ヴァンドレッドsideX3
六
「おらぁぁぁぁ!」
力任せにブレードを振るい、キューブを叩ききる。
エステバリスで出撃して正解だったかもしれない。こいつら思っていたより動きがよかった。
『敵影消滅。帰還してください』
「了解。帰還する」
俺達は見知らぬ宙域をさまよって、何度かキューブ編隊と交戦を繰り返していた。そして、ピロシキ型母艦を見てハッとなったことは、ここはやっぱり知っている場所であるということ。
そして、ヴァンドレッドという名のアニメの次元であるということだった。
「ちっくしょー。十機か」
「俺なんか15機だ。気を落とすな」
仲間達は落としたキューブの少なさに不満を言っている。それもそのはず、出会い頭に一斉射撃+グラビティブラストを見舞ったのだから。その時点で残りは30機ほどだった。
「大体、いきなりあんなものぶっ放すとは、お前何考えてるんだ?」
隆が俺に言ってくる。
「何じゃないだろ。先手必勝、問答無用。相手は無人の急襲編隊だ。ちまちまやってられるか」
「ま、道理だな」
雄が言った。
「それに、いくら撃っても弾切れなんてありえないんだから、景気よく行かないとな」
「俺達の腕の振るいがいが無いだろうが」
「無くていい」
「んだとぉ!?」
隆と俺の恒例の追っかけあいが起こる中、宇宙を眺めながら雄は一人感傷に浸っていた。
「西暦から大きく外れた次元……。しかし、紛れも無く地球が存在する。けど、歯車が絡み付いているとは……。
この宇宙は、泣いているんだろうか」
一方、残留を許可されたサリナ達はコア・ファイターのメンテナンスをしていた。コア・ファイターはドレッドと完全にシステムが違うため、パルフェでもお手上げだったのだ。
「しっかし、メンテナンスがこれほど大変だったとはねぇ」
アイリスがぼやく。
「仕方ないでしょ。魔法で直らない部分は沢山あるんだから。それでなくともコア・ファイターにするくらいならなんで『セイバーフィッシュ』にしてくれなかったのか、そっちのほうが気になるわよ」
「あんた、『セイバーフィッシュ』ってコア・ファイターに比べて、戦闘力がいかに違うか知らないで言ってるでしょ?」
「知らないわよ。そりゃ」
「………………」
「まぁ、まぁ、お二人とも」
マリーがFbのコックピットから顔を出して言った。
「メンテナンスはキチンとして置かないと、後で忘れてたなんてことになったら大変ですよ」
最近になってマリーは母親のような言動が目立つ。まぁ、二人がいがみ合うのが一番の理由だろうが。
――ピーー!
いきなり、マリーのFbのシステムが警告音を出した。
「……わ!?あわわ……」
『………………はぁ』
同時にため息をつく二人。と、
「差し入れでーす!」
ディータがヒビキと共にやってきた。ミスティもいる。ディータは手にバスケットを提げていた。
「あ、サンキュー」
ヒビキはヒビキで自分の蛮型に向かった。
「でも、コア・ファイターってどっかで聞いた事あるような気がするのよね」
ミスティがコア・ファイターを見てつぶやいた。
「本当?」
「前にどっかのアニメかなんかで見たような気がするんだけど……」
「………………」
「ダメ。思い出せない」
「なぁ、その機体も合体できるのか?」
ヒビキがコックピットから聞いてきた。パイロットとして気になったんだろう。
「合体?合体というか、元々この機体は汎用性を高めるために、一つの機体を三つに割ったうちの一つなのよ。
だから、三つそろってMSになった時点で最大限の攻撃力を発揮できるの。」
「へぇー、ディータたちのドレッドと違うんだ」
「レジって言ったっけ?コア部分に様々なパーツを接続することでいろんなバリエーションの機体にする。それと同じよ」
「じゃ、それもいろんな機体になるのか?」
「えぇ、あたしのはガンダムシリーズのほぼ全て。コア・ブロックシステムを搭載した機体にならね。アイリス達のはFbって言って専用のコア・ファイターなの。だからフルバーニアン以外の応用は無理。」
「なんだか、想像できねぇな」
「見てみたいなぁ。ねぇ、いつパーツそろうの?」
ディータが聞いてくる。
「仲間が一通りの機体を持ってるから合流してからでないと無理ね。ったく、どこ流れてるんだか」
どこか遠い目をしてサリナがつぶやく。
「ねぇ、彼女って彼氏いるの?」
ミスティがアイリスに耳打ちする。
「いるのよねぇ、これが。あたしが仲間に加わる前からホの字だったらしいわ。」
「やるもんねぇ。」
「あんたもうかうかしてられないんじゃないの?」
アイリスの言ったのはヒビキの事である。
「う……。大丈夫だもん。絶対に」
「ま、がんばってね」
メンテナンスも終わって6人がやってきたのは旧移民船区画だった。倉庫には様々な品が眠っている。
「ここかぁ、移民船時代の倉庫って……」
「めったに来るところでもないんだがなぁ……」
言っているうちに6人は倉庫をあさり始める。何が眠っているか興味がわいたのだ。
「あ、これは!」
アイリスが持ち上げたのはギターケースだった。エレキギターのケース。開けてみると、意外なことに舷は錆びていず、そのままでも使えるようである。
「こっちにもあったわ!」
サリナはバイオリンのケースを見つけた。
「へぇ、楽器か。」
なおも突っ込んでみると奥のほうにドラムが一式そろっていた。さらにベース、シンセサイザー、スピーカー、ミキサー。エレキ楽器関係が全て揃ってしまった。
「さて、見つかったはいいけど、どうする?」
ヒビキが言う。
「決まってるじゃない。……」
サリナはエレキギターを取り上げる。
「使うのよ」
突如として、ニル・ヴァーナ内の全スピーカーから音楽が流れ始めた。
「な、何だ?どこから流れている?」
「旧区画の……会議室らしいです」
エズラが報告した。
「会議室……?」
「あの子達、楽器を持ち出したのかねぇ」
マグノがつぶやいた。
サリナ達は楽器を使用されていない会議室に持ち込むと、手馴れたように即席のライブステージを作ってしまった。スピーカーを接続し、ミキサーを調節し、楽器のチューニング、音あわせ、ためし弾き。本当のところは女性だけで構成されているバンドというのは少ないために、里中達がいないのが惜しかったが今は別にいいだろうということに。
ドラムはアイリスが担当。ベースはマリーが、ギターとボーカルはサリナの担当となった。
「そんじゃー、一曲聴いて下さいねー!」
『イエーイ!』
ディータとミスティは期待の声を上げる。ヒビキはといえば何をするのか分からない様子。
ドラムが響き、ベースとギターが合わされていく。多分彼女達は知らないだろう、地球の20世紀に流行った曲である。
サリナも声質を変えて朗々と歌う。初めは調子を確かめるようにゆっくりとしたバラードだ。
ディータとミスティはサリナの歌声にだんだんと引き込まれていく。ヒビキでさえ、ただただ黙って聞いていた。
魔声、といわれるものがある。人々を魅了し意のままに従わせる魔法である。音楽とはそういう人々を魅了させ、時に奮い立たせ、落ち着かせ、希望を与える時もある。
サリナ達は自らの魔力を音楽に乗せることで、魅了の効果を高くするということができる。しかし、今はそういうことをしなくとも、音楽からは離れていがちだった彼女達を夢中にさせることは簡単だった。
曲が終了した。3人は諸手を上げて拍手した。
「すっごーい!!上手」
「なんか、ジーンと来る曲だったなぁ」
「なんならもう2、3曲やってもいいけど?」
「ならさ、せっかくだから船中に聞かせようよ!」
ミスティはそういって会議室に設置されていた通信機をオープンにして、範囲を全体に設定する。
「OK!ならどんどん行ってみましょうか!」
『おう!』
ディータとミスティは完全にノッていた。
初めは皆も戸惑いがちだったが段々と音楽に聞き入る者が多くなった。音楽からは離れていたせいもあり、サリナたちの歌う音楽は新鮮味があったのだ。
「なかなか味なことをするじゃないか。あの子達も」
「やらせておきますか?」
「いいんじゃないかい?今は敵も出てこないし、しばらくやらせておくといいさ。音楽なんて久々に聴いたからねぇ」
サリナたちの音楽はバートやドゥエロ達、男連中からするとやはり新鮮なものだ。軍歌やファンファーレぐらいしか聴いたことが無いのである。POPSやロックなどのジャンルは始めて聴くのであった。
調子に乗ってきた3人はマリーにシンセサイザーを担当させて、さらにヒートアップしていった。
ロック、POPS、バラード、ジャズ、知る限りの曲と唄を久々に堪能する。里中達とはよく聞いていた音楽だが、離れ離れが多くなりやはり彼女達も新鮮さが残っているのだ。激しい曲、別れの曲、恋の曲。ニル・ヴァーナのクルー達には縁の無さそうな曲目も多かった。がしかし、サリナたちからしてみれば、しっくり来るという曲も多かった。
そして、感傷に浸りつつ一曲を終わったときだった。
「ふう……」
顔を上げようとしたときだった。
パチパチパチパチパチ……!!
『のわだぁぁぁぁ・・・!!?』
目の前にいたのはディータ達だけではなくなっていた。クルー達が聞きつけて殺到してきたのだ。心酔状態だった3人は尻餅をつき、腰を抜かし、いすから転げ落ちた。
「びっくりしたぁぁ。何何!?」
「聴きに来た人たちだよ。」
最前列のディータが言った
「はは……。クルーってこんなにいたんだ」
そりゃそうだ。150人が乗り込んでいるのである。会議室は完全にライブハウスと化し、入れないクルー達は部屋の外にあふれていた。
元々こんなに集まるとは思ってもいなかった3人は一様に上がってしまった。
「どうする?」
サリナはアイリスに聞く。
「やるだけやればいいんじゃない?意外な所で歌手デビューって感じで」
「リスナーたった150?ま、いっか……」
サリナは皆に振り返ると、
「今度はちょっと趣向を変えた曲だよー!」
『ワァァァァァァァァ!!』
――キーン。と、耳が鳴る。
「そんじゃ、聞いて驚かないでよ」
曲がスタートした。しかし、この曲でサリナが発した声は完全に男の声だった。声帯をいじっているわけではない。魔力で声色を変えているに過ぎない。しかし、女が男の声を出すというのは異様だったのだろう、皆が黙ってしまった。これも里中達とはよく聞いた曲だ。
曲が終わってからの皆の反応としては、
『おお〜〜〜〜・・・・』
てな感じだった。
30曲以上を3時間にわたって歌いまくったサリナたちは、皆に歓声を浴びながら、自室に戻っていった。
「疲れた。……」
「3時間歌いっぱなしだったからね」
「声枯れないのが不思議だ」
しかしその後、サリナ達は言いようの無い喪失感に駆られた。歌いまくったのはいいが、思いでの曲、心に響く曲が多かったので、どうしても離れている仲間たちのことを考えてしまったのだ。会いたい、一刻も早く会いたい。そして各々が想い人のことを思いながら泣いた。
ただただ、泣いた。
七
しかし、敵はそんな悲しみを分かってはくれない。
「長距離センサーに敵反応、距離1万8千!」
「大きさからメジェールへ目標を変更した母艦と思われます!」
「あいつらかい」
艦長席でマグノはうなった。先の激戦では近くの小惑星を利用した戦いができたが、今は宇宙の真ん中である。つまり利用できるものは何も無い。
「ドレッドチーム発進スタンバイ!」
ブザムの声が響いた。
悲しいといっても命には代えられない。サリナ達はすぐにコア・ファイターで出撃を余儀なくされる。
「サリナ、聞こえるか?」
メイアがモニターに出る。
「はい?」
「3人はDチームとして参加してもらう。いいか?」
「了解」
「……なかなかいい曲だったぞ」
言って通信が切れる。
「ふ……。あんがとさん」
状況とは裏腹にパイロット達は意気揚々としていた。前も母艦を撃破しているための自信だった。
母艦も張り付いているピロシキ型を放ち、さらにそこからキューブ型を吐き出す。次々に宇宙は埋められていく。
『百や二百じゃ足りないんじゃないの?』
アイリスが焦りの声を上げる。
「大丈夫でしょ。たぶん」
そして、先端は開かれる。蛮型とメイア機はさっそく合体すると戦線へと突入していく。その後ろをディータ機とジュラ機が追っていく。
しかし、ここで予想もしなかったことが起こった。キューブたちが次々に寄り集まって大きなものとなっていく。
「あれは!?」
「あいつら、ついにここまでコピーしたってのかい……」
ブザムやマグノでさえも驚愕させたもの。
キューブ達が寄り集まったものそれは、ニル・ヴァーナであった。しかも、それだけではない。
「うお!?何だぁぁ!?」
「!……こいつは!」
ヒビキ達の目前に現れたもの。それは紛れも無くヴァンドレッド・ディータだった。しかも、その横にヴァンドレッド・メイア、ヴァンドレッド・ジュラの姿もある。
「この偽者ぉぉぉ!!」
ディータが怒りに任せて、突っ込んでいく。
「バカ!よせっ!」
ヴァンドレッド・メイアは同じように加速をかけて突っ込んでいく。そんな3人をあざけるように偽ヴァンドレッド・ディータは砲を起動し迎え撃つ。
ここに、サリナたちの体験した中で最も過酷な戦闘が始められることとなった。しかし、地球側が知らなかったことが一つある。ニル・ヴァーナにはサリナ達が乗っていたということだ。
「おらおらおらおらおらぁぁぁ!!」
サリナ達は戦場を駆け巡り、次々にキューブをピロシキ型を撃墜していく。ミサイルが、ビームが、魔力の槍がどんどん放たれていく。しかし、際限なく吐き出されてくる敵に、さすがにサリナ達も息が上がってくる。
「こいつら!いつになったら減るのよ」
『母艦をたたくしかないんじゃないの?』
アイリスの言うとおり他の機は母艦を目指して突き進んでいる。だが、母艦の前には偽ニル・ヴァーナが待ち構えているのだ。簡単に母艦にダメージを与えられはしない。
ブリッジでは次々に入る報告に焦りを隠せなかった。偽者が現れたこと、数が多すぎること、不安要素が目白押しに迫ってくるのだ。
「ぐわぁぁぁぁ!痛ぇぇ!」
ナビゲーター席のバートも焦っていた。拡散ビームを撃っても撃っても向かってくる敵にさすがにバートも焦っていた。
「チクショーー!いつになったら終わるんだぁぁぁ!」
苦戦も苦戦、大苦戦だ。味方も数機がやられ、確実に戦力は下がっている。
「くう……!」
サリナも3機に追われながら息を弾ませる。しぜんと仲間のことを思った。来てくれないか、と。しかし、通信はおろか彼女達の端末にさえ入ってこない連絡は、彼らがどこにいるのか分からないことを示している。
『いやぁぁぁぁぁぁ!』
アイリスもさすがにプレッシャーが頂点にまで来たようである。
「……助けて。大介―――!!」
そのとき、
――ピピー!ピピー!
『!!?』
サリナの懐から電子音が響く。サリナは震える手でそれを取り出した。携帯である。それが鳴っている。それが何を意味するか……。
通話を押し、耳に当てた。
『よぉ。久々!何してる?』
懐かしい声が響いた。
『敵母艦と交戦中なの!今すぐ助けに来て!』
「位置は?」
『座標ナンバー35674。F7地点!』
「OK!10分だ!待ってな!」
通話を切って、俺は艦長席から発令する。
「総員第一戦闘配置にて待機!それとボソンジャンプスタンバイ!仲間を助けに行く!」
『『了解!!』』
ブリッジの全員が答えた。
「10分……」
サリナはゆっくりと携帯をしまう。そして操縦桿を握りなおした。
「10分。持ちこたえる」
戦線にもう一度目をやった。バリアに敵機の弾が当たってはじける。
『サリナ!どうなの!?』
アイリスが焦って聞く。
サリナは回線を開いて叫んだ。
「10分!皆、10分だけ持ちこたえて!!」
「10分だぁ!?」
ヒビキはなんとか倒した偽ヴァンドレッド・メイアの次に、偽ヴァンドレッド・ディ−タを相手に苦戦していた。
「けっ!なら、やってやるぜ!」
「10分だって?」
ブリッジにもサリナの声は聞こえている。
「10分で何をする気だい……」
「策でもあるのでしょうか。」
「この状況で策も何も無いが……、よし、任せてみるかい」
「分かりました。
全機、時間稼ぎだ!10分だけ持ちこたえるんだ」
「ちょっと、何する気なの?」
「わかんないわよそんなの。」
デリバリーに張りついて修理を受けるバーネットとジュラは愚痴を言う。
「何か策でもあるってのかい?面白い!」
10分。短いようで長い時間。彼女達は奮戦した。押されてはいたもののサリナの言葉を信じるしかなかった。そして、
「……10分」
時計が、きっかり10分を刻んだときだ。
カッ!!
戦線の向こうに光が弾けた。全員が一瞬それに気を取られた。敵でさえ、その動きをとめたのだ。
ゆっくりと船が現れる。流線型のフォルムをした、巡洋戦艦ナデシコC。
「皆……」
サリナの頬に涙が流れる。
「全砲門一斉掃射!目標、敵刈り取り母艦!!」
敵母艦の横を取った形の俺達は火線を母艦に集中させる。次々と打ち込まれる攻撃は効いている。
「戦線に機動戦艦を確認!艦名『ニル・ヴァーナ』!サリナさんたち3人の生存も確認!」
「おし!ラストだ。グラビティーブラストスタンバイ!」
「何だ!?あの艦は!!」
ブザムが思わず叫ぶ。いきなり現れたのだ、そりゃ驚く。
「あれが、……あの子達のお仲間かい」
『ニル・ヴァーナ!!聞こえるか!』
いきなりモニターに男、少年の姿が映った。
『離脱しろ!今すぐ!』
「なっ、……何者だお前達!」
「BC!」
ブザムを制したのはマグノである。
「お頭……」
「離脱する。そう言っておくれ」
「……分かりました」
「何だ!?ありゃぁぁ!」
偽ヴァンドレッド・ディータに追われていたヴァンドレッド・ディータ内でヒビキが叫んだ。
「いきなり出てきたよ!」
『全機、離脱せよ!』
ブザムの通信が入ってくる。
「あいつらの言ってたのは、このことか」
「なるほど、……頼もしそうな援軍だ」
危機的状況にあってメイアは、プレッシャーを押し殺していた。分離した後、チームを率いたがこれが限界のようである。
『全機、離脱せよ!』
「了解」
「冗談でしょー!?」
いきなり船が現れるとは思っていなかったジュラ達も一様の驚きを隠せない。
「味な真似を……」
ガスコーニュはつぶやいて、ドレッドを数機抱えて離脱をはじめる。
ニル・ヴァーナの離脱を確認し、俺は叫んだ。
「ぶっ放せぇぇぇぇ!!」
叫びと共に、ナデシコCが変形を始める。船の前部分が開き、そこにエネルギーが収束していく。
グラビティブラスト。高出力の大砲は俺達の魔力を利用しているだけあって、充填が早く威力も大きい。そして、その大砲はようやく回頭を始めた母艦の側面から突き刺さり、中央部分を微塵に吹き飛ばした!
八
ナデシコの無人回収艇が機能を止めたキューブ型を集めていく。データを書き換えればこちらで使うこともできるだろうと思ったからだ。
俺達はシャトルでニル・ヴァーナに接舷する。
ブウーーン。
カチャカチャカチャ!
ハッチが開いたとたん俺達は銃を向けられる。
俺達は動じずに彼女達の前へ、
「ナデシコC、艦長代理の大介だ。ニル・ヴァーナの艦長、マグノさんに会いたい」
彼女達の間に動揺が走った。名指しで会わせろと言ったのだから当たり前か。
と、メイアが来た。
「お頭に会わせる。こっちだ」
と、すたすた行ってしまう。黙ってついていく俺達。
「はぁ……」
ブリッジに入ってしみじみとため息をついた。やたらと緑の匂いがする。まぁ、ブリッジのすぐ下に庭園があるんだから当然か。
いいつつも艦長席の前へ。
「最初に礼を言わせていただく。危ないところを助けてもらった。」
「ま、仲間直々に救助要請あったものでしたから」
しらっと答える俺。
「こちらもお会いできて光栄ですよ。マグノさん。ブザムさん」
「……!?なぜ我々の名を?」
「海賊マグノ一家といったら、その筋じゃ結構名が通ってるんでね」
疑いの目で俺を見るブザム。正面から受ける俺。
「しかし、なんだね。こう……」
「ああああ!!」
マグノが口を開いた瞬間に聞きなれた声がブリッジに響く。サリナたち3人がそろって入ってきた。
「いたいたぁ」
「よお……久しぶり。」
「久しぶりじゃなぁぁい!!」
サリナは床をけっていきなりとび蹴りをかましてきた。
「ぬわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ブリッジを飛び越えて庭園まで落下する俺。
「ふんっ!」
『………………』
「仲間はもう少しいたわりな。あんた」
唖然と今の出来事を見ている皆の中、マグノはそう言ったのであった。
一時間後、
「ようこそ、ナデシコへ」
マグノたち主要メンバーを連れて俺達はナデシコのブリッジへと来ていた。
ニル・ヴァーナのように開放的とは行かないが、それなりに広いナデシコのブリッジである。
「へぇ、こいつは驚いたね。」
ブリッジを行き来するクルー達を見てマグノが言った。男と女が共に制服を着込んで働いているのだ。一応言っておくが里中達は私服である。
「ま、見たとおり男女共に生活しております」
「この艦には何人ぐらい乗っているんだ?」
「さあ、140人くらいかな。割合は5分」
男女比のことだ。ブザムはそれ以上聞かずブリッジを眺め回している。
「ところで、格納庫見せてもらえるいかい?」
ガスコーニュが言った。俺は皆を見る。別にいいんじゃないの?という表情で返されたので、
「分かりました。……DJ!聞こえるか?」
『なんだ?艦長代理殿』
いきなり目の前にウィンドウが開いて、浅黒い肌のがっしりタイプの女性が現れる。
「……また便利なモニターだこと」
ジュラがぼやく。
「これからそっちに行く。案内を頼むよ。」
『了解。あ、ところでコア・ファイターだけどさ、まだこっちに入ってこないんだが?』
「あ、置いて来た!」
サリナがはっとして言った。サリナ達はシャトルに乗ってこっちに来たのだ。むろんコア・ファイターは依然としてニル・ヴァーナの格納庫の中。
『ち、頼むよサリナさん。ウチらだって趣味でいじってる訳じゃないんだからさ』
「趣味でウィングいじってる人に言われてもなぁ……」
『そこ!黙りな』
言ったのは雄だ。
『んじゃ、待ってるから来てくんな。』
言ってウィンドウが閉じる。
「んじゃ、マリー。後よろしく」
「はい。かしこまりました」
「いいのかい?あの子に任せても」
マグノが格納庫に向かう道すがら訪ねてきた。
「いいんですよ。元々艦長は彼女ですから」
『えぇ!?』
ディータ、ジュラ、バーネット、ヒビキ、ミスティがそろって驚愕の声を上げる。
「あの子艦長だったの!?」
「じゃ、なんでコア・ファイターなんかに乗って……」
「そのへんはこちらの都合で」
そっけなく流す俺であった。
「ようこそ皆々様。あたしがここのチーフをやってるDJって言うもんだ。ま、よろしくな」
体格で言えばガスコーニュとほぼ同等で、作業着を着ているDJが迎えた。
それよりも皆の視線は後ろで整備クルー達が取り付いて整備をしている機体の数々に注がれていた。
「スゲェ……。なんだこの数」
「驚いたかい?無い機体が無いのがウチらの自慢でね。
……オラァ!そこ、何やってんだい!!」
もたついていた整備士に一喝をくれるとこちらに向き直る。
「ま、そゆことだ。好きに見ていくといい。」
言って自分は反重力ボートに乗ってさっさといってしまった。
とにかく、俺達も大型運搬用のボートに全員を乗せハンガーを移動する。
そして、次から次から現れる機体の数々。
モビルスーツは初期からG、Z、ZZ、W、Vと多種多様で戦闘機まで乗せてある。実際のところ、ナデシコCに収まるような数では無いとだけ言っておこう。
さらにナデシコシリーズからはエステバリスが数機。俺達が通常利用するのはこちらだ。他の戦闘員は前者を使っている。もっぱらRGM-79(ジム)、エアリーズ等量産型機を使っている。なぜかって?……さぁ。
さて、これだけでは終わらない。俺はボートを移動させエレベーターに乗る。
「おい、まだあるのか?」
「言ったろ?無いのがここの自慢だって。今度のは皆さんよくご存知の機体ですよ」
エレベーターが下りていき、吹き抜けのところに出ると、
「な、コイツは!?」
ガスコーニュが身を乗り出した。
そう「ドレッドノート」。彼女達がいつも目にしているものがズラリ、とではなく、カタパルトがそのままコピーしたように鎮座しているのだ。
「レジ……システム。」
「お前さん方、ドレッドまで持ってるのかい?」
「なんなら、蛮型もお目にかけましょうか?」
さらりというアイリス。
そしてエレベーターを降りて管制室に入るとまさにレジである。
「てなぐあいに、ドレッドと蛮型も常時準備してあるというしだいです。ニル・ヴァーナが航行不能もしくはシステムトラブルでレジが使えないというときに自由に使ってください。」
「なぜだ?なぜここまで常識はずれなことができる」
ブザムが聞いてくる。
「船の大きさは調べた。どう考えてもレジやあれだけの数のヴァンガード、戦闘機が載せられるはずが無い。
一体どういう構造をしているんだ、この船は。加えて、あんな攻撃ユニットを装備しているのも信じられない」
「グラビティブラストかい?この船の目玉武器なんだけどね、あれ」
隆が言った。
「信じられないのも無理は無い。この船は普通の船とは機能からして違うからな」
「攻撃力、機動力、防御力、どれを取ってもニル・ヴァーナとは段違い。確かにあの『融合戦艦』はすごいとは思う」
「俺達はある人に頼まれて、……つーか、無理やり旅をさせられてる身でね。今じゃ慣れてしまったが」
「あたし達の力は見たでしょ?あたし達はこの力と共に色々な世界を巡り歩いている。そして、出会い、絆、別れ、戦い、平和色々なものを見てきた」
「あたしとアイリスも元はこうじゃなかった。あたしは元々魔法界の人間。あたし達は次元を超えた旅をしてる。あたし達は……」
『……ドリームトラベラーズ』
5人の声がハモった。
「俺達に常識なんてものは無い。俺達にとって、非常識こそが常識なのさ」
「ルール無用の波乱万丈記、ってね」
ラストは俺とサリナが締める。
俺達の口上に、9人は黙するしかなかった。
―To be continued―