ドリームトラベラー
 ナイトタウンの反乱・後編




  6:強行突入



 さて、五本目の塔を破壊したと思ったら、今度は魔族連中の登場と来たから始末に終えない。
 ま、兵士連中に比べて手加減無用がありがたいが……。

「ちょっと、大介さん……」

 さすがにこれだけの魔族を目にした事は無いのか、アリスが怯えて俺にしがみつく。
 今俺達は城を目前にして魔族4匹に囲まれていた。どいつも下級魔族らしいが……まぁ、どうということはないだろ。

「ここまで、来た事は誉めてやろう。だが、やりすぎたな……」

 全身黒い目も鼻も無い魔族が言った。

「左様、この辺で幕引きと行こうではないか」

 今度はフードに包まれた爺のような魔族。

「悪りぃけど急いでるんだ。残念だがあんたらと遊んでる暇は無い。―――どけ」
「断ると言ったら……?」

 パターンどおりのセリフを吐き、

「身の程って物を教えるだけさ」

 そう言って俺は右手を差し上げ、

「……狂い舞う刃<デス・スパーダ>」

 ジャッ!!

 密着した俺とアリスの周囲、そして取り囲んでい雑魚どもを魔の刃が縦横無尽に切り裂く!
 絶叫を上げ3匹が滅びる。……1体外した!

「ごぁぁあああ!?……お、のれぇぇ!」

 かろうじて生き残った魔族はそれでもまだ、戦う気らしい。

「貴様らぁぁぁ、生かしては帰さ……!」
「―――無理だね」
「!!?」

 声がしたのは自分の後ろだと、魔族が気付いた瞬間、 

 ドン!

 あっけなく、魔力の込められた掌底で頭を破壊された。

「……ほんとに、なんて非常識な……」

 アリスは呆然とつぶやいた。
 今の魔法にしても、一瞬で魔族の後ろに移動した事も、完全に彼女の常識の範囲を越えていた。
 まぁ、そこまでできるように誰かさんがしてくれたんだけど……。

「怖いなら別行動でもとるか?あいつ等みたいな魔族を倒せるなら」
「―――嫌です!それじゃあ、依頼を放棄した事になりますから」

 依頼の事は覚えていたらしい。

「心配しなくても兄貴は救い出すさ。そんなにびびるな」

 アリスはまだ、ムスっとした態度でいる。
 そこに、

「いたぞぉぉぉ……!」
「追い詰めろ……!」

 どうやら、厄介なのが再登場のようだ。

「いくぜ、アリス!」
「はい!」

 城はもうすぐそこ。一気に突っ切ってもいいが、それではアリスを抱える事になり無防備になる。
 少し、足止めをするか。

「アリス!先に行け、城の桟橋のところで待ってろ」
「分かりました!」

 彼女が走っていくのを確認し、俺は向かってくる兵士に向き直った。

「おおおお!」

 一人が剣を片手に突っ込んでくる。
 ビュン!と剣は空を切る。
 俺は、一気に横の家の屋根まで飛んで下を見下ろし、

「悪いけど、急いでるんだ!邪魔すんじゃねぇよ!」

 と、持っていたリュックを兵士達の真中に投げ落とす。
 ドサっと落ちたリュックと俺を見比べる兵士達は無視し、俺はそのリュックめがけ……、

「フレア・ランス!」

 炎の槍をまっすぐにリュックめがけて撃ちこんだ!
 リュックが炎上したその途端、

 ババババ……!!!

 リュックに詰まっていた何十発という銃弾が一斉に暴発し、弾ける!

『おうわさるあおるあおああえうあおえあ……!!』

 もはや叫び声も何言ってるか判らないし。
 ここで勘違いして欲しくないのは、銃弾は全て特別製の魔法弾。
 一発でもかすればその場に眠り込んでしまう。非殺主義の俺達が使っている必需品だ。
 そんな銃弾の嵐を俺は下に見て、その場を走り去った。





  7:六将軍



 俺が城の前に到着した時、そこではアリスが上げられた跳ね橋を見ながらおろおろしていた。
 ……ち、やっぱり簡単には入れないか。
 俺は懐からクナイを出し、跳ね橋めがけて投げ放った。

「……??」

 アリスは、跳ね橋の鎖を繋いでいる付け根に刺さったクナイを見上げ、

 ドガン!!

 突然、クナイが爆発した。するとどうなるかというと、

 どぉおぉぉん!

 跳ね橋が鎖との連結を壊され落ちてきた!

「けほっ、……大介さん。そんな乱暴な!」
「めんどくさかったからな」

 そう言いながらも、俺とアリスは城へと入っていく。
 そして、入り間際、

「はっ!」

 ザン!

 橋を切り落とす。これで、しばらくは時間が稼げるはずだ。

「さぁて、行こうか」




 城の中に入ってすぐに大きな扉があった。
 気配は、する。

 ぎぎぃぃぃ……

 扉がきしんだ音を上げる。
 入ったところは大広間だった。大きな部屋に柱が数本部屋の端に並んでいる。一見謁見の間のようだが……、

「よく来たな」

 正面の一段高くなった――言うなら玉座のような――所に一人の男がいた。

「あんたがここの領主か?」
「残念だが、違う。私はナイトタウンの六将軍の一人、ギリアムという」
「あっそ。で、謁見の間はどこ?」

 馬鹿にしたような俺の口調に眉間にしわを寄せるが、プライドがあるのかなんとか堪え、後ろを指した。

「後ろに扉がある。そこから、先に進める」
「パターンだな。自分達を倒してから進めって言いたいんだろ」
「まぁ、そうだな。しかし、壁をぶち抜いて近道を通そうなどと考えないことだ、そこのお嬢さんの兄弟の保証はできかねる」

 アリスの事はすでに承知か……。

「はい、そうでしょうとも。ならとっとと始めようぜ。こっちも時間が惜しい」
「いいだろう。そのふざけた口を利けない様にしてくれる!」

 そして、戦いの幕は開き、


 あっけなく降りた。



「……どうでもいいけど、もっと強い奴いないのかね、まったく」

 すでに、4人をブチ倒し、残るは二人。

 ――― 弱い!弱すぎる!!

 はっきり言って魔族が変身して襲ってくるかと思っていたが、ただの人間の将軍連中だった。
 前の二人なぞ、語るにも値しない奴らだった。さてそういうわけで、残る将軍は二人。

「おし、このまま、さくさく……」

 と、扉を開いた瞬間、

「……いけないな」

 そこには、確かに二人いた。
 しかし、

「お待ちしていましたわ」

 二人のうちの一人、髪の長い女性が言った。
 しかも、こんなところで何を考えているのかフリルのいっぱいついたドレス姿でだ。

「来たか。どうやら、手も無くひねられたようだな。他は」

 もう一人、こちらは短髪の軽装鎧の女性。
 俺達は彼女達から、すこし離れたところまで近づく。

「もしかして、あんたらが六将軍の残りか?」
「まぁ、残りなんて失礼ですわ。ねぇ、リル」
「確かに。我々が残っているのだから、残りなのだろう」

 どうやら、本当に将軍のようである。しかも姉妹。

「私は、アマゾネス隊副将軍、リル=カークウェル!」
「そして、私がアマゾネス隊の将軍を勤めさせてもらっている、ウェンディです。以後よろしく」

 そして、姉のほうは礼。

「……あんた、ここにいていい格好じゃないぞ」
「あら、貴方にはこのドレスのセンスがお分かりになりませんか」
「あいにく派手な女は好みじゃない」
「あら、失礼しちゃうわ」

 頬を膨らませて怒りを表わす姉。……なんかイラついてきた。
 と、不毛な論争を察したか、妹が口を開く。

「ここからは先は、誰も通すなと命じられている。改めて問う。
 貴様らは引き返す気はないのだな」
「それは、俺じゃなくてこっちの依頼主に言ってくれるかな。俺はただの雇われ便利屋なんでね」
「あらいけませんよ。責任転化は」

 ――― 黙れ。

「だ、そうだ。お前はどうなんだ」

 姉を無視して妹は律儀にアリスに聞いた。

「兄さんを取り返すまで帰りません!」
「ほう、貴女はクリスの妹か。ならば是非もない」

 妹の方が、鞘の鯉口を切った。

「―――言っておくが、簡単に私達を倒せるとは思わん事だ」
「その言葉はそっくり返すよ」
「行くぞ!!」

 言って妹は剣を引き抜き、向かってくる!
 姉はその場にとどまり、踊り始めた。 

「??」
「余所見をしている暇があるのか!」

 妹が剣を繰り出してくる。それを、俺は悠々とかわし……、

「―――!?」

 パウッ!

 いやな予感と共に体をひねったところを、空を裂いて何かが飛来した!

「つッ!」

 それは、俺のコートの左袖を浅く裂いていた。

 ―――防刃仕様のコートが裂けただと!?

 動揺で動きが緩慢になり、そこに妹が肉薄してきた!

「ちぃ!」

 俺は袖に隠したスティックを出し、繰り出されてきた刃を受けた!

 ――!――

 ほとんど本能で、俺は上に跳んだ。

 シュパン!

 その下、俺のいた足元をまた何かが切り裂いた!

 ―――斬糸か! 

 極細の金属糸の事で、本来は暗殺などに使われる物である。しかも、熟練者が使えば生き物のごとく動くからたまらない。
 姉のほうが踊り出したのは、糸の操作をするためと目くらまし。
 どうやら、見た目に似合わず姉妹のコンビネーションは悪くはないらしい。
 ……と、言ったところでどうするか。この妹も結構剣術は鍛えているようだし、アリスに姉のほうを任せても糸が見えないのでは簡単に斬り殺される。
 チラッと、アリスを見ると視線が合った。
 アリスは呆然としていたが、何を思ったかうなずいて呪文の詠唱を開始した!

 ――ちょっとまてぇぇぇ!

「待て!」
「行かせん!!」

 妹は、執拗に俺にプレッシャーをかけてくる。はっきりいって邪魔!
 姉のほうもアリスに気づいて踊りのパターンを変えた。

 ――斬られる!

 そう思った瞬間、

 キゥン! 

 金属の張るいやな音がした。
 姉が驚きの顔をした。

「やっぱり金属の糸ですね。確かに私は依頼人ですけど、これくらいは!」 

 右手に魔力を集中し、糸のコントロールをする。結構上級の魔法だ。

「あらあら、そうでしたか。では、私はこうしましょう」

 姉の方は、なおもコントロールしようと手を動かす。

「つ、……この!」

 アリスも同じように、動かさせまいとする。
 糸の鳴る音が異様にでかい。どうやら、結構な数の糸を操っているようだ。
 しかし、やはりアリスの腕では姉の動きは止められないだろう。
 よし……、

「食らえ!」

 シュバゥ!! 

 スティックの先から光刃を放つ!
 さすがに止められないと思い、よける妹。

 パパパパパン!

 その後ろで、金属糸の切れる音。

「!?」

 一瞬、妹はそれに気を取られ、

 どぐっ!

 その一瞬で俺は行動をするのに事足りた。
 みぞおちに結構キツイ打撃を受け妹は昏倒する。

「リル!?」

 姉が動きを止めてこっちを見る。

「おい、どうする。降参するか?」

 俺は光刃の切っ先を妹に向けて、言い放った。

「……………………」
「??」

 姉はなにやら震えていた。よほどショックだったのだろうか。

「……あなたたち……」

 あーー、これってもしかして、
 姉はいきなり背中に手を回し何かを引き出し、

「よくもぉぉぉぉ!」

 それを繰り出した!

「うおっ!?」 

 慌てて身をかがめた上をそれは行きすぎ、

 グバァァァァァァン!!

 後ろにあった石柱をいとも簡単に粉砕した。

 ――― 鎖鞭。チェーンウィップか!?

 発狂とはまたパターンだな。

「おー、ほっほっほっほっほっほ!」

 問答無用でウィップを繰り出し、アリスと俺に当たらないのもお構いなしに振りまわす!

 グガァン!ゴガァ!ドォン!

 当たるを幸いと、部屋中の物が木っ端微塵に破壊されて行く。

「大介さぁぁん!!なんとかしてくださぁぁい!」

 ウィップを避けながら、アリスは叫んだ!
 ―――やれやれ。こんなやつを将軍に任命した奴の顔が見てみたいぜ。

「この!」

 俺は、スティックのモードを鞭に変える。
 光刃がたるみ、鞭のように繰り出せるようになる。
 俺は鞭を繰り出しまずは、

 ジャン!

 チェーンウィップを切り裂く!これで、鞭は使用不能!
 光の鞭は物理法則を無視して、生き物ように姉に向かって行く!

「!?」

 姉は避けようとその場を飛ぶが鞭のほうが早い。 

 ぎゅるるるる!

「な!?」

 鞭は、姉の体に巻きつき拘束する。

「もういっちょ!」

 俺はそれを力任せに引く。

「きゃああぁぁぁぁ!」 

 姉の体が中に浮き、柱の一本に背中から叩きつける!
 すると、鞭は柱ごと姉の体を縛り上げる。
 光る鞭はだんだんと色濃くなり、物質化してさらに硬質化する。

「はい、いっちょうあがり」
「ぐぐ……」
「後で解きに来てやるから、そこで大人しくしてろ」

 そして、俺とアリスは次の扉へと向かう。

  


 8:運命に逆らえるか


 ドバタァァン!!


 扉を乱暴に蹴り開け、俺達は中に入っていった。
 そして、奴はいた。

「乱暴だな。普通に入ってこれないのかい」

 広い部屋に赤い絨毯、豪奢な椅子、その後ろにはこの国の紋章のタペストリー。
 そして、玉座に座るのは、短髪、碧眼、軽装鎧を身にまとった、下手をしなくても物語の主人公で通せそうな青年だった。

「あんたか、この国の領主ってのは」
「残念だが俺は違う。領主なら今ごろ牢屋の中だ」
「……何?」
「よく来たな、それをまず言わせてもらおう。あいつらを下してよく来たものだ」
「あぁ、実に粗末な連中だったよ」
「ハハハハハ!彼らは普通の人間だ。しょうがあるまい。
 さて、察していると思うが、俺がキング。キング=クロス。
 そして、魔族だ」

「………………」

 えらく開き直っている。
 それより、気になるのは奴の傍らに控える男。
 それが、

「兄さん……」

 そう、アリスの兄、クリス=レイワードだった。


 −To be continued−

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2006/6/21 改定