ドリームトラベラー
 ナイトタウンの反乱・終編




8:運命に逆らえるか


「……兄さん!!」

 アリスの呼びかけにも答えないクリス。
 どうやら洗脳の影響はかなり深い所まで根付いてしまっているようだ。

「心配にはおよばん。魔力によって洗脳されているだけだ。俺が死ねば皆元に戻るだろう」
「……それって、テメェを殺さなきゃ戻らないって事だろ」

 俺はスティックを構える。どうみてもこのタイプと言うのはべらぼうに強いのが相場だ。油断すればやられる。

「そうとも言うな。まぁ、そんな事はどうでもいい。俺はただ強い奴と戦いたいだけなんでね」
『は?』

 思わず素っ頓狂な声を上げる。
 魔族が滅びでなく戦いを望むって……、

「その前に、折角だ。こいつにもひと働きしてもらうか」

 パチンと指を鳴らすとクリスが剣を抜いて立ちあがる。

「兄さん!お願い目を覚まして」
「無駄だ。完全に自我が無くなってる。それより……」
「……わかってます。心配しないでください」

 アリスは懐からひとつの銃を取り出した。
 コレは俺がアリスに、もし兄が正気に戻らなかった時の為に渡した物だ。
 人の思念を銃弾にし、何倍にも増幅してぶっ放す。例えば、洗脳されて自我を失った人間を無理やり叩き起こすとか。
 アリスはそれを持ち、兄に向ける。指先が震えているのは、恐らく不安だろう。

「いいか。絶対に余計なことを考えるな」
「……………………」

 ここで、クリスが床を蹴って突っ込んでくる!

(兄さん。お願い元に……!!)

 アリスの指が引き金を……引いた!!

 キュゴォォァ!!

 銃から緑色の波動が放たれる!
 波動突っ込んできたクリスにぶち当たり、黒い何かを巻きこんで通り抜けた。
 もんどりうって床に倒れるクリス。
 波動は何かを巻き込んだままキングの方に、

「ちぃ!」

 キングはそれをジャンプして回避する。
 そこに出来た若干の隙に俺は突っ込む。

「―――!!?」

 ギィィィィィン!   

 耳障りな音を立ててお互いの武器がぶつかり合う。

 ゴォォッォォォォン!

 後ろで波動が壁に衝突し大爆発!
 その爆発の中二人は剣をぶつかり合わせていた。
 二度、三度、上へ下へお互いの武器が残像さえ残しながら合わさっては離れる。

「やるな!少年!」
「ありがとよ!」

 バトルスティックが一閃し、キングの胸元を掠める、そこをキングは踏み込んで剣を横なぎにする。
 それを、スティックの回転を利用し、反対側を剣の刃に叩きつける!
 同時にキングが蹴りを放ってくる!蹴りに乗るような形で後ろに跳んだ!

(強い!)

 キングがまを置かずに走りこむ。

「うおおおおお!」

 気合一閃!剣が異形な大剣へと変化し俺を襲う!

「!?」

 スティックで受け止めるが、受けきれず吹っ飛ばされる。
 吹っ飛んだ先は、柱だった。モロに背中からぶつかり衝撃が襲ってくる。しかし、かまってはいられない。

 ゴォ!

 キングの大剣から闇の波動がくる!

 ゴガァァァァ!!

 身を低くしたその上を衝撃波は行きすぎ柱を爆砕する!
 低い姿勢のまま走る。

「なめんじゃ、ねぇよ!」

 カキっとスティックの先端が開き、巨大な光の刃が具現する!
 走る速度とともに、キングへとぶつかって行く!

「な……!?」

 驚くキングだが、下からの斬撃を自分の魔剣で受ける!しかし勢いは凄まじく、かみ合ったまま床を滑って行く!
 剣を左に払い、左から後ろ回し蹴りを繰り出す。

「―――おらぁ!」

 足をキングの胸に乗せ、力任せに吹っ飛ばした!

「く、おあぁ!?」

 ゴガァァ! ドゴォォン!バギキ……!

 ド派手な音ともにキングは玉座を破壊し、うしろの壁に激突し、衝撃で壁全体にひびが入る!!

「はぁはぁはぁ……」

 やっとここで、アリスに視線を送る。
 呆然と戦いを見ていたアリスだが、我に返って頷いた。その腕の中にはクリスの姿が。

 ――無事か。

 そう思った時、キングのぶつかった壁から爆発音。

「―――しぶてぇな」
「まだだぁ!」

 相当なダメージを負いながら、まだ立ちあがってくる。
 しかも、なぜか顔つきが前より険しくなっている。怒りというより、異形だ!
 衝撃波を放ちながら突っ込んでくるキング。
 衝撃波を弾き飛ばしながら、もう少しでキングが間合いに入る直前、

「我流・四式!……」
「…………!?」
「轟雷!!」

 スティックから先の数倍のエネルギーが噴出し、それをキングに向かって振り下ろす!

 ゴガァァァァァン!! 

 強力な雷を数十本束ねて撃ち落したかのような轟音と、衝撃。
 床がモロに抉られ、爆砕された破片が舞う!しかし、斬った手応えは無かった。

「甘いぞ!!」

 キングは一瞬で空中へと飛んでいた。
 剣を構えて一直線に突っ込む気か。

「三式……!」

 剣の刃を消し、トンと地面に落としてから振り上げた。

「間欠泉!!」

 キュゴァァ!!  

 床から錐揉み状の波動が吹きあがる!

「―――!!?」

 いきなり吹きあがってきた攻撃に完全に不意をつかれ、剣で防いだもののバランスを崩し、吹き飛ばされる。
 それでも、無理やり上体を起こし足から着陸したのはさすがとしか言いようがない。
 だが、顔を上げると、

 グオッ……!! 

 バズーカのごとく構えたスティックの先から、魔力が一気に放出される!
 これがバランスを崩した状態から回避できる訳もなく、モロに巻き込まれるキング。それだけじゃ収まらず、放たれた砲撃は後ろにあった物全てを呑み込み、 壁を粉砕して虚空へと消えて行った。

 ――二式・魔道砲――

 今の今まで使った事が無いオリジナルの遠距離攻撃である。これは作ったはいいものの、望む望まないに関わらず射線上とその周囲に多大な被害を与えるから だ。しかし、威力のほどは砲撃が発した熱によって融解した床が証明している。

 シュゥゥゥゥ……

 煙が引いていき、

「……な!!??」

 俺は思わずスティックを取り落としそうになった。
 キングは生きていたのだ。その魔剣で魔道砲の火線を二つに斬って……。





9:望むもの、望まぬもの



 お互いが……、お互いに驚愕していて動けなかった。
 一方は、

(嘘だろ……。ほんとに魔族なのか、こいつ)

 一方、

(こいつ、……本当に人間か?こんな技を次々と……)

 …………………………

 場は膠着状態になった。
 そのとき、

 パギッ!

『!?』

 キングの持っていた魔剣にひびが入る。

 キィン……

 折れた。キングが魔族の魔力で支えていた魔剣が。

(なるほど、こいつなら…………)

 ドクン!!

「……ぐあ!!?」

 突然、何かがキングの精神に襲いかかっていた!
 膝をつき、頭を抱えるキング。

「何だ!?」

 慌てて光刃を構えなおす。しかし、何が起きているのか分からず手出しができない。

「ああぁぁぁ……」

 ドクン、ドクン、ドク ン…………

「う、あああぁぁぁぁぁ……オオオオオオオオオオオ!!」
「!?」

 途中から、キングの叫びが変わっていた。人の物ではない。魔族の雄たけびのような。

(こいつ、まさか……!?)

「オオオオオオオオ!!」

 雄たけびを上げながらキングが突っ込んできた。魔族の瘴気と殺気を丸出しにしながら。
 しかも、速い!
 スティックで受けようとしたが、その速さに対応が遅れ、まともに一撃を食らって吹っ飛ぶ!
 しかも、衝撃でスティックを取り落とした。

 どぉぉぉん!!

 背中から激突する。衝撃で内蔵がシェイクされ、呼吸が止められる。
 柱に当たって止まったはいいが、すぐに第二撃が……、

「ォォオォォオオオォォ!!」

 キング、いや、キングの中にいるものはその場で、動きを止めていた。
 どうやら、まだ何かと争っているようだ。
 その間に、俺はどうにか体制を立てなおす。

「まさか……、ごほ、くっ……半人半魔だったとはな」

 そう、キングのいままでの強さの秘密、というか非常識な防御力はそのせいだ。
 人としての精神力。魔族としての魔力。二つが絶妙に融合し、魔道砲をぶった切るなんという真似ができたのだだろう。
 そして今、たぶんキングは己の中に眠っていた魔族の自我が俺との戦闘で目覚めたんだろう。
 今キングの中では人の自我と、魔族の自我が争っている。

(どうする…………)

 今ならキングは無防備だが、

「オオオオオオオオオ!!」

 突如、キングが突っ込んできた、

「やっぱ、やるしかないのかよ!」

 咄嗟に両手に空気を圧縮し、

「吹っ飛べぇぇぇ!!」

 ドォォォン!

 キングに向かって叩きつける。むろん魔族のキングに効くわけもないが、ふっ飛ばして柱にぶつけることはできる。
 さらに、俺はキングに向かって走る。
 体制を立て直そうとするキングに向かって足を振り上げ、

 ギィン!

 落ちていたスティックを蹴った。

 ドギュゥ!

「ゴワァァァァァァ!」

 蹴ったスティックから光刃が具現し、キングを柱に縫いとめた!
 キングは刺さった剣を抜こうと手を伸ばすが、その瞬間、剣の輝きが増す。

「オオオオオオ!?」

 キングが苦しみだす。いや、キングの中に在るものが。
 そして、キングの体から黒い蒸気といっていい何かが噴出してくる。

「オオオオオ……あああああああ……」

 だんだんと、魔族の瘴気が消えていく。
 浄化しているのだ。魔族の存在を、全て。キングの中から。




 しばらくして、浄化の剣を腹からはやしたキングは本当の意味で人間に戻っていた

「……お前は、ほんとうに強い奴と戦いたかったのか?」

 俺は静かに問う。

「自分の中に魔族が棲み着いている。お前はそれを自覚していたんだろう。中に居るそいつが暴れるのを止めたいが為に、手っ取り早い方法を選んだ。つまり、 自分を討伐隊させようと考えたわけだ。
 町を一つ乗っ取ればさすがに国が動くだろう。そうすれば、自分を倒せる者も現れるだろう。
 そう考えたんだろ」
「…………その、通りだ」

 剣をはやしたままキングは語り出した。

「俺はこの町で生まれた。魔族が自分の中にいると気づいたのは数年前。
 小さい頃から剣士の修行をしてきた俺は、魔族の事も少しは知ってる。いずれは戦りあう事になるからと、ここに入隊した当初から教え込まれたからな。
 俺は悩んだ。悩んで悩んで悩みぬいた。
 そして、選んだ。俺を殺してくれる奴を呼ぼう。
 ただで来る奴などいやしない。そこで、町を乗っ取った。町中に洗脳するための塔を作り、反乱に見せかけた。
 そして、幾月もしないうちにお前がきた」

「……どうする?魔族は完全に浄化した。あんたはもうただの人間だ」
「……ふ。人間か」

 すると、キングは刺さる剣に手をかける。

「俺は、生きて恥をさらしたくはない……」
「……おい!?」
「この剣、おそらくは意思を具現させる剣のようだ。ならば剣よ、俺を塵にしろ!」
「や……!」

 カッ!!

 閃光が全員の目をくらませる。
 収まった後には、

 キィーン……

 何も残ってはいなかった。




 10:エンド・クレジット


 数日が経った。
 ナイトタウンは元通りとは行かないが、どうにか混乱が収束に向かっていた。
 キングが死んだ時点で散っていた兵士達の洗脳は解け、蔓延っていた下級の魔族も存在を維持できなくなり消えていたのだ。
 そして今、町を救った者として、彼は町中の注目の的になっていた。

 ざわざわざわざわ…………

 町の広場ではこれから感謝状の授賞式が行われようとしていた。
 もちろん本物の領主や、アリス、兄貴のクリスも参列している。しかし、

「おい、見つかったか?」
「いや、どこにもいない」
「何事だ?」
「はっ。里中殿が見当たらないのであります!」

 兵士その1の報告に全員が驚いた。

「どういことだ!」
「分かりません。すでに町を発ったものかと」

 そのとき、

「報告します!」

 兵士その2が駆け込んで来た。  

「授与式で贈呈される報酬の入った袋が何者かに盗まれました!」
「何!?見張りは何をしていた!」
「申し訳ありません。なにせ、見物客が多いもので。それから盗まれた現場にこんなものが」

 と、兵士は折られた紙をさしだした。
 受け取った領主は広げて中を一読し、

「ふ、ふはーっははははは!」

 いきなり大笑い。

『??』
「……どうやら授賞式は中止しなければならないようだ」 

 アリスも中身を一目見て、呆れている。

『典型的な表彰式なんてものは俺は苦手なんで、トンズラさせてもらうぞ。
 追伸:報酬はきちんといただいた。じゃ』




 その後、ナイトタウンの広場には一体の像が安置される事になった。
 刻まれた銘はこうである。

『この町を救いし、勇者。我々は彼を評してこう呼ぼう。
 ―――シルバーナイトと』


 ナイトタウンの反乱 −END−

 <小説・TOPへ>   <HP・ TOPへ>



2006/6/22 改訂