sideX9

 

 

 

 

  拾六

 

「やれやれ、やっぱり元の席ってのは落ち着くねぇ」

 マグノがそうぼやいたのはニル・ヴァーナ内だ。修理がやっと終わり全システムは復旧が終了した。第三格納庫から戻ってきたクルー達は片付けに没頭している状態である。 

「礼を言う。お前達のおかげだ」

 ブザムもブリッジを見渡しながら様子見に来ていた俺達に言った。

「ま、困ってる人を見捨てては置けませんからね」

「かっこつけてからに……」

 突っ込んだのは浜崎である。

「お前はいい加減に……」

 といい掛けた時、

「前方から高エネルギー反応!!」

 アマローネが叫ぶ。

『!!?』

 その声に一瞬遅れて、はるか彼方からビーム砲が数条行き過ぎた。

「ぜ、全艦戦闘態勢!!」

 ブザムが慌てて叫ぶ。例の星から航行してきてまだ一日である。この宙域というのはそんなに治安(?)が悪いのだろうか。

 と、砲撃から少し遅れて通信が来た。

『何者だ!この宙域をどこのものと思っている!』

 通信に出たのは軍服をバリッと着込んだ女性だ。いかにも仕事一筋といわんばかりである。

「そっちこそいきなり攻撃してくるとはどういう了見だい?」

『我々は惑星メルキオ正規軍である。この宙域に入った者は誰であろうと、攻撃の後に誰何するものとされているのだ。

 恨むならのこのこ入ってきた自分らを恨むんだな。』

「敵艦確認!巡洋艦クラス5、母艦クラス3!」

 ヴェルヴェデールが報告する。ニル・ヴァーナとこちらにしてはそこそこの相手になるが、今はこんなところで足止めを食うわけには行かない。

「我々はメジェールの者だ。ここを通ったのは母星への近道だからだ。通過を許可していただきたい。」

 ブザムが至って事務的な応答をしようとする、……が

『……却下だ。我々の星メルキオはメジェールと姉妹星。なぜ男が乗船しているかは知らんが、そこのケダモノを放って置くことはできん相談だ。貴様達全員を拘束し取り調べる。』

『はぁっ!!?』

 ニル・ヴァーナに乗っていた全クルー、及び俺達はいきなりの事実に驚きを隠せなかった。

 ――何!?メルキオとメジェールが姉妹星だぁ!?

 マグノでさえいきなり突き出された事実に絶句した。

『なお、勧告を無視し抵抗した場合、命の保障はしない。これからドッキングする。』

 そう通信が来たのと同時にいきなり別の方向から数条のビーム砲が飛来した。

「今度は何だ!?」

「別方面から新たに巡洋艦が接近中です!」

 そして再びまったく別の通信が入ってきた。

『こちらは惑星タナトス辺境警備隊である!そこのメルキオ艦隊及び不明艦……!?』

 通信を送ってきたのは男である。しかし、通信画面を開いたとたんに唖然とした。

『貴様たち、メルキオの者か! そこにいる同胞達はどうした!!』

『はぁっ!?』

 二度唖然となった。

『引いてもらおう、この船は我々が押さえたものだ。男どもに譲る気は無い!』

 メルキオ艦隊からタナトス艦隊への通信が聞こえる。

『メルキオの魔物どもが!我々とて引くわけにはいかんな、我が同胞を見捨てたとあっては兄弟星であるタラークにも示しがつかん!!』

『…………』

 どうやら、この二艦隊。

 メジェールとタラーク同様、男と女が別れて暮らす星らしい。こんな星がほかにもあったなんて!

 

 どうやら、いやなところで母星の兄弟星に行き着いてしまったらしい。

 

 

 ニル・ヴァーナとナデシコ内はパニックに近い慌しさになった。結局、メルキオ側で女性達及びニル・ヴァーナを、タナトス側で男性達及びナデシコを引き取る算段が険悪な状況の中決定し、目的を果たすべく接近してくる。

 そして、こちの船の中では荷物をまとめる人たちで右往左往している。

「システムの封印作業急いで!」

「荷物をまとめた人からゲートに集合して!」

「あたしのドレスどこいったのぉ!?」

 そんな感じで作業が進む中、バートのみがニル・ヴァーナに残るように言われた。

「な、なんでですか!?」

「決まっている。お前しかこの船を操れないからだ。脱出した際にナデシコと合流していたんでは追いつかれる。」

「そ、それはないっすよお……」

「ふっ、案ずるな目隠しはしておいてやる」

 言ううちにもバートの上方ゲートは黒ペンキらしき物で塗りつぶされようとしている。

「……はぁ、かんべんしてくれよぉ」

 

『全機体及び整備システムは封印完了。』

 通信機からDJの声が入ってくる。

「OK。ブリッジ、そっちは?」

『こちらブリッジ。もうすぐ終わります!』

 ナデシコの封印はもうすぐ終わりそうだ。何とか間に合ったか。

『レジは封印終了。そっちはどうだい?』

 ガスコーニュが通信してきた。

「もうまもなくだ。……」

 傍らのブザムが答えようとしたとき、

「封印終わりました。全システム、ダウンします。」

 言ってすぐにブリッジには暗闇が落ちた。ついているのはペークシスの結晶から発せられる光と、非常灯だけである。

「メルキオ艦がドッキングします!」

 さて、急ぐか。

 

「全男性クルーに告ぐ。タナトス艦がドッキングしたら順次乗り移ること。一切の抵抗はしないでください。ただし、相手が暴挙に出た場合はこれを認めます。」

 マリーもブリッジから全艦に向けて発令している。特に注意するのは女性陣だ。女を魔物としか思っていない連中が、女性クルーを見つけたら何をするか分かったものではない。

「次いで女性クルーに告ぐ。総員直ちに第三格納庫へ移動。レベルAのセキュリティをかけ留まる事。私も行きます。

 ……ゲートに『女留置中』とでも書いて張ってください。」

 ブリッジに苦笑が漏れた。

「マリー艦長。」

 壮年のクルーが話しかけてきた。

「私が艦長の役を。さ、お早く」

 すでにブリッジクルーは格納庫へ行かせているので、男性クルーしかいない。

「すみません。必ず助け出しますから」

「何をおっしゃる。これもまたスリルですよ」

 苦笑いを浮かべるクルー。そんなクルーに礼を言い、マリーは第三格納庫へと急いだ。

 

 

 ドッキングポートが開くと、アーマースーツに身を固めた一団が無言で入ってきた。

 リーダーらしき一人が手で合図をすると、どやどやと銃器を持ってなだれ込んでくる。

「ちょっと、抵抗なんかしないわよ。危なっかしい」

 ジュラも手錠をかけられご立腹の様子。

 戦闘員は廊下を経て、格納庫、レジ、食堂、ブリッジと占領していく。

 ……カツカツ。

「…………」

 バートの上に戦闘員の一人が乗った。息を潜めるバート。どうにか立ち去るのをモニターで確認すると大きく息を吐いた。

「かぁぁ、心臓に悪いよ」

 

「んじゃ、宜しく頼むよ。」

「ええ、まかしといて」

「大丈夫よ。誰に聞いてるの?」

 俺達は監房にいた。ビームシールド一枚を隔てて。

 元々捕虜の俺達(俺は違うぞ)は再び捕虜の役を演じることとなった。苦肉の策といえばそれまでだが。

 サリナ達に向こうの方を頼み、俺は壁にもたれて座った。

「余裕だな。よほど信頼していると見える」

 ドゥエロが言ってきた。

「当たり前だ。パートナーなんだからな。ナデシコの倉田達もやってくれるさ」

「パートナー?」

「相棒だよ。ヒビキもその辺心配しとけよ」

「だ、誰の話だ!」

 言いつつ赤面するところを見れば誰かは予想できるらしい。

 

 

 ドカドカと踏み込んできた一団は、ナデシコの男性クルーたちに手錠をかけると、次々に乗り移らせていく。

 そして、次に各セクションを占領し、ブリッジへ。

「私が艦長だ。乗組員の保護を感謝する。」

 予定通り信用したようだ。すでに封印の施されたブリッジは相手にせずに奥へと進む一同。

 

「来た。」

「よけいなことは話すなよ」

 倉田と浜崎は第三格納庫の前にいた。マリーを中に入れたあと歩哨役として立っていたのである。

『ここはなんだ?』

 やってきたタナトス兵が言う。

「はっ、捕らえた女どもを収容している場所であります。」

 兵はゲートに申し訳程度に書かれた『女留置中』の張り紙を見て、

「よし、ここはそのままにしてお前達も来て貰おう。」

「分かりました」

 兵達に連れて行かれる様を、格納庫内のモニターで見ていたマリーは静かに無事を祈ると、中にいる女性クルーたちに言った。

「次はメルキオ艦隊が接舷してきます。全員で乗り込みますので準備を」

「……あまり気を張らなくても大丈夫だよ。あたし達だって柔じゃないんだからさ」

 DJが声をかけてきた。それに答える数人のクルー。

「……ありがとう、ございます」

 マリーの中に感謝の念があふれた。

 

 

 バチバチ……!

 ビームシールドが破壊され、俺達は牢の外へと出た。

「無事か。」

「あぁ、なんとかな」

 ドゥエロが答えた。

「しっかし、よく肝を食われなかったもんだ」

 聞いてくる兵士に俺は言った。

「食い物は間に合っていたようだぜ」

 

 ナデシコにメルキオ艦隊がドッキングし、格納庫から“助け出された”マリーたちはメルキオの船へと移っていく。

 そして、ニル・ヴァーナはメルキオが、ナデシコはタナトスがそれぞれ曳航していった

 

 

   拾七

 

 メルキオ側の軍事法廷では、広大な広さの法廷内に約200人全員が集められ、ひしめいている。

 100人前後の陪審員が、球場の観客席のごとくぐるりと取り囲み、今被告席にはサリナが上げられていた。

「名前は?」

 裁判長が何者をも寄せ付けないような声で言う。

「サリナ=ハイランドです」

「あなたの職業は?」

「ナデシコのパイロットですけど」

「あなたは後ろの海賊マグノ一味に手を貸し、海賊行為を行った事を認めますか?」

 いきなり決定的なことを聞いてきた。

「認めません」

 それに対してサリナの答えは早かった。

「ついでに言うなら後ろの方々は単なる渡航者です。根拠のない質問はしないでくださ……ッ!」

 するといきなり横から鋭い痛みが走って、サリナはひざをつく。

「厳粛な法廷でその発言は何だ!」

 横に控えていた警備がスタンガンらしき物を使ったらしい。クルーたちにざわめきが走る。

 しかし、サリナはすぐに立ち上がると、

「この法廷はすぐに暴挙に出るんですか?逆に訴えますよ」

 そう言い放った。ほとんど電撃のダメージは受けていない。

 どういうわけかコートを脱ぐようには言われなかったので、着ていたのだ。コートは耐電性になっているので電撃は通じない。

 警備の女性がもう一度スタンガンを構えたが、サリナの視線が刺さると動けなくなる。指向性の殺気を放ったからである。

 視線を裁判長に戻すサリナ。ようやく裁判長が続けた。

「根拠としてはあの船の装備です。船があれほどの兵器を搭載しているのは、海賊かそれでなければ軍艦ということになります。しかし、軍艦ではない様子。ならば必然的に海賊ということになりますね?」

「あの船は元々地球から移民するために、軍艦を改造して作ったものです。むろん、兵器などを満載しているのは当然のことだと思いますが、分かって頂けますか?」

 陪審席にざわめきが走った。

「なるほど。しかし、男達の兵器であるヴァンガードまでもが搭載されているのはどうしてですか?」

 サリナはチラッと後ろのマグノとブザムを見た。うなずくマグノ。

「ちょっとへまをしてしまいまして、男側の船とくっついてしまった次第なんですが」

 沈黙。

「……それこそ、根拠の無いことだと思いますが?」

 裁判長が言う。

「信じてもらいたいとは言いません。どちらにせよ、あれがあって不都合があるんですか?」

「……よろしい、いいでしょう。では続いて向こうが引き取った船に関して聞きます。」

 ナデシコのことだ。

「あの船は誰のものですか?」

「私達の物です」

「海賊の物と理解してよろしいのですね?」

「ちがーう!!こっちに捕まったクルー、そして、タナトスにとっ捕まったクルーのものです!」

「叫ぶな!!」

 またスタンガンを使おうとする女性をギラリと睨んでからサリナは視線を戻す。今のだけで、完全に萎縮する警備員。

 ざわめきだす陪審員席。それはサリナの意外な回答に対してだった。

「ほう、ではあなた方はタナトスの男たちと共に操艦していたと?」

「その通り。」

 ナデシコクルーの中から、「そうだそうだ!」といくつか声が上がった。

 裁判長は槌を叩き、

「静粛に!!そんな戯言を誰が信じると言うのです。」

 

 質疑はまだ続いているが、結局のところ埒があかない。

「ほんと、メジェールもこんな感じなの?」

 ミスティが隣のメイアに小声で言った。

「そうだな。似たようなものかもしれない」

 その目には静かな怒りが浮かんでいた。他のクルーもメイアほどではないものの、明らかに唖然として、サリナと論争を繰り広げる裁判長を見つめている。

 確かに彼女らもニル・ヴァーナと言う環境を体験していなければ誰も不思議には思わなかっただろう。それほどまでに生死をかけて生き抜いてきた男達との絆は深くなり、結果、仲間との壁を作ったのである。

「まったく、こんな事をしている間に奴らは確実に迫ってきてるってのに……」

 ガスコーニュにも焦りが浮かんでいる。そんなガスコーニュにマグノは静かに言った。

「ここで争いを起こしても少しもいい事はないよ。今はただ耐えるんだ。いずれチャンスは来るさ。」

「しかし、あまりのんびりもしていられません」

「あんたもだよBC。逃げられるさ。あたし達には無理でも、向こうの連中は無鉄砲が好きみたいだからね」 

 

 

「ヘーックショイ!!」

 暗い牢獄の中、俺はくしゃみをした。

「ち、ろくな取調べもせずにいきなり終身刑だと?ふざけやがって」

 ヒビキが愚痴をこぼした。

「愚痴ったって何も始まらないぜ。とにかく、逃げ出してメルキオに突撃だ」

 俺はコートの中からA4型端末を取り出す。

「それは……、どこから出した!?」

 ドゥエロが驚いて聞いてくる。まぁ、普通の反応だろう。所持品は全て没収されているのだから。

「そこんところ驚いてたら、こっから混乱しっぱなしになるぞ。さてと」

 端末を操作して、俺はこのタナトスの地図を出した。

「無線リンクでこの星のだいたいの地図を出した。俺達と他のクルーはここだ。」

 言って、俺は彼らにも端末を見せ、赤い光点を表示したところを指す。

「ここを破って外に出るだろ?ここからあたりは何もない荒野を、ひたすら1時間は走らないとシャトルのあるポートまでは、たどり着けないな。しかも、無人偵察機があたりを巡回して警備は万全ときてやがる」

「では、強行突破は難しいな」

「いや、そうでもない。」

 俺は、端末をこの留置場のコンピューターへ接続した。今ではほとんどのコンピューターは何らかの形でネットへと接続されている。それにちょっと入り込むのはさほど難しいことではない。ファイルをあさり、偵察ドローンの管理ファイルを探す。

「おい!……看守が来たぜ!」

「……!」

 ヒビキが小声で言った。

 カツカツカツ……。

 ゆっくりとした足取りで看守は目の前を通り過ぎていく。俺はすばやく端末をドゥエロの陰に隠し難を逃れる。

「……よし」

「それでどうするつもりだ?」

「あぁ。偵察機をコントロールしてるのも、突き詰めれば埋め込まれたチップが行ってることだからな。どこかにそれを操作してる場所が……、おし、見つけた」

 画面に現れた数字の羅列。二人はあまり詳しくないようだからピンと来ないだろうが、俺はソフトを起動してその数字を解析する。

 すると、ダーっと流れるだけだった数字が整理され、図式化される。各偵察機の稼動状況だ。

「……ククク、さあて、どういたぶってやろうか」

 メガネの奥で不気味に笑う俺に、二人は少し引いた。

 

 

 留置場に突如として警報が鳴り響いた!外部からの襲撃があったからだ。

「何事だ!!」

 留置場の責任者が怒鳴る。

「判りません!外部からの襲撃だと思われますが、監視塔がやられた模様です!!通信ができません」

「外部カメラが全て破壊されました!外の状況を把握できません!」

「くっ!動けるものに武装させ、排除に当たらせろ!」

 通信を送る後ろで、責任者はぼやく。

「くそ!偵察機は何をしていたのだ」

 

 建物の外に出た、10名ほどの警備員達はそれぞれマシンガンなどで武装していた。そして、その光景を目にした。

「……なんてこった。ありゃあ」

 その留置場には二つの監視塔があった。しかし、その両方がまさに壊滅していた。外から見ただけでも判る。

 強化ガラスが微塵に砕かれ、煙が浮かんでいる。まるで銃撃を受けたようだ。それも四方から。

 その時、彼らの上に偵察機がやってきた。偵察機は円盤状になっており、カメラとサーモセンサー、ナイトビジョンと二連装のマシンガンを装備した、偵察・排除用の偵察機である。

「くそ、今の今までどこに行ってたんだ?あのポンコツ。

 行くぞ!!」

 仲間を叱咤して、リーダーは監視塔へと足を向ける。その時、

 ダダダダダ……!!

 予想しなかった方向からマシンガンの掃射が来た!!

「くそっ!!」

「ぎゃぁぁぁあ!」

 一人が不幸にも弾丸の直撃を受けた。

「くっ、いったいどこから……、!!?」

 空を見上げてリーダーは絶句した。偵察ドローンがこちらへ砲身を向けているではないか。

「まさか……、馬鹿な!」

 マシンガンの爆音が声を掻き消した。

 

 

 ちょうどその頃、衛星軌道上で係留されていたナデシコに変化が起きていた。

 誰もいないはずのブリッジには「封印」のコミカルな文字が躍っていたが、「アクセス」に切り替わり、「封印解除」、「起動」と変化し、ブリッジに明かりが灯る。同時に各システムが復活し始めた!

 

「何だ!?誰が乗っている!!」

 監視員が驚愕の声を上げた。いきなり無人のはずの艦が起動し、タナトス本星へと降下を開始したのだ!

「どういうことだ!」

「まさか、まだ誰か乗っていたのか!?」

「撃ち落せ!」

「無理です!!」

 監視員達が騒ぎ立てる中、ナデシコはゆっくりとシールドを展開し、降下を始めたのであった。

 

 

 留置場の中は騒然となっていた。なにしろ偵察ドローンがハッキングされ、逆に襲い掛かってきたのだから。

「だめです、完全に制御を奪われました!」

「こちらの命令を受け付けません!!」

「えぇい!どこから操られているのか分からんのか!?」

「無理です!解析に時間がかかりすぎます!」

「くっ、……しかたあるまい。所員に完全武装させ円盤を掃討せよ!!」

『了解!!』

 

 監獄の中もそれなりにうるさくなっていた。なにしろ、偵察ドローンの数機が中に入り込み、あたりをウロウロしているんだから。

「毎回毎回驚かされてきたが、これは肝を抜かれる思いだ」

「非常識にもほどってもんがあるぞ……」

「いやいや、お褒めに預かり光栄です」

「褒めてねぇよ!」

 端末を叩きながら、言い合う俺とヒビキ。一応ドローンのコントロールはこっちに移した。ついでに向こうのアクセスも断ち切っておくか。あと、各監房のレーザー監視装置も解除して……、OK!

「さあて、……そろそろ、行動開始と行くか」

 俺は立ち上がった。

「よし、んで?どうするんだ」

 ヒビキ達も立ち上がる。

 俺は声を張り上げて叫んだ。

「総員!!!

 脱出ぅぅぅぅぅぅっ!!!!!!」

『うおおおおおおおおおおお!!!!』

 とたんに声が返ってきて、バキだのドカだの、ベキだのいやな音が聞こえてきた。

「……。おい、まさかあいつら」

「今更愚問だぞ。ヒビキ」

「…………」

「こっちもさっさと出るぞ!」

 そういって、俺は鉄格子の鍵部分を蹴り飛ばした。

 バギィィ!!

 鈍い音を立てて鍵がひしゃげてドアは開いた。

『やれやれ……』

 二人同時につぶやいたのだった。

 

 

 変わって、サリナ達。4時間後。

 メルキオ宇宙辺境刑務所にマグノ達は移送された。無骨な鉄骨がむき出しになっており、中心部と比べたら雲泥の差の汚さだ。

「ったく愛を感じないよね。あの船はさぁ」

 パルフェが移送してきた船に対して文句をたれる。護送してきた船も今にも壊れそうな船だったのだ。それ二台ギュウギュウ詰めに分乗し、ここへと運ばれてきたのである。

 刑務所の廊下を歩くうちに、両側の監房から鋭い目で睨みつけてくる受刑者達。それに怯えるアマローネ、ベルヴェデール、セルティック達。逆に睨み返すジュラ、バーネット、ミスティ。平然と歩いているのは、マグノ達とナデシコクルーだった。

 各監房へと入れられ、とりあえず静かになる一同。

「さて、あの子達の起こす行動を待ってましょうかねぇ」

 壁に背を預け、いきなりリラックスするマグノ。

「お頭、そんなのんきな……」

「よく言うだろ?急いては事を仕損じる、ってさ。」

「しかし、彼らがそこまでしてくれるとは思えませんが……、それに」

「そこら辺でやめときなよBC。」

 ガスコーニュが制した。

「どの道、捕まったあたし等にできることは、待つことぐらいなんだから、休ませてもらうさ」

「……はぁ」

 ブザムはため息をつくと、それ以上何も言わなかった。

 

 向かいの監房のサリナ達は早くも行動を起こしていた。アイリスが懐から出したメガネをかけて、ビームシールド発生装置をいじくっている。隠し持っていたツールで器用に表面を外すと、メガネのつるから伸びた線を中に入れた。すると、線はひとりでに中をひた走り、通信バイパスを見つけ、自身を接続させた。

 『通信可』のマークが表示され、アイリスは早速ハッキングを開始する。これは脳波リンクで動作するヘッドセットで、里中も同じようなものを使っている。そちらはメガネ自体に付加したものだ。

「いけそう?」

「う〜ん、ビームシールド発生システムは簡単にいけるから置いといてと、面白いから司令部の無線を覗いてやれ」

「あんまり遊んでないでよ?」

「わかってますって」

 司令部のメインコンピューターに侵入し、色々と漁っていたアイリスだが、

「ん、……刑務所の地図発見。と」

「お、やったじゃん」

「それで〜……と」

 ファイル漁りをやめて、通信を傍受し始めるアイリス。しばらく聞いていたアイリスだったが、

「皆準備させて。里中君たちが動き出したわ」

 サリナを振り向き静かに告げた。

「OK」

 サリナは、懐から呼び笛を出した。と、言ってもこの笛の周波数はかなり高い。ナデシコクルーだけが聞き取れる高周波数帯を使っているのである。サリナは、それを一定のリズムで数回吹く。とたんに刑務所内の空気が重みを増した。

 

 

「全艦!第一戦闘態勢!!」

 刑務所を脱獄した俺達は、円盤に軍の足止めをさせている間に高度3千メートルまで降下して来たナデシコに飛行術で移動した。むろんヒビキやドゥエロはクルーにしがみついてだ。ナデシコのハッチから乗船した俺達はすぐに持ち場につく。まずは上空に待機するタナトス宇宙軍を煙に巻くことである。俺と、雄、隆の3人は第四格納庫へと駆け込んだ。今回に限っては遠慮などしていられない。

 俺はGP03デンドロビウムに、雄はノイエジールに、隆はノイエジールUに乗り込んだ!

「こちらデンドロビウム里中!起動確認!」

「ノイエジール確認!」

「ノイエジールU確認!!」

『亜空間ゲートスタンバイ!!』

 この第四格納庫は4次元世界に部屋を作って組み込んだようなものだ。ここから出撃するにはそれなりの亜空間を使わないといけないのが少々の難点である。

『ナデシコ現在急速上昇中!5千、5千5百、6千……!』

『大気圏離脱まで30秒!!』

 俺は通信回線を開いた。ニル・ヴァーナに残っているバートに向けてだ。

「おい、聞こえるか?」

『zzz……』

 …………、寝てる??

「おい、こら!起きろ!!」

『のわぁぁぁ!!?……なんだよ、ったく、あぁ、あんたか』

「生きてたみたいだな。これからそっちに行く。動けるようにしとけよ」

『ヘイヘイ』

『タナトス星大気圏離脱!!前方1千敵艦隊を確認!!』

「行くぞ!亜空間ゲートオープン!」

『亜空間ゲート開放!各ジョイント解除!』

 機体前方に円形状に空間のゆがみが発生し、そこにゆっくりと機体を滑らせていく。

 

 宇宙空間から生えてくるように俺達の機体は発進した。その大きさはナデシコの半分以上だ。

「な、で、でけぇーー!」

「こんな物がまだあったのか」

 ブリッジで成り行きを見守っていた二人は驚愕の声を上げた。

 

「ナデシコ、シールド全開、最大船速!!」

 命令と同時にナデシコはシールドを張り、全速力で艦隊へと突っ込んでいく。近道としては艦隊のど真ん中を突破する必要があるのだ。

「行くぞ!里中!倉田!」

「遅れんなよ!!」

 ノイエジールの二人はナデシコを超えるスピードで艦隊へと突撃を敢行する。俺もそれに習って主砲を構えつつ突っ込んだ。

 

「全艦戦闘態勢だ!」

 タナトス辺境警備隊と銘打たれたその艦隊は前方に降下し、そしてまた戻ってきたナデシコを射程に捕らえていた。

「おのれ、やつらめ。やはり女どもに毒されているとみえる。

 皆の者!心してかかれ!!」

「艦長!何か巨大なものが3つ、つ、突っ込んできます!!」

「何!?」

 そのとたんだった、

 ゴウゥッ!!

 旗艦の横を強烈なビームの槍が貫きすぎたのは。

「くっ!何だ!」

「敵からの攻撃です!!」

「えぇい、打ち返せ!!」

「無理です!!早すぎて照準が定まりません!!」

 ゴアゥッ!

 言ったのとほぼ同時に最高速で突っ込んできたノイエジールが横を通り過ぎた。音がないはずの宇宙でもその迫力や推して知るべしである。

「あ、あんな物を何処に隠していたのだ……」

 その大きさと速さに、艦長は呆然とつぶやいた。

 

 ―To be continued―

 

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2002/04/30