

 声色の違いにアリスが驚き、その一瞬でサキエルは体をひねり槍をアリスに向けた。光が集まる。

「っ!!」

「この!」

 サリナが剣を振りかぶって飛ぶ。

「……馬鹿が」

 サキエルは槍を回し、右脇に抱えるように後ろへと向けた。

「――!!」

 光が放たれた。レーザー光線並みの光だが、当たれば痛いではすまない。サリナも体を何とか左にひねり、光線は結界を貫いて行き過ぎる。

「このぉぉぉ!!」

 アリスがトゥルースピアで突きかかる。一撃を受け止めるサキエル。そして、そのまま槍をひねると刃の部分でアリスの頭を狙う。

 ガツッ!

 何とか受け止めたアリスだが、

「重い……!」

 手がしびれる。

 叩きつけた反動で槍をひねったサキエル。刃を自分の頭上へ持っていく。

 バチバチバチ……!

 サリナの剣がその刃と打ち合わさり、強烈な魔力の余波を撒き散らす。

「くっ!」

 次に飛んだのは翼だった。サキエルは黒い翼を隙の出来たサリナの腹へと繰り出す。

「がっ!」

 結界を突き破り、一撃がサリナの体を吹き飛ばす。

「サリナ……ぐあっ!」

 声を出しかけたアリスのわき腹に、槍の石突が叩きつけられる。吹っ飛ばされ落下するアリス。しかし、地面すれすれで体勢を立て直した。

「かはっ!」

 同じようにサリナも落下こそしなかったもののさすがに驚いていた。並みの魔力で斬りかかったつもりはない。全力で行ったはずだ。

それをいとも簡単に弾き返した。

「どうした。それで全力と言うわけではあるまい?」

 悠々と腰に手を当ててサキエルはそう言った。

「さぁ、もう一度見せてみろ。貴様の翼を」

「……ふん。お断りよ!」

 剣を構えなおして突っ込むサリナ。上段、中段、下段、と打ち分けて今度は手数で勝負する。しかし、サキエルも槍を器用に操り斬戟を受け流し、弾いていく。

 その光景をアリスは半ば呆然と見ていた。英雄の槍を達人の腕前で操るイライザを。風を纏ったままイライザと切り結ぶ深紅の刃を操るサリナを。

 イライザは彼女の知っている限り槍の扱いは下の下。ただの飾り扱いだったはずだ。それをいとも簡単に振り回し、強烈な腕力で叩きつけてきた。魔力を自分の攻撃力に還元して打ち込んで来たのかもしれないが、それはこの際どうでもいい。そして、驚くべきはその翼だ。

 金色の翼を召還するこの魔法だが、いきなり漆黒の翼が現れたのだ。それではまるで、

「……堕天使じゃない」

 翼を打ち、アリスは一気に飛び上がった。トゥルースピアに魔力を集中し、不意を付いた形で後方から解き放った。しかし、命中すると思った瞬間イライザが後ろ、アリスが撃った方向に槍を向けた。後ろへと少し下がり、槍に触るか触らないかという所でアリスの砲撃が捻じ曲がった! サリナの方向へ。

「なっ!?」

「――!!」

 サリナはスティックを水平に持って砲撃を受ける。

「くっ!」

 はじけ飛ぶ魔力、そして弾ききった所にサキエルが斬りかかった。左から右への大振りを上半身を後ろに倒すことでかわしたサリナは、その体勢から地上へと落下する。いや、自分から落下した。追うサキエル。地上すれすれで直角に軌道を変えて広場を疾駆するサリナ。その前方にいきなりサキエルが現れた! 急制動して改めて対峙する両者。

「どうした。何故力を解放しない。」

「そこまでするほどの相手じゃないって事よ!」

 瞬間的に左手で銃を握り、サキエルへと銃口を向ける。引き金を引くと同時に収束された魔力がサキエルへと飛ぶ。

「笑止!」

 サキエルは槍を回転させて一撃を受ける。と、同時に!

 ドドドドン!!

 銃弾そのものが破裂して霧状に散った!

「っ!?」

「なめるんじゃないわよ!」

 印を切ることも無く、呪文を唱えることも無くサリナは叫ぶ。

「ミストボムッ!」

 づどむっ!

 いきなり霧状のものが爆発を起こす。限定された霧内部は千度を超し、相手の肌と肺を焼く。普通の人間ではまず生きている事は不可能だ。しかし、

「しゃらくさいっ!」

 発生した超高温の空気を切り裂いて、サキエルが飛び出してきた。服が少々焦げているだけだ。

 ガギン!!

 槍の斬撃をその銃で受け止める。

「面白い魔法だ。しかし、効かんな!」

 槍を押し込む。サリナが押されて一歩下がった。

 

 周りの人達がその光景を唖然として見ていた。目の前で行われている人間業と言い難い行為に。

 食べているのである。まぁ、普通にそう言っても信じないだろうが、食べているのである。ユリカが小料理屋で見つけたものを猛然と。

 城で行われている死闘などお構い無しに見つけた小料理屋に飛び込むと、驚いて逃げ出した店主をほっといて厨房に入り、出来上がっておいたままになっていたシチューだの、置かれたままのパンだのと手当たり次第に。10分は野獣のように食べていたユリカが顔を上げる。

「ふぅ……。食べた食べた、と」

 持っていたシチューの入っていた寸胴を捨てた。中身は完全に空になっている。

 唖然とする人達の間を抜けて、料理屋を出る。外の連中は城で行われている死闘を固唾を呑んで見守っている。どうも押されぎみらしい。

「10年以上経ってるのか……。年はとりたくないわね」

「ゆ、ユリカ様。どうしたんですか?あんなに食べたりなどして」

 警護を任された兵が言う。

「娘ががんばっているのに、母親が外野でぬくぬくしてろって言うの?」

 兵を一瞥もせずにそう言った。そして、手を目の前にかざす。

「来い」

 小さくそう言った。すると、彼女の手の間に光が灯る。それは徐々に数を増し、長く伸びる。そして、収束と同時にそこには一本の槍が出現していた。「G」の字を縦に伸ばしたような感じの微細な紋の刻まれた二メートル弱の槍だった。しかし槍に輝きは無く、くすんでしまっている。

「すっかり光が失せちゃってる。使ってないもんな〜」

 懐かしい物を見るように槍を見る。そして、何度か構えを取った。動きは遅く、構えも乱れている。しかし、周りを忘れたように彼女はそれを繰り返した。少しして槍が残像を描いた。短いそれは振られるごとに長くなり、同時に彼女の取る構えにも変化が出てきた。

 構えの流れがスムーズになり美しくなってくる。

 チャキッ!と正面に槍を向け、刃を立てたとき彼女は動きを止めた。槍のくすみが消え、光さえ生んでいる。

「……行けるわね」

 静かにそういい、構えを解く。

「ユリカ様、戦われるおつもりですか!?」

「そうよ。」

「あなたの武勇は伺っております。しかし、それは10年以上前のこと!今のあなたでは死にに……!」

 目の前に槍が突き出され、兵士は黙る。

「ウズウズしてる時に、横槍入れるんじゃないわよ」

 言って笑みを浮かべて戦場を見やる。

「…………」

「さて、一世一代の大技でも見せてあげますか」

 槍を地面に突き立てて、彼女は全身の力を抜く。

「封印、解除」

 ゴァッ!

 その瞬間、強烈な魔力の流れが彼女の全身を駆け巡った。

 

――!?」

 一瞬サキエルが意識を外に向けた。サリナはその瞬間を見逃さず、銃を右に流す。左手を離し、突き出した。

「! ちっ!」

 身を引くサキエル。しかし、

 ジャッ!

 いきなりサリナの左手袖から3本の爪が飛び出した。それは、完全にサキエルの不意を付き、サキエル、イライザの右ほほをかすめる。

「くっ!」

 さらにサキエルは身を引く。その隙にサリナは空中へと飛んだ。それから、魔力の発生源を探る。

 ――いきなり強烈な魔力が出てきた?そんな馬鹿な。でも、この感じはどこかで……。

 そして、サキエルは、

 ――この魔力、大きいな。あの女か?どちらにせよ、邪魔だな。

 直後、サキエルを無数の光のつぶてが襲う。慌てて飛び上がるサキエル。追えば、アリスが槍を構えて狙っていた。

 ――鬱陶しい!

 左手で結界を張りながらサキエルは一直線にアリスへと向かう。その前にサリナが立ちはだかった。

「あんたの相手は私よ!」

 サキエルが急制動をかける。振り下ろされた刃は結界をたやすく切り裂いたが、返す刀はかわされた。

 

 体中に力がみなぎってくる。体が軽く、羽ばたく感覚。

 魔力の、いや“力”の解放と同時に彼女の体は発光を始めた。驚いて周囲の人が振り向いたほどだ。

 やがて、雛が殻を割るように光に“ヒビ”が入る。

 パンッ!

 軽い音と共に弾ける。弾けた光は6つに別れ広がる。そして中から現れたのは……、少女だった。

 年は17,8で洗いざらしのシャツの様な物を着て、Gパンを履いた少女。その背には金色の6枚の羽。

 全員がその少女を驚きの目で見た。いったいいつの間に現れた?どこから。

 少女が目の前の槍を手に取る。そして、思い通りに右に左に振り回す。

「さすがに違和感は残るわね」

 少女が言った。アリスと似た声だった。

「あの……、まさか」

 そばにいた兵士が恐る恐る声をかけた。

「全員に伝えて頂戴」

 兵士の声を制して彼女は声を出した。

「今すぐこの町から避難するように。この町はたぶん、消滅する」

 それだけ言うと、翼を打って空へと飛び立った。

「ルリカ様、だよな」

「昔の、武勇を馳せた当時の姿……。」

「マジかよ……」

 唖然とする兵士達。そして、誰かが言った。

「総員退避だ!!今すぐこの町から離れろ!先々代宮廷魔導師のご命令だ!!」

 

 ドゴッ!

 衝撃は唐突だった。肩口に振り下ろされた一撃はまともに入ってバランスを崩させた。さらに一撃が入る!姿勢の維持ができなくなり、衝撃のままに地面に打ち落された!

 サリナは唖然として突如現れた人を見ていた。背に6枚の羽を纏った少女。少女が顔を上げてサリナを見る。

「やるじゃない。あなた」

 世間話でもするように彼女はサリナに話しかけた。

「え……」

「ふぅん、センスは悪くないかな。コートに五鈷杵にUZIか」

「!? あの……あなたは」

 聞いたとき、後ろからアリスが乱入する。

「母さん!!?」

「あら、アリス」

「そ、その格好、何で!?」

 さすがにアリスも驚いている。いきなり目の前に若き日の母親が出てきたのだから。もっとも、背の羽だけで母親以外を思い浮かばなかっただけだが。

「ちょっとね。若返ってみたのよ」

 まるでコンビニに買い物でも行くと言わんばかりのいいようだ。

「ルリカさん!?」

 サリナもさすがに気づいた。

「ま、そゆこと。で、……」

 ルリカは下を見下ろす。サキエルが身を起こそうとしているところだった。

「あなた、名前は?」

 サリナに言った。

「え、サリナです」

「ファミリーネーム、もしくは名字は?」

「…………」

「ま、答えたくないならそれでもいいけど。」

 肩をすくめる。そして真顔で言う。

「焦らずに自分に自信を持ちなさい。焦れば頭は働かない。力を殺すことになる」

「……!」

「長年使ってなかったあたしが言うのもなんだけどね」

 言いながらポケットからなにやらケースを取り出した。中にはカードが詰まっている。

「さあ、サクサク行きましょうか」

 カードの中から1枚を選ぶ。そして、いきなりその場から消えた。

 現れたのはサキエルの真正面。

「!?」

 ルリカはそのカードをサキエルに突きつける。

「封じられし力、わが力を分かちて形となれ!」

 カードが光る。ルリカはそのカードをサキエルに投げた。

「スペル、“ディバイド”!」

 カードの光が膨張、噴出してサキエルを覆いつくす!

『グワァァァァァ!!』

 絶叫が響いた。一瞬の間があって光は弾ける。その後に残ったのはサキエルと、イライザだった。

「か、……ぐあ」

 苦悶の表情でルリカを睨みつけるサキエル。その背には黒い翼だけがあった。

「人の家族に手を出したこと、死んで後悔してもらうわ!」

 槍を構え突っ込む。

「くっ!」

 サキエルは素早く風に溶け消える。

「逃がすと思ってるの?!」

 ルリカはまたカードを一枚取り出した。

「照らせ!スペル、“シャイニング”!」

 カードを空中へと放つ!カードが強烈な光を放つ。

「ぐあっ!」

 声はルリカの斜め後方からした。隠れ蓑を吹き飛ばされたサキエルにルリカは槍を向ける。

「おのれっ!」

「光れ!スターゲイザー!!」

 彼女の持つ翼と槍が輝き、光の奔流がサキエルへと襲い掛かる。ぎりぎりで槍を水平に構えたサキエルは槍でその光を受け止めた。

「くおぉぉぉ!!」

 地面を滑って、それでも攻撃を受けきった。余波だけで並みの魔族なら吹き飛ばされるほどの威力だというのに。

「ちっ、英雄の槍め。意外と頑丈ね」

 槍を構える。その姿はまさに槍使いの名に相応しくキマっている。

 

「イライザ!イライザ!!」

 着地したアリスは倒れたままのイライザに必死に呼びかけていた。融合していたサキエルを強引に引き剥がしたために、彼女自身の精神にもいくらかダメージがいっている。

「……う、あ」

 イライザの口から声が漏れる。そして、ゆっくりと目を開けた。

「ご、め……な、……い」

「喋らないで」

 サリナは懐から小瓶を取り出した。中は薄緑の液体で満たされている。ビンの口を開けると、中身を数滴イライザの口へと入れる。

「前に貰った強壮剤よ。精神にも効果があるわ」

 すると、イライザの呼吸が段々と落ち着いてくる。そして、目からは涙が。

「さて……、ルリカさんの手伝いでもしてきますか」

 腰を上げるサリナ。

「サリナさん……。あなたって……」

「ん?」

「……いい人ね。」

 いきなり言われてさすがに顔を赤くするサリナ。

「ま、いいってこと」

 そして、歩き始める。地上で攻防を繰り広げる、二人の元へ。

 すでに城の広場は惨憺たる光景だった。周囲の土はえぐられ、城壁は原形を留めないほどに打ち抜かれている。

 戦いは魔力戦だった。相手の放つ波動を弾き、かわし、撃ち返す。

 拮抗している。ルリカが弱いわけではない。英雄の槍がそれだけの力を秘めているからだ。

 サリナは二人から少し距離を置いて立った。手にスティックを握り締める。

「ふー。さて、そろそろ本気……、!!?」

 キュゴッ!!

 いきなり目の前に強力な波動が迫ってきた!

「くっ!」

 なんとかスティックで受け止めたものの、一瞬脱力し、なんの防御姿勢もとっていなかったサリナは簡単に吹き飛ばされた!

「サリナさーーん!!」

 気づいたアリスが絶叫する。攻防に夢中になっていたルリカも一瞬そちらに意識が行く。

 ドゴォォ……!!

 派手に城壁に激突し、内部に突っ込む!

「しまった……!」

 ルリカがそう短く叫び、

「カァッ!」

 サキエルが右手に収束させたエネルギー球を放つのは同時だった。狙っていたのか、サキエルの放った魔力球はルリカの防御を超えて城内へと突っ込んでいく!

 ゴガァァァァ!!

 城内が大爆発を起こし、崩れた。

 

 

 ガラガラと崩れ、瓦礫と化す城。

「……っ、の野郎!!」

 ルリカが怒りの表情で叫び、サキエルに突っ込む!一瞬早くサキエルは空へと逃れ、槍は何も無い空間を貫く。すぐさまルリカも翼を打って後を追った。

 アリスは、瓦礫と化した城を呆然と見ていた。とんでもない実力を持ったサリナだが、何もしなくては普通の少女。瓦礫の下敷きになって生きていられるはずは無い。

「ふはははは……!」

 サキエルの嘲笑が遠くに聞こえた。

 

 ………………

 …………生きて、いる。

 四肢の感触はあいまいだが、一瞬意識を失ったせいだろう。しかし、何とか成功したらしい。

 体中を表現できないような何かが駆け巡り、意識を体へと引き戻す。体が重い。上に何かが乗っかっているせいか。

 ……いい加減腹が立ってきた。そろそろ本気で行こうか!!

 

 ゴゴゴ……。

 その波動に最初に気がついたのは誰だろう。サキエルとルリカは動きを止め、アリスは瓦礫に歩み寄る歩を止めた。

 ……ゴゴゴゴゴ!

 徐々に波動が大きくなる。そして、瓦礫が蠢く。

「……まさか」

 サキエルがそうつぶやいた次の瞬間、

 カッ!!

 瓦礫から金色の光が噴射する。

『――!!?』

 光の噴射に続き、

 ゴガァァァ……!!

 派手な音を立てて、瓦礫のほとんどが吹き飛ぶ!!強烈な衝撃に粉砕されたのだ。吹き飛ばされた後には光の柱が立ち、その柱は天を貫くように伸びる。

 その中ほど、サキエルとルリカとほぼ同じ高さに影が浮かんだ。

「……まさか。馬鹿な、そんな馬鹿なことが」

 初めてサキエルの額を汗が落ちた。その影、浮かび上がり光の柱の消滅と共にその場に浮かんでいたのは、巨大な金色の炎としか言えないものを纏ったサリナだった。

 

 

To be continued

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   あとがき的な戯言

 さてさて、この話もクライマックスに入ってきました。もう一話で終わりだと思いますのでよろしく!

 年末に書き終わってみるのも一興かと思うのだが、そうも行かないんだよな、これが。年越しは温泉で過ごすため、小説が書けません。

 ゴメンシテ( ̄◇ ̄|||)

 そんなわけで、来年もこのHPを含めてP!と小説をよろしくお願いします!

 2002/12/30