ヴァンドレッドsideX2
四
十日ほど過ぎただろうか。
皆とは打ち解けあうのが早い3人の事。色々と艦内のことも分かってきた。
そして、天使からこの世界についてのデータもインプットされ、長旅の準備は整ったのだ。
「しっかし、地球がそんなことになってるとはね……」
「男と女が別々の環境で育ったっていうのも信じがたいわよね」
「でも事実ですから認めざるを得ませんよ」
カフェテリアスタイルのレストラン。「トラペザ」で三人は卓を囲んで話し合っていた。
「里中君たちとは連絡はまだできないの?」
「できない。端末も黙ったままだし、連絡は不可能ね」
「……そう」
思っていたより遠くへ飛ばされたのだろうか。
しかし、今回の世界の敵は彼らでもさすがに苦戦するだろう。
いきなり遭遇した瞬間、満身創痍などという事態になっていないといいのだが、
「それにつけても、男が3人しかいないってのはある意味、嫌なものよね」
「話の会う人がいないって事?彼らも十分あわないと思うけど?」
「そんなところ……、大体」
その時だ、うわさの3人がそろって入ってきたのだった。
「お、君達かい?漂流してたってのは?」
バートが早速声をかけてくる。
「漂流って、……」
「僕はバート。ニル・ヴァーナの天才操舵士さ」
「ああ、さっきの浮かんでた人か」
アイリスが突っ込む。
「う……」
「地球の戦闘機だそうだな。地球ではあれが主流なのか?」
確かドゥエロだったな、とサリナは思い出す。
「主流……ってほどでもないわ。なんせ宇宙世紀0080の物だもの。ドレッドと比べたら雲泥の差よ」
「……なるほど。」
無表情を崩さないが、内心はどう思っていることやら。
「ところでぇぇ、あんたたちこの船で3人だけなんだって?」
「まぁな。なりゆき上しかたなくな」
「そう?にしてはあんたディータに追われっぱなしじゃない」
「うるせぇ!」
「照れなくてもいいんじゃない?色男」
「この・・・・!」
こぶしを振るわせるヒビキ。
「ほら、マリーも何か言ってやりなさいよ」
「え?あたしですか?」
「拝めるもんじゃないわよ。男女7歳にして席を同時うせず、が通じない人たち」
「なんだ?それは」
「ことわざよ。男たるもの、女たるものちゃらちゃらしてられるのは7歳まで。それからはお互いを意識するようにってね」
あたしは言った。
「ほう、初めて聞いたな。」
ドゥエロは心底興味があるようである。
「サリナに関しても当てはまらないんじゃないの?」
「ちょ、どういう意味よ!アイリス」
「別にぃぃ、里中君とどうなってるかなんてあたしは知らないわよ」
ボッ!といわんばかりにあたしは赤面した。
「な、なんであんたが……」
「あーら、あたし達付き合い始めて何ヶ月たってると思ってるの?
とっくにあんた達の仲はお見通しよ」
そんな不毛な会話の中、ヒビキは、
「……ホント、女って何話していいかわかんねぇ」
「それはそれとしてだ。」
ドゥエロが間に入ってきた。
「仲間がいるのか?お前達は」
「……ええ。5人ばかり。今、この宇宙のどっかを飛び回ってるんじゃないかな?」
と、あたしは窓越しの宇宙を指す。
「戦闘機で……か?」
「戦艦に決まってるでしょ」
『戦艦!!?』
バートとヒビキが驚きの声を上げる。
「お前らの仲間、戦艦乗りなのか?」
「ついでにMS乗りね」
「モビルスーツ?」
「落ち合ったら見せてあげるわ。」
アイリスはそういって、ジュースを一口。
「ま、それはそれとして、アイリスとあの人の仲はどうなったのかな〜?」
ぶっ!
突然の言葉にアイリスが噴出す。
「なななな……?」
「ぷ、照れてるし……」
「あんたねぇぇ〜……」
アイリスは立ち上がった。同時に体に小さいながらスパークが起こる。
『!!?』
「今ここでいつぞやの決着つけましょうか?なんなら」
「アイリスさん落ち着いて」
マリーがなだめる。
うやむやのうちに男女の会話も終わったころ、ブリーフィングルームでは、マグノを筆頭にブザム、ガスコーニュが会議を開いていた。
船の航行する先にミッションが見えてきたのだ。
ミッションとは移民時代開拓者達が中継地点として利用した場所である。
現在になってはそのほとんどは機能していないはずであった。
「稼動中というのが気にかかります。もしかしたら以前のデルタ6のように人が住んでいるのかもしれません。」
「そうだねぇ。……」
「それに大きさが半端ではありません。一つの都市くらいなら入ってしまう大きさです。」
「全体の中継点だったんじゃないの。よくあることさ」
「よし、よってみるかい」
「了解」
「上陸部隊は少なくていい。メイア、ジュラ、バーネット、ヒビキ、ディータの5人でいいだろう」
ブザムはブリッジでメイアに通信でそういった。
『了解しました。準備ができ次第、シャトルで出発します』
メイアははきはきと答える。
十分後、シャトルが発進して行くのをブリッジに駆け込んできたサリナたちは目撃する。
「ああ!行っちゃったか」
「ん?なんだ?」
「連れて行ってもらおうかと思ったんですけど、検査がすまなくて」
「あきらめな。次立候補すればいいだろ?」
マグノがそういった。
「やれやれ……」
シャトルはどでかいミッションに接近していく。船はミッション外周部で停泊中である。
シャトルが接舷し、メイアたちが乗り込んでいくのを確認する。この後は彼女らに任せるしかない。
しかし、1時間たっても彼女らからの連絡はおろかシャトルへ帰ってくる者もいなかったのである。
五
「メイア、ジュラ、ヒビキ……!誰か応答しろ」
ブリッジが緊張に包まれる。医務室のドゥエロがミッションをスキャンしたところ、生命反応はある。しかし、応答しないのである。
しかし、その生命反応はばらばらな場所から感知されたのだ。つまり、彼女らははぐれてしまったのである。
「こりゃ大変なことになったわねぇ・・・」
ブリッジが右往左往していたそのとき、
「シャトル移動を開始しました!」
アマローネが報告したとおり、シャトルがミッションから離脱してきた。
しかし、動きがおぼつかない上に途中で停止してしまった。
「何だ・・・?」
皆が呆然とする中、慣れているといったらおかしいかもしれないが、あたし達は行動をとる。
あたしは近くの通信機をドレッド発進区画のレジに繋ぐ。
「ガスコーニュさん!早く、回収艇を出して!たぶん中に乗ってるのは一人か二人のはずよ!」
「……な、何を」
ブザムが静止に入るが、あたしはその手を振り払う。
「アイリス、マリー!行くわよ!」
「よっしゃぁ!」
「はい!」
あたし達はブリッジを飛び出した。
『何だい、何だい?どうしたってんだい?』
ガスコーニュが通信機から話しかける。
「ガスコーニュ、シャトルの様子がおかしい、デリバリーを……!」
「コア・ファイター3機、格納庫から発進しました!」
ベルヴェデールが報告する。
「はぁっ!?」
ブザムが振り返る。確かにモニターには、ニル・ヴァーナからシャトルに向かうコア・ファイターが。
「ど、どうやって……」
ブリッジから上部格納庫までは早くても4分はかかる。それが、出て行ってからわずか一分で出撃したなどと……。
実際のところ、サリナ達はブリッジから飛び出した際、めんどくさいので一気に格納庫まで転移したのだ。
コア・ファイターに乗ったサリナ達はシャトルにつくとワイヤーでシャトルを釣り、ニル・ヴァーナまで曳航することにした。
ワイヤーを一発で繋げると、急ぎニル・ヴァーナへと戻る。
一緒くたに上部格納庫へ引っ張りこむと、ハッチの閉まるのを確認してサリナ達はシャトルへと向かう。
扉を開き中へと入ってサリナ達は中の光景に一瞬驚かされた。
血が、血が床を這うように操縦席へと向かっている。
そして操縦席で倒れているのは、わき腹を押さえたメイアだった。
全身に縦横に傷が走り、特にわき腹からの出血がひどい。
アイリスはポケットからハンドスキャナーをとりだした。
ハンドサイズの人体スキャナーで巻物みたいに巻かれてある。
それを開きメイアを映す。
薄いモニターにメイアのスキャンが表示され、細かい報告もポップアップされる。
「肋骨3本骨折。助骨も数本。内臓に支障はなし、わき腹の裂傷が結構入ってるわ。
後、出血がひどい。動かしてる暇は……無いわ」
あたしを振り返るアイリス。
「………………」
簡単だ。魔法でちょちょいと直せば済むことである。しかし、ここで魔法を使ってはクルー達にどんな目で見られるか……。
ディータにいたってはやはり宇宙人扱いされるだろう。それはどうでもいいが。
その時だ、ドゥエロとパイウェイ。そして医療チームが駆け込んできた。
「どいてくれ!」
あたし達は席からどく。
ドゥエロは仔細にメイアの体を見て、
「とにかく、操縦席から下ろそう。」
数人がかりでゆっくりとメイアをストレッチャーに乗せる。
「うあっ!」
メイアが悲鳴を上げ、傷口から血がしぶく。
「くっ!これでは動かせないな。酸素ボンベと輸血の用意だ!」
医療班が輸血用の血を取りに行った。
遅い。遅すぎる。
ぷちっ、と何かが切れたような音。あたしの頭の回路かはたまたメイアの傷か。
あたしが一歩踏み出したとき、
「輸血してる暇なんてないわよ」
アイリスが横から口を出した。
「何……?」
ドゥエロがこっちを見た。
アイリスはスキャナーを見たまま言う。
「よくよく見たら助骨の一本が肺に刺さってるのよ。心臓も弱くなってる。出血は約1800ccそこそこ。
のんきに輸血してたら、死ぬわ。彼女」
「嘘を言え。」
「じゃ、自分の目でみたらどう?」
いらつくアイリスはスキャナーをメイアの体に置いた。スキャナーが反応して、肺に刺さる助骨を発見、警告表示を出した。
「X線か。これは……」
「そうよ。どうする気?」
「くそ、これでは……!」
「はい、何とかできない人はどいたどいた」
と、ドゥエロを引き離してしまった。
「どうするつもりだ?」
後から入って来たブザムが言う。
「治すのよ。ね」
言ってあたし達のほうを向き直る。
あたしは息をはき、
「やりますか」
「はい」
マリーも答え、あたし達は覚悟を決めた。
マリーがすぐにメイアの横に座って、手をかざす。
アイリスは回復魔法にはまだ慣れていないので、船ごと結界に包む役目だ。
あたしはマリーに手を貸す形になる。
「全能なる神々よ……、天地にあまねく精霊達よ……」
「何の……。!!?」
ブザムは二の句がつなげなかった。
マリーの体が発光を始めたのだ。
「これは……。一体」
「汝ら偉大なる者に願う。……弱りたる汝の僕を癒したまえ」
そして、マリーだけでなくメイアの体までが発光を始めたのだ。
そして、外ではアイリスが野次馬をシャトルから避けていた。
そして、転移の呪文で愛用している剣を召還する。
剣を抜き、床に突き立てる。刺さるはずの無い剣がたやすく食い込んだ。
「……何を!?」
「剣よ。……四界を統べし者よ。今この場所を一時の聖域とせん。……」
剣が光を発する。燃えるように発する光は床に落ち、床を走った!
『うわ……!』
射線上にいた人たちが避ける。
光はシャトルを囲んで止まり今度はその中を走る。
六つの点を線が結ぶ。そして周囲に文字が浮かんで結界は完成する。
六芒星。白魔法を活発にさせ、反対の黒魔法はこの中では無力と化す。
出来を確認したアイリスはシャトルに戻るが、
「それに触らないでね!」
剣を指差してアイリスは全員に言った。
中では大詰めを迎えていた。
二人が呼吸を合わせて、回復魔法をメイアにかけている。
数秒後、光は少しずつ弱まっていく。
そして完全に消えたとき、メイアの体の傷は全て無くなり顔色も元に戻っていた。
「一応終わりました」
マリーが息をはいて言った。
「後は、医務室で休養させればいいでしょう」
と、立ち上がる。
「ほ、本当か……?」
「本当よ」
アイリスがスキャナーをかざした。
まるっきり反応はなし。健康体に戻っている。
「ねっ。さあ、早く運んで。」
ぼうっとしていた医療班は我に返ると、サリナたちを見ながらメイアを運び出していく。
皆がこちらを見る中、
「聞きたいことがあるなら聞いてください。
他の4人を救い出した後でね」
いささかの威嚇をこめていった。
五分がたった。ブリッジでは緊急会議が開かれている。あたし達の素性が魔法使いであるということに対してだ。
今そんなことしてる場合じゃないでしょうと何度か突っ込み、痺れを切らしてシャトルを奪取した。
『待て!どうするつもりだ!』
「助けに行くのよ。決まってるでしょうが!」
「つ……、相手の正体も分らないまま突っ込むきか!?」
「そうよ」
きっぱり断言されブザムは黙った。
「それで、勝算はあるのかい?」
静かにマグノが言う。
「誰に聞いてるの?初めて言うけど、アリーナで優勝したこともあるのよ」
「試合かい?」
「アンダーグラウンドマッチ。殺し合いよ」
「何だって!?」
「しかも、相手は戦闘兵器。掛け率90:1。あれは儲かったわ。実際」
「…………」
「……。さて、行くわ。大丈夫。連れ帰ったらすぐ出て行くから」
言って通信を切る。
「やれやれ、とんでもないのを拾っちまったね。」
「追い出しますか?」
「…………」
マグノは答えない。それをどういう答えか、ブザムは知っていた。
「ミッションに接舷。これより探索を開始します。」
一方的な通信である。ヘッドセットにカメラと通信機を備えたものをつけ、あたし達は準備をする。
装備はいつものとおり、あたしは、バトルスティックとUZI。アイリスは剣とアサルトライフル。マリーは鋼線である。
と、
「ちょっと、待て」
『!?』
いきなり掛けられた声に条件反射で銃を向けた。
「私も、連れて行け……」
「メイア!?」
シャトルの後部に潜んでいたのかメイアが出てきたのだ。
さすがに体力は半回復なのだろう、息が上がっている。
「一連の話は聞いた。しかし、私もあのままでは面目が立たないからな」
「武器は?」
もはや止める気も無い。
「これだけだが」
と、右手の指にはめた指輪を見せる。リングガンだ。
「これもついでに持って」
アイリスは彼女の前にアサルトライフルを差し出す。無言で受け取る彼女。
そしてあたしはハッチのスイッチに手を掛けた。
「待て。さっき追ってきた奴がまだいるかもしれない。」
「了解」
と、いいつつあたしはハッチを開けた。
シィィィィーーン。
誰もいない。
「ミッションへ進入。今のところ異常なし。」
アイリスが報告する。
向こうでもモニターはしているはずだ。
床には血痕が続いている。メイアのものだろう。
「床に血痕。メイアのでしょう」
あたしは周波数を変えて呼びかける。
「こちらサリナ。聞こえる?」
『大変ですねぇ。』
答えたのは天使だ。
「早くこのミッションの正体を教えて。それと地図も。」
『待ってください』
通信を切る天使。
小声なのでメイアには聞こえなかったはずだ。
通路を進む。50メートルほどを進んだところで扉があった。
この先は待合室か何かか。
あたしは懐からめがねを取り出すとかけた。大介も使っている物で、様々な機能がついている。しかも脳波で動く。
熱探知モードでは何も反応は無い。金属反応も無し。
扉を開き中へと入る。
広い、広すぎる!
見渡す限り待合場所とターミナル。空中を走る通路。エレベーターのみである。
「ご覧のとおり中はこうなってます。」
船にそういって、あたし達は進む。
「ライティング!」
明かりの魔法をそこかしこに放ち明かりを確保する。
「……すごいものだな」
「それほどでも〜」
メイアが感心する中、あたし達はとりあえず血痕をたどってきていた。
一キロは歩いていたらしい。
「また遠くから歩いてきたのね。」
「ああ。あいつらが、盾になってくれたからな……」
「盾!?」
「そうだ。襲ってきたのはいきなりだったからな。
人ではない。マシンだ。」
「マシンか。あの傷から言って、おそらく近接戦闘用。
いや、もしかしたら銃を装備してる奴もいるかも」
「当たっている。右手にブレードを装備した奴だ。
それが数機。暗い中だったからな。逃げるしかなかった。なにせ、リングガンが効かないんだ。」
「リングガンが効かない!?」
「ああ。バーネットの銃も効果は無かった」
「対レーザー装甲、銃撃にも耐えうる厚さ、……って戦争でもあったのかしらね。ここ」
アイリスがぼやく。
「血痕はここで終わりか」
どうやら、ここで傷つけられたようである。あたりに血痕が散っている。
場所は丁度ミッションを貫く中央の吹き抜け、縦横無尽に渡り廊下が走っている。一番上がかすんでいる。
「ここで相談していた。そうしたらいきなり襲ってきたんだ。」
「よし、警戒して。戦闘態勢で行きましょ。」
言ってあたしは銃を抜き、周囲に網の目のように意識を飛ばし外敵を察知する。
と、かすかに音がする。
「音がする。」
「ええ」
アイリスが答える。
「……私はさっぱりだが」
「シッ」
ウィーンという音、音からして、
「しまった!」
あたしは振り返って出てきた出口の上を見る。
そこには監視カメラがあった。しかも赤い光を放ち、起動している。
「あれか!」
メイアが銃を向けた。
「待って!」
しかし、一発は発射され確実にカメラのレンズを射抜いていた。
とたんに轟音とも言うべき、サイレンがミッションを駆け抜ける。
『侵入者アリ!侵入者アリ!直チニ排除セヨ!排除セヨ!』
機械的なアナウンス。
「メイア……」
「……悪かった。しかしさっきはこんなサイレンなど……」
キュイィィィィィィ!!
機械の駆動音がメイアの言い訳をさえぎった。
音は下の階からだ。
手すりから下を覗く。
「いたいた」
確かにいた。タイヤで移動する細身の体にブレードを装備したタイプのマシンが。
サーチライトを付け、周囲を見渡しながら進んでいる。
「あれで間違いないわね。」
「ああ。あのマシンだ。」
「急ぎましょ。いつここまでくることやら」
しばらくして、あたし達は戦わないといけない場所へ来てしまった。
中央コントロールルームへ行くための通路を進んでいたはずなのだが、やはりというか進む先から角を曲がって迫ってきたのだ。
悪いことに後ろからも。
といいつつ。
「おおりゃぁぁぁ!」
叫んであたしは正面の2機へと肉薄する。
あたしを敵と認めブレードを振り上げるマシン。
「よせ!何のつもりだ!?」
しかし、ブレードが振られた瞬間にあたしは目の前から消えている。
ゴバキャ!
叩き潰すと言っていい一撃は、マシンの頭から体の半分までを潰す!スティックにマシンの残骸をつけたまま、あたしはスティックを振った。持ち上げられ壁に激突、落下する残骸。
そしてスティックをもう一機に叩きつける!体の中ほどに一撃を受け、ひしゃげながら吹っ飛び壁にたたきつけられる。部品が散乱し機能が停止した。
アイリスのほうはというと、アイリスは右手で銃をマシンにむけ、左手で腰の後ろの剣を少し引き抜き、
「灼熱の業火よ、地獄の亡者を焼き尽くす煉獄よ。わが剣に宿りて敵を焼き払え!」
剣が火を放ち燃え盛る。しかし、アイリスに火は燃え移らなかった。炎は剣を離れると銃口に集中していく。マシンがアイリスを敵と認めて襲い掛かってくる!
「インフェルノ!」
気合一発引き金が引かれる。収束されたエネルギーは弾丸を包み込み、火球と化しマシンに迫る。そして直撃したとたん火球は弾けてマシンを覆いつくす!
覆い尽くされたマシンが燃え上がった!消えることなく執拗に、魔力の炎はまさに灰になるまで燃やしつくす。
「…………………」
唖然とするメイア。それはブリッジも同じだ。アニメでも見ているかのような感じなのだから。
「さ、とっとと行きましょうか」
剣をしまってアイリスが言った。
「あ、ああ……」
その後、サリナ達は迫り来るマシンたちを、ちぎっては投げ、斬っては叩き潰し、先へと進んでいく。鬼人の猛攻とでも言おうか。
「お前達を見ていると頭が狂いそうだ……」
メインコントロールルームを前にメイアは頭を抑える。ちょうど、門番代わりの2機をサリナが「サンダーボルト」で黒焦げにしたところだ。
「心配しないで、取って食べたりはしないから」
そして、サリナ達はメインコントロールルームへと足を踏み入れた。
モニターがいくつか点滅しているほかは暗い。
「メンテナンス用の補助動力からメインシステムを起動してみましょ」
アイリスが言う。
「メインのシステムと動力が死んでいなければな」
メイアが席の一つに着きコンソールを操作する。サリナは壁に設置された配線盤をチェックする。
「線がいくつか切れてる。直すのにツールがいるわね」
「あるんじゃないの?」
そんなこんなで20分。修理はほぼ終わった。サリナはブレーカーを入れる。
バチバチバチ!
「つ!やったわね」
メインコントロールルームに電気がともった。同時にサイレンがまたなり始める。
『メインシステム起動!メインシステム起動!格ブロックセキュリティーチェック!
外部侵入者8名ヲ確認!4名拘束!4名メインコントロールルームニ確認!』
「これを何とかしないとだめかな……」
アイリスは何とか殲滅マシンをどうにかしようとするが、結局無理。
「お手上げね。命令は解除不能。独立電源で動く限りは止まらないわ」
両手を上げて言う。
「4人の居場所は分かるか?」
「いました!」
マリーがメイアに言った。
「第35階層の隔離ブロック。それから第27階層の独房ですね。」
「OK。なら二手に分かれたほうがいいわね」
「私はマリーと組む。サリナとメイアは35階層のほうをお願い」
「ま、そうなるかな。とにかく早いところ……」
突然、モニター全部に謎のロゴが表示された。
『侵入者ノデータヲ検証!ガーディアン撃破数40!侵入者ハ強大ナ攻撃力ヲ所持。危険度AAA!
『デスブリンガー』起動!『ファントム』起動!殲滅セヨ!殲滅セヨ!』
「……なんか、でかいのが来るみたいね」
「急ぎましょう!」
マリーに言われるまでもなく私達はコントロールルームを飛び出す。
「どえらいことになったねぇ……」
ブリッジでは、送られてきた映像と音声を聞いているだけで逃げたくなる雰囲気だった。
「大丈夫でしょうか。あの者達は」
「心配ないだろうさ。あの戦いぶりを見せられたら何も言えないよ」
マグノがブザムに言う。たしかに、ブリッジ全員、全艦放送で船中のクルーがサリナたちの戦闘能力を見ている。自分達があそこにいたらその場にしゃがんで夢だと言うに違いない。
それだけの映像が臨場感を持って迫っているのだ。
クルー達は遠くにいるサリナたちの戦闘に呑まれていたのである。
第35階層隔離ブロック。鉄格子の中に拘束されていたのはジュラとバーネットだった。メイア達をかばってマシンを引き付けていたが、バーネットが負傷。ジュラもリングガンのエネルギーがなくなって死を覚悟していたとき、いきなり『オ前達ヲ拘束スル』と無機質な声でマシンが言った。ここに連れ込まれたが、バーネットの傷は深く、出血がなかなか止まらない。
「ジュラ。悪いけど、子供は無しになるかもね……」
ジュラのひざでバーネットはうめく。
「ちょっと、そんな事言わないでよ!やめて……」
応急処置に巻いた布もむなしく、血は確実に床をぬらしていく。
「こんなところで、人生終わるなんてね……。あれの仲間入りかぁ……」
バーネットはふと横を見る。いくつもの白骨がそこにあった。おそらく以前ここに連れ込まれた人たちだろう。壁にいくつもの辞世の句やら落書きが血で描かれたりしている。
「しゃべらないで!」
「アハハ……。海賊になってワーストワンの出来事ねぇ……。可笑しいわ」
すでに意識は朦朧となって自分が何を言っているのかも分かっていないだろう。
「バーネット……」
「もう一度……、メジェールの姿見てから死にたかったなぁ……」
バーネットの目が静かに閉じていく。
「バーネット……。バーネット!起きて!死なないでよ!
死んじゃいやぁぁぁぁぁ!!」
ドゴォォォォォォン!!
ジュラの叫びにシンクロするかのように隔離ブロックの扉が爆破される!
「!!!?」
「ジュラ!バーネット!」
飛び込んできたのは、メイアとサリナだ。
「大丈夫!?助けに来た……って、バーネットは!?」
ジュラのひざで意識の無いバーネットを見てサリナが鉄格子を掴む。
「…………」
無言のジュラ。
「ああっ!うっとうしい!」
バキバキ!と鉄格子をまるでプラスチックのように引っ剥がしサリナはバーネットに近づく。
「……あ、え、えぇ!?」
今の光景にジュラは言葉を失った。サリナはバーネットの体を調べる。心臓はまだかすかに動いている。望みはある!
「全能なる神々よ。天地にあまねく精霊達よ。……」
手をかざし、呪文を唱える、光がバーネットの体に収束していった。
「……ちょっと、これって、何なの?」
驚きの表情でサリナを見るジュラ。
「彼女の本職は魔法使いだそうだ。」
メイアとていまだに信じられない声だ。
「…………」
そしてしばらくして、光は収まっていく。ゆっくりとバーネットが目を開けていく。飛び起きたバーネットは辺りを見渡す。
「え、あれ……あたし、なんで?」
「バーネットぉぉぉ!」
飛びつくジュラ。
「ちょ、ジュラ。あたし、どうしたの一体」
第27階層。ヒビキとディータは監獄に入れられていた。
「クソー!出せ、出しやがれ!」
鉄格子を掴んで暴れるヒビキ、ベットに座り込んでうつむくディータ。ここにも同じく白骨がひしめいていた。
「宇宙人さん。やめようよ。おなか減るだけだよ」
ディータがつぶやいた。
「うるせえ!ここで終わるわけにはいかねぇんだよ!絶てぇ助けは来る!信じろ!」
力説するヒビキだが、
「ダメだよ。あのマシンがみんな殺しちゃうよ。もう助けなんて……来ないよ」
ディータにしては弱気な発言だ。
「どうしたんだよ。お前らしくもねぇ。臆病風にでもふかれたか?」
「来ないよ。……ディータも宇宙人さんも、みんな骨になっちゃうんだ。」
「おい!」
ヒビキはディータの肩を掴んだ。
「ビビってんじゃねぇよ!今までだって信じてきただろ。お前はそんなに弱い奴だったか!?」
ゆするヒビキを見つめるディータ。一瞬顔がゆがんだかと思うと、ヒビキに飛びつき、
「うわぁぁぁぁぁ!やだよぉぉぉ!怖いよぉぉ!死にたくないよぉぉ!」
「ち……。ったくつっぱんてんじゃねえよ。しっかし、……このクソ鉄格子」
言って、鉄格子をたたいたとの時、
ジャジャジャ…………!!
甲高い音とともに鉄格子向こうの出口が切り刻まれて崩れ落ちた。
「あ、いたいた!」
入ってきたのはアイリスとマリーだ。ちなみに切り刻んだのはマリーだ。
鉄格子に近づく二人。
「今あけるわ。マリー」
「下がってください。危ないですよ」
言って、両手を振るう。
ジャジャキィィィ!!
鉄格子が均等に切られて落ちる。
「お前ら……、へ、礼は言っとくぜ」
泣きじゃくるディータを引っ張りヒビキは鉄格子から出る。そのとき、出口向こうにマシンが現れた。
「おい!来たぞ!」
叫ぶヒビキ。振り返るアイリス。その手にはショットガンが。
ガウン!っと一発。はじかれたようにマシンは下がった。数発を連射しマシンを後ろに追いやるアイリス。そして、すぐ後ろはミッションを貫く吹き抜けとなった。
「二度と来ないでよね、ガラクタ」
轟音。マシンは欄干を乗り越え吹き抜けを落下する。
「スゲー。やったぜ!」
「ざっとこんなもん」
だが、
ドゴォォォォン!!
『うおわぁぁぁ!』
振り返ったアイリスのすぐ後ろに何かが振ってきた。
「何!?」
距離をとって、対峙する4人。
機械音。それも大きい。土煙が消えシルエットが出てくると4人は悪寒を感じた。
全高約3メートル。全長約5メートルの巨大な機械蜘蛛であった。頭の部分の4つのセンサーアイが不気味に光る。
「こいつね……。ファントムとか言う最終兵器は……」
8本足を動かし、「ファントム」はアイリスたちを補足。敵と判断し、
甲高い鳴き声を発したのである。
ほぼ同時刻、サリナ達も似たような客に通路を阻まれていた。言ってしまうなら戦車のような脚部に右腕部にビームサーベル。左腕部に3砲身2連ガトリングガンを装備した人型である。
「ったく。手間取りそうな相手だこと」
「こいつか。デスブリンガーなのかファントムなのか」
「デスブリンガーよ」
メイアのつぶやきに答えたのはサリナだ。
「ファントムは、描く上でのモチーフで最も多いのは蜘蛛なのよ。デスブリンガーは剣が一番しっくりくるからモチーフは剣。
だから、たぶんこいつはデスブリンガーよ」
「で、倒し方はあるの?」
後ろに下がりながら、バーネットが言う。
「さぁ、…………!」
突然デスブリンガーがキャタピラを回転させ向かってきた。
「知ってたら、逃げないって!」
『いやぁぁぁぁぁ!?』
逃げに転じたとき、デスブリンガーはガトリングを発射しながら襲って来た。サリナが一番後ろでバリアを張りつついくつも角を曲がり、エスカレーターを駆け下り、ガーディアンを避けたりしていたとき、いつの間にか中央の吹き抜けホールに来ていた。
「よっ……」
サリナは懐から何かを取り出して床に落とした。その後ろから猛スピードでデスブリンガーが迫ってくる。サリナたちが渡り廊下を渡り終わり、デスブリンガーが中ほどまで来たとき、
グゴォォォォン!!
さっきの何か、爆薬は派手に爆発して渡り廊下が傾ぐ。
「とどめ!」
ブレードを具現させ、渡り廊下のもう一方を、斬る!と、どうなるかというと、
ヒュゥゥゥーー……。ドォォン。ガァァン。
派手な音を立てながら、デスブリンガーは奈落のそこへと落下して行った。
「ひゅー……。間一髪、でもないか」
覗きこみながら、サリナが言う。
「さ、行きましょか。ニル・ヴァーナへ」
と、先頭へたって言う。そんなサリナに3人は顔を見合わせた。
そのとき、ふと下を覗きこんだサリナは、アイリスたちの姿を目撃する!
しかも、後ろから蜘蛛みたいなマシンに追われてだ。アイリスはしんがりで蜘蛛が散発的に放つ火球を防いでいる。
「しょうがない……」
サリナは腰のガンホルスターからUZIを引き抜く。
「わお」
ジュラが驚きの声を上げた。サリナの取り出したUZIは金でできていたからだ。
「光よ、一条の槍となりて、敵を粉砕せよ!」
UZIをアイリス達のいる渡り廊下にむけ、発射する!すると、弾丸は光をまとって突き進み、狙い通り通路を、ファントムの乗っている渡り廊下を粉砕した。
デスブリンガー同様、落下していくファントム。
アイリスたちがこっちを見上げた。手を振るサリナ。
「……サンキュー!」
そういう声が聞こえてアイリス達はまた出口へと向かっていった。
「急ぎましょ!あいつら死んだわけでもないだろうから」
「……同感だ」
メイアも賛同し、――そういえばいつの間にかM4はバーネットが持っている、一同は出口へと降りていく。
シャトルへ続く通路で彼女達は再会した。
「リーダー!」
「ヒビキ、ディータ。無事か!」
「あったりまえだ。あれくらいで死んでたまるか」
「よかった。」
皆が再開を喜んだ後、皆がこちらを向く。
「礼を言う。お前達が何者か知らないが、皆が無事に戻った。」
「ま、仕事的には簡単だったわね」
サリナは軽く返す。
「でも、やっぱり魔法使いさんていたんだ!ディータ感動!」
おのおのが礼を言う中、突如としてミッション内に衝撃が走る!
「何だ!?」
「たぶん、あいつらね」
アイリスの言ったのはファントムとデスブリンガーのことだ。あれくらいでくたばるようなら最終兵器の名が泣く。
「ニル・ヴァーナへ先にミッションから離れるように言って!あんた達は先にシャトルへ」
サリナはそういってスティックを持つ。
「あ、……バーネット、そのM4あたしの!」
バーネットからM4を返してもらったアイリス。
「M4にしてはやけに軽かったけど?」
「特別製だからね」
言ってマガジンを抜いた。
そして、機械がぶつかり合う音が響いてきた。ターミナルの両側からそこら中をショートさせ、一本足が折れたファントム。
ガトリングガンを失い、キャタピラは半分千切れているがそれでもビームサーベルだけは生きていたデスブリンガー。
双方が二人を挟んで30メートルのところに迫ってきた。
「いい加減楽にしてやらないとね」
「そうね」
アイリスはM4の尻部分を引き下げる。すると中から5つの弾丸が現れた。アイリスは真ん中を取ると、スライドを元に戻した。
「あんたにはこの一発で十分ね……」
取り出したのは弾丸の中が見える代物。白く光り輝いている。
「……ホワイトクリスタル。光の槍」
それをチェンバーの中へと収める。すると、M4自体がだんだんと白くなり、最後には幾何学模様をしたM4になってしまった。
「さて、行ってみましょうか」
サリナはスティックを伸ばすと肩に担ぐ。と、前部分の爪が開く。後ろの爪はまるでパラボナのように広がり、薄い幕が張った。そして、空気中からエネルギーを抽出してスティックに収束し始める。
「な、何する気だ?」
ヒビキたちは戻れと言われたものの、何をするのか気になってシャトル連絡通路に残っていた。マリーは一足先に戻って連絡を済ませている。
「めったに見られない見世物ね」
ファントムとデスブリンガーが二人の姿を認め、向かってきた!
「……ゴットブレイズキャノン!!」
「……我流・弐式、魔導砲!!」
二人は狙いを固定する。そして、距離が10メートルまで来た時、
『塵になれ!』
二人の声がハモった。
銃から、砲から、光の渦が放出され、ファントムを、デスブリンガーを飲み込んでいった。しかし、それだけでは止まらず通路を壁をぶち抜き、ついには2機のジェネレーターまでも貫いて外へと飛び出していく。
文字通り塵になったのを確認した二人は躊躇無くシャトルへと向かう。うかうかしてると爆発に巻き込まれるからだ。
予想通り、ジェネレーターを貫かれたことで大爆発が起こる。そして連鎖式にミッション全体がどんどん爆発に呑まれていった。
「ミッション連鎖爆発していきます!」
「皆は!」
「シャトルの離脱を確認。ぎりぎりです!」
ニル・ヴァーナは、ミッションから先に離れていたために爆発に巻き込まれることは避けられたがシャトルがまだだ。
そして、
ドドドドォォォォォ……!!
ミッションが大爆発する。
「衝撃来ます!」
衝撃がニル・ヴァーナを襲ってすぐ持ち直す。
「シャトルは!?」
「ダメです!磁力の影響でセンサーが混乱しています」
ブリッジに緊張が走った。
『……おーい、聞こえる?』
少しの間の後、モニターにサリナの顔が映った。
『こちらサリナ。救助作戦完了、全員無事よ』
一瞬の後、船中が歓声に包まれる。
「ごくろうさん。戻っといで」
『イエッサー……』
通信が切れ、マグノは席にもたれた。
「やれやれ、また生き延びたね」
「お前達の処分が決定した。」
ブリッジの艦長席を前に、あたし達は一列に並んで立っていた。
――出て行けとは言われませんように。
「今回の我々のクルーの救助の功績を鑑み、……お咎めなし。
今後もこの船に残っても構わないそうだ」
ブザムは締めくくる。
「あ……」
『ありがとうございます!』
「ま、お仲間が合流できるまでだがね」
マグノが付け足す。
こうしてあたし達はニル・ヴァーナに残留が決定した。
『……あたし達の能力は医療関係に生かされることになった。
今休憩時間中のため、設けられた庭園の所でこの本を書いている。しかし、トラベルメーカーというより「トラブルバキューマー」みたいな感じのあたし達は、常に危機にさらされるようになってしまった。……』
ドドォォン!!
「またか、この……!」
あたしはノートを放ると上部格納庫へと移動する。
すでに、二人は来ていた。
「準備は?」
「いつでも!」
「いいですよ」
―To be continued―