ドリームトラベラー
　ナイトタウンの反乱・中編




　　　４：潜入


　ナイトタウンの城門前。
　そこには、頑丈な扉と数人の兵士が侵入者から城を守っていた。

「さて、どうやって入ってやろうか……」

　物陰に隠れて城門を見ていた俺達は固く閉ざされた城門を見ながら侵入方法を考えていた。。　

「あの、大介さん？」

　後ろからアリスが声をかける。

「まず、兄を助けるのを先にしていただきたいんですけど……」
「ああ、それは構わないが……。そういや、君の兄貴は何してるんだ？ここで」
「はぁ、兄は魔道士協会で働いている筈です」
「ハァ！？魔道士協会！？なんでそれを先に言わないんだよ」

「いえ……、聞かれませんでしたから」

　と、開き直る。
　こいつ……。
　ま、そこらへんはどうでもいいとして、問題はこの城門をどうやって入ってやろうかと言う事だった。
　兵士を眠らせて入ろうか、それとも空から……。

「大介さん。大介さん」

　アリスが袖を引っ張る。

「……なんだよ。今考えてるのに」
「いえ、あそこから入れるんじゃないですか？」

　と、指で指した先には、正門から陰になった上に、さび付いた通用口らしき扉が…………、

（………………）

　これは、設計ミス？？

「…………。そうだな……あそこから入るか」

　かくして、何の苦労もなく潜入には成功してしまった。




　さて、入ってきたはいいけどここがどこだかは分からない。
　どこかの建物の裏のようだが、……というか、悩んでもしょうがないので移動することにする。
　建物の影から表の通りをのぞく。意外と、内部の通りは閑散としている。
　まぁ今は、兵士連中は外に遠征に出ているだろうし、ここにいるとしてもせいぜい５００人ほどの警備隊くらいだろう。

「……五百か」
「え？」
「ん。ここに残ってるかもしれない。兵士の数だよ」
「五百……ですか？」
「ああ、せいぜいそのくらいだと思うんだが。女子供は家の中だろうし」

　と、次にアリスがとんでもない事を言った。

「あ、女性達もアマゾネス隊として、ちゃんと整理されてますよ」
「なぁにぃぃぃぃ！？」

　思わず、声が出た。慌てて口を抑える。

「あ、アマゾネス……？冗談じゃねぇよ、それじゃ多くて一千か？」
「で、ないでしょうか」

　俺は身震いしてきた。
　今の今まで、町を奪還するなどという仕事などしたことはない。
　もちろん千人の兵と戦った事はあるものの、女が混じっているとなると戦い方が全く違ってくる。
　…………おもしれぇ。

「よし、それじゃまず魔道士協会だ。場所は？」
「えーと、あ、あの建物です」

　アリスはかなり奥まったところにある、建物を指した。

「よし、裏から行くぞ」




　建物の裏を回って行けば見つかりにくい、これ常識。
　実際、見まわりの兵士が見回りに来たが見つかってはいない。
　しばし、俺達は協会の裏手に到着した。

「ふーん。まず表は兵士がいるだろうから、窓から入ろう。評議長室から」
「え？いきなりですか？」
「当然」

　俺は浮遊術で、窓を一つ一つ見ていく。評議長室なら、どこでも同じような作りなので大体の想像がついた。

「……ここだな」

　窓から中を見ると、窓を背にして椅子に座っている人がいた。そして、正面にはこの町の地図だろう、それが掛かっていた。

「ここですか？」

　同じように浮遊の術で、近づいてきたアリスが言った。

「まぁ、当たりでもはずれでも……入れればいいのさ」

　俺は、懐から極薄刃のナイフを取り出した。
　それを、窓の間に差し込んで、キンッと掛け金を外した。
　無論、中のおっさんもそれに気づいてこっちを向きかけ、

　ドン！

　俺は窓を一気に開け放ち、おっさんを机の上に組み伏せた。

「動くな。声も出すんじゃない。長生きしたいんだったら大人しくしな」

　ナイフを喉首に当てられて、おっさんは黙った。

「あんた、ここの評議長さんかい……？」
「……何者だ。おぬしたち」

　おっさんは小さな声で言った。

「ナイトタウンで捕まった評議長を確保しに来た、ただの傭兵さ。で、あんたは？」
「ふ、そうか。その評議長なら今、あんたが押さえとるじゃろ」
「……当たりか」




「わしの名前は、ブラン。さっきも言ったが、ここの評議長を背任しておる」

　間を置き、落ち着いた所で評議長のブラン氏は話し始めた。

「確かに、捕まっておるといってよいかもしれんな。
　ほれ、そこのドアの向こうには、衛兵が見張っておるよ」

　と、入り口のドアを指した。

「しかし、何をするでもなくさせるでもなく、いつまでここに軟禁するつもりなのか、皆目見当がつかん。
　そういえばおぬしたちは、私を救出しに入ってきたと言ったが、門番はどうなった？」
「……はぁ、なんというか、素通りできました」

　というか、……あれは町を作った連中の落ち度というしかなかろう。

「そ、そうか……」

　ここで、黙っていたアリスが口を開く。

「あの評議長様」
「ん、おぬしは？」
「はい、私は兄を探してここに来ました。兄はどこにいるんでしょうか」
「……兄の名は？」
「クリス、クリス＝レイワードです」
「ほう。クリスの妹はそなたか。話しは聞いておる」
「―――え！それで、兄は今どこに」

　評議長は言いにくそうに口を開く。

「城じゃ」
『城？』
「ああ。急に城から呼び出しがあってな。行ってしまった。
　命に背く様な真似をすれば殺されるでな……」
「そんな……」
「しかも、それだけではないのだ。この町は、全体が狂っておる」
「そういえば、ここの内情について俺は何も知らない。良かったら、はなしちゃくれませんか。評議長」

　と、これは俺。

「よかろう、話そうではないか。いまわしき、この町のことを」



　ワシがこの町に着たのは、5年も前の話になる。その頃は何も変わった事は無かったのだ。
　しかし２年後。妙な奴がこの町に騎士志願として入隊してきおってな。見る間に頭角を現していった。

　（いるんだよな、そういう要領のいいやつって）

　だが、そのうち、将軍に取り入って常にそばにいるようになった。それが、悪夢の始まりじゃった。
　その頃から妙な建築物が立てられ始め、騎士達は週に１度、城にて訓示を与えられるようになった。
　無論以前はそんな事はなかった。そのうち、兵士達は妙に気分が悪いと訴えてきてな。治療を施しているうち、気づいたのじゃ。
　この町には、何かが起きはじめたとな。わしは焦って、この道士協会を囲むような結界を作った。
　案の定、その効果はあった。
　兵士達が、逆にこの中には行ってくると、気分が悪いと言い出すようになったのだ。
　それは外から入ってくることで、魔方陣の力で魔力を中和するようにしてある結果で、つまり、魔力を浴びつづけ洗脳を施された兵士達にとって、この魔道士 協会は、苦痛以外の何者でもなくなってしまったのじゃ。
　中にいたものは洗脳を免れ、外にいた兵士達は今頃奴らに操られている事だろう。
　私に所に兵士達が乗り込んで来たのはつい最近でな。どうやら、結界の効力が薄れたらしい。
　わしの魔力でも中和できん所まで洗脳が進行してしまったのじゃ。



「長くなったな。これでしまいじゃ」

　俺と、アリスは黙ったまま聞いていたが、この町全体に洗脳に使うエネルギーを充満させているという話には驚いた。
　そのエネルギーの源は変な建造物だろうが……。

「おし、そんじゃ長くならないうちに、その妙な建物を壊して回るか」
「やめなされ！建物の周りには必ず見張りがいる。わざわざ捕まりにいくようなもんじゃぞ」

　アリスも同意見らしい。

「知った事か。見張りがいるならぶっ倒す！」

　………………………………………………

　言った一言に絶句する、評議長とアリス。
　評議長は一息ついて、

「まぁ、行くと言うならとめはせんが、……兵士達は操られておるだけじゃ。殺さんでくれんか」

　俺達は評議長に別れを告げ、いざ町の中へと繰り出した。




　５：証


　さて、俺とアリスはまず建造されたという建物に行って見る事にした。
　見つからないように屋根の上をひょいひょいと飛んで移動する。
　……もっとも、それができないアリスは必然的に俺が抱えることになったんだけど。
　やがて、その妙な建物の前まで来る事が出来た。

「まさに、妙だな」
「……妙ですね」

　それは、どうみても岩を円錐状に組み上げた塔にしか見えなかったりする。
　しかも、その表面にはいびつな模様が走っているところが、またエグい。
　見張りは、なんとレッサーデーモンが２匹。
　―――楽勝以外の何者でもない。

「おし、一発派手に行きますか。アリスはここで待ってな」
「はい……」

　アリスに待機を命じ、俺は屋根から飛び降りる！
　同時に腰から抜いた銃で、レッサーデーモンに魔法弾を撃ちこんだ！
　今回は前回と違って、一発に精神破壊を起こす魔法をかけたものだ。
　これで一発撃たれれば、精神生命体のデーモンは簡単に崩壊する。
　デーモンを塵と化し、着地して、

「いっけ〜〜〜！！」

　野球で言うアンダースローのような格好で腕を振ると、

　ザァァァ……！！

　地面を衝撃波が走った！
　そして、その妙な塔に接触すると、

　ゴァ……！

　今度はすさまじい光の渦が塔を飲み込んだ。
　渦の中で塔は分子にまで砕かれ、消滅する。

「ＯＫ。まずは一つ目クリア」

　事も無げにそう言って振り向くと、目を点にしたアリスがいた。





　さて、こっからが忙しい。今のド派手な呪文で兵士達が何事かと集まって来たのである。

「大介さん。一体何考えてるんですか！」

　数人の兵士に追われながら、アリスは言った。

「いやぁ、やっぱあのぐらい派手な号砲撃ったほうが、気分がよくて」
「緊張感がないぃぃぃぃ！」

　さて、俺達は数人の兵士に追われて走っていたが、走っていた方向が悪かったらしい。
　大通りである。
　走り出た先、視界が開けたと思ったら今度は、アマゾネス軍団のお迎えだ。

『うわわわわわ！』　

　あわてて、別の路地に逃げ込む。

「追え！」

　後ろから隊長らしき女の声がした。
　俺は懐からとある機械を取り出し、少しいじってから地面に落としていく。
　それが一体なんなのか……、
　追ってきたアマゾネスと兵士が落とした物の上に到達した瞬間！

　ドグァァァン！！

　建物ごと、兵士ごと巻き込んでの大爆発！
　実は、落とした物はモーションセンサー付の爆弾である。動くもの（結局は熱）を感知し、爆発する特殊な爆弾だ。
　俺とアリスは爆発をまぬがれて、またもうひとつの塔へ到着。
　今度も、レッサーデーモンが待ち構えていた。

「アリス！塔を頼む。俺はこいつらを」
「分かりました！」

　後ろからの追っ手も引き受け、俺はとりあえずデーモンに銃弾を撃ちこんだ。
　デーモンが消滅する横を、（度胸がある）アリスが走りぬけ、呪文を放った！

「ファイヤー・ボール！」

　アリスの放った火球は一直線に塔へと肉薄し、

　ジュ！

　いきなり、蒸発した。

『―――！！？？』

　いきなりの出来事に俺達は一瞬硬直し、
　そのとたん、塔の表面の模様が変化し始めた。
　無論、魔法強化の術でも施されていれば火球ぐらい跳ね返すが、蒸発するとなると理由は一つ！
　俺はとっさに彼女の前に出て、結界を発動させた！

　 ガガガガ……！！　

　いきなり、マシンガンのような音を立てて、塔から石が飛んできて、バリアにぶちあたる！

「ちっ……！」
「！！？」

　くそ、そういうことか！
　つまり、あの塔自体が一つの生命体だったという事だ。
　元来、下級のデーモン達は一定の体というものを持っていない。普通はネズミなどの自我の弱いものに取り憑つき、劇的な変化の元この世に顕現する。つま り、憑依させようと思えば、どんな物にでも憑依させる事が可能なのだ。
　たぶんアリスは、俺がさっき放った呪文を精霊魔法の一種と思ったのだろう。つまり、“土”“水”“火”“風”の物理攻撃の範囲内である。
　しかしあの分解魔法……、確かに物理魔法の範囲内ではあるのだが、威力の面では相当にランクが高いほうである。
　ＡＢＣ……とランクをつけるとするなら、あれはブッちぎりのＳランクに相当する。とんでもない威力の魔法なのだ。
　デーモンは精神体。簡単な精霊魔法であれば簡単に跳ね返すという厄介な特性を持っているため、下手な魔法が通じない。

「こいつ！」

　俺は右手で結界を支え、左の人差し指で逆五紡星の印を切って、塔の魔族に左手を向け、

「デスティネイション！」

　黒い何かが塔を包み込み、その後に塵を残して消滅した。　
　俺はすぐさまアリスを正気に返らせ、一目散にその場を後にした。




　その後、アリスは俺のとんでもない実力の数々を目撃し、そのたびに目を点にしていた。
　炸裂音と共に、魔法弾を発射する道具。魔道士協会で読んだ文献には一切登場しない魔法。そして、俺自身の身体能力。
　どれをとっても想像以上いや、非常識。

「おおおおおお！！」

　ギュア！！

　バトルスティックを一閃！その先に生まれ出た巨大な刃がデーモンごと、塔を爆砕する。

「よし、５つめ！これでおしまいか……？」
「…………」
「ん？どうした？」
「あなた、一体何何です！？」
「―――は！？」
「今のあれです！いいえ！それだけじゃありません。いままでの非常識な魔法は一体何なのですか！？」

　いっぱいありすぎてアリスはそうとしか言えなかった。

「ちょ、なんだよいきなり」
「あなたを見てたら人間には出来ないようなものばかり……、あなた！本当に人間なんですか！？」　

　……………………

　いまだ、彼らを探す兵士の声が聞こえてくる。

「はぁ……」

　俺は短く息を吐いて、

　シャリン……

　ナイフを出し、コートの袖を上げて自分の右腕に当てる。
　そして、

「―――！？　何を！」

　ザク！

「！！！？？？？」

　アリスがのけぞった。

「ほれ、この通り赤い血は通ってるぞ」

　だらだらと血の流れる右腕を差出す。

「二度とそんな事言ってみろ。ただじゃおかないからな」

　俺は、左腕を傷に当てる。

　シュ〜〜〜……

　蒸気のような音を立て、血が止まる。左腕をよけるともう傷は跡形も無くなっていた。

「……あ、あ」

　アリスは完全に茫然自失状態。

「貴方、いったい…………」
「さぁな、運命に引きずり込まれた不幸な１８歳さ。
　おら、とっとと行こうぜ。兄貴がくたばる前に顔くらいは拝んでおきたいからな」
「…………」

　アリスはそれ以上何も聞いては来なかった。　


　−To be continued−

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2006/6/21　改定