Gunslinger Girl
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a sling shot
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アイリスはその頃とっとと外に出ていた。お間抜けな連中が位置についているうちに変装してホテルを出たのだ。変装と言っても完全に"変身"に近い。姿格
好も全く違うおっさんに化けていた。駄目押しで伊達メガネまでかけている。
目的は当然自分に向かってきた連中の調査と排撃。ホテルの裏に止まっている怪しさ爆発といわんばかりの連中のバンにまず接近した。
バンに音も無く接近する。プライバシーフィルムを張っていないせいで中が丸見えだった。運転手が一人しかいない。念のために、眼鏡に仕込まれたサーモグ
ラフィで後部も見たが、完全に一人だ。
堂々とバンに近づくと、運転席の窓を叩いた。
「何だ?あんた」
無用心に窓を開けて、男が言った。アイリスは銃を引き抜くと、男のこめかみに突きつけた。
「降りろ」
「な、何の真似だ?」
「無駄話はいらん」
ドアを開けると男を引き摺り下ろす。男の全身を改め、銃、無線、その他貴金属まで奪い取った。それが終わると、今度はどこからか結束バンドを取り出す
と、男を後ろ手に縛った。ついでに足も。その間銃は突きつけたままなので男は声も出せない。
「貴様……どこの者だ」
鮮やか過ぎる手つきを知ったのか男が問いかける。
アイリスは最後にボロ布で猿轡をかまし、近くのごみ置き場に男を放り出す。
「あんた達の良く知ってる人さ」
コートの中に全てを収めると、今度は車のバッテリーを外し、潰す。おまけ代わりに窓にサインペンで「甘すぎよ」などと書いてみる。
「後は……罠にかかったお馬鹿の顔でも拝みに行きますか」
銃をしまうと、裏口から静かに入った。
非常階段を上っていくうち、泊まっている階に人の気配がした。
気にせずに上っていくと、なにやら雑談をしている男が二人。社員だと思うが、こんな時間にこんな場所で雑談と言うのは目に見えて怪しい。
「おっと、失礼」
上の階の客だと思ったのか、男の一人が身を避けた。伊達眼鏡越しに男の顔を見やると、そのまま上へと上がっていく。すぐ上の階で階段を出ると、すぐに伊
達メガネに仕込んだ高性能コンピューターから検索を開始した。
まぁ、検索と言うより手当たり次第にハッキングするわけだが、以外にもすぐに検索が終わった。
「『社会福祉公社』……作戦2課担当ジョゼ……」
検索で得たのは、政府のコンピューターに記録されたデータだ。写真つきで経歴などが載っている。だが、コンピューター自体が古いのか、黒バックに緑の文
字と言うのが頂けない。
まぁ、ソレは置いといて。社会福祉と名乗る慈善団体に"作戦"という部署は何なのだろうか。
作戦と名の付く以上何らかの荒事を扱っているはずだ。コイツらも中々裏世界の住人のようである。
「ま、相手が誰だか判ったから今日はいいか」
アイリスはポケットからスイッチを取り出すと、ピッと押した。
ピピピー!
音が鳴ったときにはどうなるかと思ったが、どうやら何らかの原因で機能が停止したらしいと言うことはわかった。
トリエラが恐る恐るドアを開け、何事も無く外に出られた。
「ジョゼさん」
『どうした』
「爆弾が停止して、外に出られました」
『そ、そうか。目標は?』
「やはりいません。全室調べましたけど」
『先に逃げられたな』
『撤退しよう。戻っていなさい』
『…………』
撤退するためにバンに戻ってきたまではいい。だが、運転手が縛り上げられ車は走れない、おまけに窓ガラスには『甘すぎよ』の文字。
ガン!
ジャンが車のボディを殴りつけた。
「おい、ジャン……」
「ジョゼ、今までにこれほどの侮辱を受けたことがあるか?」
「え?」
「完全な奇襲のはずだった。それがどうだ。手玉に取られただけでなく、逆襲してきた。これ以上の侮辱があるか」
「ジャンさん……」
リコがつぶやく。
「とにかく、応援を呼ぶしかない。処理班も呼ばなきゃいけない」
「くっ!」
ジャンはやり場のない怒りに歯軋りした。
「で、やられて戻ってきたわけだ」
公社での会議。のっけから彼らのボスはそう言った。
『……………………』
誰も答えない。答えようが無いほどに完敗を喫しだのだ。
爆薬の解除は行われたが、大半がブラフ(偽物)だった。中身がからだったり、中に「バカ」などと書かれており、処理班が地団駄を踏んだ。そして、残りは
完全な本物のセムテックスだ。だが部屋の隅に置かれており、皆どころか3人を吹っ飛ばせたかどうかも怪しかった。
「しかし……これは由々しき事態だ」
ため息が洩れた。
「これ以上関わるのが怖くなってきたな」
「あぁ、公社始まって以来の事件だ」
会議の席にいた者達がそう漏らした。
「課長、提案があります」
ジャンが立ち上がった。
「何だ」
「奇襲が効かない相手だということはよく分かりました。ならば少しひねりを加えた作戦で行くべきかと」
「具体的には?」
彼らのボス、ロレンツォも頭ごなしに否定はしない。作戦指揮を執るわけではないが、作戦の提案を秤にかけているのは彼なのだ。
「"義体"を囮に目標に接触させ、任意地点まで誘導します。人員を配置し、その地点で襲撃すれば必ず……」
「待て、ジャン!あの子達を危険にさらす気か?」
「そうだ。それには賛成しかねる!」
ジョゼとヒルシャーの二人がさっそく反対意見を出す。
「ならばどうする!我々は二度も出し抜かれたんだぞ。このまま黙って見過ごせば信用問題になる……」
「その辺にしておけ」
ロレンツォがジャンの話を切った。
「いいだろう。その立案を許可しよう」
『課長!?』
「ジャンの言うとおり、義体はいまだ不完全な状況で周囲の風当たりが強いのも承知している。少々のリスクは伴わなければならん」
そう、公社の2課は現在微妙な位置に立たされているのである。義体というアンドロイドの導入はまだ試験段階に過ぎないのだ。
条件付けの問題、義体の強度の問題、精神面の問題、エトセトラ。
「ならば、すぐに作戦の立案をいたします」
翌日。某時刻、ホテル外。
偽名と変装でとった二部屋目に泊まったアイリスは、ホテル裏でさっさと変装を解くと、通りを歩き始めた。
まるで襲撃して来いと言わんばかりの行動だが、裏社会を生きる連中にとってこういう行動が一番困るのである。
公衆の面前で事を起こせば、かならず誰かが知る。それは裏社会も同じであり、下手をすれば覇権争いの引き金にさえなったりする。
アイリスだって何も考えずに歩いてるわけではない。長めのジャンパーの下にはきっちりと銃が収められているし、無線傍受のためのイヤホンが耳に収まって
いる。
適当にその辺をぶらついた後に町の中心部へ移動し、ブティックをひやかし、ファーストフードを食べながら、暇をもてあましていた。
朝っぱらから襲撃が来るかと思えば、何を慎重になっているのかさっぱり来ない。おまけに無線に入ってくる会話にもそれらしき物はない。全周波数を受信す
ることができて、シークレット通話も傍受することができる便利品だが、通信そのものがないのではさっぱり役にたちゃしない。
「諦めた……って事はないんだろうけど」
住宅街の密集地。そこに作られた小さい公園のベンチで子供達が戯れる光景を見ながら、アイリスはつぶやいた。
(――ここに住んでる子供たちは何も知らないんだろうな。)
見た目の世界はどんなに良くても、その水面下では騙し合いや化かし合いが続いている。知らない場所で誰かが死に、理解できない理由で誰かが犠牲になる。
あるいは、子供達までが戦いに駆り出される。
そんな、反吐が出る水面下が彼女は嫌いだった。
法律だのルールだのに縛られて馬鹿を見るのは常に弱者だ。法律は強いものを守る盾であり、ルールは弱者を縛り付ける鎖。
この旅を始めて、ようやくそれが分かった気がした。水面下を知らないお嬢様的な暮らしをしていた彼女は、里中達と旅をしてきたことでそれを強く感じてい
た。
一度の決戦ですべてが決する古い時代の方が彼女には納得がいったのである。一つの理由、一つの結末。白黒ついた時代を旅したかったが、どうも自称「天
使」は食えない奴だ。
「あの〜」
いきなり、背後から声をかけられた。
「!?」
驚いて背後を振り返った。思わず懐の銃に手が伸びたが、声の主を見てピタっと止まった。
その声の主は、子供だった。少女、しかも仕立てのいい服に「AMATI」と書かれたバイオリンケースらしきものまで持っている。
「……何?」
銃を抜くのをすんでのところで踏みとどまり、私は聞いた。
「ちょっと、道を尋ねたいんですけど」
道に迷いでもしたのだろうか。住宅街といっても妙に浮いた感じのする子だ。
「悪いけど、私の地元じゃないから詳しいことは分からないわよ」
まぁ、今日1日ぶらぶら歩き回ってきたから、そこそこ分かっているつもりだ。無論、逃げ道として。
「○○○へ行きたいんですけど」
……知っている住所だった。メインストリートから一歩はずれた場所だったと思うが。
「それなら知ってる。案内しましょうか?」
「ありがとうございます」
どうせ暇だ。もし連中が襲って来たとしても女の子一人なら抱いて逃げればそれでいい。
私は彼女の前に立って公園を出た。
「リコが目標と接触した」
「いいのか、リコを使って」
ジャンと一緒についたカメラを持った男が言った。
すでに無線は封鎖し、影から覗いていた二人は、リコがアイリスに接触するところを見ていた。
「構わん。狙撃はトリエラ、ヒルシャーの二人がやる。お前は黙って写真を撮っていろ」
「はいはい……」
言いながら、男は望遠レンズ越しにアイリスを撮る。
「……実物は案外いい女じゃねぇか」
ポツリと男がつぶやいた。
― To be
continued―
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2006/6/29 改訂