ヴァンドレッドsideX6

 

 

 

 

  拾三

 

 

「またえらい古風な場所ねぇ」

 来るなりバーネットがそうぼやいた。

「悪かったな。20世紀なんてこんなもんだよ」

 彼女たちが来る間、できるだけ聞き込みをしてみたのだが、あのガキどもはここいらではかなりの不良集団らしい。

 スリや恐喝は日常茶飯時。時には暴力沙汰まで起こして警察の厄介になったこともあるとか。

 しかし、全員が未成年のために罪は軽いらしい。そして、彼らの人数だが、ざっとみても100人いるかいないからしい。

 それから見ると、さっき俺たちに絡んできたのはその一部のようだ。

 そんな馬鹿連中が銃器を手に入れたら、何をするかまったく予想ができない。こうして街中で歩いているだけでそこら中から視線を感じるし。まぁ、メイア達がパイロットスーツだの、ドレスだのって姿だから目立って当たり前だが。

 と、目の前にいきなり子供が飛び出してきた。

「ん?あぁ!?」

「あ、てめ、さっきのガキ!!」

「うわあぁぁぁぁぁ!!」

「待てこの!!」

 その様子を見ていた目が別の建物の影にあった。

「こちらアルファ。ネズミが猫に接触。作戦開始」

 と、手に持った通信機に通信を送った。

『了解だ。お前はもういい。H地点へ向かえ』

「分かった」

 そいつの持っている通信機は里中たちのシャトルにあったものであった。

 

 

 里中たちが子供相手に悪戦苦闘している中、レジ店長ガスコーニュは暇をもてあましてナデシコ内をうろうろしていた。戦闘となるとデリバリーに急がしい彼女だが、普段はカードなどをしている。それにも飽きちょうどいいからと艦内をうろついているのだ。

「しっかし、デカイ船だねぇ」

 長楊枝を揺らしながらぼやいた。と、前方に分かれ道が見えてくる。格納庫を指す看板がある。

「右は第一、第二。左は第三、……え、第四格納庫だって!?」

 思わず掲示板に詰め寄ったガスコ−ニュである。彼女の知っているのはMSが置かれている第一格納庫。ヴァンガード、ドレッドのレジがある第二格納庫。そして、ニル・ヴァーナクルーの仮住居となっている第三格納庫である。

 この上第四格納庫まであるというのだから、彼女の驚きはうなずける。

「面白い。その第四格納庫とやら、拝ませてもらおうじゃないか」

 つぶやいて彼女は掲示通りに第四格納庫へと足を運んでいく。

 

 そして、彼女のたどり着いた先はとんでもない入り口だった。

「なんだい。コイツは」

 重々しい扉が前方に鎮座している。扉にはディスプレイとおそらく指紋照合のためであろうパネルがある。

「ハハ。あいつらこんなもの隠してたのかい……」

 言いながら扉の前へと立った。すると、沈黙していたディスプレイに光がともった。

「え?」

『指紋照合を行います。パネルに右手を当ててください』

 人間に近い音声で案内が流れた。 

「ふぅむ……」

 ダメ元でと右手を当ててみる。スキャナが彼女の右手の指紋を読み取っていく。そして、検索が行われると驚いたことに彼女のデータがヒットしてしまった。

「え、馬鹿な!?」

『検索終了。氏名、ガスコーニュ=ラインガウ。所属、ニル・ヴァーナ。階級、レジチーフ。身分確認、ゲートオープンします』

 とたんに轟音と共に、扉が開き始めた。上下のバーが左右に開き、蒸気が吐き出される。そしてゆっくりと扉が開いていく。

「…………」

 その奥は闇だった。だが一歩踏み込むと奥に巨大な何かが、外からの光に照らし出されている。ガスコーニュはあたりを見渡すと、壁面に照明のスイッチを見つけた。電源のレバーを目いっぱいに押し上げる。

 とたんに眩いばかりの照明が格納庫を照らし出す。

「つぅ。……こ、これは!?」

 蒸気が晴れ奥から姿を現した物体。思わず口を閉めるのも忘れた彼女が見たものは、巨大な「GP03デンドロビウム」であった。

 それだけではない。見渡せば、サイコガンダム、ラフレシアといった巨大MS・MAが収納されている。

「……パルフェが見たら泣いて喜ぶなコリャ」

 ぼやきつつ、キャットウォークをわたり、GP03の元へと向かう。正確にはデンドロビウムは「ステイメン」と呼ばれるMSが「デンドロビウム」というMAを操るという形になるだろう。彼女が向かったのはそのその巨大さから見ても小さい、ステイメンのコックピットである。

 試しに乗ってみる彼女だが、

「ドレッドとまるで違うねぇ、こりゃ」

 座席の下から操縦マニュアルを見つける。マニュアルの最後に起動ディスクが挟まっていたので、それを差し込むとマニュアルどおりに起動してしまった。

「ほうほう。なるほどねぇ。……え?」

 気がつけばハッチまで閉まろうとしていた。

「うわ、しまった!」

 一歩遅く、ハッチは閉まり機内の照明がガスコーニュの顔を照らし出す。

「あっちゃー、こんなつもりじゃなかたんだがなぁ」

 どうせ戦闘も無いだろうとガスコーニュは席にもたれて読書を再開した。

 

 そのころ、BCことブザムも第四格納庫へと足を運んできていた。同様に暇だったからだ。

「驚いたな。こんなところまであるとは」

 ガスコーニュと同じように閉まった扉の前に立つと、先ほどと同じアナウンスが流れる。

 やはりダメ元で手を当てるブザム。しばし、機械音が響き、

『検索終了。

 ブザム・A・カレッサ。所属ニル・ヴァーナ。階級 副長・参謀長。……』

「私のデータまで入っているとは……」

 そうつぶやいた彼女の表情が硬化する。アナウンスは続き、残りのプロフィールが読み上げられたのだ。

「…………!?

 まさか、彼らは一体何者だ」

 パネルを叩き、うなるように言うブザムであった。

『……本名、浦霞天明。所属、タラーク帝国特務諜報部。階級、中佐。

 身分確認。ゲートオープンします』

 

 ブザムが格納庫内に入ると明かりがついていた。むろんガスコーニュが入ってきたからである。

「……まったく、どこまでも驚かせてくれる」

 髪をかき上げつつ、つぶやく。彼女も同様にデンドロビウムの方へと進んでいった。

「本当に人間が扱えるシロモノなのか……、これは」

 コックピット近くまで来てブザムはキャットウォークからあたりを見渡す。

 ブオン!

「んっ!?」 

 いきなり背後で音がし、ハッチが開く。思わず腰の後ろへと手が伸びるブザムである。しかし、

「ガスコーニュ!?」

「わぁっ!? ……なんだい、BCかい。」

「何をしているんだ。こんなところで」

「お前さんと同じさ。暇つぶしにね」

「ふっ、なるほど」

 そして二人は浮遊フローターに乗ると、第四格納庫を移動し始める。

「しっかし、デカイ物ばっかりだな。ここは」

「巨大戦闘兵器ばかり集めているんだろう。

 確かに、厳重なセキュリティーが必要かもしれないな。」

「非常識な連中だなと思ってたけど、ここまでとは……」

 10機ほど大きなMSを見て再びデンドロビウムのところへとやってきた。

「しっかし、人間ていうのはここまでとんでもないものを作っちまうんだねぇ」

 なにげなしにそうつぶやくガスコーニュである。

「人間の進化は劇的だ。何かを求める限り、外へ出るのをやめようとしない。

 ちょうど我々のようにな」

「ハハ、確かに。さて、パルフェとカードでもしてくるか」

 言うと二人とも格納庫を後にした。

 

 

「やれやれ、どうしてああいう風になっちゃったのか理解に苦しむわね。」

 アイリスは子供を追ってどっかへと行ってしまった里中達を見送ってから一人ごちた。なにせ、追い始めたとたんにバイクに引っ張り上げられ、おちょくる様に逃げていったんだからまた……、それを走って追いかけようとする根性もすごいが。

 追いかけていった里中、サリナ、マリー、メイアがいなくなりアイリス達は現在別行動で探している途中だ。

「疲れた〜〜。」

と、ジュラが根を上げた。

「ほら、しっかりしてよジュラ。まだたいして歩いてないでしょ?」

「しょうがないじゃない。足張っちゃったんだからさぁ」

「ったく、女ってのは根性ねぇなぁ」

 ヒビキがつぶやく。 

 アイリスは周囲を見渡す。もしなにか……、

「あ、あれにするか」

『え?』

 アイリスの指差す先、そこにはレンタカー屋があった。

 

 レンタカーの中でも、5人乗りのオープンカーを選んだアイリス。珍し物好きのディータは助手席に乗り込む。後ろに左からバーネット、ジュラ、ヒビキである。

「はぁ、これがクルマって奴か。始めて見たなぁ」

「ゴーゴー!イェーイ!!」

 ま、4者4様の反応である。

 アイリス自身はバイクを乗り回している身分なので、4輪もお手の物だ。エンジンをかけ、発進させる。

「へぇ、結構速いじゃない」

 ジュラが感慨深げにつぶやいた。

「風がまともに当たるからよ。まだ50キロしか出してないわ」

 そういえば、あたしってまだ16だっけ。などと思い出す。

 しばらく、そうやって捜索を続けていたところいきなり背後からバイクが数台近づいてきた。追い抜くでもなく、距離を詰めるでもなく、一定を保っている。

「何かしら?」

 バーネットが後ろを見ながら言った。と、

「アイリス!とばして!!銃よ!」

 とたんに凄まじいまでの銃撃が車を襲った。

『きゃぁぁぁぁ!!?』

「このっ!! 伏せてて!」

 アイリスはアクセルを踏み込み、車をとばす。バイクの後ろに乗った連中も銃を乱射しながら追ってくる。おかげでレンタカーのフロントガラスが割れる始末。

「とうとうやってくれたわね!あのガキども!」

 ジュラの言葉も思わず汚くなった。

「もっととばせよ!追いつかれるぞ!!」

「5人も乗ってるのよ!何なら降りる?」

 ヒビキの野次を一蹴し、アイリスは可能な限り飛ばし始める。街中でいきなり銃撃事件が発生したので市民は逃げ惑い、建物の中に隠れていく。

「このままじゃ、市民に当たっちゃうわよ!」

 バーネットが叫んだ。

「OK!んじゃ町の外まで飛ばすわ。シートベルトをしっかりしてよ!」

 アイリスは、そういうと、転移呪文で自分の剣を呼び出した。

「封じられし風の精。汝の力我に与えたまえ……」

 短い呪文の後で、剣が淡く光を発する。それは車全体に広がる。突如スピードによる風が消え、スピードが上がり始める。

「何したの?」

 ディータが聞いてきた。

「風の呪文で車に対する空気抵抗をいくらか消したの。とばすわよ!!」

 ギアを上げ、スピードを上げる。バイクも負けじと追いすがってくる。

「さーて、面白くなってきたじゃない!」

 曲がり角に差し掛かり、アイリスはギアを一段叩き落し、ブレーキを一瞬だけ踏む。同時にハンドルを右に切り、すぐに左に一回転切った。

 車は右にすべり、ベストタイミングで右へと方向転換し道路へと入る。一般車も少ないからできた芸当だ。

 まぁ、今のでバーネット達が肝を冷やしたのは言うまでも無い。

『何だ!?今のは!』

 バイクに乗った少年がヘルメットの中で思わず声を上げた。

『追え!とにかく逃がすな。峠まで追い込むんだ!!』

 後ろに乗った少年が銃を持ち直しながら言った。その銃も確かに里中たちのシャトルに搭載していたサブマシンガンだった。

 

 

 

 ―To be continued―

 

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 寸あとがき

 

 いきなりですが、私最近になって「イニシャルD」に凝っております。

 そんなこんなで次のネタは、峠での5人乗り対バイク二台という形になるのは想像できるでしょう。

 「Race」の感動が今度は4輪になって蘇える(?)。請うご期待!!しなくてもいいけど。

 

 

 

 

2002/02/18