DreamTraveler


 −Another One−
  もう一人の自分





  *プロローグ


 サリナ=ハイランド。
 彼女は里中達との出会いを経て、その身に“力”を宿し、人を超えたと存在となった。
 しかし代わりに、数々のトラブルが彼女に襲い掛かり、それらを解決して行く内に自然と通り名や、二つ名が畏怖や尊敬の念を持って呼ばれるようになった。
 その彼女の二つ名のなかに、「金色の戦乙女」という物がある。その由来は別の機会にするが、彼女自身はそう呼ばれる事を気に入っていた。
 そんなある日彼女の耳に、「白の戦乙女」なる二つ名が聞こえて来るようになった。

 ――白?なんで?私の着てるものは黒基調だし、白って……どういうこと?

 彼女はジーンズに白シャツ、その上に黒いコートという姿、武器は金色のバトルスティックが一本に、金の銃が2丁。
 「金色の」と呼ばれても「白の」と、呼ばれる理由が分からなかった。

 ――白い服でしかも名前がサリナってわけか。どんな奴だろう。

 そんなイメージを浮かべながら、サリナは街道を一人歩いていた。





  1:人違い



 一人の少女が歩いていた。
 レオナ=ティーゲル。サリナのライバルを自称する魔道士である。といっても、彼女が非常識な"力"を手に入れてしまったお陰でかなり袖にされている悲し い少女である。今日も永遠のライバル(自称)サリナを探して歩いていたところ、

「……お!?」

 前方の出店を覗いていた一人に目が止まった。茶髪のロングヘアーにコートを着ている同年代の少女である。

「やっほ〜、サリナ〜」

 少女は顔を上げて、レオナの方を見る。

「はい?」
「何間の抜けた顔してるのよ。久しぶりね」
「……へ?」
「……なんか悪いものでも食べた?にしても随分格好変えたわねぇ。白コートにして、髪下ろしたのね?」

 そう、彼女が見つけたサリナの着ているコートは“白”であった。

「あの、人違いじゃないですか?」
「…………。やっぱなんか悪いものでも食べたの?サリナ」
「確かにあたしの名ははサリナですけど、人違いじゃないんですか?」
「かぁぁぁぁ、いいかげんにしてよ!サリナ=ハイランド!」

 びしっと指をつきつける。
 そう、サリナだった。サリナにそっくりだ、とかそういう次元ではない。
 顔から背から言葉、コートの色と髪型を除けば、全くの同一人物と差し支えないほどそっくりだ。
 そんな“サリナ”は手でコメカミを抑え、

「はぁ、……またか」

 明らかに飽きたと言わんばかりのため息をついた。

「あのねぇ、私の名前はサリナ=レンブラント。貴女のいうサリナが何者かは知りませんけど、そんなに似てるんですか?今日で5人目ですよ」
「…………え?」
「だから、あたしの名前はサリナに間違いないですけどファミリーネームが違います。
 レンブラントです。そのハイランドさんてのは全く知りません」
「……本当に別人?」
「そうです、いい加減に納得してください」
「はぁぁぁぁ、似てるわねぇぇ」
「どういう顔なんですか?そのハイランドさんは?」
「髪をポニーテールにして黒コート着て、鏡見たほうが早いわ」
「そんなに似てるんですか?」
「そのもの」

 まじまじと見入るレオナ。見れば見るほど悪い冗談としか言いようが無い。

「……てことは、あなたはそのハイランドさんの友達ですか?」
「ええまぁ、腐れ縁。
 レオナよ。なんか変な気がするけど、よろしく」
「よろしく。……それと今、黒コートって言いましたよね」
「ええ。言ったけど」
「やっぱり……」

 黒コートという部分に何か心当たりがあるのか、何かを思い出すように空を見上げる。その仕草もどことなくサリナに似ていた。

「どうかした?」
「いえ、最近あたしのことを『金色の戦乙女』って呼ぶ人が多いんです。あたしは見ての通り白だし、あたしも『白の戦乙女』って二つ名で呼ばれる事はありま すけど」
「呼ばれてる?……強いの?」
「まぁ、趣味で盗賊団を壊滅させたり、ドラゴンをブチ倒したりしてるだけですけど」

 十分呼ばれるにふさわしい気がするが、

「へぇ……」
「もしかして、その人って金色の裏打ちコートかなんか着てるんですか?」
「いや、違うけど……」

 金の裏打ちコートなんぞ着ていたら悪趣味極まりない。

「そっか。ま、その人にあったら、伝えてください。よろしくって」
「……なんか変な感じだけどそうするわ。それじゃ」

 こうして、二人は分かれた。







 2:数奇な関係



 ――しっかし、似た人もいるものね。

 レオナは街道を歩きながら思った。もう一人のサリナに会ってから二日。何もない街道を歩いていると、いきなり周囲を風が舞った。

「うわ!?」

 そして、目の前に降り立ったのは、

「おひさ〜、レオナ。元気してた?」

 サリナである。今度は黒コート。

「ほんとにサリナよね?」
「はぁ??」

 いきなりされた妙な質問にサリナはキョトンとなった。






「ふぅぅぅん。何から何まで一緒なんだ」
「そう、あたしも完全に間違ったわ」

 近くの町で食事を取りながら、レオナの話を聞いてやっと今までの妙な違和感が消えて行った。

「それで?そのもう一人のサリナはどこへ?」
「さぁ。南のアルタのほうへ行ったんじゃないかしら。向こうって近々闘技大会が開かれるって言うし、それに参加しに行ったんじゃないかしら?」

 と、紅茶を一口。

「闘技大会……」
「……あんた、まさか参加しようなんて思ってないでしょうね」
「何だ、分かってるじゃない」
「まぁ、止めはしないけど彼女も二つ名持ちの相手よ。あんまり面白い事にはならないんじゃ?」
「……強いの?彼女」
「盗賊団やドラゴンを倒して生計立ててるってさ」

 ―――ほぅ………。

「な〜るほど。それなら通り名もつくわ。よし、いっその事会いに行こう」

 ぶっ!

 思いっきりレオナが吹いた。

「わぁぁ!?きたない」
「本気!?本気で会いに行くの?」

 紅茶を吹いた口をぬぐうでもなくサリナに詰め寄るレオナ。

「いいじゃない。興味あるし。どんな戦いかたするか見てみたいし」
「……知らないわよ。どうなっても」






 3:すれ違い


 運命とは皮肉なもの、と誰かが言った。とにかく、サリナとレオナはアルタへ向けて歩を進める事になった。
 途中、あらぬ言いがかりをつけられ盗賊団等とイザコザがあったが、それは確かにもう一人のサリナが同じ事をやっているという事の証明である。

 そして二人はアルタ国、テーベの町へとやって来た。
 このテーベ、元々闘技場だけがポツンと建っているだけの町だったのだが、いつのまにか人々が闘技場を中心とした町として機能させ始めたのが発展の起因と なっている。もっぱら闘技場で行われるのは貴族主催の参加自由の大会。もしくは、公式の決闘場なんかにも使われて、それぞれが戦いを見に来た人達に興奮を 与えていた。その利ざやに預かろうとした商人達が徐々に集まり始め、今の様な町へと発展したのである。

「しっかし、でっかい闘技場ね」
「そりゃそうよ。一万人は余裕で収容できる大きさだもの」

 レオナが言う。

「知ってるの?」
「ええ。以前立ち寄った事があったのよ。そのときはモンスターとの試合をやってたけど」
「ふ〜ん。そういえばお腹すいたな。食事行こうか」






 そんな二人が食堂へと足を運ぼうとしていた頃、

 ガシャァァァァァァァァン!!

 食器を派手にぶちまけて、男がテーブルを粉砕した。

「いい加減にして。どういう理屈知らないけど、あたしはあんたたちの事なんか知らないわよ」
「てめぇ、……バッくれるのもいい加減にしろよ!」

 なんとか身を起こして、リーダーらしき男は激昂する。

「三日前!あんたはいきなり俺達のアジトを襲って洗いざらいお宝をかっさらっていったじゃねぇか!」
「だから、知らないって言ってるでしょ!あたしが、最後に盗賊連中ブチ倒したのは5日も前よ。それにあなた、重大な勘違いしてるわ」

 ビシッっと指をつきつけレンブラントは言った。

「あたしは洗いざらいかっさらうなんて真似はしないの。せいぜい金貨あたりは残してやる事にしてるのよ」
「知った事か、このアマ!あくまでシラを切るってんなら結構!今ここで天誅をくれてやる、野郎ども!!」
『おう!!』

 後ろの10人くらいのとりまきが一斉に得物を抜く。血の気の覆い連中が多いせいでこんな喧嘩は日常茶飯事である。
 ちなみに客は喧嘩を見るのは好きでも、巻き込まれるのは嫌いらしく、さっさと出て行くか脇に避けていた。

「まったく、長生きしないわよ」

 そういって、レンブラントは白コートの下からこれまた白いトンファーを取り出した。 
 いや、それをトンファーと言っていいものか。言うなら縦長の二等辺三角形に切り出した角材に握りをつけた、"肘から指先の長さ"を倍にした長大さだ。
 それを狭い店の中で振りまわすにはどれほどの力と技術がいるか、

 ヒュンヒュンヒュン……

 トンファーを器用に回して、

「さぁ、どっからでもどうぞ。手加減はできるかぎりするわ」
「やっちまぇ!!」
「うおおおおお!!」
「このアマぁぁぁ!!」

 かくして3分ほどして、床には男連中が横たわっていた。
 ついでに、周りはかなりひどいありさまである。

 ――こりゃ逃げたほうが得策ね。

 店長もとばっちりを受けたのか床につっぷしてくたばっていた。
 レンブラントは武器をしまうと、そそくさとその場を後にした。








「あらあらあらあらあらあら……」
「何よこのありさまは」

 レンブラントが出ていってから数分後、今度はサリナ=ハイランドの二人が到着。

「まったく、誰がやったのかしら」

 と、あたりを見まわすと、

「……うう」

 例のリーダー格の男である。気がついたようだ。
 男は、起きあがってサリナを一目見て、

「うわぁぁぁぁっぁ!失礼しましたぁっぁぁぁ!」

 逃げた。

『……………』
「なんか、ここで暴れてた人想像できるわ」



 



 時は過ぎ去って夕刻である。
 旅人は皆、宿を取って休もうかと思う時間。
 二人も例に漏れず、一軒の宿を取った。

「あれ。お客さん今日移るんじゃなかったのかい?」
「はい?」
「あんた、闘技大会が近いからって、闘技場の近くの宿の移るって言ってたじゃないか。宿がいっぱいだったか?」

 どうやら、もう一人のサリナはここに泊まっていたようである。
 サリナは話を合わせて、宿のマスターから彼女の泊まっている宿を探り出し、そこへと向かった。
 そして案の定、向かった先の宿帳のにサリナ=レンブラントの名前が載っていた。

「よっし。大当たり」
「でも、もう部屋にいるんじゃないの?」

 闘技場の近くの豪華な宿。なかなか、おつなところに宿を取ったものだ。
 今、サリナはフードを着て顔を隠している。こうしないと二人が出くわしたときにどうなるか分からないし、他の一般人も訳が分からなくなるからである。
 とにかく二人もここに宿を取り、あてがわれた部屋へと引き下がった。
 
 2階の部屋、二人が入った直後。その隣の部屋が開き、誰あろうサリナ=レンブラントが出てきたのだった。



  −To be continued−


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2005/01/04 改訂
2006/07/18 改訂