Go back in the time

 

                              認めたくない世界

 

   8・偽りの永遠

 

 

 広げた漆黒の翼は月明かりを反射し、輝く。

 堕天使は屋根を蹴り、こちらへと降りてくる。着地の直前翼がはためき突風が起こり砂埃が舞い上がった。

 着地し腕を組む堕天使。対峙するあたし達。

「我が名はサキエル。天から漏れ落ちたもの、天を見限った者」

「それで?何で出てきたの?あんたみたいな上級な魔族が」

「愚問也。それは我が契約のため。」

 と、宿のドアが開いてラウルが殴り倒したはずの男が現れた。

「サキエル様。」

 支配人は堕天使をそう呼んだ。

「迂闊だぞ貴様。」

「申し訳ありません。なにぶん限度がございまして」

「まあよい。この者我が頂戴する。この者からは嫌な匂いが漂ってくる。」

「失礼ね!最近お風呂入って無いからってそれはないんじゃないの?」

・・・・・・・・・・・・

「滑ったか……」

「サリナさん……、そんな緊張感のない」

「中のエルフ達はどうした!!」

 ラウルが怒鳴る。

「殺してはおりませんよ。大事な商売道具ですからねぇ。ただちょっと眠ってもらっております」

 あたしは調子を戻して言い放つ。

「よし、そうと聞いたらやることやりましょうか?」

 あたしはスティックを構える。堕天使は腰から二振りの「ハルバー」――細い反身の剣を抜き放つ。

「まったく。過去ってのはこんな連中がごろごろしてたんだなぁ……」

 誰ともなくつぶやく。

「行くぞ!」

 言って堕天使は翼をはためかせ、突っ込んでくる。長引かせたらこっちが不利ね!

「我流殺人剣・四式! 鉄槌!!」

 スティックの先端から光が具現し、一瞬にして槌へと姿を変える。それを振りかぶって勢いをつけてぶつかって来る堕天使に向かって叩き付けた!

「っ!!」

 ハルバーを交差させてそれを受ける堕天使。逆に、吹っ飛ばされる。ハルバーには傷ひとつついて無いんだからまったく!

 出足を挫かれた事を悔やむより早く、あたしは堕天使に突っ込んで行く。

「一式!(一刀・改) 光神槍!!」

 真正面から神速で突っ込んで行くあたし。スティックから膨大なエネルギーが放出、圧縮され、槍に変化する。槍はこういう突撃時に一番効果を発揮するものだ。

「せえぇぇぇぇい!!」

 防ぎようの無いスピード。しかし、堕天使はあろうことか自分の翼を前に出し、盾にした。

 ザン!!

「ぐぅっ!……」

 突き立った槍を気にせず、もう一方の翼をあたしに向かって繰り出してくる。あたしは慣性の法則を無視した動きで身を引き、槍を引き抜くとそれをガードし、身を翻す。

「エクス……!」 

 堕天使は反撃しようと翼を引き戻し、ハルバーを振りかぶるが、

「……プロージョン!!」

 先端の刃が赤くなり、堕天使に返す刀でぶち当たった。

 ドゴゥォォン!!

 あたしと堕天使の間で大爆発が起こる。爆発の衝撃で吹っ飛ぶ堕天使。建物の壁に激突し、ずり落ちる。

 あたしは膝をついたまま息を落ち着かせる。

「甘いな」

「なっ……!!?」

 声と共にあたしの体は蹴り上げられ中庭を飛ぶ。受身だけは取れたものの、腹に食らった衝撃で少々吐いてしまった。

 ――この、レディーになんちゅうことを!!

 なおも咳き込むあたしに歩み寄ってくる堕天使。

「見事だったと褒めておこう。確かに並みのやつ等ではかわせるタイミングではない」

「……どう、いたしまして」

 こいつ、エクスプロージョンに気づいたか、初めからそうする気だったかは知らないが、自分の影だけを残して自分は逃げたらしい。魔族のお得意トカゲの尻尾切だ。

「人間とはおもえん動きをする奴だ。やはり、貴様は……、 !?」

 台詞の途中であたしは立ち上がりざま、堕天使に向かって何も持っていない左手を振りかぶった。たかが素手の攻撃と思った堕天使だが、瞬間的に身を引いた。

 ザシュッ!と音がして堕天使の胸板が裂ける。

「くっ!」

 慌てて距離をとり、傷に手を当てるサキエル。

「き、貴様、……一体いくつ武器を持っている!」

 サキエルの体を切り裂いたもの。あたしの左腕の袖から伸びた、長さ40センチ近くの3本の爪だ。

「あんたみたいに油断してくる奴をはめるのにはちょうどいい武器なのよ。」

 シャッ、とまた袖の中に爪が収納される。ラミア達もいきなり出た爪に驚いたようだ。

 あたしはなんとか体勢を立て直した。スティックの両端に刃を具現させ、構える。対して堕天使も今度は油断なく構えた。

 両者の間に沈黙が流れる。

 久々に強敵が現れ、あたしは少し興奮した。そして、全力をぶつけて勝つと決めた。

「貴様!殺してくれる!!」

 言って、呪文を唱えだした。……この呪文は!?

「させないわ!」

 UZIを抜き、堕天使に向かって撃ち込む。天使は弾丸を翼を使ってガードする。撃つと同時にあたしは駆け出して一気に間合いを詰め、至近距離から光波を放った!

「ちぃっ!」

 舌打ちしてよける堕天使。しかし、光波はその後ろ高みの見物を決め込んでいた宿の支配人にぶち当たった。

「ぐわぁぁぁぁぁ!!!?」

 爆発。粉みじんに砕け散った。

「あ、ちゃ〜……」

「しまった……!」

 ピキ!っと、堕天使が首から提げていたネックレスの石にひびが入り、パアンと砕け散った。

「おのれ……、これが狙いだったか!」

「狙い……って、まさかあんたたち契約してたの!?」

 先も述べたかりそめの不死、魔族と契約したときその証として何らかの石が残される。それが砕け散ったということは、あの支配人がこの堕天使と契約していたことになる。……アホなのと契約したな、コイツ。

「残念だったわねぇ。それは」

「貴様ぁぁぁ!!」

 怒りのまま突っ込んでくる堕天使。馬鹿が!

 あたしは懐からフラッシュグレネードを取り出し、ピンを抜く。これは対魔族用に調整した強化型だ。それを思いっきり地面にたたきつけた。

 

カッ!!

 

「何ぃぃ!!」

「きゃあ!?」

「なんと!」

 強烈な閃光が中庭から発せられる。まるでそこだけ昼になったかのように数秒間光は放出され、唐突に消えた。

「カ……、ぐあ……」

 ほとんど目の前で光を食らった堕天使は惨憺たる有様だった。肌は黒くただれ、翼は羽がほとんど燃えてしまった。

「っつぅ……」

 瞬時に目を覆ったあたしでさえまだ少し視界がチカチカしている。

「くぅ。まさか、太陽を……作るとは……貴様、やはり人間ではない……な」

 ボロボロになってもまだ、目の光を失わない堕天使。

「人間よ。」

「ハッ!どうだか。その力、スピード、魔力。どれをとっても我の知っている人間とは桁違い。人間とは思えん。」

「ま、確かに何らかの力は持ってるけどね」

「……やはり、人間以外の……」

「残念!人間でも持てる力よ!」

 UZIを構えて連射する。堕天使はどうにか射線を離れ、かわしたが目の前にあたしがいた。

「なにっ!?」

「遅い!!」

 あたしは思いっきり堕天使に蹴りを放つ。反応が遅れてモロに食らい、宙に跳ね上げられた。しかし、堕天使は空中でバランスを取るとそのまま宙に浮遊する。

「ち、この場は……!」

 言いかけたそのとき、光がはじけた。

「今度は何!?」

 ラミアもまた顔を覆う。光が弾けたのはサリナのいた場所だ。

 バサァッ!!っと、金色の羽が4枚広がった。まるでそう、天使のように。

「な、な、何だと!!?」

 堕天使は逃走を図ることすら忘れてその光景に見入った。ラミアたちもその光景を信じられないという目で見ていた。

「まさか……、あれは!?」

 ラウルが何か思い出したのか声を上げた。

 あたしは両手を前にかざす。羽が光り手の間に聖なる光が収束していく。

「くっ!」

 堕天使が思い出したように逃走しようとする。

 あたしは目を見開き、その光の玉を腰だめにし、呪を締めくくった。

「セイント……バスター!!」

 

 グオッ…………!!

 

 聖なる光は凄まじい波動となって、夜空に解き放たれる。

「ぐわぁぁ……!!」

 堕天使の叫びをかき消し、夜空のかなたへと消えていった。

 しばしの沈黙、

「ちぃ! 逃げられた!」

 あたしはそういまいましく言うと、翼を消す。 

「最後に影だけ切り離して逃げるとは、……ま、よしとするか」

 あたしはラミア達へと近づいていく。まだラミアは呆然とあたしを見つめている。ラウルのほうはなにやら苦い顔をしているが。

 

 

 建物の入り口で眠らされていたエルフや他の団員を起こし、早々と退散する。

 途中で戦闘要員の団員たちにあった。何をしていたんだ、とラウルが詰め寄ると、

「か、勘弁してくださいよ!いきなり妙な奇声が聞こえてくるし、何か爆発するような音が聞こえてくるし、最後のあの強烈な光は何なんですか!!?」

「ようするに、ビビッて出てくる勇気がなかったわけね」

『ぐっ……』

 図星らしい。

 

 

 アジトに戻り、一段落した後あたしはラウルに呼び出された。

「何か?」

「ああ。あんたがあの時最後に使った魔法のことだ」

「セイントバスターがどうしたの?」

「俺も聞いただけだが、翼を召喚するという魔法は今現在、元宮廷魔道士のハイランド様しかできない魔法だと言われている。元々それができたからこそ宮廷に仕える事になったほどだ。

 それを、あんたは使った。あんた……まさか」

 目を細めるラウル。

 ―― げ、あたしがハイランドの人だってばれた!?

「あんた……ハイランド様の弟子か!?」

「はぇ!?」

「あんた昔、弟子入りしてた事があるんじゃないのか、と聞いている」

「ああ、まぁそんなもんです」

 ――……あ、あぶな!

「なるほどな。うんうん」

 何を納得しているんだこのおっさんは。 

「そうそうもうひとつあるんだ。」

 帰ろうとしていたあたしに声をかけるラウル。

「何よ?」

「明日、ハイランド様の屋敷へ定期連絡にいく。来るか?」

「えぇ、マジ!?」

 思わず汚くなる口調。

「……ま、まじだ。」

「分かったわ。どこにいるの?ハイランド様は」

「ガリウスト……。エルフ狩りの町だ」

「えぇ!?」

 

―To be continued―

 

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2002/02/04