・・・・・・・・・・・・・・・あのあと、何が起こったのか・・・・・・・・・・・・・はっきり覚えていない。
・・・・・・・・・・・・・・ただ、何か・・・・・・・・・大切なものを・・・・・・・・・無くした気が・・・・・し・・・・た。
6・困惑
気が付いたら、あたしは泣いていた。
座り込んで、ひざに顔をうずめてないていた。
ふと、顔を上げると、凄惨な光景が入ってきた。
町が、ランバルトの町が業火に包まれていた。
そして、その中で暴れまわる物も。
町から離れた小高い丘の上。
そこにサリナ達はいた。
サリナの後ろにはラミアが。そして、その後ろには何十人というエルフ達がいた。全員ランバルトの町で助け出した人達だ。
いや、救助といっていいのだろうか。
サリナは後に自分のした事を聞いて、愕然とした。
あたしはいきなり寄ってきた一人を吹き飛ばすと、絶叫を上げた。同時に炎が吹き上がり、数匹の大蛇となって人間達を襲い始めた。しかし、その炎がエルフ達を焼くことは無かったという。
そして、大蛇は地下にいた人間全員を焼き尽くすと、天井を突き破り、――つまり地上へ飛び出し、地上にいた人間までも襲い始めたのだ!
そんなこととは露知らず、ラミアは手早く縛られたエルフたちと奥の牢屋に捕まっていた全員を助け出し、意識をなくしたあたしを担いで、外へと飛び出してその光景を目にしたと言う。
逃げ出すエルフたちに気づいて生き残っていた人が襲ってきたが、大蛇がまるでエルフを守るようにそいつを食らったらしい。業火までもエルフを通すように脇によける。
そして、今いる丘へと来たと言うのだ。
大蛇は今もランバルトの町で暴れている。町中を焼き尽くし、人間を抹殺するために。
「サリナさん。」
ラミアが声をかけてきた。
「・・・・・・・」
あたしは無言で彼女を見た。
「大丈夫ですか・・・?」
「・・・・・・大丈夫なわけ・・・・ないじゃない」
震える声であたしは言った。
「殺さずを一番に考えていたのに・・・・・・まさか、町ひとつ消しちゃうなんて・・・・」
「それでも、・・・・・あなたは仲間を助けてくれたじゃないですか。」
そう彼女は言ってあたしから離れた。
後ろのエルフたちも静かに、燃える町とあたしを見ていた。
その時だ!
なんと、町を蹂躙していた大蛇たちが宙を泳いでこちらへと向かってきたではないか!
「うそ、・・・・そんな!?」
ラミアの声が裏返る。
大蛇は勢いよくこちらに急降下してきた!
「サリナさん!はやく逃げないと!」
座り込むあたしをひっぱって連れて行こうとするが、あたしは、
「大丈夫よ。あれは、あなたたちは襲わないから」
「・・・・・え?」
そして、大蛇がせまり、エルフたちが逃げ出そうとしたが、・・・・・・大蛇はその場で静止した。
「え・・・?」
ラミアが不思議そうに大蛇を見上げた。
大蛇は、こちらを見下ろして周囲を回っている。襲ってこようとはしない。
「あれは・・・・・」
あたしはつぶやいた。
「人間だけを殺すように命じてあるの。だから、あなたたちは襲われない。狙ってるのは、あたしよ」
あたしはゆっくりと立ち上がった。
「あなたたちがあたしの周囲にいるから、あいつらは近づいてこない。あくまで人間だけを殺すようにってね・・・・」
「ちょっと、サリナさん!何をしようってんですか?」
「大丈夫よ。片付けてくるだけだから」
あたしはそういって大蛇のいる宙へと飛んだ。
そして、言ったとおり大蛇があたしめがけて襲い掛かってきた。
あたしはスティックを引き抜き、
「・・・・・アイスブランド」
そう唱えた。すると、スティックの先端が開き、青白い光が集まって、剣となった。
襲い来る大蛇をかわして、それで大蛇を一閃。
斬られたとたんにその大蛇は凍りつき、地上に落下する!
しかし、数が多い。あたしは宙を器用に飛びながら、かわし、斬りつけ、魔法で一掃する。
最後の大蛇を剣を一閃させて片付けるとあたしは全員の下へと戻る。
「さ、これからどうする?皆もとの集落に戻るのがいいと思うけど、・・・・・」
「冗談言わないでくれ」
エルフの一人が言った。
「町一つ消しちまったら、山狩りが行われるに決まってる。
帰っても意味は無い。」
――確かにそうだ。
あたしはどうしたものかと考えていると、
「サリナさん。あたしのいた島に全員送るのはどうです?
ここからなら、海岸線までそうはかかりませんし、あの船なら、相当早くつけますよ」
「・・・ふぅ。あのねラミア。
あの船はせいぜい10人が限度なのよ。こんな大人数乗せられないし、分割してもまだあまるわ。」
「なら、箱舟でもつくればいいんじゃないんですか?…」
――ピクッ。
「動力の無い船なら、大型船も出せますよね。それをあのボートで引っ張ることができたら・・・・、」
「・・・・・そっかぁ。その手があったか。」
あたしはつぶやいた。どうやら、ショックが抜けきらずにボケているようである。
「よし。それで行きましょうか。とにかく、海岸線まで行って、船を呼び出さないと・・・・」
そんな話を聞いていた、エルフの方々、
「おいちょっと、こっちにも分かるようにしてほしいんだが 」
そんな皆さんにラミアが一言。
「黙ってついてきてくだされば分かりますよ」
ゴォォォォォォォ・・・・・
波が立ち、海に魔方陣が現れる。そして、ゆっくりとモーターボートが出現する。
驚くエルフ達をよそに、あたしは続いて、動力の無い中型輸送船を5艘呼び出した。これなら入りきるだろう。
ボード同士を連結し、皆に乗り込んでもらう。
「・・・・ちょうど間に合ったようですね」
「ええ。そうね。そんじゃ、行きますか」
「あ〜あ、さっき出てきたばかりなのに・・・・」
あたしはスロットルを倒し、ボートをスタートさせる。5艘分を運ぶため、エンジンは急加速できない。
おっかなびっくりのみんなだが、波が荒れなかったのが幸いわいして倍の時間がかかったがなんとか島に到着できた。
「いきなりのご活躍、・・・・とでもいえばいいんでしょうかね?」
「やめて、思い出したくも無い」
ラミアの兄さんのいった言葉にあたしは眉をひそめた。
誉めたつもりの兄が不思議がると、ラミアがそっと耳打ちした。
砂浜に乗り上げたあたし達は全員を一時この島に非難させておくことにした。
そうでもしないと、またエルフ狩に見つかるからだ。
しかし、夜更けだと言うのにラミアの兄さん方が出てきてくれて、みなを介抱している。感謝感謝。
「え・・・?そんなことが・・・!?」
思わず声を上げるラミアの兄さん。
「・・・・すいません。そんあことがあったとは・・・」
「いいのよ・・・。別に」
弱々しく笑うと、あたしは村へと足を向けた。
翌日早朝、つまりあれから4時間後くらいたったときのこと、あたしは船へと戻ってきた。この時間帯ならラミアも眠っているはずである。
あたしは桟橋を通って船へと乗り込んだ。袋を船室へと放り、操舵輪の所へ、
「・・・・・あれ?」
いざエンジンをかけようとしたところ、鍵がない。
慌ててポケットを探るが出ては来ない、その時・・・・、
チャラ
「これ、ですか……?」
声と共にあたしの後ろに立っていたのは、鍵を指先でもてあそんでいるラミアだった。
あたしはため息をついた。
ラミアは鍵をあたしに放りながら、
「水臭いですよ。サリナさん」
「いいの?あたしなんかがパートナーで・・・」
「仲間は一人でも多いほうがいいですからね。
……この世界の情勢を変えるには。」
と、言って微笑んだ。
あたしはそう聞いてなぜか安心した。
「……そう、かもね」