ヴァンドレッドsideX

 

  

 

 俺達がそろって口上を並べ立てたその直後、サイレンがハンガー中に鳴り響いた。

『総員第二次戦闘態勢!右舷前方敵艦隊を補足。距離6万8千!』

「ろ、6万!?」

「ちぃ、またか。」

「ちょっと待て!本当に6万ものレーダーレンジを持っているのか?この艦は」

「ちょっとした工夫してるだけですよ」

 俺はそういってブリッジを呼び出す。すぐにマリーが出た。

「状況は?」

『はい。現在哨戒中の偵察機よりこちらへ向かう船団を発見したとのことです。ピロシキ型が3機です。まっすぐ向かってきます』

「なるほど、偵察機か……」

 

 

 マグノたちも急いでニル・ヴァーナへと戻っていく。無論サリナ達もコア・ファイターを取りに戻った。

 ブリッジへと戻ってきた二人を見て、すばやくヴェルヴェデールが報告する。

「ナデシコより敵艦隊が……!」

「分かっている。全艦戦闘態勢!」

 ブザムのお決まりの声が響く。

 

『各モビルスーツ及びエステバリス、展開完了。』

『敵艦隊、3万まで接近。ニル・ヴァーナのレーダーに補足されます』

『ピロシキ型よりキューブタイプ発進を確認。』

 逐一報告を聞きながら、マリーは艦長席で色々考えていた。

「格砲座発射用意!ドレット隊が突入する前に一斉射撃お願いします」

『了解。格砲座、ミサイルポッドエネルギー充填を開始』

 

「里中より各機へ。

 今回はニル・ヴァーナのドレッド隊と共闘となる。はっきし言ってドレッドと量産MSじゃ話にならない。

高機動タイプ以外はニル・ヴァーナ及びナデシコの護衛に当たれ。」

『『ラジャー!』』

『ニル・ヴァーナ、ドレッド隊を展開開始しました』

 

「サリナよりDJへ。サリナよりDJへ」

『こちらDJ。どうぞ』

「ガンダムのパーツを射出して。それから、アイリスのFbもね!」

『了解!』

 

「ドレッド隊展開しました。」

「ナデシコより、ヴァンガードタイプ及びドレッドタイプ展開を確認。」

「長距離レーダーに敵艦隊を補足。距離2万8千!」

「ピロシキ型が3機とキューブタイプが数十機ですぅ」

「ナデシコとの通信を確保せよ!」

 ニル・ヴァーナのブリッジでもキューブ型を補足した。

「さて、お手並み拝見といこうかね」

 

『全チームへ告げる。今回はナデシコがバックアップに当たる。AチームからCチームまで敵母艦を叩く。』

『『ラジャー!』』

 ディータは自分のドレッドの中で隣に位置するコア・ファイターを見ていた。マリーが艦長として抜けたため、アイリスとサリナしかいない。

 そのとき、ナデシコから何かが射出されこちらに向かってくる。

「え、えぇ!?」

 

 ナデシコから射出されたのはサリナたちのMSパーツだ。

 サリナ達は、軸を合わせてコア・ファイターを変形させ、パーツと合体させる。RX78ガンダム。ガンダム1号機フルバーニアンがここに元の形となったのである。

「……各部動力異常なし。ガンダム合体終了」

「……バーニア異常なし。フルバーニアン合体終了」

 さて、これを見ていたディータは、

『すごいすごぉぉい!!合体したぁぁ!』

 嬉しさのあまり誰と交信してるのか分かっていないらしい。

 

『砲撃開始!!』

 マグノとマリーの声が重なり、先端が開かれる。

 

 

 だが、今回の敵はなぜか攻撃パターンが変わっていた。キューブ型が集まって強行突破を図ってきたのだ!

「くそ、これじゃどうにもならないじゃないか!!」

『どうやら、奴ら強攻策に出たらしいな』

『ちまちまやってたら船に取り付かれる。一気に片付けようぜ!』

「よし、マリー、グラビティーブラストスタンバイ!準備できしだいぶっ放せ!」

『了解!』

 

 そして、一筋の光線が宇宙を走った。

『敵母艦2艦までを撃破!味方に支障なし!』

「砲撃中止!後ろに下がります」

 しかし、不運にも突破してきたキューブ型が、ニル・ヴァーナ、ナデシコ両艦に取り付いて何かを始めたのである。

 

 突然、ニル・ヴァーナのブリッジの照明が消えた。

「どうした!?」

「た、大変ですぅ!敵キューブがバイパスを通してウィルスを送り込んできてますぅ!」

「何!?」

 ブザムもマグノも唖然となる。まさか、奴らが電子戦を挑んでくるとは。

「ペークシスプラグマ作動不良を起こしました!」

「ダメです!データが次々に削除されていきます!」

「第二デッキへの通信回路を遮断!ウィルスの侵攻を最小限に食い止めるんだ」

 言ううちにブザム自身も席につき、コンソールを操作する。

「航行プログラム削除されました!」

「ドレッドとの通信プログラム侵食されます!」

「ナデシコとの連絡、断絶しました」

「速い……!」

 クルー達の懸命な努力をあざ笑うかのように、ウィルスはニル・ヴァーナのライフシステムに向かっていた。

 

 一方、

「敵キューブタイプがプログラムにウィルスを注入しました!」

「全回路をマニュアルへ!データをバイパスへ!解析してワクチンをニル・ヴァーナへ転送」

「ニル・ヴァーナとのラインが断絶しました。ウィルスに通信プログラムをやられたものと思われます」

「ニル・ヴァーナ、機能停止しました」

「ウィルスの隔離に成功!戦闘記録データベースで抑えました!」

 マリーは一息ついた。さすがに慣れたものだ。

「敵残存兵力15%。後は時間の問題かと」

 それを聞くとマリーはこう発令した。

「ニル・ヴァーナに強制接舷。手の空いているものは宇宙服装備、酸素ボンベ所持にて待機。」

『は、はっ!』

 ――ウィルスにやられた。もし、ライフシステムまで侵食されたらどうなるか……。

 発令後、自分も席を立つマリーであった。

 

「な、なんだ?」

 俺はエステバリスの中で目の前の光景に驚いていた。敵艦隊を全滅させ、さて戻るかという時になってナデシコがニル・ヴァーナに接近し、エアチューブを繋げようとしている。

「マリー!何事だ!?」

 しかし、ウィンドウが開いて通信に出たのはオペレーターの女性だった。

『敵キューブタイプがウィルスを送り込んできました。こちらは食い止めましたが、ニル・ヴァーナの方からの通信が途絶えたため現在、強制接舷を試みています』

「ウィルス?コンピューターウィルスをか!?」

『そうです』

 ――くそ、奴らそんなことまで覚えたのか!

『手の空いているものに宇宙服及び酸素ボンベを持たせ、現在待機状態です』

「なるほど……。つ〜、この後はどうするか」

『第三格納庫は使えるか?』

 隆が割り込んできた。

「第三格納庫?」

『は、はい。使用していないため、相当汚れていますが』

『ニル・ヴァーナのクルーを収容したら、第三格納庫へ。なんたって150人いるんだろ?』

「確かに……。

 里中より各機へ!ナデシコへ帰還後ニル・ヴァーナクルーの収容に当たれ」

『『ラジャー!』』

 

「まいったねぇ。」

 マグノはベルトで自分を固定して、浮かないようにしていた。

 結局、ウィルスはメインシステムを食い荒らし、ライフシステムまでも侵してしまったのだ。今はブリッジ下方の庭園の水がそこらじゅうを漂っている。

 空気はかろうじて残っているがいつ無くなってもおかしくなかった。

「あいつら、やるようになったじゃないか」

 いまいましく、無反応になったコンソールを叩きつぶやく。

「ナデシコが近づいてきます」

「エアダクトらしいものを取り付けてますよ」

「向こうは無事だったみたいだね。」

 

 30分後、ニル・ヴァーナからクルー達が続々とナデシコへ移される。艦内の照明が消えたため、クルー達もパニック状態だったが、なんとか全員を助けることができた。

『ニル・ヴァーナクルー、150余名収容しました』

『病人、けが人は医療室へ収容させました。』

「ニル・ヴァーナをトラクタービームで捕獲。曳航せよ。

 それから、システム技術者を集めてニル・ヴァーナのシステムの復旧を」

『了解。』

 俺はブリッジで細かい支持を与える。とにかく、ニル・ヴァーナが使えなくなるということはドレッドが使えないということだ。心配はしなくてもこちらに一式は搭載されているが、彼女達のと比べると「使い勝手」という点で劣っている。

 

「遅ればせながらですが、先のミッションの報告書を持ってきました。」

 ナデシコ、第三格納庫。

 使われていないというのがはっきり言って当たっているが、唯一置いてあった機体がある。

 「ガンダムWゼロ」だ。分解整備が行われているのか装甲は外されコードが計器につながっている。DJがいじっているという機体だ。

 ニル・ヴァーナから移ってきたクルー達は一様にその機体を見上げて驚いていた。

「すごーい、翼がついてる」

「これどこで作ったんだろう……」

 クルー達をよそに、マグノ達はメイアの持ってきた報告書に目を通している。

「でも、まいったわねぇ。まさか敵がウィルスを使ってくるなんて」

 パルフェが配給されたお茶を持ってぼやく。

「だんだん悪じえがついてきたみたいね」

「でも、助かってよかった〜」

 第三格納庫に150余名もの女性がいると聞いて、ナデシコクルーの男性が逆に興味を持って集まっていた。

『コラァァ〜〜!見せモンじゃないよ。とっとと散った散った!』

 DJが拡声器を使って怒鳴っている。よもや、自分が占有していた場所を避難場所に使われたのだ。怒りもする。

「失礼します!」

 座って報告書を読んでいたマグノとブザムに、女性ナデシコクルーの一人が近づく。

「なんだ?」

「はい。ニル・ヴァーナのシステムの復旧を行いますが、なにせシステムが我々のものとあからさまに違うので時間がかかります。ライフシステムの復旧に72時間はかかるとのことです。」

「分かった。それから、救助を感謝する」

 クルーは笑みを浮かべて、

「当然のことです。」

 そして去っていく。入れ替わりにDJが近づいてくる。

「ガスコさんはいるかい?」

 言われて座っていたガスコーニュが立ち上がる。

「ガスコじゃないよ、ガスコーニュ!略さないどくれ」

「まぁ、気にしなさんなって。あんたらドレッドを使うんだろ?二番格納庫の場所を確認してもらおうと思ってね。」

 

 さて、システムの復旧にクルー達がニル・ヴァーナに移動したため、ブリッジクルーが減る。と、いうことは必然的にニル・ヴァーナのクルーを貸してもらうことになったのだが、

「コンソールが無いじゃない。これ」

 オペレーター席に座ったアマローネが言った。

「手元にドレッドと似たようなグリップがあるだろ?それに手を乗せればいい」

 確かにドレッドと似たようなグリップが置かれている。クルー達がそれに手を載せるとグリップの球体が光った。とたんに彼女達の頭の中にそれぞれのデータが流れ込んできた。同時に目の前にウィンドウが開きまくる。

「ナデシコのシステムには一部、脳波リンク装置が組み込まれてる。知りたい情報が思い浮かべるだけで出てくるが、相当便利な代わりに意思コントロールが重要になってくる。必要も無いのに余計なことを考えると余計なウィンドウまで開くから、手を放すとかして工夫してくれ」

「ひえ〜〜……」

「すご〜〜い」

「…………」

 皆が感心する中、ブザムはサブリーダー席で何かを出力している。今までの交戦履歴を調べているらしい。サブリーダー席とリーダー席は誰かが乗るとドーム状の天球儀がおおい、様々な情報が浮かぶ。

「何してんだ?」

 天球儀の外から雄が顔を突き入れて尋ねた。

「君らの交戦記録を見せてもらっている。お前達も相当手酷くやられたらしいな。」

「まぁね。ま、何が来ようが来る物は拒まず。叩き潰すだけさ。」

「なるほど。」

 記録をめくるうちにブザムはある項目を目にする。

「おい、キューブタイプを回収してデータを書き換えているという、これは?」

「それ?里中の発案でね。キューブを回収してデータを書き換えて、こちらの味方につけようってことでやっているんだけど、それが?」

「では、哨戒機というのは……」

「そ。キューブ型さ。識別は地球のものを使っているからばれる心配は無い。それに無人機だけあって通信機能がかなりのものだからね」

「思いもつかなかったな……。これは」

 

「か〜〜!壮観だねぇぇ!」

 ナビゲーション席から開放されたバートが第一格納庫でクラフトに乗りながら言った。

「しっかし、これだけあるとどれかいらない機体が一機ぐらいあるはずだし、譲ってもらえないもんかねぇ」

「無理無理、一機たりとも不必要な機体なんてありゃしないんだから」

 アイリスは、Fbを格納すると早々に機体を変えるようだ。

「それにあんた達の蛮型だっけ?それとくらべたら操縦の難しいことといったら」

「そんなに難しいのか?」

「機械は扱うものであって、扱われるものではない。楽なものじゃないのよ実際。」

「はぁ……」

「要するに、慣れよ」

「俺も蛮型の搭乗員だったからなぁ。今じゃあれにはまりっぱなし……、シクシク」

 

「…………」

 ドゥエロはナデシコの医療ルームにいた。しかし、自身いるだけで目の前の光景に動けないでいたのだ。

 けが人や病人、数十名にも及ぶ人たちをスタッフが順に魔法で回復させて回っているのだ。実際、船の中でも指を切った人を見かけたが、自分で治しているのだから重ねて驚きである。 

 医療機械というものを聴診器か、スキャナーぐらいしか使っていない。

「…………」

 彼は自嘲気味な笑みを浮かべると医療室を去った。

 

 

 食事時になり、清掃も終わった第三格納庫にさまざまな料理が運び込まれてきた。テーブルやいすの類もたんまり。バイキングスタイルの食事をしてもらおうと大量に作ってもらったのだ。

「いいのか?これだけの料理を作って、食料がなくなるのでは?」

 ブザムはクルー達が談笑するのを見ながら横にいた俺に声をかける。

「その点はご心配なく。10万人を100年間は生活させられるだけの食料はありますから。」

「……。フッ、突っ込む気にもならんな」

 ふと横に目をやると、ヒビキがやはり料理を取りまくって食べまくっている。確かにニル・ヴァーナの料理とは違って、バイキングを想定したものが多いため一品一品を皿に盛って行く必要がるので、洋食物、和食物、中華物と分かれている。中でも注目を受けたのは和食のコーナーだった。

「うわ、シンプル〜」

「みそ汁、って何だ?」

「このお箸ってどう使うの?」

 まぁ、日本独特の物だから無理も無いか。

 

 

 食事後、設置された遊技場に女性陣が多く集まった。ビリヤードなどの遊具を初めとして、アーケード、射撃場まで完備している我がナデシコ。

 確かに考えれば、無理がありすぎる。……しったこっちゃねぇか。

 

 

 寝る時間。つっても客船じゃあるまいし、部屋はうちのクルーで埋まっている。ゲストルームがあったのでマグノはそこに泊まることに。

 そこで!

 持ち込まれたのは大量の「ふとん」である。

「郷に入れば郷に従え、っていうぞ。不服な奴は雑魚寝になるから注意するように」

 言って回っているうちにも疲れたのかすでに寝ている人が。

「だめぇぇ!宇宙人さんはディータと一緒に寝るの!」

「何言ってるのよ。あたしのほうが絶対いいわよ」

 ミスティとディータが張り合っている。とうのヒビキは眠れずに耳を押さえていた。

 と、ディータがミスティを突き飛ばす。ミスティは布団の上に倒れたが、すぐに枕を持って立ち上がった。

「何すんのよ!」

 叫んで、枕を投げる。ばふっ、っといって命中し、今度はディータが枕を持ち、

「やったなぁぁ!」

 投げる。しかし、それをすんでの所で交わされ枕は後ろにいたクルーの一人に当たる。

「こらぁ、なにすんのよ!」

 投げた、外れた、当たった、怒った、投げた、・・・・(繰り返し)・・・・。

 果たして、修学旅行でおなじみの枕投げ大会が開催されたのであった。

 

『…………』

 入ってきたバート、ドゥエロ、非難してきたヒビキは戦場となった格納庫を見て唖然としていた。

 悲鳴と怒号が飛び交い、枕が飛び交う。なにせ150余人もの枕投げ大会だ。圧巻を通り越して呆れてしまう。クルー達も何事かと集まったが、一目見るなり、戻って行った。

「女って……怖いんだな」

 バートがつぶやく。ドゥエロも声に出さないものの額を汗が落ちる。

「おやおやおや……、なんだいこれは」

 ガスコーニュがやってきた。

「枕投げ大会です」

「枕投げ大会?」

「修学旅行で、夜ハイになった学生達が枕を投げて暴れたことから来たものです。

 ま、旅行みたいなもんだから、定番といえば定番ですが」

「ふぅん。でも、楽しそうじゃないか。おーい、アタシも混ぜろ〜〜!」

 と、止めるまもなく突入していった。――あ、投げた枕がジュラを直撃した。

「何事だ。これは」

 今度はブザムとメイアが来た。これは戦闘要員にはならんな。

 枕投げの趣旨を説明すると、

「なるほど。しかし、このままだと明日に疲れが残る。やめさせたほうがいい」

 メイアが足を踏み出したとき、

「ほっときな」

「……お頭」

 マグノが杖をついてやってきた。

「しかし、後々疲れが……」

「みんなの顔を見てごらんよ」

 言われて二人は皆に目を移す。始めは殺気立っていた目が生き生きとしている。

「たまにゃ、羽目はずさせてやらないとね。いいストレス発散だよ」

「しかし、……」

 そのとき、戦場からガスコーニュの声がする。ブザムは一瞬目を奪われ、

「…………」

 頭を抱えたのであった。

「それじゃ、あたしは部屋に戻るよ。後は好きにやっとくれ」

 笑いながら部屋へと戻っていく。

 再び戦場へと目をやる。すると、

『枕追加100個お待ち!』

 上のキャットウォークから隆の声が。とたんに枕がばら撒かれる。

「あの猿……」

 するとメイアが歩き出した。止めるつもりらしいが、

「お前達!たいがいに……ぶっ!?」

 一瞬でダース単位の枕に直撃され床に沈んだ。

『あ!』

 誰が聞いても間抜けな声を上げる俺達。そして、依然としてメイアに当てたことさえ気づかない皆は大会を続行している。

「ぷ、はは、はははは……!!」

 俺はたまらず笑い出す。

 他の4人もこらえていたのか吹き出す。ブザムは口元を隠したが確かに笑っている。

 5分後、サリナ達が聞きつけて戦線に参加。枕投げは佳境に入ったのであった。

 

 

 2時間もたっただろうか。格納庫は静かになった。

 クルー達は倒れ、眠っていた。枕が散乱し布団が散っている。ガスコーニュも大の字になって眠っていた。ヒビキはというと、戦線から離れた場所に布団を置いたが、いつの間にかディータとミスティが両隣に寄り添って眠っている。

 ただ共通して言えることは、皆が一様に晴れ晴れとした表情であるということだ。

 

 

   

 

 俺の隣ではサリナが静かに寝息を立てている。こういうときの彼女は襲いたくなるのだが。(嘘嘘)

 俺は寝ている皆を起こさないように格納庫を後にする。眠いのだが、なんとなくブリッジへと向かう。そこもすでにクルーたちがいなくなり、照明が落ちウィンドウの明かりのみが瞬いている。

 俺は艦長席へ座ると天球儀全体に宇宙を投影する。

「……宇宙か」

 珍しく感傷に浸る俺。それもそうだ、普通なら大学受験のための勉強をしているはずの自分だ。

 しかし勉強だけ、狭い空間の中だけでは学べない多くのことを学んできた。感謝はすれど嫌いではない。

 そろそろまぶたが落ち始めたとき、天球儀の先にポップウィンドウが表示される。

「何ぃぃ!!」

 一瞬にして意識が覚醒した。敵が向かってくるのだ。ピロシキ型が二隻だが十分に脅威である。

 どうやら先の戦闘でニル・ヴァーナを航行不能にしたことで粋がっているらしい。

 しかし、俺は思った。

 せっかく平和に寝ている皆を邪魔しては悪い、と。こういうところで余計な気遣いをするおれは変だろうか。

 とにかく!

「全警報解除!ナデシコ、ボイスコントロールモードへ!」

 ブリッジに照明がともった。ブリッジが俺の一声に反応する。緊急用として組み込まれた装置で、誰もいなくとも操縦と戦闘が可能になるシステムだ。まさかこんな所で使うことになるとは。

「敵分析を開始!バリアで曳航中のニル・ヴァーナ共々包み込め。防音・防振機能作動。一切の振動を与えさせるな。」

 それだけ言うと俺は、ブリッジを飛び出した。端末で、寝ているはずの浜崎と倉田を呼び出す。

「敵だ!とっとと発進準備をしろ!!」

 言い捨てて端末のスイッチを切る。そして俺は発進区画へ入る。そこは「レジ」のようになっているが、あるのは円形の部屋にシャッターがついた丸いスロープがあるだけだ。

 スロープ横にカード読取装置がある。そこに先に選んでおいたデータを読ませたカードを通す。同時にシャッターが開く。俺はスロープへと身を投じた。一瞬だけすべると、俺は射出準備されたMSの所にいる。目の前にあるのはナイチンゲールだ。通常は一人が滑り込むと同時にシャッターが閉まり、次のパイロットがすぐにカードを通すようになっている。

 俺はナイチンゲールに乗り込むと急いで外へと出る。

『遅れた!悪い』

 少しして二人の機体が姿を現す。Hiνガンダムに乗った浜崎、サザビーに乗った倉田だ。

『おい、他は?』

 バリアの中、いるのは俺たち3機だけだ。

「寝てるよ」

『なっ!?なんで起こさないんだ!』

「野暮だろ?せっかく枕投げまでしてリラックスしてるってのに」

『そういう問題じゃ……』

「自信ないのか?」

 浜崎をさえぎって俺は言う。

「俺たち3機だけじゃあれくらいも沈められないって言う気か?」

『…………』

 二人は黙った。そして、

『その減らず口。いつまでいえるかな』

 静かに浜崎が言った。

「……ありがとよ」

 小声で俺は言う。

『……。んじゃ手っ取り早く行くか!』

『おう!』

「ああ!」

 そして3機だけで敵の真っ只中へと突入して行く。

 

 

「むにゃ。……あれ?」

 格納庫の中、サリナが目を覚ました。いつの間にか里中の姿が消えている。

「ん〜〜?」

 格納庫の中は皆が静かに眠っている。サリナは立ち上がるとふらつきながら廊下を進む。偶然といおうか彼女の目的地はブリッジだった。

 暗めの照明を頼りに廊下を進み、ブリッジの扉へたどり着く。眠い目をこするとサリナは扉を開く。

「うあっ!?」

 いきなり強烈な照明がサリナにかかる。

「ちょ、大介。照明落としてよ。ねぇ!」

 しかし、反応は無い。サリナは目を覆いながらブリッジに入る。目を慣らしてから手をどけると、

「大介ってば!いるんで……、!?」

 ブリッジには誰もいなかった。しかし、各ウィンドウが起動し現在の状況を克明に分析、記録している。

「どういう……こと?」

 ふとメインモニターを見る。そして彼女の意識が完全に目覚める。

 ピロシキ型が2隻。キューブタイプが数十機映り、3機のMSが出撃している。しかも、バリアを最大にしてニル・ヴァーナもろとも包み込み、防音・防振モードが作動している。

「……………」

 しばし、それに見入っていたサリナだが、

「あのバカ!!」

 彼女はブリッジから一気にスロープ場へと転移した。

 

 

 ピロシキ型が火を吹いて爆発する。同時に数十機のキューブ型が動きを止めた。

「後一隻!」

『無茶はするな!』

 キューブ型の攻撃を物ともせず俺達は果敢に攻撃を繰り返す。ビーム砲が、ファンネルが飛び交い、キューブ型が落ちていく。

 無数のキューブ型がいまだ残る中、ピロシキはバリア展開中のナデシコへと目標を定めたようだ。させじと行こうとすると邪魔しに来るキューブにいらだちながら戦う俺達。

「野郎!!」

 気を取られピロシキ型に向かおうとする俺に一機のキューブが張り付いた。

「!? くそっ!離せ!」

 続々と続いて張り付くキューブ。そして、ピロシキ型が先端にエネルギーを集約し始めた。

 まずい!防振機能が作動していても主砲を食らっちゃいくらなんでも……。

 だが、その時ナデシコからMSが一機出てきた。

「えっ!?」

『なっ!?』

 向かってくるのはなんとガンダムデスサイズヘルだ。

『あんた達!何自分達だけで楽しんでるの?』

「サリナ!?お前寝てたんじゃ」

『おあいにくさま!』 

 デスサイズはそのままの勢いでピロシキ型に接近するといきなり軌道を変えてピロシキ型の上で止まる。

 前で閉じられた翼が開くと同時に持っていたスティックにビームサイズが現れた。これがデスサイズ(死神)と呼ばれるゆえんだ。

「うりゃあああぁぁぁぁ!」

 ブースターを全開にして急降下攻撃を仕掛けるサリナ。キューブは反応ができない。

 そして、縦一文字に線が走った。デスサイズがすぐに離脱する。

 ドドドォォ……!!

 収束エネルギーが暴発し、ピロシキ型は微塵に砕け散った。同時にキューブが動きを止める。

『まったく、あたしの健康なんて気にせずにたたき起こしてくれればいいのに』

 サリナが通信してくる。

「せっかくの寝顔が拝見できなくなるんでね」

『う〜〜わ、そういう趣味だったのか』

 俺の皮肉に皮肉で返す倉田。

「言ってろ」

 シートにもたれる俺。すると目の前に惑星が飛び込んできた。

「ナデシコへ。先頭体制解除。通常モードへ。」

 言って俺は睡魔に身を任せた。

 

 

To be continued

 

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