汝流浪なる者

 

 

 

 

  1・汝剣士たる者

 

 ギィィィン!!

「くっ……!」

 持っていた剣が弾きとばされ、首筋に剣が突きつけられる。それだけでまったく動けなくなった。

「遅いな……」

 男は平然としてそう言い放つ。銀髪を長く伸ばした細身の男だが、繰り出す太刀はまさに風そのもの。動きに寸分の隙は無く、緊急時の対応もすばやい。

「同胞が来ていると聞いていたが……こんな青二才とは」

「悪かったな。青二才で」

 俺、里中大介はこの男に完敗してしまった。初の負けである。

「……ふん」

 男は剣を引き鞘に収めるとそのまますたすたと去ろうとする。

「待てよ。」

「言っておくが……」

 俺の言葉を制して奴は喋りだす。

「後何回繰り返したところで俺に勝てるとは思うなよ。これだけは変えられない実力というものだ」

「俺が後ろから銃を撃ったとしてもかい?」

 いいながらも銃に手が伸びている。

 男は目を細め、

「その瞬間お前の首が落ちているだけのこと。やってみるがいいさ」

「……やめとこう。命は惜しい」

 去ろうとする男はもう一度だけ立ち止まると、振り向かずに言った。

「貴様のように魔法だ、科学だと追い求めるものは所詮その程度だ。

 極めるならどれか一本に絞るんだな」

 ――ムカッ。

 挑戦してきておいてそういうせりふが吐けるのかこいつは。

 そう、こいつは俺に挑戦してきたどこかの出身の“旅人”なのだ。つまり俺たちと同じ力を持っていることになる。

 そして、安受けあいしたのはいいのだが、前回の奴のように甘い相手ではなかった。体術と剣術に能力の大半を割いて極限まで技を磨いている。俺が手玉に取られるくらいだから本物だろう。

「約束どおりこれは貰っていく。さらばだ」

 いつの間に拾ったのか俺の武器である三鈷杵を持っていた。そして、一陣の風が吹き奴の姿は忽然と消えた。

「……くそっ!!」

 俺は地面に座り込んだ。

 あのバトルスティックはここにくるときに与えられた“力の源”といってもいい物だ。それを持っていかれた。……賭け勝負なんかするんじゃなかったなぁ。

『こんにちは』

「!?」

 いきなり目の前から声がかかった。見上げれば天使である。

「……何しに来た。けなしに来たのか?」

『まさか。そんなことのためにわざわざ出向いたりしませんよ』

「……ゲーム、オーバーってやつか?」

 ゲームオーバー ――その一言で何人もの“トラベラー”がこの世界から元の世界へ送還されたことだろう。

 しかし、天使は驚くことを言い出した。

『いえ。あなたにあの人の事を教えてあげようと思いましてね』

「へっ!?」

 意外すぎてあほな事を言ってしまった。

『あの人の持っている能力。あの人の持つ、“力の源”をね』

 

 

「ぐわああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 派手な音を立てて、浜崎は露店の中に突っ込み商品をぶちまける。

「うぐっ……」

 何とか身を起こした先にいたのは銀髪の男。里中と決闘して勝利した奴だ。

 

 浜崎は歩いている途中、いきなり後ろから名指しで声をかけられた。

「お前、浜崎 隆輔だな?」

「あ?誰だ、お前」

 彼は左手に持った四角い物と浜崎の顔を見比べた。その四角いものはPDA、小型端末だった。それを見た浜崎はその男を見据える。

「小関龍次と言う男を知っているか?」

 PDAをしまうと彼は聞いた。

「いや、知らない。誰だそれ」

「まぁいい。お前に今ここで決闘を申し込む。負ければ大事なものを頂こう」

 往来に人がごった返す中、彼は淡々と自分の台詞を並べるのみ。

「断る。ここがどこだか分かってるのか?」

 しかし、彼は問答無用とばかりに剣を抜き放つ。それを見た、大衆は巻き込まれまいと慌てて避けていった。

「断るのは勝手だ。しかし、その場合この村の保証はしない」

「村人をたてに取る気か!てめぇ」

「受けるか、否か、決めろ」

 言って剣を村人のほうへと向ける。

 浜崎ははっきり言ってここまで面と向かってくる相手に会ったことが無かった。それにさっきのPDA、この世界にPDAを持っているとすれば俺たちのほかにいるのは……、

「“トラベラー”か。」

 男の眉が動く。

 浜崎は荷物を脇へ放った。そして一瞬後、浜崎は剣を抜きつつ男へ肉薄する。それは人では捕らえられない動きだっただろう。しかし……!

 ギゥン!!

 当たると思った直前、甲高い音共に浜崎の剣は弾き返された!

「!?」

 直後に男の左手が浜崎のみぞおちを狙って繰りだされる。体勢の建て直しが終わっていない浜崎は中途半端なガードで攻撃を受け、物の見事に吹っ飛ばされ露店に突っ込んだのだ。

 浜崎自身に当てられた感触は無かった。多分、奴が衝撃波か何かを放って吹っ飛ばしたのだろう。しかし、

「う、嘘だろ……」

 彼はチームの中ではかなりスピードに自信を持っていた。抜刀術などは代表的だ。里中ほどではないにしろ、常人ひいては“同僚”にも劣らないと思っていた。それが簡単に弾き返されたのである。その瞬間の腕の動きが捉えられないほどの速さで。

 剣が折れなかったのはひとえに剣の性能が常識はずれだからである。

 日本刀。緩やかに湾曲した刀身には浜崎の魔力が宿り、その一撃はドラゴンの鱗も砕いたことがある。それがまったく効かないとは。

「その刀か、お前の“源”は。」

「……っ。うらぁぁぁぁぁぁ!!」

 刀を平行に構えて、地を蹴る。その衝撃で露店が爆砕するほどのスピードと共に浜崎は男に突きかかった。魔力を先端に集中し、一撃突破を狙う。だが!

 ギィィィン!!

 何が起こったのか浜崎にも分からなかった。しかし、突きが決まる直前何か壁のようなものが見えた。見えた直後、浜崎は持っていた日本刀を空中に弾かれ男に蹴り飛ばされていたのだった。

 又も露店に突っ込み浜崎は意識を失う。

「…………。青二才が」

 彼は落ちてきた浜崎の日本刀を片手で受け止めた。刀を一瞥すると、またも一陣の風と共に消える。

 後に残ったのは気絶した浜崎と、何が起こったのか理解できない一般人が右往左往するばかりだった。

 

 

「倉田雄だな。」

 倉田の前にいきなり現れたのはやはりあの男だった。

「誰。あんた」

「単刀直入に言う。小関龍次を知っているか。」

 場所は滝の下に広がる少しのスペース。轟々と響く水の音としぶきが二人を覆う。

「知っている。……と言ったらどうするつもり?」

 倉田は荷物を置き、背中のショットガンに手をかける。

「お前を倒し、“武器”を頂く。それだけだ」

 倉田は基本的に守りに重点を置く戦闘をする。動かずに相手の出方を見るやりかただ。しかし、目の前の相手にそれが通じるとどうしても思えなかった。

「なんで。」

「答える必要は……無い」

 言い終わらないうちに男は剣を抜き放ち、倉田に向かって突っ込んでいく。しかし、倉田には止まって見える動きだ。

 ショットガンを構えて、初弾を撃つ!

 広範囲に広がる散弾ではなく、狭い範囲に広がる魔力弾だ。だが、

 ギギギィン!!

 いとも簡単に弾き返した。

 ――こいつ!?

「クラッシュバウンド!!」

 ゴガァァァァ!!

 呪文と共に地面が吹き上がり、男の視界を塞ぐ。男はめくらましと取り、上へと飛んだ。しかし、それは倉田の思う壺だった。上から見た下に倉田は存在せず、斜め方向から光波が飛来する。

 その光波を剣の一振りで一蹴すると“空を蹴って”倉田に向かい落下する。

「……っ!!?」

 着地した衝撃で地面が吹き上がり、倉田の視界を一瞬塞ぐ。そして、男にはその一瞬で事足りた。

 どぐっ!

「かはっ……!」

 伸び上がりざまに膝蹴りが腹に入る。次の瞬間に左のけりが炸裂し、吹っ飛ばされ滝壷へと飛び込んだ。

 男は屈みこみ、倉田の持っていた“武器”、サーブルを拾うと、何の表情も浮かべないまま言った。

「後3つ……」

 3度目。彼は風と共に去った。その後、

「く……うぐっ」

 何とか滝壷から這い出た倉田。

「何だ……。あの壁みたいなのは」

 

 

     2・汝あがらう者

 

 安い酒場の奥まったいすで俺たちはその奴について話していた。

『彼の名はロアン=イワノフ。確かにあなたがたと同じ“トラベラー”です。』

「だろうな。PDAなんか持ってる時点で気づいたよ。」

『2年程前から彼はここで活動していますが、彼のここでの仕事聞きます?』

「……一応」

『ハンターですよ』

「何だそれ?」

『“力”を得た人たちが、時々暴走を起こしているのをご存知ですか?』

「……奴か?」

 この間、大量虐殺をやっていた先輩を一人送還する手伝いをしたが、彼のように力を得たがために箍(タガ)が外れた奴が時々いるらしい。

 欲望ってものは簡単に人を蝕むものだ。

『そうです。彼の名前、教えていなかったですね』

「聞きたくも無かったからな」

『彼の名は「小関龍次」。日本、四国出身の人です』

 コップに伸びた手が止まった。

「小関……龍次?あいつが?」

『そう、そしてロアンさんは小関さんの暴走を止めるために自ら出向いたんです。相方と共に。

 しかし、予想に反して小関さんはロアンさんを瀕死の状態まで叩きのめしてしまったんです』

「あらら……」

『そして、見せしめとして“相方を目の前で殺した”』

「……!?」

『むろんその相方も“トラベラー”でした。送還されただけですが、そのせいで彼は感情を殺してしまった。』

「悲惨だな……」

『彼はその後、小関さんを追いながら各地の“トラベラー”と手合わせを繰り返したそうです。小関さんより強くなるために。

 確かにその後のロアンさんは強かった。自らの周りに壁を作り出して“絶対反射防御”を張り、相手を誘い込んで倒す。その実現のために能力の大半を割いたんです。後は体術、剣術につぎこみました。』

「絶対反射防御? 相手の攻撃を弾き返す……、なるほどな」

 ――そうか、それでいくら攻撃しても無駄に終わったのか。

『ですがしばらくして、彼は小関さんが送還された事実を知る。どうやってかは分かりますね』

「……PDA」

『その通り。欲しい情報は差し上げているのでトラベラー達の生存状況はその範疇です。だが、ある日を境に検索から名前が消えた。

 さらにある人たちに項目が追加された。』

「俺とサリナ、アイリスにか」

『備考の欄に、「小関龍次を送還」とね』

「どこでやってるんだ?そんなサービス」 

『これでも忙しい身なんですよ。私』

「……はいはい。で?」

『それを目にした彼はあなたたちのチームに目をつけた』

「チームって、……倉田や浜崎達か!?」

『初心者……いえ初級のあなたたちが、ブラックリストの人を退治してしまったんですからねぇ。目もつけますって。

 さらに、あなたたちに目をつけると同時に占い師から、『敵たる6人の“力”を求めし時あなたは大切な人を取り戻すだろう』と暗示を貰ったそうです』

「どこで!」

 少々イラツク偶然である。

『いえ、いきずりで』

 …………………………

 ガタンッ!!

「それじゃ何か!そんな偶然のせいで俺たちは“武器”を取り上げられたってか!?」

 天使の胸倉引っつかみ俺は詰め寄った。

『く、苦しいですって!それに……見てますよ他の人』

 確かに周りではこちらを見る一般の人々。俺は天使から手を離す。

「……で?」

 語気はきつく言う。

『敵たる6人の力、一人はあなた。後の5人は……判りますね?』

 俺は問答無用で天使の胸倉引っつかむと、

「それを先に言わんかぁぁぁ!!」

 怒鳴ると共にテーブル越しに思いっきり店内に向かって投げた。

 ドガラガツッシャァァァァン!!

『のわがだかるわうらあぁ!?』

 なにやら意味不明な叫びを上げて飛びのく客達。それに構わず俺は店を飛び出した。呆然とそれを見送る客達。

『……やれやれ、里中さんにも困ったものだ。

 でも、ロアンさんが何のために動いているか、分かっているんでしょうかねぇ……」

 などとつぶやく天使の前には人だがりができ、……少々の制裁が加えられたのであった。

 

 

 

 ―To be continued―

 

<小説TOPへ>   <HP・TOPへ>

 

 

 

2002/03/03