力 の代償



 
 ―― 1

 
「いやいや、お久しぶりですねぇ」

 それは、あまりに唐突な事だった。
 悪びれた様子も無く俺達の前に現れたのは、俺達とは斬りたくても切れない関係の自称「天使」である。

「な、て、てめぇどっから沸いた!」

 あまりの唐突さに俺とサリナ、アイリスの三人は一様に非難の声を浴びせる。

「そんな、……邪見にしないでくださいよ。様子見に来たんですよ」

 言ってヘラヘラと笑う。


 
 俺達はとある国のとある村の魔族退治を依頼され、襲われたという村へと向かっている際中である。
 無理にでも同行とすると言われて拒否する訳にもいかず、一応、一緒に現場へと向かっている。
 だが、白マントとフードを目深にかぶり、見えているのは手と口元のみという格好と杖が怪しい、怪しすぎる。しかも食事となると唖然とするほどによく食べ るわ飲むわ……。太るぞ、と本気で言いたかった。

 とまぁ、これが二日前の話な訳だが、今俺達は問題の村へと足を踏み入れていた。

『…………………』

 全員が言葉を失う。村に入ってすぐに目に入ってきたもの、それは……。

「うぅ……」
「おぅ……」

 サリナとアイリスがそろって吐き気を覚える。俺でさえ口の中にすっぱい物が逆流してきた。
 そこはまさに地獄絵図だった。通り中、いや、建物の壁、露店の商品を含めてありとあらゆる場所に、今の今まで生活していたであろう人間“だった”モノが 付着している。赤いペンキをぶちまけたような通りには肉片、骨片が散り、鉄錆びのような異臭が漂っていた。

「ど、どうやったらこんなことに……」

 俺達3人が唖然のする中、天使の隠れた目には怒りの表情が浮かんでいた。かといって、そんな天使の変化に俺達は気づくことはなかった。





 酒場のカウンターの中、カウンターで俺達は飲めない酒を飲んでいた。 
 地獄の一丁目を早々に退散し、次の村、つまりここへ来た俺達。

「ちくしょう!!」

 空になったワインの小ビンを壁にたたきつける俺。

「誰なんだ!こんなことしやがったのは!」

 そう、ここもだ。酒場の壁という壁に人間だったモノが散っていて異臭を放っている。天使はといえばこれもやり切れぬと言う感じで、無事だった椅子に座っ ている。

「でも、この分だと次の村も襲われてるんじゃない?」

 アイリスが言った。

「確かに……。しかし、もう遅いかもしれないぞ。この殺人鬼がどう動くか、まったく予想がつかないんだからな」
「……ほんと、指紋一つ残さずに殺してくれてるわ。何かで爆砕したとか……」
「魔法でならいくらでも爆砕なんてできる。でも、村一つ壊滅させるだけの魔力を持った魔族がいるか?」
「分からないわよ!そんなの。あたし達ならまだしも……、 !」

 サリナは激昂してからハッと顔を上げる。

「まさか雄達が……」
「んなわけあるか!」

 酔っているせいかどうしても語気が強くなる。

「俺はあいつらとは4年以上の付き合いだ。こんな馬鹿みたいな真似できるほど人間腐っちゃいない!」
「怒鳴ること無いじゃない!」
「やめなさい、二人とも!!」

 アイリスが仲裁に入ってやっと不毛な争いに気づく。

「なんにしても……」

 天使が静かに言った。

「次の町に行くしかないですね。待っていたら事態は悪くなるだけですし、殺人鬼はまだまだ殺し足りないでしょうから」
 
 


 ―― 2
 

 翌朝、次の村へと急行した俺達だが幸いにもまだ殺人鬼の襲撃は受けていないようだ。広場には普段通りの生活風景が広がっていた。

「さて、どうするか」
「村人に殺人鬼がくるから逃げてなんて言えないしねぇ……」
「ちょっと、よろしいですか?」

 と、天使が珍しく提案をしてきた。

「結局は持久戦です。村の周囲に魔力の結界を張り、同時に外部からの侵入のセンサー代わりにする。

 後は、待機して待つしかないんじゃないでしょうか?」

「そうねぇ……、それが妥当かも」
「うーむ、それしかできんか。よし、そうと決まればやるぞ」

 20分後、俺達は村の周りに結界を張り終え、おのおのが別行動で待つこととなった。



 日が地平線の向こうへと隠れ、夜の帳が下りた。まだ、……来ない。
 俺は一軒の酒場で本を読みながら待っていた。時折サリナ達から連絡が来たが、やはり来ていないらしい。
 俺は本を読んでいるといっても、実際は出くわした時に如何様な戦闘をするかを考えていた。村の人口は約50人。宿泊客その他もろもろを含めると最低でも 百人。もし複数で襲ってきたならまず被害を出さずに殲滅は不可能である。『天使』がどんな能力を持っているか分からないため、手数に入れないことを前提に 策を練っている。
 そんなあまり俺には合わないことをしながら2時間ほど経過した、午後7時ごろ。
 その気配は、まさに唐突にやって来た。
 

 ドグンッ!!


「……ッ!?」

 心臓が飛び出るかと思えるような衝撃がいきなり襲ってきた。
 しかも俺達全員が同時に感じ取っていた。
 サリナは思わず飲んでいたジュースを取り落とし、アイリスは路地から飛び出し、『天使』はある一方を振り返り、俺は後ろ2本で寄りかかっていた椅子から 落ちてしまった。
 そして、しばらくの硬直。波が引くようにその違和感は過ぎ去り、代わりに隠そうにも隠せない殺気が押し寄せてくる。

 ――なんだ!?この殺気。

 食堂内でも妙な気配を感じたのか談笑が消えた。
 俺は食堂を飛び出し、殺気の放たれているほうへと向かう。実際のところ、「怖い」と思えるような殺気はこれが始めてだった。
 怒り、憎しみ、憎悪、からなる魔族特有の瘴気ではない。純粋なる殺気。
 それが、まさに全方位から唐突にやって来たのである。
 いや、それをやって来たと表現していい物だろうか。まるで今の今まで結界の中で息を潜めていたようにしか思えない出現の仕方だった。
 通りから悲鳴が聞こえてきたがすぐに消えてなくなった。

「……チィッ!遅かった!」

 悲鳴の上がった通り、駆けつけてみればそこはすでに地獄と化していた。

 ヒュン!

「!?」

 その時、視界の隅を何かが横切った。
 
 



 天使は静かにそこに立っていた。通りの一方を睨みながら、やってくる“何か”から逃げ惑う人々の波にのまれる事も無く立っていた。
 そして、

 ゴゥッ!

 突風が吹いた。
 次の瞬間、逃げ惑っていた人々が一瞬にして文字通り弾けとんだ!

「…………」

 天使は無事であった。天使の周りだけが、真空になったように円形に線が浮かんでいる。突風が吹いた瞬間、シールドを張ったらしい。
 彼は前方を凝視する。血霞が舞っている中に、ソイツはいた。
 細いと言えばあまりにも細い体格。魔族のような体格でありながら、しかし、受ける感覚がまったくの異質。
 そいつは天使を目の前にして動きを止めた。天使の存在に明らかに動揺している。背を丸めると息を吐き出した。

『……貴様は……』

 唸るようにそいつは言葉を発した。

「お久しぶり、とでも申しておきましょうか」

 天使はフードの奥で目を細めた。



 

「ここか!!……!?」

 俺はやっとの思いでそいつのいる場所へと到着した。そして、目の前の光景に絶句した。
 魔族とは似ても似つかない奴が眼前にいたのだ。しかし、そいつは俺に構わず目の前の天使に集中していた。

「大介!」
「里中君!……こいつは!?」

 サリナとアイリスも駆けつけてきた。これで四方を囲んだ形になる。
 沈黙が流れた。そして、

『フン。……後輩どもを連れて来たのか。ご苦労なことだ』
「喋った!?」

 ゆっくりと喋る奴にアイリスが驚きの声を上げる。

『案内人がわざわざ何の用だ。それともステージ終了か?』

 ――な、何でそのことを!

 そいつの言ったこと、『ステージ』。俺達が渡り歩いた異世界の数々。それを……なんでこいつが知っている!?

「ステージ終了ではありません。貴方に与えられるのは『ゲームオーバー』です」
『ゲームオーバーだと?……ククク、冗談抜かすな。俺はまだまだ殺し足りない。こんなところで終われるか』
「終わっていただきます。貴方のやってきた事は我々としても静観するに耐えられない」
「ちょっと待て!おい!!」

 俺はたまらず天使に声をかけた。

「何だよ!こいつは?何で……ステージのことを!」

 しかし、彼はそいつから目を離さずに俺に言った。

「彼も貴方がたと同じ『トラベラー』なんですよ」

 俺達はハッとなる。そういえば旅に出る前に俺達の事をそう言っていた。

「夢の……旅人」
『そうだ!後輩!』

 そいつは初めて俺に顔を向けた。仮面を被ったような顔には細い目があった。

『おかげで好きにやらせてもらっている。ククク……毎日が楽しくてたまらない』

 と、血のついた指をなめた。
 3人が等しく嫌悪を覚える。

『さあ、お望みのバトルと行こうか!』

 言うや否や、とてつもない衝撃波が飛んできた!

「クッ!」

 俺はぎりぎりでシールドを張った。

『キャアアアー!!』

 しかし、サリナ達はシールドを張ったにもかかわらず、一緒くたに吹っ飛ばされ建物の壁に叩きつけられた!

「サリナ!アイリス!!」
『おらおらぁ!余所見は禁物だぞ!』

 動こうとすると奴が目前まで迫ってきた!先端が刃状になった手刀が襲ってきた!

 ギィン!

「う、くっ!」

 スティックで受けた衝撃は相当なものであった。奴は一度距離を置いてから再度攻撃を仕掛けてくる。
 しかし、いきなり横っ飛びに体をかわした。天使が後ろから杖で突きかかってきたのだ!

『邪魔するな!案内人が!』

 奴はさらに飛んで建物の屋根に着地する。そこに俺が放った光刃が襲い掛かった!奴は読んでいたのか、それを……、

 バンッ!

「な……、んだって?」

 結界を張った、といえばそうだろう。しかし、そいつの開いた結界は6角形をいくつも重ねたようなシールド。

「AT……フィールド?」

『その通り。どうやら世代的には同じらしい』

 こともなげにそう言った。
 ATフィールド――『新世紀エヴァンゲリオン』作中で登場する絶対防御結界。

『驚くことも無いだろう?お前もできるはずだが』
「…………」
『ケッ、面白くも無い』

 言うと、その手にエネルギーボールを生み出し、あろうことか倒れて動かないサリナ達の方へと投じた。

「貴様……!」
『ハッハーーー!!』

 一瞬躊躇したせいで動くのが遅れた。エネルギーボールは、サリナ達に迫り。
 バン!と言う音と共に弾け飛んだ!

『むっ?』

 目を向ければ、天使がいつのまにかサリナ達の前に立っていた。そして、防いだシールド、やはりATフィールドだった。

『どこまで……邪魔をする気だ!案内人の分際でぇぇ!』

 叫ぶと、屋根から飛び出した。目標は天使!

「全開!!」

 天使の前にもう一度ATフィールドが展開される。しかし、奴は手刀をそれに突き立てた!

『無駄だぁぁ!』

 なんと、両手を突き入れるとフィールドを手で押し開こうとしだすではないか!次の瞬間、引きちぎられるように結界は消え去り、横に大きく跳んだ!
 そのすぐ後に、俺の生んだ光刃が地面を切り裂く。

「てめぇ……!!」 

 俺は自分でも驚くほど俊敏に動いたつもりだった。奴がサリナ達に攻撃を加えた事が臨界まで感情を高ぶらせたようだ。
 体が軽い。力がみなぎる。この世の全てが見えるかと思うほど、視界がはっきりと見えてくる。

「なぜだ!なぜ殺す!!てめぇはなんで俺達と同じ力を持ちながらこんなことをする!!」

 剣の切っ先を奴に向けて俺は叫んだ。

『フッ。愚問だな。やりたいからに決まっているだろうが』
「……なに?」
『そこの案内人は言った。力をやるから好きに使えと!俺は殺しがしてみたかった。だから、殺しまくった!
 この手で、愚劣な人間どもを突き刺し、内臓をえぐり、粉々に吹っ飛ばす!!魔族じゃだめだ。あいつらは跡が残らねぇ。
 血だ……鮮血が渋き、腹の底からの悲鳴が無きゃダメだ。そして断末魔をあげ死んでいく様は乙な物さ!クハハハ……脆い物だな人間はよぉ!』

 恍惚とした表情で奴は両手を広げて笑った。
 

「…………くだらん」

 笑いがやんだ。

『なんだと?』
「くだらんと言った!聞こえなかったか。殺人鬼!」
『何ぃ……?』

 その声に怒気がこもる。

「たかが殺しのために力を使ってるのか、貴様」
『たかが、だぁ……?これ以上に面白いことがどこにある!』
「面白い事ねぇ、俺達の場合、向こうからやって来るトラブルを掻き分けてここまで進んできた!人を殺さずにな!」

 奴の細い目がさらに細まる。

「殺しをしてないとは言わない。ダースぐらいの人間は殺したかもしれねぇよ。だがな……少なくとも俺達は殺しのためにこの“力”を使っちゃいない!!」
『…………何を言うかと思えば、詭弁だな。お前はキリスト教の信者かなんかか?』
「俺達と同類だと?ふざけんな!認めない、俺は断じて認めねぇ!お前は、同胞の恥だ。
 そして、俺の前に立つ敵だ。自分が強いと信じて溺れる奴ただの弱者でしかない!
 何より、俺の仲間に手を出すとは言語道断!!」

 俺の剣がいっそう光を増す。そして、俺自身が光に覆われる。ギッとやつを睨みつけ、

「貴様はこの手で排除する!貴様にこの世界にいる資格は無い!!」

 光が爆発した。
 
 
  ―― 3
 

『うお……!?』

 光は、奴の偽りの鎧を吹っ飛ばす。後から現れたのは、GパンにYシャツ姿。腰に一本の長剣。細面のぱっとしない奴だ。

「くっ!?貴様ぁぁぁ!」

 奴は腰の長剣を抜く。長剣に 「黒い光」としか形容しようも無いモノが纏わりつく。長い間、血を吸い続けたであろう奴の力の源。
 旅を始める前に俺達は全員が一つの武器を貰っている。
 俺は最初に剣を貰ったが、今はこのスティックに変えている。サリナも同様。アイリスはM4A1アサルトライフル。隆と雄は剣。
 マリーに至っても短剣と、漏れなく1つ持っている。
 こいつもそうだろう。その剣が黒く染まるとは……、見ていられない。

「殺してやる!!そんな光がどうしたぁぁぁ!!」

 黒がより一層大きく燃え盛り、俺へ向かって突進してくる。
 俺は2メートルほどに伸びた巨大な光剣を左腰だめに構える。腰を落とし、足を踏み出す。

「我流活人剣!一式ぃ!……」
「死ねぇぇぇぇぇ!!」

 黒い剣が弧を描く!

「一閃!!」

 対極となる二つが光速で激突した。
 そして、黒はあっさりと光に呑まれていった。


 
「う、う〜〜ん」

 サリナは目を覚ました。
 起き上がり、一度頭を振ってあたりを見る。

「よ、起きたか?」

 そこは宿の一室だった。俺達はあの後サリナ達を抱え無事だった宿へと入ったのだ。

「あ、あれ……?あいつは!?」
「倒したよ、つーか、起こしたと言うか」
「はぁ……?」

 俺は窓の外を見た。
 天使はあの後すぐに奴を元の世界に送還した。
 そういえば奴の事は教えてはくれなかったな。聞きもしなかったから当然か。

「あたし達の他にも、同じような人たちが旅をしている。……か」

 サリナがつぶやく。

「ああ」
「……あたし達も、ああなるのかな」
「ならないさ。絶対に」

 サリナが俺を見た。

「断言できるの?」
「守るべきものができたとき、人は強くなる。……って確か誰かが言ってたな。
 俺達全員、持ちつ持たれつの関係だろ?だから、絶対にならない」
「……そう、ね」

 お互いの目が合った。離れない。ゆっくりと近づき……、

「おふたりさ〜ん……」
『どうわぁぁぁぁっぁ!!?』

 いきなり間にアイリスが入ってきた。

「いいわねぇ、恋仲同士は幸せで……」
「おい、別にそんなんじゃ!」
「そうよ。勘違いしないでよ!」

 気にせずアイリスは立ち上がるとさっさと身支度を整える。

「さあて、雄君達にあったら報告しなきゃあねぇ」

 と、ドアを開けて出て行く。

「待ってって、おい!」
「ちょっと〜〜!」
 
 そんな光景を窓の外、一階で聞いているものがいた。天使である。

「その調子でお願いしますよ。こちらとしても見がいが無い」

 つぶやいて、彼は町の雑踏へと姿を消した。

 

――END――

 

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 あとがっき〜〜〜
 はてさて、ここに完成しましたるは『るすたぁ』様リクエスト、天使が出てくる物語と言うことなんですが、こんなもんでよろしいのでしょうか。
 長ったらしく書きましたが、ここまで読んでくださる人に感謝です。
 さて、私は高校3年の末期を迎え、現在受験戦争の真っ只中に立たされております。そんな大事なときにこんなものを書いている俺に俺自身が不思議でならな い今日この頃。まぁ、ほっとけ。
 では、キザな物語でしたが、次回作を期待。リクエストもお待ちしてます。
 さらば!!

 

 2001年12月2日 1:10AM 完成
 2006年6月1日 改定
 

 

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