ー Go back in the time ー

                                ー認めたくない世界ー

 

 

 

5・襲撃

 

 

本島に帰ってきたあたし達はさっさとボートを消し、移動を開始した。

 ボートをつけたのはあの港から南に5キロは離れた入り江だ。微妙な森の切れ目なのだが、ラミアによればかなり大きい森だという。

 移動を開始してから10分ごろのこと・・・・・、

「ラミア、ちょっと止まって」

「どうした・・・・」

「シッ!」

 ラミアを強く制して、あたしは森の少し先へと足を進めた。

 大きな木を回ったときそれが目に入ってきた。

「・・・・これって!」

「・・・・どうしたんですか?サリナさん」

 ラミアはあたしの後ろから出て、あたしのいる先を見て、

「・・・・なっ!?」

 同じように硬直した。

 廃墟があった。しかし、ただの廃墟にあらず、今の今まで誰かが住んでいた痕跡のある村だった。

 あたし達はその村へと足を踏み入れた。 

 見渡せばそこいら中の家々に火がかけられたらしくほとんどの家が焼け落ち炭化している。

「・・・・ひどい」

 ラミアが悲痛な声を上げる。

「最近襲われたらしいわね」

 あたしは冷静に分析する。

「村人がいないってことは全員捕虜として捕まったのか。あるいは命からがら逃げたのか。

 しかも、・・・・・・」

 あたしは落ちている燃え残ったものを拾い上げた。

「ここは、エルフの隠れ里よ」

 それをラミアに放り投げた。

「・・・・・・!!」

 受け取った燃え残ったもの、それは木製の壁掛けだった。

 ラミアには見慣れたエルフ語で書かれていた。

 

『結婚お・・・・め・・・とう』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「人間としてお詫びするわ」

「・・・あなたが悪いわけじゃないです」

 ラミアはそれを燃えた柱に立てかけた。

 その時、

「・・・・やれやれ、親方も人使いが荒いぜ」

「・・・・まったくだ。もしかしたら、戻ってくる奴がいるかもしれないから見てこいなんてよ」

 二人連れの男たちが現れた。

 ――こいつらが村を・・・!?

「さて・・・・・・、あっ!?」

「なっ・・・・・・マジで1匹戻って来てるし」

 二人にはラミアしか見えていないらしい、あたしはゆっくり後ろから近づいた。

「へへへ・・・こいつはうれしいねぇ、金づるがもど・・・・・・ぐぁ!」

 あたしは後ろから思いっきり背中を蹴飛ばしてやった。

 そいつはラミアのほうへと飛び、

 ドゴッ

「ごぶっ・・・!」

 飛んでいる最中にラミアにラリアットをかまされ悶絶した。

「な・・・・なんだおま・・・・!」

 みなまで言わせずあたしは男に一挙動で近づくと腹に一撃を食らわせる!

 もんどりうって倒れる男を引きずり起こしてあたしは聞いた。

「ここに住んでたエルフ達はどこ?返答いかんによっちゃ二度と太陽を拝めなくしてもいいのよ」

「・・・・・サリナさん。ちょっと!」

 ラミアが声をかけてきた。はっ、として見てみれば怒りのあまり中吊り状態にしていたらしい。

 どさっ、と男が落ちる。

「・・・・・かはっ、ごほ、てめぇ、何を・・・・!?」

 目の前に突き出された光剣に男は声を失う。

「とっとと答えなさい」

「・・・・答えないと言ったら?」 

「あ、そ。じゃあんたを殺してもう一人に聞くわ」

 問答無用で剣を振り上げ、

「わかったぁぁぁl!やめろぉぉぉ!!」

 首筋ぎりぎりで男は音を上げた。

「・・・この先の、ランバルトの町だ!そこに全員連れて行った!

 後のことは親方しか知らねぇぇぇ!」

「はい、ごくろうさん」

 光剣の代わりに鳩尾に蹴り一発。後ろの木まで吹っ飛んで気絶する。

「さ、行きましょうか?ラミア」

「・・・・サリナさん。」

 ラミアもさすがにサリナのうちの憤りに気づいただろう。

 サリナも分かっている。八つ当たりでしかない。しかし・・・!

 一回大きく深呼吸してから、

「大丈夫。心配しないで・・・」

 と、ラミアに笑顔を見せる。

 「せいぜい、町一つ壊滅させるかもしれないくらいだから」

「よくないですよ――!!」

 

 ランバルトの町――名前だけは聞いたことがある。むろん現代の話だ。

 知っている限りでは、そこでエルフが売買されたなどと聞いたことは無いのだが、

 ラミアの話では、表向きは別に何も無いのだが、地下に大掛かりな売買場がると言う。

 ――てことは現代にもあるってこと!?帰ったら、暴露しに行かないと……。

 などと考えながら、あたし達は、ランバルトの町へと到着した。

 町に入る前にラミアにはマントとフードを貸し、顔を隠してもらう。白い手だけでも分かる人もいるからなぁ。

 町は特に怪しいものなど無い、がしかし、怪しい視線なら痛いほど感じた。

 通行人から、建ち並ぶ露店から、しつこいと思うくらいにである。

 もちろんラミアにだ。このくそ熱いのにフードなどかぶってかぶって歩いているのだ、妖しくないと言うほうが無理なんだけど。

 あたしたちは真っ先に宿へと向かった。一度落ち着いてから作戦を立てようということになったのだ。

 

「ふう〜、暑い・・・。ラミア、大丈夫?」

「はぁ・・・、何とか大丈夫です」

 エルフ族というのは元来体が弱い種族だ。あんまり暑い格好をして倒れられても困る。

「さて、ランバルトの町に来たのはいいけど、どこに売買会場があるかだよね」

「そうですよね。もしかして、町長の家だったりしません?ここって町中が異様な雰囲気でしたよ」

「それには賛成なんだけど・・・・、どうも何か引っかかってるのよね。こう、どっかで似たような事件があったような」

 あたしは記憶をフル回転させて似た事件を探した。

 ――あれは違うし、あの時も違う。誰だっけ・・・・。

「・・・・・・・・・・・・・・あ!」

 あたしは指を鳴らした。

「分かったんですか?」

「ええ。・・・・あったのよ似たような事件が。と、いうよりあたしの体験にね」

「体験ですか・・・??」

 頭に?マークを浮かべて彼女が問う。

「この町に来たときにさ、何か不思議な感じしなかった?」

「不思議な感じですか?・・・・・いえ、別に。・・・・・・あ、しいていえば閉店してたお店が多かったことですね」

「ビンゴ!そこよ!」

 あたしはラミアの鼻先に指を突きつける。

「あたしもね。一度誘拐された経験があるのよ」

「ええっ!!?」 

「声がでかい!!」

「あ・・・・はい」

「つっても、大介達の仲間に加わる前だけどね。そのころはまだ、こんな力なんて持ってなかったし」

「・・・・そうですか」

 あきらかに信じてないな。

「その時もね、閉店したお店の中に連れて行かれたのよ。そしたら、その地下に売買場があったのよ。奴隷のね。」

「サリナさんも苦労したんですね。」

「あはは、・・・・苦労ならいままで休み無く、してきたわよ。あいつらといたおかげでね」

 あたしは心の底からそういった。そして、少しほっとする。

「ま、今は別行動だから楽なんだけどね」

「・・・すいません。妙なことに巻き込んでしまって」

「いいのよいいのよ。面白いから」

「・・・・・・・・・・・はぁ?」

 

 みなが寝静まった真夜中。あたしたちは行動を開始した。

 例の閉店していたお店を見張っていると、しばらくして、馬車の音がしてきた。

「サリナさん。」

「シッ!」

 馬車は店の前で止まる。そして、

「おら、とっとと降りろ!グズグズするんじゃねぇ!」

 野蛮な声で誰かを店の中へといれて行っている。

「・・・・・・・・・・・・」

「飛び出さないでよ。今出たら、計画が狂うわ」

「・・・・はい」

やがて、馬車は全員を降ろすといずことも無く去っていった。

 あたしとラミアは、店の前に立つ。

 店の扉を確認すると、やっぱり鍵がかけてある。さてと、

 あたしは懐から針金を取り出すと、鍵穴へと通す。

・・・・・・・・・・キン。

「はいOK」

「・・・・・はぁ〜〜」

 なにやら感心しているラミア。

 店の中へと入るとやはり中はがらんどうになっている。 

 奥へと進むと、あからさまに下への階段があった。どうやら誰かが入ってくることなど考えていなかったんだろう。

 階段を下りると、扉があった。向こうの光が漏れてきている。

「ラミア。フードをつけて」

 そういってからあたしはゆっくりと扉を開いた。

 

 扉の向こうはとんでもない場所だった。

 ちょっとした、体育館並みの大きさで、2階建てになっている。

 中央が吹き抜けになっていて、下では仲買人が今まさにエルフを売買しようと口上を並べている。

 一階には、ちゃんとした服を着た、裏では名の通ってそうな連中がお立ち台に上げられたエルフを見定めている。

 二階、これがひどい。興味本位に集まった荒くれ者どもが、お立ち台のエルフに野次を飛ばしている。

 さらには、周囲を囲んでいる柱や、吹き抜けにつけられた柵。女性のエルフが縛られている。

 しかも、裸で。

「・・・・・・・・・・・・・・」

 ラミアは無言で身を曲げる。あたしだってそうしたかった。

 あたし達は、柵に繋がれた、エルフに近づく。

 気もそぞろで朦朧としている。体中に白いものが付着し異臭を放っている。

「けけけ、おいねぇチャン。あんたみたいなのがこんなところに来るとは、命知らずだな。

 どうだい、つきあわねぇか?」

 一人の男があたしたちに近づいてきた。あたしは無言でそいつをにらんだ。

「・・・・な、なんだよ。怖い目で見るなよ。せっかくいたんだからよ・・・・どうだい。いっぱ・・・・・」

 ガァウン!

 轟音が、全体に響いた。

 そして、ミンチになった血と肉が、あたりに散乱する。

 一瞬の硬直。・・・・・・・・・・・・そして、混乱。

 

To be continued ―