sideX8
拾五
ギャン!!ギュウン!!ギュワン!!
5人乗っていながらそれでおもなお非常識な速さを出すアイリスの車。追われているのはレイジともう一名の走り屋。
「くそっ!速過ぎるぞ、こいつ!」
追いつかれただけならいざ知らず、エンジンのパワーに物を言わせて横にならばれた。レイジの後ろに二台が並んでストレートを疾走する。ここで男――キョウジ――は横を見た。ドライバーを見たかったのだ。そして、驚愕した。
「お、女だと!?」
しかもその横にはもう一人乗っている。後ろはプライバシーガラスで見えにくいが数人が乗っている様子。
「……どこまでも、ふざけやがって!!」
キョウジはアクセルをベタ踏みし、回転数を上げる。彼の車は350馬力は出る強力な車だ。しかし、このコースでそんなことをすればどうなるか……、案の定コーナーがやってくる。彼の車はアウトにいるのだ。
「……くそっ!」
しかたなくアクセルを落とし、アイリスの後ろへと出る。その状態のままドリフトで突き放される。立ち上がりのスピードも尋常じゃない。
バンバン!!
「!?」
レイジは後ろから妙な音を聞いた。爆発音のようなそれは……、
「へっ、やってくれるじゃねぇか」
キョウジの車をパスして来たアイリスに素直に賛辞を送る。
「だが、これ以上は行かせねぇ!!」
レイジはこのコースのコースレコードを持っているほどの腕だ。コース取りもうまい。
「じれったいわねぇ、前の車」
ジュラがぼやく。
「無駄な動きが無いせいよ。やっぱり慣れてるからかしら」
バーネットが付け加える。
「…………」
運転しながらアイリスはどうやって抜くかを考えていた。コースが塞がれる様に走られてはアウトから仕掛けることになる。それでは無駄が出る。こいつ相手にそんなことをすれば突き放されると思った。
だが、チャンスはすぐにやってきたのだった。
レイジが車をドリフトさせ、コーナーに入ったときわずかに車体がぶれたのだ。
「ん?あれは……」
わずかだが、それが何かアイリスには分かった。
「ちっ、タイヤがタレてきやがった!
俺としたことが……!」
要するに磨耗して正確さが衰えてきたということだ。……確か。
レイジは焦った。ここでタレてなど来たらいつ刺されるか分からない。それに、この先のコーナーを抜けると峠の頂上まで一直線が続く。最高速で突っ込まれればパワーで負ける。だからといって妨害しつつ行けば車体をぶつける。
「……くそ、意地でも抜かせねぇぞ!」
レイジはコーナーへ突っ込んでいく。車体を滑らせ、一番スピードの乗ったまま抜けた。しかし、アイリスの車はオーバースピードで突っ込んできてから車体を滑らせる。そして……、
バンバン!!
爆弾のような音がしてアウト側の噴射口から衝撃波が飛び出し、車体を制御する。よって、レイジよりもより高速で抜けてきたのである。
そして、直線の始まり部分、二台は並ぶ。
そのころバイクはというとキョウジの後ろに迫っていた。負けを認めたキョウジは減速して走っていたのだ。
「何だ?あのバイクは……」
その時、いきなり崖の下からライトが照らされる。
「なん……!!」
慌てて急ブレーキをして止まった。バイクは驚きつつもその横を抜けていった。そして、崖の下から現れたのはシャトルだ。その横のハッチには里中がマシンガンを持って立っていた。
「マリー!速度このまま!」
操縦者のマリーに言って俺はマシンガンをバイクに向けた。
『マジかよ!?』
そして、ヘリから銃弾をばら撒く悪役のごとく俺は銃弾をばら撒いたのであった。無論向こうからも撃ち帰して来る。
しばしアクション映画真っ青の撃ち合いが起こり、
ガラガッシャァァァン!ざざぁぁぁぁ!
バイクが転倒、4人が放り出される。
「マリー、ストップ!前に付けろ!!」
「エアロモード!」
アイリスがいきなり叫ぶ。同時に車が脅威の変形を始めた。車体後部のウィングが立ち上がる。次に車体前部が変形し、エアロパーツに変形する。空気抵抗によって車体が浮き上がるのを防ぐためだ。そして、一番驚くのは車体の横から生えた翼のようなもの。
そして、アイリスはシフトレバーの横にある用途不明だった棒を倒す。同時にディスプレイが切り替わって各動力状況が表示される。
「各セクションオールグリーン。いっけぇぇぇぇ!!」
気合と共にその棒、ブーストレバーを押し切った。
『ブーストモード作動、エンジン限界までカウントスタート!』
電子的な声が車内に響いた。
とたん、ブレーキランプ部分が上下に開き、中からブースターが現れる。
ィィィィィン……、ドン!!
強烈な噴射と共にアイリスの車は一気に吹っ飛んで行く。
「な、なんだぁぁぁぁ!!?」
レイジはありえない車の行動に混乱して急ブレーキ、車体は横滑りしたが、何とか無事に停止した。
『何考えてるんだぁぁぁぁ!!』
後部座席の声が末尾さえ違うものの唱和した。
車は400キロを越えるスピードで吹っ飛び、車体の下からはときおり火花が起こっている。
「どこでこんなの思い付いたのよぉぉぉ!!」
叫びつつ突っ込むジュラに対し、
「どっかのアニメでやってたのよ!文句ある!?
それから黙ってないと舌噛むわよ!!」
やがて頂上が近づいてきた。一気に頂上に到着し、飛び出した。空中へ。
「な、なんだありゃぁぁぁ!」
峠の頂上にいたギャラリーは口々に謎の車に驚愕する。
しかし、それよりも驚いているのは車の中の人々だろう。アイリスは車体に生えた翼を制御して空中を飛行しているのだ。ありえないにも程ってモノがある。
そんなアイリスたちの前にシャトルが見えてきた。後部ハッチを開いた先にいるのはサリナだ。
「メイア、速度をもう10下げて!」
いち早くアイリスの車を発見したサリナは車を収納しようとしているのである。簡易固定装置が装備されているのでたいていの車は固定できる。
飛んで来るアイリスの車と相対速度をあわせると、ゆっくりとシャトルの中へ。翼を消し、タイヤを停止させる。
ギャギャギャ……!!ガシャガシャ!
車がシャトルに滑り込み、固定装置が作動しタイヤを固定する。
「固定確認!
アイリス、お疲れ様!」
窓を開けるアイリスに声をかけるサリナ、しかし、
「ねぎらいならあたしより気絶してる彼らに言ってよ」
そう、度重なる非常識と衝撃に4人が全員とも気絶していたのである。ちなみにディータは吹っ飛ばした時点で脳震盪でやられている。
その後、銃を回収し、合流した俺達はその星を後にする。
その星にあった不良グループの壊滅と、峠に多大な迷惑をかけたこと、そしてレンタカーを持って来てしまったことを何とか忘れようととしながら……。
―To be continued―