スレイヤーズえくしーる

 

 

 

  2・波乱の幕開け

 

 

「ふ〜ん。魔道士ねぇ……」

 あたしの自己紹介にリナさんは、あいまいなあいづちを打った。

 今あたし達は荒くれ者たちで賑わう、酒場の片隅に移動してきた。

 確かに私の格好は、魔道士と言うにはかけ離れている。黒のコートに、長袖のシャツ。下はここらでは絶対に作っていないGパンだ。魔道士がマントを着ていなければならない、と言う様な絶対的な定理があるわけではない。

 ……そりゃあ、初めて会った時に銃向けてれば魔道士とは思われないわな。

「それで、やっぱり憧れはリナさんのような魔道士なんですよ!」

 あたしは力説する。むろんこれは本音だ。元々リナさんのような魔道士を目指していたため、放浪し、大介達と出会い、力を手に入れた。しかし『どういう経過でも力だけは手に入れた』とは思っていない。リナさんを超えたとも思っていない。確かにあたしは強くなった。格闘術や魔道は一通りこなせるし、なにより科学に関しての知識が増えた。

 見知らぬ世界をいくつも見、仲間も増え、自分を見つめなおす機会もあった。だから、今のあたしがここにいる。

 ・・・・・・・なんか路線が違うし!

「ふっ、ところで、あなたの使っていたあの武器。どこで売ってるの?」

 ブランデーをジョッキで飲むという荒業をやりながら、まったく顔色一つ変えずに言うナーガ。

「売ってるわけないでしょ。ハンドメイドよ」

「自分で作ったの!?」

「えぇ、他にも色々と」

「えらい金かけた武器ね」 

「そうでもないわ……」

 と、その時。

「よう、ねーちゃん達!そんなところで飲んでないで一緒に飲もうぜぇ!」 

 酔っ払ったおっさんの一人がこっちに声をかけてくる。他の客から野次が入る。

「お断りよ!」

 リナさんが歯牙にもかけずに言い放った。しかしその男もしぶとく、ズカズカ近づいてくると、

「つれねぇこと言うなよ。旅は道連れ、世は情け。っていうだろう?」

 言って、あたしの肩を掴みかけ、

 どごっ!!

 何も前触れもなく鈍い音と共に吹っ飛び、他のテーブルに激突する。むろんその席にいた男達も、激怒してその男を跳ね飛ばす。それが繰り返され、やがて店の中は乱闘に。

 

「で、今何したわけ?」

 店のカウンターに隠れ、リナさんは聞いてきた。今カウンターの向こうからは怒号と叫びと、何かが割れる音とが繰り返されている。

 たまに誰かがギブアップして逃げてきたりする。

「別に。これといった事はしてないわよ」

「ふっ、甘く見ないでもらおうかしら。あなた意外に何かができた人がいて?」

 ナーガさんもこちらを睨んでいる。

「はいはい、……確かに私のせいです。私が殴りました」

『殴った!?』

 妙に驚いた声を出す二人。

「殴っただけだけど?」

「まったく見えなかったけど……」

「ま、ね」

 二人が押し黙る。それとシンクロするように店内も静まり返った。

 同時に奇妙な気配が生まれる。あたし達はカウンターの上からこっそりとのぞき見た。

 静まる店内。彼らは一点を見ていた。店の入り口を。そこには、男が立っていた。

 特に目立った格好はしていない。軽鎧に剣を携えた男だ。見たところ20代後半。しかし、そいつが放つ気配は何かが違う。

「いい年こいた男どもが、何をやっている」

 店中に響く声でそいつは言った。そしてゆっくりと中に入ってくる。

「使える方ね。あいつ」

「ふっ、そのようね」

 横で二人がそんな事を言っている。確かに、二本の剣を下げているのは珍しい。

 そして、おちょくるような台詞を吐く男にカチンときたのか、数人が男を囲む。

 そして、

 ドドドドン!!

 飛び掛った男達が何の脈絡もなく吹っ飛んだ。そう、さっきサリナが男のひとりにやったように。

『なっ!?』

「……どうした、終わりか?腑抜けどもが」

「野郎!!」

「ぶっ殺してやるわ!!」

 数十秒後、酒場の中は静かになった。

 結局、男に怪我を負わせることのできるものはいなかった。

「こわ……」

「ふっ、……今回は相手が悪いわね」

「あたしもパス」

 そんな事をつぶやいていたあたし達。しかし、

「そこのカウンターの中に隠れている3人。出てこい」

 あたし達は顔を見合わせた。気づいていたのか!? 

「出てこなければ、カウンターごと吹っ飛ばしてくれても構わんのだぞ。」

「はいはい、待った待った!!」

 リナさんが先に立ち上がった。結局ナーガもあたしも立ち上がる。

「ほう、女か。災難だったな。」

「よく言うわ。まさか、店中の男ども全員のしちやうなんて」

 確かにかなり悲惨である。

「どうと言うことはない。……」

 ふと、あたしを見てそいつの動きが止まる。品定めでもしているんだろうか。

「俺の名はストライド。ま、あだ名みたいなものだ。縁があったらまた会おう」

「できれば会いたくないわね」

 リナさんの皮肉に何も言わず、ストライドは去っていった。

 

 

 翌日、あたし達は近所のロードに呼び出しを食らった。

「折り入ってお頼みしたいことがある。リナ=インバース殿」

 若き王は苦悩の表情を浮かべて言葉を続ける。

「実は、娘がさらわれたのだ」

『はぁっ!?』

「……そんなことあたし達の仕事じゃないじゃないですか!」

 リナさんが文句を付ける。が、

「妙なことに、その犯人から指名が来たのだ。リナ=インバースをよこせ、と」

「ふっ、どこの馬の骨が知らないけど、リナに喧嘩を売るとはよほどの命知らずと見えるわね!」

「……あの、そちらの方は?」

「あぁ、ほっといてください。荷物みたいなもんですから」 

 無下に扱うリナさん。なぜか納得する王。……おい。

「しかし、噂ではかなりの使い手とうたわれる男だぞ」

「で、誰なんですか?」

 あたしの発言に、王は同じ質問を繰り返し、

「一応の付き人ですから気にしないでください」

 思わず手が銃に伸びた。……根性でなんとか耐える。

「名はストライド。「疾風」もしくは「黒豹」のストライドなどと呼ばれる、ライカンスロープだ」

「ごほっ、ごほっ……!!」

『??』

 いきなりナーガがむせた。

「ふっ、……なるほど、なんか聞いたことがあると思ったら、あいつの事だったのね」

「知ってるの?あいつのこと」

「ふっ、教えてあげても良いけど、後で食事でも……」

 ばきぃっ!

「へぶっ!」

 いきなり後頭部を痛打され、倒れるナーガ。

「とっとと教えなさいよ。あたしも気が短いんだから」

 リナがスリッパを構えたまま硬直する中、あたしはナーガをどついて言った。

「……ふっ、いいでしょ。教えてあげるわ」

 スック立ち上がると、胸を張って声を張り上げた。

「『黒豹のストライド』、南のほうで活躍した伝説とも言われるほどの傭兵よ!その素早さから疾風とも呼ばれ、正体がライカンスロープと分かった後も、熱狂的なファンがあるほどの人気よ。

 ちなみに、その実力はどんな戦士をも凌駕し、どんな魔道士よりも器用に魔法を操り、どんな暗殺者にも引けをとらない隠密行動を取れるとも言われているわ!!

 ふっ、その様子だと、かなり衝撃的だったようね。ほーっほっほっほ!!」

『じゃかしいわぁ!!』

 スパァン!!

「へぱぁっ!?」

 今度こそ、ナーガは地に伏した。

「そうなると、トコトンまずいわね」

「信じるんですか?こいつの戯言を」

「これでも知ってる情報は確かなのよ。いままでも外れた情報は持ってなかったし、それだけは、信用できるわ」

「……なるほど」

 リナさんがそういうなら真実なのだろうが、まさかあいつがそんなに有名な傭兵だったとは。

 あの酒場での戦闘を見る限りでもかなりの腕を持っていると見れるし、誇張もあれどあながち外れていない噂から察するに、超一流か……。

「とにかく、そういうわけだ。頼めないだろうか。」

「わざわざ呼び出してもらってなんだけど、そういう卑怯な手で勝負しようなんて輩には構いたくないのよね」

「……金貨300。」

 ピクッ

 王の提案した金額にリナさんの動きが止まった。同時にナーガさんも。

 あたしは何か、金銭感覚麻痺したんだろうか。少ないなとか思ってしまった。

「400」

「……くっ、し、仕方ないわね。

 おーし、そうと決まったら、とっととそのバカを退治に行くわよ!!」 

 リナさんとナーガ、そしてあたしが結局乗った。

「おー、やってくれるか!期待しているぞ」

『報酬はきっちり払ってもらうのでよろしく!!』

「うっ……」

 

 ―To be continued―

 

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2002/04/09